Ground over 第六章 スーパー・インフェクション その24 自立






 ヤブガラシ村の復興は早く、飛躍的に立ち直っていった。現代病から回復した村人達により村の機能は回復し、村は今本当の意味で活気付いている。

港町からの支援もあり、この村に近い将来冒険者育成学校が建設される事となった。学校といっても、最初は青空教室に近い環境で行うことになりそうだが。

アイデアを出したのは俺だが、案を実現に移せたのはヤブガラシ村で育てた未来冒険者達の働きが大きい。何と彼らは港町には戻らず、この村の一員として復興に勤しむらしい。


自分たちが初めて冒険者として命懸けで守った村、愛着が湧いて当然だが予想外でもある。人間の心の動きとは、まだまだ分析が難しい。


「友よ、出立の準備は整ったぞ。むっ、カスミ殿は何をされている」

「すっかりカスミを師匠として崇めているな、お前――今、卒業式の最中だ」

「ほう、校長である友は彼らへの挨拶はないのか」

「いつからそうなったんだよ」


 ヤブガラシ村の冒険者育成学校、第一期生の卒業式。ファイターラビットの大群から村を守り抜いた冒険者達に、卒業の証が与えられることになった。

カスミから言わせれば心身共にまだまだ未熟の彼らではあるが、冒険者としての初仕事を成功させた以上讃えるべきであろう。人を守るとはそれほどまでに、偉大なのだから。


教官であるカスミが、卒業生達の前で堂々と演説をしている。式辞とは名ばかりの叱咤激励だったが、ヒヨッコ達は熱い涙を流して聞き入っている。


「何だか変な気分だな、今日旅立つのは俺達なのに」

「祝の門出だ、別れの涙で彼らの卒業を曇らせてはいけない。我々は静かに旅立つとしよう」

「お前の口から、静かなんぞという言葉が出るとは思わなかった。お前もカスミの生徒だろう、卒業生の代表として答辞でもしろよ」

「なるほど、その考えには至らなかった。感謝するぞ、友よ!」


 適当に言ったのだが、真に受けて葵は旅の荷物を置いて駆け出す。あの行動力だけは、他の卒業生達にも見習ってほしいものだ。

卒業、すなわち旅立ち。彼らだけではなく、この村で俺達が学んだものは大きい。今回俺達はそれぞれ個人の目標を持って、自分と向き合い、村の復興に関わった。

俺は科学実験を通じて科学の可能性を追求、葵は伝説のモンスターを倒して冒険者の仲間入り、キキョウは自らの信念を見直して村人達を救うべく尽力した。

氷室さんは進路無き自分の未来を考えて、術を学ぶ決意を固める。カスミは見習い冒険者達の育成を努める事で、自分の持つ可能性に気付いた。


現代病である、無気力症候群。心の病の原因は色々あるが、未来が見えないことへの焦りや不安が大きい。俺達もまた、自分の将来について立ち止まって考えたのだ。


未来を掴んだわけではない。誰もが皆仲間達の力を借りて、可能性に気付けただけにすぎない。夢を成就させる大変さは、子供ではなくなった俺達はよく分かっている。

それでも俺達は、大人ではない。駄目になってしまったこの村の大人達を見て、自分なりにどういう大人になりたいのか考えたのだ。

ヤブガラシ村の大人達も、夢に悩んで必死で行動する子供達を見て、何かを得たのかもしれない。


子供も、大人も、今日で卒業。これから先歩むのは、自分自身の人生なのだ。


「……」

「どうした、キキョウ。村を置いて行くのが気がかりなのか」


 村人達を立ち上がらせた、心優しき妖精。復興の立役者となった彼女はこの村のマスコット的存在で、村人達から女神のように讃えられている。

もしこの村が完全に復興を成し遂げたのなら、彼女の銅像を建てるのだと村人達が張り切っていた。俺ではなくて、本当に良かったと心から思う。

そんな彼女だが、別れの際になって驚くほど冷静だった。泣き喚くこともなく、始終笑顔で村人達に別れの挨拶を告げていた。


今も、復興中の村の様子をじっと見つめているのみ。その横顔が気になって、呼びかけてみる。


「村の皆さんはちゃんと元気になって、一生懸命毎日を生きられています。何も心配していませんよ」

「そう言いつつ、気にはしているみたいじゃないか」

「うう、ほんとはちょっとだけ心配なんですけど……でもでも、わたしがもう口出しする必要はないとは思いますぅ」


 誇らしくは無さそうだが、それでも成すべきことを成した実感をキキョウは口にする。一生懸命やって成功したのであれば、もう憂いはないのだろう。

人助けとはそうあるべきかもしれない。助けた人達を未来永劫見守り続ける義務などないのだ。明日石ころに躓いて死ぬ心配までする必要なんて、ありはしない。

それでも心配だと言えるのは、キキョウなりの思い遣りなのだろう。人々のこれからの幸せを願う、それは何よりの心遣いでもあるのだから。


人を助けられたことに胸を張って、これからを生きてくれればいい。


「他人の就職の世話なんて、もう二度としないからな。しっかり見納めておけよ」

「そ、そんな事を言わないでくださいよ、京介様! これからもいっぱい、困っている人を助けていきましょう」

「俺が今、元の世界になかなか帰れなくて困っているの!」

「あうあう、その事は本当に申し訳なく――」


 褒めてばかりだと頭にのるので、釘は刺しておく。人助けにばかりかまけていると、何日経とうと帰れない。道のりはまだまだ険しいのだ。

キキョウと話している間に卒業式も終わり、叱咤激励を終えたカスミが戻ってくる。彼女もまた別れを惜しんではおらず、晴れ晴れとした様子だった。

思えば、今回は彼女の働きによるものが大きい。村人達を救ったのはキキョウだが、村の復興に貢献したのは彼女だ。


護衛に雇った彼女に色々させてばかりで、正直申し訳なく思う。その事を伝えると、全くだと彼女は苦笑する。


「これまで幾度もリーダーとなり仲間達を引き連れた経験はあるが、新米を教育したことはあまり経験がない。
各地の案内所で依頼された事はあったが、大概は断っていた」

「そうだったのか。俺が頼んだ時はすぐ承諾してくれたから、慣れているとばかり思っていたのに」

「見込みがあるから、私を教官役に選んだのだろう。物事を観察するお前の目に叶ったのだ、試してみたくもなるさ」


 俺に適正を見込まれたのが理由と分かり、何だか照れ臭くなった。カスミは仲間への信頼を逡巡せず言葉にするので、言われた本人はむず痒くなってしまう。

働き口を探す上で適正は重要な要素だが、自分ではなかなか気付けないものだ。事故軍籍の重要さと難しさを、熟練冒険者である彼女はよく知っている。

自分の適性を見込まれて躊躇いなく挑戦出来る彼女の気概もまた、適正と呼べるのかもしれない。努力を惜しまない彼女の勤勉さは、見習うべき点がある。


「思えば、ここの村人達も挑戦するのに恐れて引き篭ってしまったのかもしれないな」

「若い人間も出て行って、お年寄りが多く取り残されてしまったのだ。高齢者になると、新しく何かを始めるのも難しいだろう。
悩んでしまう彼らの気持ちは、若輩者ではあるが理解は出来る」

「元いた世界では、若い連中にもそういう奴が増えていたな」

「ほう、意外だな。お前や皆瀬のような向上心と好奇心豊かな者達ばかりだと、思っていたのだが」


 邪推もいいところで、真面目ぶって解説するカスミに俺は笑ってしまう。葵のような奴ばかりだと、社会は暴走してしまうだろう。

それぞれに村へ別れを告げる中、氷室さんは早くも馬車に入り本を読んでいる。術について書かれた本、彼女はもう将来に向けて歩み始めていた。

ようやく見つけられた目標に真っ直ぐ向かう彼女の姿勢は美しいが、村の事にはもう見向きもしない潔さには苦笑してしまう。


全員に呼びかけて、俺達は馬車を出発させる。いよいよ旅立ち、大勢の人達に見送られて新しい地へと向かう。


「ありがとう、本当にありがとう……!」

「絶対にまた、この村へ来てくだされ!」

「せんせーい、お元気で〜!!」


 旅立つ者、残された者、留まった者達。全員がそれぞれ一度立ち止まり、悩み、そしてそれぞれの明日へと旅立っていく。


病は気から――明日を夢見る者達は、元気いっぱいに走っていった。












































<第七章に続く>






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