「七瀬っ!」
「七瀬さんっ!!」


オレ達は、南を殴り飛ばしたまま、呆けている七瀬に駆け寄った。

「あ、折原……」

七瀬は、フッ……と焦点を合わせ、こっちを見る。 いつもの……七瀬の顔だな。

「『あ、折原』…じゃねぇよ! 大丈夫なのか?」
「なにが?」
「なにが? ってお前……」
「あぁ……あんな火遊び程度、アタシには無意味よ」

あれが火遊びだと……? ますます人間離れしてきたな……

「……なによ?」
「いや、平気なら別にいいんだけどな…ったく…びびらせんなよ…」
「それより…ごめんね…」
「あ? 何だよ、いきなり……」
「アタシのせいで、こんな事になって…」

どうやら七瀬は、自分がこの祠に入る様に言ったのを気に病んでいるらしい。

「七瀬のせいじゃないだろ? これは南の馬鹿がやった事だ
それに…七瀬は助けに来てくれたんだろ?」
「でも…こんな酷い怪我して……」
「こりゃ、自業自得だな。それこそ七瀬に責任は無い」
「折原……あ、そうだ、みずかに貰った薬草かえりくさぁ……まだ持ってる?」
「あ、ああ…ほら」

確かに持ってはいた…どうしても使う気になれなかったしな。
それを雑嚢から取りだし、七瀬に見せる。

「貸して」

七瀬はそれを引っ手繰ると、オレを押えにかかった。

「お、おい…まさか」
「そこのあんた!」
「うっ、うぐっ?」
「コイツの肩、押えといて」
「はっ、はいっ」
「やめろって…おい!」

元々、まともに動ける状態じゃなかったうえ、七瀬の馬鹿力で押えつけられているため、抗う事は不可能だった。
そして……七瀬は俺の鼻を摘まみ、その…どす黒い粘着質の物体を…口に流し込んできた……

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」



薄闇の中…オレの声にならない叫びが響き渡った…







  隠蔽されざる…







「酷い目にあった…」
「でも、怪我…治ったでしょ?」

そう、それまで瀕死に近い重傷だったオレの傷は、アレをのんだ途端に、嘘の様に回復した。
悪い冗談のような効き目だ。…骨折とか飲み薬なんて初めて見たぞ。
但し、味の方は最悪だった…思い出すだけで気を失いそうな味だ…とだけ言っておく。

ところで、あんな薬が普通に薬局に置いてるんだったら病院ってまるで意味無いよな?



一段落着いた所で七瀬が自己紹介を始めた。

「アタシは七瀬 留美。折原のクラスメイトよ。あなたは?」
「オレは折原浩平だ。よろしくな、七瀬」
「よろしく…って何でアンタに自己紹介しなきゃいけないのよっ!!
「なにっ!? 違うのか?」
「あたりまえでしょっ」
「うぐぅ…」
「ぁ…ごめんね? それであなたは?」

怯えた様に見ている月宮に気付き、慌てて取り繕う七瀬。
最近は、裏表…というか、無理に自分を良く見せようとする癖は影を潜めているが、
こういう所は変わってないな…
ま、どっちにしろ月宮の中で『豪快なお姉さん』と言うイメージは定着しているだろうから
既に手遅れなんだけどな。

「え、えっと…ボクは月宮 あゆだよ。
 おばけに追っかけられてた所を、浩平君に助けてもらったんだ…えっと…留美さんって呼んでいいかな?」
「ええ、じゃあ、アタシもあゆって呼ぶわね。」
「うんっ♪」
「ところで、南は結局なんだったの?」
「ああ…」

オレは七瀬にとりあえず判っている事を説明した。
途中、話を盛り上げようと、フィクションを交えたが、全て月宮に訂正されてしまった。
なかなか侮れない奴だ……

「なるほどねぇ…今の話だと、黒幕が居るってことよね……?」
「ああ、多分な」
「それにしても……こんな可愛い女の子を誘拐しようとするなんて……クラスメイトとして恥よね」
「ちょっとまて……今、女の子って言ったか? ……月宮、男だろ?」
「うぐぅ〜…ボク女の子…」
「……マジかよ…どっから見ても、小学生男子だろ…」
「あんた…本当にどうしようもないわね…」
「それにボクは、小学生じゃないよっ! 多分浩平君たちと同じぐらいだよ。」
「馬鹿言うな。オレはこう見えても17だぞ? 幾らなんでも……」
「あ、じゃあやっぱり同い年だよ。」
「………え」
「……うそ」

流石に七瀬も、月宮が17歳と言うのには驚いたらしく、
口をぽかんと開け、アホ面をさらしていた。

「うぐぅ……酷いよ二人とも……」





「時に七瀬よ……南の事なのだが…」
「……真面目な顔するのはいいけど、その喋り方やめてくれる?」
「そうか? …んで、南だけど……殺したのか?」
「うぐっ!? 殺しちゃったの!?」
「…そんな訳無いでしょ…生きてるわよ…多分…恐らく………

語尾がだんだん小さくなっていく…自信が無いんだな…
まあ、確かに手加減はしたんだろうが…
あの威力じゃ、手加減の意味なんて無いような気もするしな。

「じゃ、とにかく調べてみるか。生きてたら色々聞きたい事もあるし…死んでたら…まぁそれなりに。」
「うぐぅ…それなりにって何…?」





「お〜い、みなみぃ〜、生きてるかぁ?」
「…生きてるよ…なんとかな……」

「あ、生きてたんだ」
「あら、ホントだ……」

南は生きていた。
正直、絶対死んだと思っていたのだが……すげぇ音して吹っ飛んだしな
でも、さすがに身動きは取れないらしく、大の字になってへばっていた。

「南くん?」
「ひっ…なな…せ…さん…」

めっちゃびびってる…面白いな

「そんな怯えなくていいわよ…もう怒ってないから」
「ああああの…も申し訳御座いませんでしたぁ〜っ!!」
「な、なによ…怒ってないっていってんのに…」
「まあまあ、ちょっと2人共下がっててくれ」
「? …別にいいけど」



「それで? 南……オレに何か言うことは無いか?」
「…ねぇよ…」
「…そうか…なな
「わ、悪かった……な、この通り、どうか許してくれ!」
「ん〜〜……ま、いいだろ、じゃ、有金全部出せ」
「な、なんでだよ!?」
「倒されたモンスターが金を落としていくのは基本だろ?」
「俺はモンスターじゃねぇ!」
「そっ…か…残念だな…お〜い、七
「分かったっ!! 出す! 出すからそれだけは…」

……

「……ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……これで全部か?」
「ああ、そうだよっ!! くそ…覚えてろよ
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないですっ!!!」
「そっか、ならいいんだけどな…お〜い
「ご、ごめんなさいっ…実はまだ持ってるんです」
「なんだよ、変な奴だな…話が聞きたいから二人を呼んだだけなのに……」
「へ…そうなのか? なんだ…」
「ほれ…」
「あ?」
「まだ持ってんだろ? 出せよ」
………ちくしょう…



戦利金 5840円を手に入れ、二人を呼び戻した。
南が、殺意のこもった目でオレを見ていたような気もするが、
気にするほどのことじゃないので無視した。

「話はもういいの?」
「ああ、こっからは月宮にも関係ある話だからな」
「ボクに?」
「ああ、何でコイツが月宮を攫おうとしたか……とかな」
「あ、あと、黒幕の名前も聞いときたいわね」
「そそそそそれだけはっ!! それだけはご勘弁を……」
「……だってさ、どうする? 七瀬」
「…そうねぇ………ねぇ南くん? アタシはさっきもう怒ってないって言ったわよね?」
「ははははははいっ! 確かに仰いまして御座いましましたっ!」
「…何語だよそれは…」
「ねぇ浩平君…ボクは別に…」
「ま、いいから七瀬に任せとけって」

「でもね? 言うべきことは、ちゃんと、言っておいたほうが良いんじゃないかと、思うわよ?
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……」

「うぐぅ…留美さん…怖い」
「まぁ……なぁ……」

「もう一度だけ聞くわよ? アンタは、誰の命令で、何の為にあゆを攫おうとしたの?」
「わ、判りました、言います、言いますから、その目は止めて……」
「判ってくれて嬉しいわ。 で、誰なの?」
「うぅぅぅぅ…俺が言ったって言わないで下さいよ?」
「心配しないで」
「じ…実は…『里む…』」

とすっ

「……えっ!?」

突然、南が白目を剥き、泡を拭いて倒れた。
良く見ると眉間に『くない』が刺さっている。
だが南は……どうやら気を失っているだけの様だ。
……こいつは不死身なんだな、きっと。



『まぁ〜ったくぅ…役に立たないったらありゃしないわね。
 任務失敗するだけならまだしも、茜の名前まで喋ろうとするなんて』

「な、なに? なんなのよ? 一体…」
「…………」

『じゃあ、悪いけど、南くんは返してもらうよ』

その言葉と共に、風が巻き起こり、小柄な影が姿を現した。
忍び装束を身に纏い、顔は黒頭巾で隠してある。
確かに一見しただけじゃあ、誰なのかはわからない……しかし
相手が知り合いの場合、声を聞いたら丸わかりだ。

「うぐっ? にんじゃ…?」
「あ、アンタ一体…」
「……おっす、柚木。久しぶりだな」
『あ、折原君、ホント久しぶりぃ〜』

以前からそうじゃないかと薄々思ってはいたが…

「で、何で茜は月宮を攫おうとしてるんだ?」
『な、何で茜の事を!? 折原君……もしかしてエスパー?』
…今、確信した。コイツは正真正銘の バカ だ。

「で、オレは理由を聞いてるんだが?」
『そ、それだけは…いくら折原君でも教えられないよ……えっと、じゃあね〜〜』

柚木は、南を抱えると、来た時と同じように忽然と消え去った。

「………」
「……なに? 今の……」
「にんじゃ…うぐぅ…かっこよかった…」

月宮よ……忍者に憧れるのは勝手だが、柚木だけは見習うな……

「で、折原は……今の子の事知ってるみたいだったけど……」
「ああ、今、掻い摘んで説明するから…」






「里村さんが…? 俄かには信じられない話だけど…」
「いや、間違い無いだろう…目的までは判らんが…」
「…そう言えば今日、里村さん学校休んでたわね…」
「そうなのか? よく覚えてんな」
「うん、あの髪は目立つからねぇ、あ、いないなぁ…ってね」
「南は?」
「さぁ? そこまでは……南くん目立たないしね」
「そうだな……でも、茜か……」
「ま、考えてどうにかなるもんじゃないわよ。とりあえずここ出ましょ
 瑞佳と真希も待ってる事だし」
「そうだな……じゃ、早速行くか! おい、月宮…?」
「にんじゃ……ボクもいつか……」

……忍者に憧れてるって時点で忍者と言う職業には圧倒的に不向きな気がするぞ……


つづく







  【折原 浩平】  へっぽこ戦士 Lv.5

HP 100/100   力 知 魔 体 速 運
MP  0/0     10  5  2 10 12 4
   
攻撃  15(20)       防御  12(16)
魔攻  6(6)       魔防  7(17)
命中  87%       回避  10%

装備  みずかのつるはし
      安全メット
     作業服

所持金  6033円





2003/07/05  黒川



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