「はい、到着」
「やっと外に出られたよ」
「……そうだな」
「どうしたの? 折原、元気ないわねぇ?」

確かに外に出られたのは嬉しい。
しかし……なんであれだけ迷った筈の迷宮が、帰りは一本道だったのだろう……
それに、あれだけいた怪物が、帰りには一匹もいなかったのは……
何か作為的な物を感じて止まないのだが……

「それじゃあ、ボクはもう行くよ、浩平君、留美さん、どうもありがとうっ」
「えっ……もう行っちゃうの? でも……」
「七瀬、こいつにも事情があるんだろ」
「うん、ちょっと探し物があるんだよ」
「探し物……? アタシも手伝おうか?」
「ううん……これはボクの問題だからね。手伝ってもらったら意味が無いんだよ。でも……ありがとね」
「なぁ、月宮……もし困った事があったら、いつでも尋ねて来いよ。七瀬が力になってやるからな」
「ええ、いつでも…って、アンタは何でそう…
「あはははは…ありがとう、その時はよろしくね」
「おう、それと……これ、返しとくよ」

月宮から預かった赤い宝玉を取りだし、手渡す。

「あ、これ……でも浩平君……」
「いいから持ってけ……そりゃ、元々お前のもんだ」
「う、うんっ! ボクの宝物にするよっ! 一生大事にするねっ!!」
「それから、あゆは狙われてるんだから、変な人についてっちゃ駄目よ」
「がんばるよっ」

…月宮…その返し方は変だぞ

「それじゃ、またねっ」
「ええ、また会いましょ」
「おう、またな」
「約束だよっ!」
 
にこやかに手を振り、羽根の少女は茜色に染まる公園を駈けて行った。

茜色…か。

「そういや、随分時間が経っちまったな。長森と広瀬はどうしてるんだ?
 帰っちまったのか?」
「うーん……多分商店街ね。アタシが中に入る前に遅くなる様だったら商店街で待ってて…って言っといたから」
「そっか、じゃ、とりあえず商店街だな」

「……ねえ折原、あゆ…大丈夫かしら…」
「ああ……」
「…探し物…見つかるといいわね」
「そうだな…」
「……ところで折原、さっきあゆに何あげてたの?」
「ああ、赤い宝玉…」

って、しまった! オレはあれを取るために祠に入ったんじゃねーか。

「えっ、あれ、あげちゃったの?」
「やっぱ……失格か?」
「いや…それはもういいんだけど……」

七瀬は、何やら複雑な表情でこっちを見ている
なんかまずい事をしたのか……?

「……ねぇ、あれ、なんだか知ってる?」
「宝玉だろ? ……七瀬がそう言ったんじゃないか」
「……それはそうなんだけど……先に謝っとくわ、ごめん……あれ、冗談だったのよねぇ」
「へ、冗談……って、オレはその冗談のお陰で死にかけたのか?」
「あ、いやそうじゃなくて、あれが宝玉なんかじゃないんだ……って事」
「…宝玉じゃ……ない?」
「うん……」

七瀬は…非常に言い辛そうにこっちをちらちら見ている
しかも…何故かオレと視線を合わせようとしない
…一体何なんだ…?


「……あれ…実はね…」





























「モンスターのフンなのよ…」





























「なんてもん持ってこさすんだ!  お前はっ!!!」
「だから謝ってるでしょっ!!!」



…月宮…済まん…おまえの宝物はモンスターのだ…

…頑張って一生大切にしてくれ………







10  なんて素敵にジャパネスク







カランカラ〜ン

「あ、浩平、七瀬さん、こっちだよ〜」

商店街に入り、七瀬が待ち合わせ場所にしていた喫茶店に入る
…と、すぐに長森が手を振り、大声で名前を呼びやがった…
他のテーブルの客が、クスクス笑っている。
七瀬は、頬を染め恥ずかしそうに俯いていた。
…長森……お前はオレ達になんか怨みでもあんのか……



「それで? どうだったの?」
席に着くなり広瀬が聞いてくる。
「ええ、とりあえずついてく事にしたわ…折原には悪い事しちゃったしね…」
「??」
「それがね…あ、アタシアイスティー」
「オレは…ブレンドでいいや…だからそれはもういいだろ…」
「…何の事よ…あ、緑茶、お願い」
「…私ももう一杯ミルクお願いするよ」

ウエイターに、それぞれ注文し、暫く雑談を交わす。
しかし…長森のミルクはいわずもがなとして……
広瀬…緑茶って…

「別にいいでしょ…好きなんだから」
「…何故、心を読む…」
「判るわよ…そんなにじろじろ見てたら」
「むう……」
「真希は、完全和食主義者だからねぇ〜」
「七瀬…その言い方、なんかすごい嫌なんだけど」
「……そう? ごめんね」
「広瀬は和食以外は一切受けつけないのか…不便な腹だな」
「そうだね…ところでオムライスって和食なのかな?」
「そりゃそうだろ…いや、待て……違うのか?」
「ほら、こうゆう勘違いする奴が偶にいるのよ…」
「ごめんってば……」
「ま、いいけどね……和食が好きなのはホントだし……で、話は戻るけど――」
「広瀬、オムライスは食えるのか?」
「当たり前でしょ」
「長森、オムライスは和食らしいぞ」
「へ〜……そうなんだ、また一つ賢くなったよ」
「あんたらねぇ〜……あたしは和食が好みってだけで、別にそれ以外食べられない訳じゃないのよ」
「なんだそうなのか……ちょっとがっかりだな……」
「なによそれ……とにかく、食べ物の話はもういいから」
「そうね、本題に戻りましょ」
「なぁ広瀬……ハヤシライスは――」
「「しつこいっ!!」」





「で、アタシはひとまず同行するとして…真希はどうする?」
「あたしはもちろん付いてくわ…もう初めから決めてた事だし」
「私も…」
「長森は駄目だ」
「えぇ〜どうしてだよ〜私だって浩平の力になるよ」

やっぱり…付いて来る気だったんだな…でも

「…コタローの事はいいのか?」
「あっ…」

コタローの名を口にすると、長森は少し悲しげな顔をして俯いた。
ちなみにコタローとは、長森が一番可愛がっていた子猫だ。

「こたろー? 誰?」
「長森が飼ってる猫だよ。確か先週から入院してるんだ」
「そう…なんだ……」
「でも、私は……」
「まあ、こっちはこっちで何とかなるだろ……
 でも、コタローはお前が居てやらなきゃ…な?」



「浩平…うん…そうだよね…わかったよ」
「折原……あんたもいいとこあんのね」
「そうね。あたしも折原のこと少し見なおしたわ」
「なに…? じゃあ、今までは見下してのか?」
「うん」
「………」
「真希…それはちょっと……」
「冗談よ。…ちょっと折原、そんなにへこむことないでしょ……」
「…いいんだ…ほっといてくれ…」







結局その後、翌日の朝10時に学校に集合という事になり、その場は解散した。

商店街を出た所で、ふと気付く……
…そういや、オレ…家から閉め出されてたんだよなぁ…

「とりあえず…明日の朝までどうすっかな」

考えた末、もう一度、昼間の武具屋に行ってみることにした。
さっき、南から巻き上げた金も有るし。



ガチャ…

「あれっ…?」

「あ、お客さん、すいませんねぇ…今日はもう閉店ですよ〜…ってあれ? …確か…折原…だったか?」

鍵の掛かった扉をガチャガチャやってると、後ろから声を掛けられた。

「あ? ああ、北川……なんだ、もう閉店なのか?」
「ああ、今日はちょっと用があるんで早めに閉めたんだ…わりぃな、また明日来てくれよ」
「そっか……」
「ああ、そんじゃな」



…しゃーない、寝床でも探すか……
過去に野宿の経験はあるので、外で寝る事に抵抗は無いが……
あの時は、怪物なんていなかったからなぁ。
どっか、良いトコねぇかな。



商店街を抜け、国道沿いをぶらつく。
途中で何匹かの怪物に襲われたが、難なく撃破した。

どうやらこの辺の怪物はそんなに強くないらしい。
だが、さすがに寝込みを襲われるのは勘弁して欲しいからな…
あ、学校の中とかだったら安全かも……
保健室とかベッドもあるしな。

…よし。

思考がまとまった所で、学校を目指す。



暫らく歩くと、目の前で少女が怪物と戦っていた。
しかし粗方片付いている様で、手を貸す必要は無さそうだ。
でもまあ、一応声ぐらいは掛けておくか……

「おーい…大丈夫か…?」
「……折原?」
「なんだ広瀬か」

どうやら広瀬はあの後、買い物をしていたらしく、
制服姿のまま、葱とか大根を覗かせたビニール袋を持っていた。
残った怪物を蹴散らし、こっちに向き直る。

…どうでも良いけど大根にすらいムの破片が付いてるぞ……

「『なんだ』って……まぁ良いけど。何してるの? あんた、家こっちだったっけ?」
「いや……家には帰れないから、寝床を探してさ迷ってたんだ」
「あ、そう言えばそんな事言ってたわね。で、みつかったの?」
「ああ、学校。」
「は? なんで? 一晩くらい泊めてくれる友達とかいないの?」

あ……そうだよ、良く考えりゃ別に外で寝る必要ないよな……

「……考えてなかった」
「普通、真っ先に思いつくでしょ……」
「でも、ま、いいや学校で。どうせ今の時間に捉る奴なんて居ないしな」
「どうゆう交友関係なのよ、あんたは…それに学校は止めといた方が良いわよ
 あそこ、夜になると結構モンスターとか徘徊してるし」

…どんな学校だよそれは……
ま、今更驚くような事でも無いがな。

「そっか……じゃあ、どうすっかなぁ」
「……うちの祖父がね、神社の神主やってんのよ」
「は? 何の話だ?」
「そこの社務所、使って良いわよ」
「…いいのか?」

確かに寝床が確保できるのは有り難いが…

「別に構わないわよ。おじ…祖父が居ると思うから、それでよかったら、だけど」
「ああ、ぜひ頼む。ありがとな広瀬」
「別にたいした事じゃないわ……あ、それで場所だけど、
そこの森林公園の裏手にある神社……知ってる?」
「ああ、知ってる」

その神社はガキの頃、よく遊びに行った場所だ。
そういや昔、神木切り倒そうとして神主にぶん殴られたんだよな……
そっか、あの神主、広瀬のじーさんだったのか。

「じゃ、あたしは帰るわね。話は通しておくから」
「おう、サンキュな、広瀬」

広瀬は軽く手を振り『また明日』と言って立ち去った。



その後、神社に辿り着いたオレは、何故かじーさんに気に入られ(ちなみにじーさんはオレの顔を覚えていた)
昔話に付き合わされた挙句、しこたま酒を飲まされ、酔いつぶれて寝てしまった。



…ぐぅ



つづくー







  【折原 浩平】  へっぽこ戦士 Lv.5

HP 82/100    力 知 魔 体 速 運
MP  0/0     10  5  2 10 12 4
   
攻撃  15(20)       防御  12(16)
魔攻  6(6)       魔防  7(17)
命中  87%       回避  10%

装備  みずかのつるはし
      安全メット
     作業服

所持金  5915円





2003/07/06  黒川



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