Corporate warrior Corporate warrior chapter.2 Ruin training story.1


 ようやく引き篭っていた家から出た元ニート、もう戻る道はない。血に濡れた手で鍵をかけて、今度こそ自分の足で出て行った。

働かずにぼんやりしていた毎日は平和だが退屈で、無感動な日々にウンザリしていた。楽なのに物足りない、甘えた人生は心を爛れさせる。

寒空の下で歩き始めて、ようやく分かった。人生に十五年も無駄に費やして、今更のように気付かされた。

あの平和もまた、他人に守られていたものだったのだと。


自分以外の誰かに甘えてばかりだったから、現実を感じられなかったのだ――


『覚悟しなさい。

世界に災いをもたらすのならば――必ず救世主となって、アンタを殺す』

『俺が夢を違えたその時は、アンタの手で俺を処刑してくれ』


 初めて、自分と正面から向き合ってくれた相手。自分を殺そうとした最悪の敵なのに、これ以上無いほどの好意を抱いている。

今後も絶対に、味方にはならない。友でも恋人でも無く、純粋なる敵。けれど、社会で出逢った大人達より近しいものを感じていた。

リリィ・シアフィールド――彼女にとっては今は滅ぼすべき障害でしかないだろうが、必ず俺を認めさせてみせる。

何度落とされようと、採用されるまでは諦めない。あの美しき好敵手と手を結び、争いの世界を破滅させる為に。


そして――もう一度、君と逢うために。


「来い、イムニティ!!」


 根の世界を破滅に導く、呪われた召喚器。絶望の刃を、憎悪と愛情を込めて呼び寄せる。

魔法や魔術の類の知識はまるで無い。世界の法則も知らない。今までの人生経験も通じない。

この手に在るのは、書の破片。一度は掴んだ奇跡を手繰り寄せる。自分勝手な想いを乗せて、己の武器に命ずる。

自分が壊した少女を悲劇の運命に巻き込む為に、再び現世へ呼び還す!


「――!」


 完全なる同類、運命の共同体。書の片割れが、掲げた手の上で輝く光に目を奪われている。

赤の書の精霊、オルタラ。公開処刑から逃げた犯罪者を追って、今立ち塞がっている。

イムニティと同質の存在が見届けている、儀式。彼女の目的は不明だが、望んでいる事は恐らく俺と同じだろう。

そなわち、


「召喚器『イムニティ』、マスターの命により参上致しました。
今この時より、この身は貴方の剣であり盾。存分に力をお振るい下さい、マスター」


 光は粉雪のように美しく舞い、麗しの少女へと姿を変える。紅に濡れた装束を来た、存在。

暴力的な美貌に凍てついた笑みを浮かべ、慇懃無礼に頭を下げる。傲慢かつ不遜、絶対的な自信に満ちた態度。

宣告には、絶対の忠誠。その双眸は――歓喜の涙で滲んでいる。


「……イムニティ……、俺は――」

「無粋な言葉で、主従の誓いを穢してはなりませんわ」


 罪悪感に苛まれた謝罪が口に出そうになった瞬間、冷たい指に唇を防がれる。

ヒンヤリとした感覚が、少女の存在を実感させる。曇りのない愛情が、唇を通して心に染みてきた。

やはり、敵わない。一度は見捨てられたというのに、彼女の微笑みは変わらない。

殺されても忠節を尽くしてくれる、少女。世界で唯一人の、俺だけの味方。疑うことすら、恥だった。


「――イムニティ」

「縁があるわね、オルタラ。それとも、私のマスターに興味があるのかしら?
非常に残念だけど、冬真は私を選んでくれたの。貴女ではなく、この私を」


 熱のこもった声で、イムニティはオルタラに囁いた。前世で選ばれなかった事がよほど無念だったのか、喜悦に浸っている。

オルタラは変わらず無表情なのだが、相手の反応はどうでもいいらしい。

腕に擦り寄る精霊が可愛らしく思えて、俺は笑いが滲み出るのを押さえられない。非常事態だというのに。


「消耗した魂を強制的に具現化させたのですね。力を振るえば、今度こそ消滅します」

「まだ理解していないの、オルタラ。私はマスターの為なら、何も惜しくはないわ」


 咄嗟に出そうになった反論を、無理やり飲み込む。オルタラとイムニティ――どちらの言葉も真実で、俺の責任だった。

イムニティは、俺の為ならば本当に死ねる。盾にした主に笑顔を見せて消滅したあの尊さが、何より物語っていた。

そんな彼女に無理をさせない権利など、俺にはない。彼女の尊さに甘えて本当に盾にしてしまった俺に、何が言えるというのだ。


綺麗事も、理想論も、全ては空想となった。自覚した醜さで破滅を願い、破壞を召喚した俺に優しさはもう唱えられない。


「イムニティ、状況は理解出来ているか?」

「ええ、勿論。貴方の覚悟を見せて頂きました。己の望むままに、お進み下さい」


 あの世の果てから見ていたのか、俺を通じて知ったのか。聞いても詮なき事。

邪気の無い笑顔でイムニティの死を侮辱した民衆に、力を行使した。平和な世界に背を向けて、国に反逆の意を示した。

それがどれほど罪深い事か知りながら、イムニティは笑顔で滅びを指し示す。望むままに滅ぼせと、呪いの召喚器は宣告する。


けれど――


「願いを叶える方法はあります」

「何ですって……?」

「この道を歩まず、引き返せばいいのです」

「――くっ、この!」


 世界を破滅へ導く最たる方法、救世主候補生の皆殺し。可能性の種を摘み、民衆を虐殺して恐怖に陥れる。

最善の機会が目の前ではなく、真後ろにある。隕石が荒れ狂う闘技場――破滅の将の公開処刑場。

災いの将の処刑人、救世主達。同胞たる、破滅の将。見届ける者は国家の重鎮、貴族達。そして全ての頂点、王族。

アヴァターを構成する、全ての因子が揃っている。この場にいる全ての人間を殺して自殺すれば、終わる。


「落ち着け、イムニティ。分かっているだろう?
今の俺達では、自分の願いは叶えられない」

「……はい。取り乱して申し訳ありません、マスター」


 イムニティは召喚器として確かに復活を果たした。俺はそれを奇跡とは思っていない。

死を覆した以上、何処かで無理は生じている。神が作り出したシステムが惰弱であるはずが無い。

世界の法を覆すには、世界を破滅させる程の力がいる。そして、知識も。

今の俺達は何も持っていない。世界に喧嘩を売るのはまだ早い。今は意志を示すのが精一杯。


「俺の道は示した。振り返るつもりはない。
今度は君の意志を見せてもらおうか、赤の書の精霊」


 闘技場を轟かせていた騒音が小さくなっていく。破壞の魔法がついに解除されたのだろう。

混乱に陥っている民衆も、間もなく収まる。あの場には人々の救いの主、本物の正義の味方がいるのだから。

救世主達が場の収拾に動いている今が、最後のチャンス。一刻も早く逃げなければ、今度こそ処刑される。


いざとなれば、この娘を倒す事も辞さない。民衆に攻撃を加えたその時に、法の良心は捨てている。


「……。私も救世主候補生の一人です」

「それで?」


 リリィ・シアフィールドとの戦闘は、俺に痛々しい深手を刻んでいる。加えて極限の緊張感による疲労で、軽く目眩がしている。

傷による痛みと、疲労による重み。人間に備わった負の感覚が、鋭敏に知らせてくれる。

引き篭もり生活には縁の無かった――死への警告を。


「破滅へ陥る者を、放置出来ません」

「イムニティ!」


 主の命令に機敏に反応して、俺の前へ。既に詠唱を終えていたのか、光弾が放たれる。

闘技場へと続く、細長い通路。闘技場の出口へ進む前方には赤の書の精霊、入口へ繋がる後方には無数の敵。

己の処刑場へ戻る自殺願望はない。俺は痛む身体を押して、前へと走る。

イムニティが放った光弾は、三発。この狭い通路では回避は不可能――!


「オスクルム・インフェイル」


 ――青い流星、その表現に相応しい光が正面から向かってくる。

怒涛の勢いで襲いかかって来るのは、術者本人。魔力を纏った少女が星となって、直線上に襲い掛かる。

逃げ場はない。皮肉にも、今の自分に適用される理。光弾と衝突しようと、その勢いが弱まる事はない。


"詠唱が遅すぎる!"


「忠告、ありがとうな。
採用(しょうかん)――オルタラ!!」


 白の書の精霊本人を、強制的に召還。流星が突如姿を消して、頭上へと舞い上がった。

駅の公衆トイレでの戦闘で一度使った、召還術。イムニティさえいれば、再現は可能。

通路の天井が破壞されて、瓦礫が頭上より降り注ぐ。身体中を殴打されながらも、俺はイムニティを連れて必死で走る。呪文を詠唱して。



何の罪も無い相手を倒す事を、考えて。



























































to be continues・・・・・・







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