目は覚めた?
















Lyrical Nanoha StS Astrey―リリカルなのはS外伝

Phase 9―強攻と派生























「髭のおじいちゃんがね、行きたいなら行ってもいいって」

「あのじじぃ……」

シンは栗色の髪の少女の応えに、嘆息する。おそらく、略式の尋問自体は終わっているのだろうが
それでもつい数日前まで敵だった人間を応援に行かせるとは。

「大体、傷だってまだ――」

「へーき、だもん」

「ったく……まぁ、無理はするなよ?」

見た目は幼い少女だが、その外見や声質とは裏腹に強情な部分を持つらしい。
その様子から、連れて行くしかないか、とシンは割り切って注意を付け加える。

「確認しておくが、味方、ということでいいのか?」

「はい――たぶん」

周囲を警戒しながら先頭を歩いている藤堂は視線を進行方向に固定したまま
隣を歩く青髪の少女に声だけで確認する。
一応、遺跡での戦いの後、改心してくれたみたいだったが、それでも若干の不安は
残るのかハルカの返答に自信の二文字は含まれていないようだ。


「そのデバイスは?」

シンは隣をトコトコと歩く少女の左腕に装備されている灰色を基調とするデバイスの出所がふと
気になり訊いてみた。『量産型レイジングハート』は4年ほど前から時空管理局で正式採用
された高性能・非人格型・杖状デバイスで、現在でも僅かに100基程度が生産・配給されている
だけである。これはコスト面の問題というよりも高性能を求めた結果、扱いづらくなって
しまったためである。それでも試作型のインテリジェント・デバイス・タイプのものよりは
格段に安定していると言われており、試作型の改良タイプを現在でも使用している
若き某航空戦技教官は最早、人間ではないとの噂まである。まぁ本人の前で口にすると
『ちょっと頭冷やそうか?』と"軽い"お仕置き(バインド+全力砲撃)が待っているのだが。

「うん、お姉さんが貸してくれた」

「……」

どうやら、うちの『備品管理課』はかなり大雑把らしい。

「ゼ、ゼロ、先に歩いてくれない?」

「? うん、いいよ」

先ほどからチラチラと後ろを伺っていたハルカがゼロにそう頼み込む。
やはり、遺跡での戦いでこの少女の魔法砲撃に若干のトラウマがあるようだ。








無機質な空間に、コツコツと一定周期で響いていた4つの足音が止まる。

「この中が中枢部――メインコントロールルームですか」

「3人とも、気を抜くなよ」

理由はおそらく中にいるであろう"メイヘム"の存在。機械人形に感情などあるわけはなく、
そこにはただただ敵をいかに効率よく殲滅するか、ということしか存在しない。

『どうだ? そちらの状況は』

『こちらは既に奪還に成功しています。――そちらは?』

『コントロールルームに到着した所だ。――どれくらい保ちそうだ?』

『敵の襲撃がきつくなっていますが、30分は保たせてみます』

ハルカが制御室のロックを解除している間、藤堂は別働隊のタクティクスと念話で状況を
確認する。別働隊は艦隊から連れてきた7名と現地魔道師5名の計12名で構成された
それなりに強力な部隊だが、無限に戦えるわけではない。


念話を切り、解除が成功したのを確認し――

「……!? 散開ッッ!!」

――轟音

おそらく、藤堂が気づかなければ3人とも肉片になっていたであろう。無数の凶弾が
シンたちがいた場所へと降り注ぐ。

「なんだよ、あの威力……!」

回転式機関銃(ガトリングガン)かっ!?」

魔法ではない、通常の弾丸だ。だが、威力と効果範囲は桁違い。抉り取られた床を
見れば、『シールド』を張っていたとしても防ぎきれまい。藤堂はそう推察する。

「あれが、メイヘム……」

モクモクとした煙の中からシルエットが徐々にだが浮かび上がる。人型を思わせる四肢と
頭部。全身は無機質な灰色で覆われており、両腕に装着された大口径の回転式機関銃。
頭部のツインアイが赤く不気味に光る。

「ディバイぃぃン・バスタぁぁー!!」

――ゴォォォオォォォォ

ゼロがいち早く、自身の最大威力を誇る魔力砲撃を加える――が、その奔流は
役割を果たすことなく機械人形の目前で空しく四散する。

「き、効いてないッ!?」

一度、その威力を体験しているハルカはその防御性能に驚嘆する。チャージが短かったため
前よりは威力は下がっているだろうが、それでも並みのAMFなら強引に打ち破るほどの威力は
持っている、アレを防ぐとは。両肩のジェネレータから発生しているであろう、
こいつのAMFは半端じゃない……!

こうなると接近戦に持ち込むしかないのだが――

ガガガガガガガガガ!!

両腕から発する弾雨が近づかせることを許さない。

「藤堂さんッ! 後ろからも!」

シンの警告に藤堂はハッとする。メイヘムだけに意識がいっていたのか、周囲を見渡すと
コントロールルームを囲む形で多数のガジェットが群がっていた。

「私とアスカでアレはなんとかする! 二人は後方を頼む!」

「了解っ! いくよ、ゼロ!」

「うんっ!」

そういって二人は後ろに振り返って術式の展開を始める。
ガチャリと正面に構えたデバイスに魔力が走り、その息吹を誇張し出す。
慣れた仕草で左手を前に、右手で弦を引き絞る。
しなる弓の反作用力が込めた力と魔力を実感させてくれる。





「藤堂さんっ! 俺がひきつけますから!」

「やれるかっ!?」

やってみますよ、とシンは付け加えて、ドンと物陰から飛び出す。初速はかなりのスピード、
『ブースト』も発動させてぐんぐんとメイヘムに近づくが、それを黙って見ているわけもなく

――キュイィィィ

沈黙していた回転式機関銃(ガトリングガン)が再び駆動・回転を始め

――ガガガガガガガガガ!!

シンも来るのを覚悟していたのか、ロックオンされる直前に身体を横にずらし、さらに
2度のバックステップで弾雨を避ける。もちろん、避けきれない分は『シールド』で
防御する。

(……ぐっ!?)

大半を回避し、両腕で全力防御したはずだが、『シールド』を食い破って何発か貫通してくる。

「オオオオオオッッ!!!」

両腕の重装備がシンに向けられたのを確認して、『月下』を構えながらメイヘムへと
突撃する。敵も気づいたのか、こちらに回転式機関銃(ガトリングガン)をゆっくりと向けてくるが
気にすることなく上段から振り下ろし――

「何ッ!?」

――ガキィィィ!!

僅かに食い込むだけ。3秒ほど力を込めて、そのまま切り裂こうと踏ん張るが
刀身はほとんど動かない。この装甲も

(半端じゃないか……!)

藤堂はそう愚痴を零して、素早くメイヘムから離れる。

――オオオオオオオオ

「な、んだ……?」

叫び声のようなものをシンは感じ取った。先ほどまでは不気味に光っていた赤い目
も今は哀しいものに思えてくる。まるで――

(泣いている……?)

馬鹿馬鹿しい。こいつは機械人形だ。機械に感情などあるわけはない。あるわけはないのだが。











<――――の一室>

薄暗い空間にコトンという音が静かに響き渡る。

「その手で良いのかな?」

「はい」

問いかけられたのはやや色素の薄い金髪を肩にかかるほど長く伸ばした少年。歳は15、6と
いったところだろうか。少年は端正な顔の表情を全く変えることなく、そう応える。

「しかし、私もよくよく運のない男だ」

「……?」

次の一手を考えながら、盤上の駒を物色していた男はそう呟く。そして少年が自分の言葉を
いまいち理解していないのを確認して、男は一つの資料を取り出す。

「これは……!?」

「そうだ、"彼ら"はこちらとも干渉していたようだな」

「っ……!!」

どうやら自分は"彼ら"、というよりは元居た世界と完全に離れることはできないようだ。
これも"運命"ということなのかもしれない。あまり受け入れたくはないが。

「行ってみるかい?――レイ」

「……それがギルの望みならば」












「はぁ……はぁ……保ちそう?」

「が、頑張る」

いや、そうじゃなくてね、とハルカは言い返したかったが。二人ともあまり余裕はない。
砲戦を主体とする二人にとって魔力の残量はそのまま自身の戦闘時間に置き換えられる。
特に威力は大きいが消費も激しい生粋の砲撃型のゼロは苦しそうだ。

だが、とにかく倒さなければこっちがやられる。
目一杯『クレイウェン』を引き絞りながら、両手で魔力を送り矢のイメージを具現化させる。

放った矢は紅い軌跡を緩やかに描きながら、赤雨となって降り注ぐ。

(AMF……っ!)

運が悪かったのか、敵の大半はAMFを展開して、これを防いでしまった。もともと
広範囲攻撃は威力をあえて落として撃つ魔法であり、汎用防御魔法『シールド』やAMFのような
ソフトキル防御をされるとどうしようもない。

(――それならっ!)

ハルカは再び、『クレイウェン』を構えなおし、魔力を集積させる。

そして先ほどと同じように、魔力矢を放つ。矢はそのままV型の正面に一直線に向かっていき

ズドッ!!

AMFに深々と突き刺さる。先ほどと違うのは――

指向制御(アクティブ・リモート) っ!!」

――そう、突き刺さったまま。

『ゼロっ!狙って!』

念話でゼロに指示を出す。指向制御は自身からコントロールを離れた魔力を再び制御しなおす
言わば『リセット技』のようなものだが、持続時間はそう長くない。

「っ……ディ、バイぃぃン・バスタぁぁー!!」

残り少ない魔力を注ぎ込んで、文字通り『デカイ的』に魔力の奔流をぶつける。
魔力砲撃の反動でデバイスに引きずられるようにゼロの身体が僅かに傾く。

ゴォォォオォォォ

奔流が通り過ぎた跡にはV型の残骸と思われるものが残っていた。





「そこぉぉぉっ!!」

呼吸を合わせ、タイミングも合わせた一撃だったが、双つの刃は十字を描くことなく
片方は『AMF』に、もう一方は『装甲』に封じ込められる。

(こ、こんのぉっ……!!)

シンはバチバチと干渉する対魔壁を無理やり押し込もうと両腕の筋力をぐっとフル稼働
させるが、それはメイヘムの左肩のジェネレータの回転が僅かに上がるだけに留まる。
威力不足、それも絶望的な。


ドゴッ!!


「かは……っ!!」

邪魔者を振り払うかのごとく、メイヘムの腕がスイングしてシンの腹部を直撃する。
先ほどから続けていたヒットアンドアウェイの繰り返しに敵が対応したのだろう。
あるいはこちらの疲労が形となって表れたか。



5度の同時攻撃、7度の時間差攻撃、これだけやって――

(――ほぼ無傷か)

シンだけでなく藤堂ですら嫌気が差す、このスペック。魔力攻撃はAMFで無効化され、
通常攻撃は装甲で弾かれる。おまけに弾切れとは無縁かのごとくばら撒かれる
回転式機関銃(ガトリングガン)、バルカン、各種ミサイル。

あまり時間もかけていられない。それはこの作戦がメイヘムを倒すことではなく、
コントロールを奪い返すことだから。

(止む追えんか……)

藤堂は何かを決心したのか、物陰に隠れて隙を伺うシンに声をかける。

「シン」

「な、なんすか?」

「1分だ。 それだけ稼いでくれれば良い」



(……何か仕掛けるのか?)

そんなことを思いながら、シンは刀型デバイス『焔』に力を込めて、物陰から飛び出す。
その際、『焔』の刀身はあえて半分程度に短くする。どうせ、攻撃しても無効化されるのなら
迎撃用に短刀身にしたほうがいろいろと好都合だ。

前方から回転式機関銃(ガトリングガン)が降り注ぐ――これを左に回避。
さらに連続して小型ミサイルが続く――これもサイドステップで回避。
最後に打ち込まれるバルカン砲――これは両手で全力防御。

この繰り返しで、時間を稼ぐ。

(少しでも消耗させ――っ!?)

回避が甘かったのか、正面に直撃コースのミサイルが3つ。

「なめるなぁっ!!」

1つを身体を強引に捻ってやり過ごし、2つを『焔』で叩き落す。

――オオオオオオオオオオ

(っ……またか)

先ほどから突撃を掛ける際に聞こえてくる声のようなもの。幻聴の類かとも思ったが
メイヘムに近づく度に発生している。





「能力限定解除――いくぞっ!!」

≪承知≫

すると今まで無機質の塊だった『月下』から返答が灯る。藤堂の能力封印は2つ。
1つはデバイスの独立思考機能。近接戦闘に特化した自身にとってサポート機能は
あまり重要ではないから。
もう1つは――刀に込めた技の結晶。

魔力コーティングをオフにしていた『月下』に先程より力強い小金色の装飾が纏わりつく。
波打つ魔力はまるで生き物であるかのごとく。

『藤堂さんっ!』

『なんだ?』

『その……頭部のみを狙うってことは?』

『……どういうつもりだ?』

開放状態にしてすぐシンは念話で藤堂に自分の意思を伝える。シンいわく、どうやら
何度かの突撃・陽動の際にメイヘムは自分の意思とは逆に暴走"させられている"とのこと。
ならば、大破させるのではなく、機体の制御を担う頭部を破壊するだけで十分。
シンの提案を受け入れたのか、藤堂は僅かに頷く。

(その甘さが……命取りにならなければ良いがな)

瞬間、藤堂は両足に加速魔法『ブースト』をかけて突撃を図る。

(陽動と一点突破の組み合わせ――アレしかないか)

目つきが変わる。見据える先は――己が破壊すべき一点のみ。
降り注ぐ弾幕を物ともしない。理由は――


≪旋回活殺自在陣≫


無機質な音が響き渡ると共に藤堂がぶれる。


斬!!


気づけば――目の前の兵器は首を刈り落とされていた。















作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板

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独り言

やれやれ( ´Д`)
背景を暗く変えてみました。気分も暗くなりました。