リリカルなのはS外伝 第7話「帰還と作戦」



『シン、もう、行っちゃうの?』

『あぁ、一応仕事があるしな』

『そうそう、私たちはこれからお仕事なの。だからその手を離してね』

そういってハルカは俺の腕を強引に引っ張る。だがもう一つの腕にはベッドから体を乗り出
したゼロがしがみついており、必然的に俺の体は左右へ引き伸ばされることになる。
ハルカより一回り小さい体のゼロがハルカと互角に近い力を発揮している辺り、意外と腕力
はあるのかもしれない。


『もう、ちょっと、だけー』

『し・ご・と・なの』

言ってることは正しいんだが、ハルカさん、そろそろ腕が限界っす。



とある病室での微笑ましい日常の一コマである。




手術が無事成功した、との連絡を受けてシンとハルカはゼロのいる病室へ見舞いに行った。
あれだけ元気なら入院の必要はないんじゃないか、ともシンは思ったが。

「あたしさ、ここへ配属願い出して良かったかも」

ホイスの指定した集合時間まで1時間ほど余裕があったため、シンとハルカは自販機の備え付け
られた通路の一角で、デバイスとジャケットの簡易チェックをしていた。ジャケットは対ゼロ戦で
ぼろぼろになってしまっていたので、廃棄され、新しいものが調達されている。
ただし、給与からは『配給品賠償費』としてその分引かれているが。

「なんだよ、いきなり」

『焔』を起動させて、魔力を送りながら出力の強弱を確かめていたシンは目線を自身のデバイスから
離すことなく、訝しげに訊く。

「なんとなくね……そう、思ったんだ」

『クレイウェン』の魔力矢の射出口を覗き込みながらハルカはそう呟く。ときどき、うーん、と
唸っているのを見るとデバイスの疲労が溜まっているのかもしれない。

「あたしね、魔法学校も養成学校も、なんとなーくだったからさ」

「みんな、そんなもんだろ」

いきなり昔の話を始めたハルカに、どう突っ込んで良いのか分からず、シンはハルカの語りに
適当に相槌を打つ。

「お父さんやお姉ちゃんたちはみんながみんな優秀だしさ」

「おまえだってそうだろ?」

「ううん、レベルが違うんだ、お姉ちゃんたちとはさ」

なんとも羨ましい悩みだ、とシンは思いつつ、黙ってハルカの独白を聞いてやることにした。
そういえば、こいつが家族の話をするのは初めてじゃないだろうか。

「あたしが2ヶ月かけて覚えた『シールド』もスバルお姉ちゃんは3週間でマスターしたらしいし。
勉強だってそう。ギンガお姉ちゃんより良い成績なんて一つも取れなかった」

「だから、養成学校に進学してからはいつも面白くなかった」

そりゃ、お前の目標が高すぎるだけだ、と『全力で』突っ込んでやりたかったが話の途中で
突っ込みを入れるのは品がないと思い止まった。

「でね、ある時3年で隣の席になった誰かさんがこんなこと言ったの」

「『次の授業ふけて購買行くけど、アンタも一緒に行く?』って」

「『俺、魔法学と実戦演習以外はあんま興味ないからさ』とか言ってさ」

「……」

人の口調を顔まねしながら喋るあたり、こいつはおちょくっているのだろうか。

「それで、少しだけ吹っ切れたかなぁって」

「ま、おかげで3年の成績はひどかったけどね」

「そりゃ悪かったな」

褒めたいのか、貶したいのか、どっちかにしろといわんばかりにシンは少しぶすっとしながら
不貞腐れる。

「だから、あたしはあたしなりの道で進んでみよう、かなって」





「シンは?」

自分だけ話すのはなんとなく、不公平だとでも思ったのかハルカはデバイスのチェックを終えて
それなりに満足そうな表情をしている相手に訊いてみる。

「俺?」

「うん。どうしてここに?」

こいつも、何かしら理由があってここへ配属になったのではないかとハルカはシンに尋ねる。
第3艦隊へ配属される人間は、全てとは言わないが、大なり小なり問題を抱えた人間が
多い。ハルカだって望めば『機動6課』などの超エリート部隊以外ならたいていは行けた筈である。
だが、そうしなかった。動作チェックを終えて、どこから拝借してきたのか『握力強化ボール』
と書かれた物体を手の中でころころと動かしている目の前の男に興味が沸いたからである。
こいつについていけば、何かと面白いんじゃないか、と。

そんなわけで理由を聴いてみたハルカだったが――



「筆記テストに落ちた。それだけ」

「……」


――シン・アスカ。それなりに感動的な場面をいろいろとぶち壊してくれる男である。





藤堂・鏡志朗。第3艦隊所属の一等陸尉であり、陸士321部隊の前線指揮官でもある。
短く刈り上げた黒髪と歴戦の戦士であることを思わせる鋭い目つきが特徴の人物である。
時空管理局に入局する前には2度の戦争を戦い抜いた経験豊富な軍人であり、
指揮能力だけでなく、その卓越した戦闘能力も買われて現在の地位にいる。
最も、本人いわく「2度とも負けてしまったがな」とやや力なくぼやいてはいたが。
あまり詳しいことは本人が語ろうとしないため分からないが、2度目の戦争では
内戦から一転、世界大戦にまで発展し、総人口の95%以上が失われたとも言われている。
なんでも、大国を治める王族同士の権力争いが原因だったらしい。


デバイスとジャケットのチェックを終えた二人は作戦の説明を受けるため、艦内にある第2会議室
に向かっていた。途中、運悪く遭遇してしまった「備品管理課」の女性局員に「どんな使い方
したら、あんなになるんですかぁ!」と二人は20分ほど長々と説教されていたが。おそらく
帰還時に返品した『キューブ』の破損がばれたのであろう。



「奪還……?」

「作戦……?」

「そうだ」

第2会議室にてシンとハルカは思わず、聞き返してしまった。
だが、二人から疑問の声を受けた藤堂隊長は、表情を変化させずに続けて――

「事の発端は今よりおよそ2時間前、第4艦隊配下の独立部隊の一つから連絡が途絶えた」

「現在分かっていることはその独立部隊の活動拠点が何者かによって占拠されているということだ」

――やや、矢継ぎ早に作戦に参加する隊員全員に向けて説明する。

「第4艦隊からの応援は?」

「現状で動かせるまとまった戦力がないらしい」

隊員のひとりが挙手し、疑問に思っていたことを尋ねる。

「『機動6課』っていうのに来てもらうのは?」

「私からも要請はしてみたが、難しいだろうな。あれはロストロギア関連でしか動かんらしい」

ハルカも第4艦隊という単語から思いついたアイデアを発案するが、すでに藤堂も実行していた
らしい。

「質問は以上だな。……よし、ではこれより『トール奪還作戦』を開始する!」




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独り言

コードギアスより藤堂さんゲスト出演。

もはや作者、やりたい放題です。




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