リリカルなのはS外伝 第5話「記憶と結末」



「くそっ、マジかよっ!」

未だに信じられないという表情でシンは咄嗟に逃げ込んだ、付近で最も頑丈そうな障害物、
支柱の裏に隠れながら吐き捨てる。逃げ込むタイミングがあと僅かでも遅れていたら、と考える
のが馬鹿らしくなるほどの巨大な魔力の奔流が逃げ込んだ支柱のすぐ横を吹き荒れる。
攻撃の影響だろうか、魔力の奔流が通り過ぎた床は全て深さ10cm程度きれいに剥ぎ取られていた。


「怪我は?」

あまりの威力に嫌気がさしながら、シンは視線は前方の脅威に固定したまま、同じく後方に
隠れている人物に声をかける。

「平気・・・むしろ、さっきより漲ってきた・・・!」


先ほど、直撃を食らったはずのハルカがいつの間にか『クレイウェン』と『制式ジャケット』
を装備し、シンの心配半分・戦力になるかどうか半分といった具合の問いに僅かに
自身のデバイスを握っている左手に力を込めて、そう応える。
ジャケットの背面がところどころ破れているところを見ると、壁に激突する直前にジャケット
だけは展開させて、ある程度衝撃を相殺していたらしい。

「・・・一応、少しは手加減しろよ・・・っ!!」

二つの意味で安心したのか、シンはやる気満々といった感じの相方に僅かに釘をさして
支柱から飛び出し、一気にゼロのいる位置へと加速する。
あのまま、隠れていてもジリ貧になるのは目に見えている。

そして、加速をつけたまま『焔』を水平に薙ぐが――



「・・・っ!・・・抜けないっ?!」


加速をつけた『焔』を展開されていたゼロの『シールド』が受け止めてしまった。
無論、完全にというわけではなく、かなりひびが入ってはいるが。

予想外の強度に、シンは思わずそう漏らす。
殺すつもりで放った最高の一撃というわけではないが、それに近い、並みの魔術師のそれなら
十分に突破できるだけの威力はつけていたつもりだ。

「おまえは、それで、いいのかよっ!!」

突破できなかった悔しさも僅かに込めて吐き捨てるように、シンはゼロに向かって叫ぶ。


「ゼロは、ママに会いたい・・・会いたいだけなのっ!」

ゼロもその声に負けじと悲痛な言葉を返す。そして、『焔』をとめられ動きの止まっていた
シンに対して再びチャージした魔力砲撃を放つ。だが、これは放たれる直前に床を蹴って
ゼロの左方向へ驚異的な脚力で自分自身を押し飛ばすことで回避することに成功した。

「くっ、あの『シールド』、めちゃくちゃ硬いっ・・・!」

ハルカもゼロが魔力砲撃を放った隙をついて貫通力に優れる『フレイム・ボルト』
を射ってはみたが、やはりひびは入れられるものの、突破まではできずに四散した
魔力矢を見て、そう吐き捨てた。


シンが突撃をかけ、ゼロがそれを防ぎ・カウンターを放つ、ハルカがその隙をついて
『フレイム・ボルト』あるいは『フレイム・ショット』を放つ。

そんなやりとりの応酬が何回か繰り返された後――

「ハルカ・・・タイミング、合わせられるか?」

「・・・! 本気なのっ?!」


――ちょうどゼロを挟む形で反対側の支柱から隙を伺うシンの言葉の意図を理解した
ハルカが確認の意味を込めて疑問系に疑問系で問い返す。

状況は余り良くない。相手は子供で、しかも砲戦型の魔術師である。セオリー通りなら
持久戦に持ち込んでも良いが、二人のジャケットもぼろぼろである。
あれだけの魔力砲撃を密閉空間で完全に避けきるのは、やはり不可能である。
このまま同じことを繰り返していてもこちらの防御力がもたない可能性が高い。
ジャケットなしであの攻撃を受けるのは死に等しい。

だから、短期決戦に持ち込むしかない。

「手っ取り早く、威力上げるにはそれしかないだろっ!」

シンの『焔』では加速をつけても突破できない。ハルカの魔力矢でも突破できない。
なら、どうすれば良いのか?
解答はひとつ。小学生でもわかる原理だ。


――足りないなら合わせればいい


こうなったときのシンは譲らない。ハルカはそれを知っている。この変な頑固さが、
いつも彼自身をわざわざピンチに陥れてしまう欠点であり―――嫌いじゃないところでもある。


ハルカは即座に目で了解と実行の合図をシンに送り、先ほどと同じように魔力砲撃の
やんだ隙をついて『フレイム・ボルト』と『フレイム・ショット』を "連射" する。

ひとつ目はおとり。そのままゼロに向かって直進し、ある程度『シールド』に食い込んだ
ところで四散する。

ふたつ目が本命だろうか?



――違う



おとりなんてない。どちらも本命。2射目の『フレイム・ショット』は『シールド』に
接触する前に拡散する。先ほどと違うのは、1射目が四散した魔力がまだ塊として空気中に
残っていること。そして、拡散された2射目の矢の群れの狙いは『シールド』ではなく、
魔力の塊。

「な、なにっ?!」

何をしようとしているのか、全く理解できずにゼロは自身の近くで起っている現象に
驚く。わずかに声が震えているのは、魔力を魔力に当てて押し出すという意味不明な
行動に対する恐怖心からだろうか。


強制的に押し出された魔力の塊はゼロの後方へと収束していき――


「はぁっー!!」


――こちらに加速しながら突撃してくるシンの『焔』に溶けるように組み込まれる。
瞬間、『焔』は一回り以上大きくなる。そして、刀と盾は再び激突する。




ゼロの展開する強力な『シールド』とハルカの魔力を増幅させた『焔』がぶつかり合い
青白い火花を、バチバチッ、と散らす。

「ゼロは、出来損ないなのっ! 欠陥品なのっ!」

「誰が、そんな、こと・・・・・・っ!」

ゼロが言った人を人とも思わない言葉のひとつひとつへ怒りを感じたのか、すでに半壊
している『シールド』を一気にぶちぬこうと、シンは『ブースト』を発動させて加速を
つける。制御の難しさと肉体への負担の大きい加速魔法『ブースト』だが、
コーディネーターとして人為的に遺伝子を弄くられているシンの肉体ならばたいした問題
にはならない。

「ママが言ったの!私はもういらないって!必要ないって!」

もはや砲撃にまわす魔力の余力がないのか、懸命に『シールド』で攻撃を防ぎきろうと
ゼロは半分泣きながら叫ぶ。

「おまえは、出来損ない、なんかじゃないっ! 立派な『人間』だっ!!」

「でもっ!・・・でもっ、ママがぁっ!」

「俺たちが、一生、保障してやるっっ!!」

「!!!」


――盾は破られた






『シールド』と『杖状デバイス』だけ破壊するつもりだったが、そんな都合良くいくはずもなく
勢いの余り、ゼロの右肩まで『焔』で貫いてしまった。
幸いにして出血も刀が貫通したわりには出ておらず、命に別状もなさそうではある。
といっても重傷には変わりないので二人は戦闘状態を解除し、すぐに応急処置を始める。


「シ・・・・・・ン・・・・・・?」

「傷口が傷むんだろ? 喋んないで今は寝とけよ」

やや苦しそうな声でゼロは自分の名前を途切れながら呼ぶ。
こんな状態じゃなければ「名前覚えてくれたのか」と喜ぶべきなんだろうが、あいにくと
ついさっきまで死闘を繰り広げた仲である。いきなり感動しろといわれてもできるはずもない。
包帯を巻きながら、シンとしてはさっさと眠ってもらいたかったが、何か言いたいらしい。

「あ・・・り・・・がと」

そう呟いて、ゼロは静かに眠り始めた。そして、『今までの泣きそうな顔が嘘のように、
幸せそうな顔をしていました』。ハルカの遺跡レポートの考察蘭の隅には、こう追記されていた。






終わり



・・・・・・はまずいっすよね(苦笑)


独り言

このままの路線で行くと・・・なのはファンに殺されてしまうような・・・






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