「っ……!? 痛いって!?」
「アンタが無茶するからでしょ!」
「いや、それは――」
何やら青髪の少女が黒髪の少年の手当てをしている。左腕に巻かれた包帯にはうっすらと
血が浮かんでおり、僅かに痛々しさを表している。巻き方がかなり乱雑なのは
この際気にしないでおく。
作戦そのものは成功したといって良いだろう。
30分弱で、2箇所のコントロールを奪取、おまけにメイヘムも大破させることなく
無力化。これ以上はないというくらいの鮮やかさである。
無論、全員が無傷、というわけにもいかず別働隊も半数以上がなんらかの負傷、シンも
何箇所か出血しており、現在研究所内の医務室にてハルカの手当てを受けていた。
「……」
「――どうしたの?」
何やら先ほどから黙って座っている栗色の髪の少女――ゼロが気になり、ハルカは声をかけて
みた。元々、この少女については分からないことが多い。出生・経歴・遺跡にいた理由などなど
挙げていけば切りがない。
ぐぅ
まぁ新たに一つ分かったことと言えば、生物はみな等しくお腹をすかすということくらいか。
「……食べる?」
「うんっ! 食べるっ!」
ハルカはジャケットに携帯していたビスケットタイプの簡易携行食を渡すと、ゼロはパクパクと
食べ始めた。こうして見ていると、普通の少女となんら変わらないものだ。
「アスカ陸士」
「あ、はい」
「一応簡易メンテはしておきましたが――」
「助かります――やっぱり、疲労溜まってます?」
「そうですね、両機とも近いうちにオーバーホールに出したほうが良いかもしれません」
むぅ、とシンは唸りながら整備士から受け取り、ピンク色の携帯に魔力を送る。
瞬間、それは黒色の柄となり、白色に輝く刀身を生成、日本刀のようなものとなる。
彼これ、こいつを獲物として2年経つが、ようやく――
(――少しは慣れてきた、か)
そんな気がする。歴史学の講義で思いついた、このデバイスだが、最初は起動させるだけでも
手間取っていた。何しろ、柄部分以外は全て自身の魔力で構成しなければならないのだ。
生成時にはかなり具体的なイメージを意識しないとコレは起動するのは難しい。
まぁ、起動さえ上手く出来れば、制御自体はそう難しいことはないのだが。
『探索任務……ですか?』
『そうじゃ、立て続けですまんが飛んでくれるかの?』
『了解。 えっと……この娘も?』
『当然じゃろ?』
今回の奪還任務は責任者が藤堂ということもあり、シンたちに本部への連絡などの後処理は
回されることはなかった。それでも、簡単な報告だけはとハルカはホイス提督に連絡を入れた
矢先、頼まれごとを請け負うこととなる。
「ゼロも行くの?」
「ああ、一緒だな」
「やったぁー」
「……遊びに行くわけじゃなんだけどな」
隣で通信を聞いていたゼロはシンにそう確認し、頬を緩ませて喜んだ表情をしている。
シンとしては苦言を呈したかったが、目の前の少女の喜びように苦笑している。
おそらく――この少女は孤独だったのであろう。
自分も似たような状況の時期があったからこそ、理解できる――できてしまう。
父を失い、母を失い、妹も失い、故郷すら捨てたあの頃の自分は――ひどかった。
何も寄せ付けず、抜き身の刀のようにいつも『何か』に怒っていた。
まぁこの青髪の少女や同じような境遇の同級たちと馬鹿をやっているうちに
そんな自分はすっかり鳴りを潜めてしまったが。
「うわっ、『最新型ジャケット・J906iN限定入荷』だって」
「可愛いなぁ、ゼロ、これ欲しいなぁ」
「何々、耐熱・耐魔法機能は従来型のものに比べて20%以上の向上を見せ……ふむふむ」
「でも、高そうだね」
「うそっ、オプション込みで8万!?」
何やら二人して、カタログのようなものを見ている。まるでどこぞの主婦同士の会話である。
この野郎、人がせっかくセンチになってたのに。
「あ、藤堂さん」
「お前たちか」
「えっと、色々とお世話になりました」
「なに、礼などいらんよ」
3人は次の任務地へ向かう前に、短い間とはいえ世話になった藤堂やタクティクスに別れの
挨拶をすることにした。本当ならば残って後処理を手伝うべきところだが、次の任務が決定
している以上そちらを優先するしかない。
「早速、次の任務か?」
「そうなんですよー、休暇が恋しいです……」
「ふっ……まぁ、私のほうからも進言しておこう」
ハルカの愚痴に藤堂は苦笑しながら、そう応える。前線勤務の局員は基本的に定休日という
ものが存在せず、休暇は何日かまとめて取ることになる。事件・事故は都合よく定期的に起き
てはくれないので、こういった勤務体制になるのは必然かもしれない。
「今度、手合わせ願えますか?」
「いつでも来い。 ただし、手加減はせんがな」
「こっちこそ――限定解除、引き出させますよ」
似たようなデバイスを使っている性だろうか、シンと藤堂は握手をしながら約束を交わす。
まぁ限定解除なしの状態でも藤堂はAランクはあるのでシンの願いが果たされるかは
かなり微妙なところだが。
「アスカ」
「っ――はい?」
不意に振り向く。
「本当に護るべきもの――それを違えるなよ」
それだけ言って藤堂はタクティクスと共に事務処理を再開する。
俺が護るべきもの――戦争のない平和、そうだ
もう二度とあんな光景は見たくない、見せたくない……絶対に!!
後にシンはこの青臭い考えを思い出して苦笑することになる。
「うっそぉ!?」
どうしたんだよ、とシンはハルカが目をパチクリさせている先――
管理局製の電子手帳を覗き込む。
そこに書かれていたのは――ランクダウンのお知らせ
B+ランクに1ヶ月前登録されたハルカだが、表示されているのは
B−ランクへの降格と一部罰金の催促。
うわっ、ださっ。
「うぅ、なんでぇ……」
かなり涙目になっている彼女を尻目に、ふとシンも自分の電子手帳を見る。
「……」
もっとひどかった。A−ランクからB−ランクへのトリプルダウン。
罰金の催促だけでなく、一部給与の凍結まで追加されている。
階級が二等陸士のままだったのが唯一の救いか。
「どうしたのー?」
ゼロが無邪気にキョロキョロと二人を見るが、二人とも顔面蒼白。
なんでこんなことに――いや、思い当たる節はいくつかどころじゃなかった。
けど、だからって任務終了後にわざわざタイミングを合わせなくたって良いじゃないか……。
――ん?
メール蘭の最下部に『備品は大切にね♪』とある。
なるほど、おそらく備品管理課の連中からの苦情が原因か。
「むぅ……ランクはともかく、給与はやばいだろ」
「あーあー、ランク戻すのにどれだけかかると思ってるのよー」
シンは電子明細を見ながら、あくせくと何かを計算している。
ハルカは口を半開きにしながら、あはは、と不気味に哂っている。
ゼロが二人を励ましているのはなんともシュールな光景だ。
トール研究所の通路にトコトコと3つの規則的な足音が響く。
たまに擦れ違う局員は誰もが忙しそうに動いており、
自分たちも手伝うべきだったか、とやや罪悪感に刈られる。
ようやく正気に戻った二人はホイスに頼まれた任務について情報を
分配しようとシンがハルカに聞き出す。
「で、探し物っていうのは?」
「えっと、『ロストロギア』の1つらしいよ」
「ろすとろぎあ?」
シンたちとの会話の中に出てきた単語にゼロがその幼い声で反応する。
時空管理局は魔力犯罪を事前に防止するために、魔力に関係した様々なものを悪用される前に
その管理下に置くことも自身の任務の1つとしている。
最も有名・凶悪なものでは『ジュエルシード』や『闇の書』に代表される『ロストロギア』
と呼ばれる古代遺産の総称がある。
『ロストロギア』はその効力や性質によって第1級から第3級に分類されており、
第1級に掛けられているものはどれも次元世界の1つを丸々破壊できる効果を持つといわれている。
そして今回、シンたちに捜索任務が与えられたのは――
「ふぅん――
独り言
作品が迷走する日々。
主人公たちのランクを下げてみました。
相対的にスバルたちが持ち上がる――なんという孔明の罠。
とりあえず作品の鍵的なものを出してみました。
遺失兵装――作者の妄想の塊です。厨ニ病設定が満載です。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、