リョウさんに捧ぐ、アヌビス的「ユメノオワリ」―――
ジェイル・スカリエッティの手に落ち、ナンバーズの13番目となったギンガ・ナカジマ。
いつも追い回され、何度も馬鹿な争いをした女性の変わり果てた姿に、孤独の剣士は彼女を救う決意を固める。
機動六課からの誘いを蹴り続けた孤独の剣士と、姉を救う為に降り立つ少女。
しかし二人の言葉は届かず、躊躇いのない攻撃に膝をつく。
「ギン姉ぇ……」
「ギンガ………っ」
涙を流す少女、唇を噛み締める剣士。
その時、風が吹き、女性の髪と…リボンを揺らす。
それを見て、遠い記憶が蘇る剣士――――
「約束は、果たすぜ…………」
「…宮本さん……?」
「スバル、俺がギンガの動きを止める、お前が決めろ―――出来るな?」
「―――――っ、はいっ!!」
剣士の瞳を見て、決意を固める少女。
「さぁ来いよギンガ――――俺が相手だッ!!」
「―――――ッ!!」
左腕を構え、走り出すギンガ、立ち向かう剣士。
回転し、唸りを上げる左手、対するのは、剣士の命――鉄の刃。
ガキン―――ッと音を立てて、砕ける刃。
「ぐが―――ッ!!」
突き刺さる、手刀。
回転するギンガの左手が、剣士の胸を貫く。
吐き出される鮮血、苦痛に歪む顔。
「宮本さんっ!?」
「俺に構うなぁぁぁぁぁっ!!!」
「―――っ!?」
咆哮する剣士、震える少女。
ギンガが剣士を倒したと判断し、左手を抜こうとした瞬間―――剣士の両手が、彼女の手を掴む。
二度と、放すものかと―――その手を掴む!
「ぐぅ――――ッ、捕まえたぜ……ギンガァッ!!」
「………っ!?」
「今だ、スバルーーーッ!!」
「宮本…さん…ッ、マッハキャリバーっ!!」
『 All right buddy. 』
少女の言葉に応え、相棒となったデバイスのコアが輝く。
「ギア―――エクセリオンっ!!」
『 A.C.S. Standby. 』
少女のデバイスから魔力の翼が羽ばたき、翼の道が姉へと伸びる。
「ギン姉ぇぇぇぇっ!!!」
振り翳す拳、集束する魔力。
迎え撃とうとしたギンガの腕を―――剣士が掴み、放さない。
腕だけでなく、貫いた胸から――手が抜けない。
「言っただろ……捕まえたってなぁッ!!」
「――――クッ!?」
「ディバイン――――」
輝く魔力、唸りを上げるナックル―――。
あぁ、懐かしいと……剣士は思う。
二つのナックル―――長い髪と、リボン―――。
「約束は果たすぜ……クイント―――……」
「バスターーーーーーーッ!!!!」
少女の魔法が姉を貫き、光が弾ける。
その光の奔流に呑まれながら……剣士は夢を見る。
遠い昔の、暖かく、悲しく、儚いユメヲ――――
「君が最近管理局を困らせてる子だね?」
「あぁ? 誰だアンタ…?」
10年前、新しい世界での新たな夢を見てミッドチルダへ渡った孤独の剣士。
しかし夢は遠く果て無く、腐り始めていた剣士に、一人の女性が笑いかけた。
「待ちなさいっ、食い逃げの容疑で逮捕するわよっ!」
「だから、誤解だって言ってんだろうがっ!?」
財布を忘れ、金が払えずにいたら追いかけられたり。
「ちょっと宮本君っ、子供攫ったって本当なの!?」
「迷子連れて親捜してただけだろ!?」
勘違いされて殴られたり。
「誤解なら誤解だって、どうしてその場で証言しないの。逃げたり誤魔化したりするから事件になっちゃうのよ?」
「とりあえず、マウントポジションで説教は止めてください、はい」
毎度毎度のお説教を受けたり。
騒がしくて、忙しくて……けれど、そんな毎日が楽しくて…。
腐りかけた剣士が、また、夢を見始めた。
「良介君は、剣で強くなりたいのよね?」
「なんだよ突然…まぁ、そうだけどさ…」
絵を描く剣士の隣に座り、飲み物を傾ける女性。
「ならさ、管理局に入らない? 首都防衛隊。地上なら空飛べなくてもやっていけるし、
私の隊長…ゼストって言うんだけど、その人に師事すればもっと強くなれるわよ? ね、どうかしら?」
「おいおいおい、馬鹿言うなよ。俺の魔力値知ってるだろう、魔導師なんぞ無理だっての」
「別に魔導師じゃなきゃ管理局でやっていけない訳じゃないのよ?私の旦那だって、魔法使えないんだから」
「だからって、二流以下の剣士になに期待してんだよ」
「ふっふっふっ〜、私を舐めてもらっちゃ困るわよ?
毎日私から逃げ回ってるのに、息も殆ど切らせない体力、そしてこの身体―――並の努力じゃ手に入らないわ」
「………セクハラだぞ」
「何か言ったかしら?」
「ごめんなさい、冗談です、ダブルリボルバーは許してください」
その女性の笑顔が、海鳴の女性の一人と重なり、どうにも強く出れない剣士。
女性の大人な対応に、いつも負けるのは剣士の方。
「ねぇ、良介君……」
「なんだよ、真面目な顔して……最近は大人しくしてんだぞ?」
「ん、それは知ってるけどね。あのね………私の息子になる気、ない?」
「は―――――?」
「私には、娘が二人居るんだけどね、そろそろ息子も欲しいかなぁ〜って思って。どう?」
「いや、どう? じゃねぇよ。アンタ正気か、俺を息子だと?」
剣士は動揺する。
女性の言葉も、その表情も、瞳も―――この世界に来る前に、剣士に同じ事を言った女性と、同じだったから。
その言葉に揺れる孤独の心。
だが―――。
「お断りだ。アンタが母親じゃぁ、毎日青痣だらけになっちまう」
「あ〜、失礼ね。君が悪い事をしなければ良いだけでしょう」
断られても、女性は笑みを浮かべ続けた。
それは、諦めないという意思表示だった。
それからは、毎日のように追われ、捕まり、説教され、そして息子に――家族にならないかと、誘われる日々。
そんな日々が眩しくて、楽しくて、暖かくて―――剣士は、夢を見続けられた。
だが、そんな日々は唐突に終わりを告げてしまった……。
「最近アイツ見かけねぇな…大きな作戦があるとか言ってたが、忙しいみたいだな……」
張り合いの無い一日、ほんの、ただの気まぐれで立ち寄った、彼女の勤め先。
だがそこは、捕まり、事情聴取をされたりした時とは、まったく雰囲気が異なっていた。
暗く、悲痛に満ちたオフィス。
顔見知りの局員達の顔が、半分も見えない。
「おい、どうしたんだよ、アイツはどこ行ったんだ?」
何度か顔を会せたことのある事務局員を捕まえると、彼女は驚いた顔をした後、表情を悲しみに歪ませる。
「宮本君…っ、良かった、連絡手段知らないからどうしようかと……お願い、落ち着いて聞いてね…」
局員の話に、土産として持ってきた果物の包みが手から零れ落ちる。
彼女の――――孤独の剣士を、管理局が頭を悩ませる問題児を、根気良く追い続け、家族になろうとしていた女性の―――。
クイント・ナカジマの、死を知って――――。
孤独の剣士の、夢が終わる――。
「嘘………だろ……?」
局員に教えられ、走った先――彼女の、葬儀の場。
純白のドレスを着て、華に囲まれた彼女は、今にもあの笑顔を浮かべて動き出しそうなくらいだった―――
だが、二度と目覚めない。
彼女の言葉も、あの笑顔も……二度と、聞くことも、見る事も叶わない。
「お前……そうか、お前が“問題児”か……」
少女二人の肩を抱き、悲しみを堪えていた男性が、立ち竦む剣士に気づく。
黒いフード付のロングコートを着て、そのフードで顔を隠した男。
だが男性は気づいていた。
妻が、食事の時や寝る時に、時に怒りながら、時に楽しそうに、そして時に悲しそうに話していた、孤独な剣士の少年。
―――家族が居なかったから、優しさを知らない―――
―――両親が居なかったから、愛を知らない―――
―――その受け方も、与え方も、知らないでいる―――
―――だから、私たちで教えたい―――
そう言った妻の表情を思い出し、決意を持って歩みを進める。
立ち竦む剣士は、そのフードに隠れた視線を、眠るように棺に横たわる女性から離さない。
いや、離せないでいた。
「お前さんが、宮本 良介…だな」
「………………アンタは…?」
声をかけられ、ようやく剣士の視線が男性に向く。
男性の後ろには、涙を流しながらこちらを窺う二人の姉妹。
一人は髪の短い幼い少女、もう一人は女性に良く似た――長い髪の少女。
「俺はゲンヤ・ナカジマ……クイントの夫だ。お前さんの事は、妻から聞いてる…よく、来てくれたな」
そう言って、右手を差し出すゲンヤ。
握手なんかしてる時かと叫ぼうとした剣士が、その右手にある白い封筒に気づく。
「妻からの……手紙だ」
「アイツからの…………?」
呆然としつつも受け取り、封筒を眺める。
そこには、宮本 良介君へと書かれていた。
剣士は唇を振るわせつつも、封筒を開く。
入っていたのは、剣士に宛てられた一通の手紙。
『 良介君へ―――この手紙を君が読んでいると言う事は、私はもうこの世に居ないのでしょう。
こんな仕事だから、いつかは来るんじゃないかと覚悟はしています。
でも、残された旦那と、娘たち…ギンガとスバル、そして……君の事が気がかりです。
君の事だから、きっとまた大きな騒ぎや騒動を起こして、皆を困らせるでしょうね。
もう私は君を追いかけられないから…少しは大人しくしていてね?
不確定な未来、この手紙が君に届くのがどれくらい先になるのか、私には分からない。
でも、一つだけ君にお願いしたいの。
娘たちを…ギンガとスバルをお願い。
あの子達は、戦闘機人という、人工的に肉体を強化された存在。
私が事件を追う最中に保護して、引き取ったの。
あの子達は、その身体の為に望まぬ争いや運命に巻き込まれるかもしれない…。
だから、もしもの時に…あの子達の助けになってほしいの。
もしも、今まで私が焼いたお節介に、少しでも…少しでも感謝してくれているなら……お願い。
勝手な言い分かもしれない、でも……君なら引き受けてくれると、私は信じているわ。
君は嘘も言うし、人を騙す…けど、本当に大事な約束だけは、絶対に破らないから。
だから、君にお願いします。娘達を……守って、助けてあげてください。
そして叶うなら…君も幸せに……。
最後に。
私は今でも本気で―――君を息子にしたいと思ってるわ。
だから旦那にもお願いして、君を家族にする準備はしてあるの。
もし気が変わったら旦那に言ってね…きっと、娘たちも君を受け入れてくれるから。
さようなら、良介君……。
P,S……君をずっと、息子と思っていても良いかな……?
クイント・ナカジマ 』
「―――――ッ、なんだよそれ……勝手な事言ってんじゃねぇぞ……ッ!」
「宮本……」
「俺に何を期待してんだよ、こんな魔力も無くて、剣の腕も二流の、こんな俺に―――ッ」
「…………妻は、そんな事気にしやしねぇよ。手紙に何が書いてあったか知らないが…あいつは、お前だからその手紙を残した。
そういう女なんだ」
ゲンヤの言葉に、拳を握り締め、俯く剣士。
そんな剣士に歩み寄る少女。
「お花を……お母さんに…」
涙を目尻に溜めながら、白い華を差し出す少女は、彼女に良く似た容姿だった。
「………………」
華を受け取り、棺に歩み寄る剣士。
女性の横顔は、とても安らかだった。
「………アンタには、世話になったよな……。こんな俺を、毎日飽きもせず追いかけて、説教して…」
華を、女性の顔の横にそっと置く。
そして震える手で、冷たくなった頬に触れ……最後の別れを、そっと呟く。
その言葉は、誰にも聞こえることなく…だがきっと、女性には届いただろう。
踵を返し、その場を後にする剣士。
「もしお前さんにその気があるなら……いつでも俺の所に来い」
いつでも家族になれると、ゲンヤの瞳は言っていた。
だが剣士はそれに片手を振って答えるだけだった。
歩き去る剣士を見送る三人。
ふと、姉の少女が気づく。
剣士が歩いた後に、点々と残る、涙の後が――――ずっとずっと、続いていた―――。
―――――じゃぁな、“お袋”……―――――
「………、…う………んっ………さ……り………さんっ!」
暗い世界の中、遠くに聞こえる声。
懐かしい夢を見ていた剣士の瞳が、ゆっくりと重い瞼を薄く開く。
そこには、涙を流す、成長した姉妹の姿。
「良介さん…っ、確りして、良介さんっ!」
「宮本さんっ、お願い、返事してっ、眠っちゃダメですっ!」
必死に剣士に呼びかける姉妹。
あぁ、元に戻ったのかと、安堵する剣士。
それと同時に襲ってくる眠気。
薄く開いた視界に入る、穴の開いた自分の胸。
流れでる血は衣服を破いて止血してあるが、焼け石に水なのは明白だった。
「良介さん…っ、ごめんなさい、ごめんなさいっ、私が、私が…っ」
「ギン姉のせいじゃないよっ、そうだよね宮本さんっ!? お願い、誰か…シャマル先生っ、早く、お願いだからっ!!」
少女達の流す涙が、頬を濡らす。
その感触も、段々と薄れていく―――。
風が吹く。
風に揺れる、ギンガのリボン…。
その顔が、瞳が、彼女を思い出させる。
震えながら、力なくギンガの頬を撫でる剣士の手。
「良介さんっ!? よかった…頑張ってください、直ぐにシャマルさんが―――良介さん…?」
「………やく……そく…果たし…た…ぜ……クイント……」
頬を撫でた手が、力なく地に落ちる。
そして瞼が閉じ――――剣士は、眠ったように―――
「りょう…すけ……さん…? うそ…ですよね……? いつもの、冗談ですよ…ね…? ねぇ、良介さん、りょうすけ、さん……――――
い…―――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
夢が終わる。
剣士の夢が。
これは一つの―――ユメノオワリ―――
あとがきのあとがき
ついカッとなって書いた、今は反省しているので本当に許してほしい。
リョウさんのプロットを元にして、さらに掲示板で出ていた良介ナカジマ家の息子イベントを掛け合わせて勝手に妄想。
当然連載しませんし続きもありません(コラ)
ほのぼのばかり書いていると、偶に悲しいのとか書きたくなりますよね?(マテ)
現在クイントさん生存フラグはどうやったら立つのか本気で考え中(何)
やはり良介息子に、そしてクイントVS桃子の母親対決が…ッ
いや、そうなるとリンディが参戦してしまう!?(マテ)
それはそれで楽しそうなうわなにをするやめry
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、