ユメを見る人々へ。
「隊長、連れてきました」
ブリューナクのブリッジ。ツェブとヒビキが連れだって『隊長』の前に立った。キョロキョロとブリッジを珍しそうに見まわすヒビキ。操舵席に座っている金髪の男、左右の膨大なコンソールとモニターとキーボードの前に座っている
赤髪と青髪のオペレーターらしき女、そして目の前の妙に体付きがいい黒髪の『隊長』。
ブリッジは白一色で統一されており、ニル・ヴァーナのものに比べてだいぶ狭い。そもそも機体の絶対的な大きさが違うため、当然といえば当然なのだが。
「ごくろうさん。ブリューナクへようこそ、ヒビキ」
『隊長』がすっと立ち上がると、にこやかに言った。
VANDREAD/A
#2「ガンメタルアクション」
「俺は『隊長』兼『ボス』兼『親分』兼 『リーダー』兼『艦長』兼『キャプテン』兼…………」
「ボス〜肩書き多すぎですよ」
赤髪のオペレーター、ミタールがたしなめる。そう言われて『ボス』がしかめっ面で答える。
「バカヤロウ! お前達が俺の呼び方をバラバラにするからだなぁ……」
「艦長。お客さんの前ですよ」
今度は青髪のオペレーター、アリオス。頭が別々のオペレーターから別々の事でたしなめられる。こんな状況、ニル・ヴァーナではあり得なかった。
「む、すまん、ヒビキ。俺の名はカーヴァイン。好きに呼んでくれ」
(好きに呼んでくれ、というのはさっきの肩書きのことなのか?)
一体どう呼べばいいんだ? ヒビキは頭を悩ませた。
一分後。
「か、カーヴァイン」
どうやら普通に名前で呼ぶことにしたようだ。
「その……相棒を収容してくれて……ありがとよ」
鼻を掻いてヒビキが照れ臭げに言った。素直に「ありがとう」とまともに言ったことが無いのだ。
「どういたしまして。じゃあ早速なんだが、色々話を聞かせて貰おうかね。まずはヒビキ。お前のことを詳しく知りたい」
「あ、ああ。ヒビキ・トカイ。タラークの出身だ」
「タラーク……。アリオス」
「了解」
指示を出される前に動き出すアリオス。何の指示が来るかは分かる。伊達に付き合いが長いわけではない。
「……ありました。男性だけの星。文明レベルはB。生活環境・生活水準は低し……。長年、女だけの星、メジェールと対立状態にあるようです。……でも変ね。ここからは相当距離が離れています」
「ふうん……。ヒビキ、お前どうしてあんな所にいたんだ?」
「………よくわからねえ。敵に襲われて、気を失って……気付いたら、あそこにいたんだ」
「敵……『刈り取り』ってやつか。教えてくれねえか? その『刈り取り』って奴のこと」
ヒビキは少し迷った。刈り取りのことを話すとは言え、どこからどこまで話せばいいのか?
だがその迷いはすぐに吹っ切れた。何故かは分からないが、カーヴァインには全てを話しても言いように感じ始めたのだ。言葉では言い表せない、信頼感。
ヒビキはぽつりぽつり話し始めた。刈り取りのこと、自分が刈り取りと出逢うまでの経緯、ニル・ヴァーナのこと、そしてヴァンドレッドのこと………。
全てを話し終えて、ヒビキは話しつかれたかふぅと息を吐いた。
「……結構大変だったんだな、お前……」
ヒビキの話を聞いたカーヴァインが感慨深げに言った。まるで運命という波に呑み込まれている様な感覚。たくさんの偶然が重なって、いつのまにか必然になっている感覚。それらをカーヴァインは感じていた。
「で、これからどうするんだ?」
「これから……?」
「そう。蛮型の修理はしてやるし、それが終わるまではここに居ていい。だが、蛮型が直ったら、どうする気だ?」
「………」
ヒビキは答えに窮する。そんな事を考えている余裕なんてなかったし、実際にどうしたらいいかも皆目見当がつかない。ニル・ヴァーナを探すのが当然なのだが、蛮型一機で探せるとは到底思えなかった。以前のヒビキなら意地でも独りで探し出すと言いかねなかったが、ニル・ヴァーナの旅がヒビキを成長させたようだ。
「もしお前が良いな」
ぶううぅぅぅん。
突如、アラームが鳴り出した。ほぼ同時にアリオスとミタールがコンソールのモニターに視線を流す。範囲内に機影一機。
「範囲内に機影一機確認。識別照合……………スレイプニルです!」
「接艦して来ます! このまま行けば5分後に接触です!」
「やっぱり来やがったな。ったく、行く所行く所に現れやがって!」
ブリッジ内が騒がしくなる。スレイプニルの正体は知らないが、敵が来たのだなとヒビキは直感する。
「隊長、出ます」
ブリッジの中で一人、ツェブは持ち場が違う。駆け足でブリッジを後にしようとした。
「いや待て。取りあえずアームストロングは待機。指示を出すまで出るな」
「了承」
扉を飛び出ながら、ツェブが返事をする。それを横目で見ながら
「なあ、俺はどうしたらいい?」
とヒビキが尋ねる。自分も出たくてしようがないのだろう。
「お前はここにいてな。出ようとしても無駄だぞ。機体がない」
「……ちっ。高見の見物は好きじゃねえんだよ」
本音だろう。むしろ高みの見物は苦手、と言う方が正しいか。いつも体でぶつかるのがヒビキである。
「まあそういうなよ。たまにはブリッジで静観も良いもんだぜ?」
カーヴァインは豪快に笑って言った。
スレイプニル。大きさ、そして左右に広がる羽、形状。それはどれを取ってもブリューナクと瓜二つだった。違うのは、ブリューナクには三砲の巨大な砲塔があるのに対し、スレイプニルは両翼に無数の砲がついていることだ。一発の攻撃力はブリューナクに分があるが、スレイプニルは数でそれを補う、といった感じだ。
『カーヴァイン、ここで遭ったが百年目!』
ブリッジに怒声が鳴り響いた。しかしブリッジクルーの誰の声でもない。
「その汚い声……どうにかならねえのか?」
カーヴァインがため息をついた。通信はスレイプニルからだ。モニターが開いて、顔がアップで写る。角張った輪郭、黒色の瞳と髪。カーヴァインとは似てもにつかない。だが纏う気配はカーヴァインと同じ匂いがする。
『汚いだと? お前に言われたくない!』
「うるせえ! いっつも俺達の後を追い回しやがって! こっちに惚れた女でもいるのか!?」
『なななななななな、そそそそそんなことはない!』
「……図星かよ」
慌てふためく向こうの艦長に、カーヴァインが呆れる。昔からこういう所は変わっていない。恋愛に関しては保護動物に指定出来るほど、珍しいくらいに純粋なのだ。
「おい、アリオス。ヒュエルの奴、お前に惚れてるらしいぞ」
「……私に振らないでく」
『ななななななななな、なんでそれを知っているッ!?』
「…………………」
ブリッジにいる全員が唖然とする。特にカーヴァインとアリオスは開いた口を閉じることが出来なかった。別に誘導尋問をしたつもりは無かったのだが……。
「だとさ。アリオス」
「……お断りします」
と、アリオスはきっぱり。カーヴァインは肩をすくめて
「だとさ。ヒュエル」
『ぬぉ! そんな………』
『ああっ! 艦長! 泣かないで、泣かないで!』
スレイプニルの副長が涙に暮れるヒュエルを慰める。……ギャグか? ヒビキは疑いたくなった。
『くそー。カーヴァイン、許さん!』
「ちょっと待て! どうして俺なんだよ!!」
『問答無用! ストライカー隊、出撃!』
ヒュエルの号令と共に、スレイプニルの下部が開く。構成もブリューナクと同じらしい。そこから三筋の光が尾を引いて発進した。
「来たな。三馬鹿」
『三馬鹿って何だ!』
音声と同時にモニターに映るのはヒュエルとは違う顔。さらに続けて二人。
『カーヴァイン、我等の実力に嫉妬しているな?』
『昔から貴様は感情表現が下手くそだったからな』
(………そういうのを「三馬鹿」って言うんだよ)
カーヴァインは敢えてそれを言わずに
「へっ、てめえらも昔ッから変わってないじゃないか。その下手くそな操縦技術」
『なっ! なんだと!?』
『あの時、生き残れたのは誰のお陰だと思ってる!?』
『許さん! 許さんぞー!』
三人の顔が見る見る紅潮していく。それを見てカーヴァインは笑った。
「……そう言う風に挑発に弱いのもな」
ヒビキは気付いた。カーヴァインの笑顔は、敵と戦っている雰囲気なんかではない。まるで旧友と昔語りをしているようなのだ。真剣ではあるが、決して両者とも殺気立っている訳ではない。
「よし! お前等の相手はツェブがしてやる。アームストロング、出撃!」
『了承。アームストロング、出ます』
待ってましたとばかりにツェブの返事。アームストロング、発進。
「おい! いくらツェブの腕が立つったって、三対一じゃ分が悪いんじゃねえのか?」
ヒビキが余裕綽々に座っているカーヴァインに問う。
「ん。あ、ああ。大丈夫さ。……おい、ツェブ」
通信機を手に取り、アームストロングに通信。すぐにツェブが応答。
『何ですか』
「お前、もし負けたら3日間飯抜きな」
『む……それは困ります』
表情は真剣に答えるツェブ。そのギャップが少し可笑しかった。
「だったら、負けるなよ。エリアルも用意が減って助かるだろ」
エリアルというのは、食堂を取り仕切る、いわばコックのチーフだ。「恰幅の良いおばちゃん」といった感じで、クルー全員から好かれている。
『……了承』
ツェブはあまり表情に出さなかったが、つき合いが長いクルー達は、彼の少しの表情の変化を敏感に感じ取っている。……どうやらよほど飯を抜かれるのが嫌らしい。カーヴァインはヒビキに顔を向けるとまた笑った。
「な」
「な……って。アレでいいのかよ!?」
ヒビキはあまりのお気楽ぶりに少し戸惑ってた。ニル・ヴァーナもたいがいだったが、ブリューナクは遙かに上を行く。
「問題はねえよ。まあ黙って見てな。あいつらにゃ悪いが、ツェブはあのレベルじゃ相手にならねえし」
信頼。どうやらカーヴァインはツェブの操縦技術に全幅の信頼を置いているようである。
その信頼に応える如く、アームストロングが駆ける。
戦闘に入った。アタッカー隊の一人、朱のレドルを先頭に、その左右に蒼のカブル、黄のイエロウがつく。まずアームストロングが上昇。それを赤い機体が追い、青と黄の機体は左右から回り込む。
互いに牽制しあう。どちらも機動性が売り。さらにはどちらも決めてとなる高い攻撃力を有していない。そのため、細かく動いて自分の有利な状態に持ち込まなければいけない。そう言う意味でも、数で劣るアームストロングは不利だと思われた。
だがその心配は杞憂だった。ブリッジからその戦闘を見ていたヒビキは、一つの光が他の三つの光を圧倒しているのを感じていた。遠くから見ることによって初めて分かることもある。その光……アームストロングは他の三機の動きの二手三手先の動きを知っているかの如く、三機の死角に回りこんでいるのだ。ロックオンする前に逃げられるのだが、完全に捉えるのは時間の問題だった。
速度がそれほど違うというわけではない。レドル達の操縦が下手ということでもない。ツェブが巧すぎるのだ。
「……もらった」
イエロウ機を完全に捉えたツェブは、トリガーを引いた。同時に携帯式のマシンガンが火を噴いた。バックパックが吹き飛び、装甲表面に無数の穴が開く。
「ぐぁぁおおおおお」
機体を立て直そうとイエロウが踏ん張るが、思うように出力が上がらない。
「イエロウ!」
カブルが叫ぶ。その隙にアームストロングが背後に回り込んだ。カブルの背中に汗が噴き出る。
カブル機も行動不能にしたアームストロングは残るレドル機に狙いを定める。
「ちくしょう! やってやるぜ!」
覚悟を決めるレドル。しかし
『レドル! 戻ってこい!』
ヒュエルの通信。それを聞いたレドルは納得がいかないのか食い下がった。
「カーヴァイン! しかし!」
『今はしょうがない。次にリベンジだ』
それは自分のことも言っているのか? まだアリオスの事は諦めてないらしい。
「くッ。了解」
レドル機は行動不能になったカブル機とイエロウ機を両脇に抱えると、スレイプニルへと逃げていった。アームストロングはその背中を見つめたまま、レドル機を追おうとはしなかった。
『カーヴァイン! また来るからな!』
「もう来なくていいぜ」
うんざりした顔でカーヴァインが返す。そんなカーヴァインを無視してヒュエルは
『アリオスさん。また来ます』
「結構です」
再びきっぱり断られたヒュエルはブリューナクのクルー達に分からないよう、泣いた。
ヒビキにとってスレイプニルの一度目の来襲はブリューナクの勝利に終わったのであった。
つづく
あとがき
どうもです。今回はスレイプニルの登場、そしてツェブの活躍がメインでした。特にスレイプニルは今後もガンガン絡ませていくつもりなので、ヒュエルの事、見捨てないでやって下さい(笑)。個人的に好きなキャラに出来たと思ってますので。
なお今作のサブタイトルは全てワイルドアームズアドヴァンスドサードのサントラの曲名から取ってます。ヴァンドレッドは本編のサブタイトルが全て曲名ですので、その流れを汲んでいます。「パクリ」とか言わないでください<過去につっこまれた事があるらしい。笑
ではでは次回作で。
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