VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter XX "Combat at Christmas the second stage"







「よし、決めた!」


「おー、頑張れよ」

「励むのだぞ、友よ」


「ものすごく適当に返事しているよね、君達!?」


 ――これはまだ故郷へ辿り着く前。

彼らがかつて住んでいた元監房が事故で壊れてしまった時の物語。


「真面目に聞いてくれよ。ほら、僕ってガルサス食品の後継者だろう」

「何だ、自慢話か」

「家族自慢は時間がある時にでも語ってくれ」

「今暇しているよね、君達!?」


 引越し前で暇をしていた時、男達のエピソードである。


「故郷へ戻って刈り取りの事が片付いたらさ、おじいちゃまの後を継いでガルサス財閥を立派にしていかなければならない」

「お前はもう完全に軍人としての自覚が無くなっているんだな」

「軍事国家のタラークでは除隊するのに相当厳しい条件が必要なのだが……まあ、私もそのつもりなので協力するのは吝かではない」


 元々三等民のカイとは違って、バートとドゥエロは士官学校卒業という立派な軍歴を持っている。

卒業したら輝かしい士官への道があったのだが、海賊と刈り取り襲撃という悪夢でそれどころではなくなってしまった。


「それで考えてみたんだけど、メジェールの食文化をタラークに伝えようと思うんだ」

「げっ、意外とまともなアイデアだぞ」

「真剣だったのか。何故それを先に言わない」

「どうして責められているの!?」


 故郷では恐らく生死不明の扱いを受けている彼らは非常に危うい立場となっているのだが――

彼らからすれば、どうでもいい話ではあった。


「女達の料理は美味しいからね……悔しいけど、僕達が食べていたペレットでは太刀打ちできないね」

「むしろなんであんなの食わされていたんだ、俺達」

「効率面では確かに最適されているし、栄養自体は保証されているが……
メジェールの食文化を知ってしまった後では、たしかに味気なく感じられてしまうな」


 ガルサス食品の後継者とされているバートは、食における追求は大きい。

意外だと言ってしまうのは本人にとって失礼かも知れないが、軽薄に見えてしまう彼は誤解されがちであった。

初乗船した時は自社のペレットを流行らせようとしていたし、本人なりに食品への思い入れはある。


彼自身、ガルサスの看板を背負っているのである。


「食文化を伝えるのは賛成だが、実際どういった方法を用いるつもりなんだ」

「ふふん、そこだよ君。僕ってば、やはり天才なんじゃないかな。
ほら、もう少ししたらクリスマスってのがあるじゃないか」

「確か一年ほど前に女性達が行っていた催しだったな……」


 聡明なドゥエロが確かな自信も無さそうに語っているのは、一年前の彼はクリスマス自体に関心がなかった為だ。

船医として職務に目覚め始めていた彼にとっては、クリスマスに浮かれる心境では到底なかった。

他者への関心が薄かった頃もあって、仕事に励んでいた頃である。


今からすれば信じられないほど、彼の心は虚無であった。


「今年は積極的に手伝いつつ、彼女達が作る料理の技術を学ぼうと思うんだ」

「珍しく大真面目に語ってるけど、それって頭を下げる訳じゃなさそうだな」

「恐らく皆を手伝うと称して、彼女達が料理を作る瞬間を覗くつもりだな」


「君達、僕を何だと思っているんだ!?
……いや、まあその通りではあるんだけど……」


 料理を教えてくれと素直に頼めば、今のバートであれば女性達も決して嫌がらないだろう。

男への不信はもう無いにしろ、男性への距離感を計りかねている女性達が確かに存在する。

バートと二人きりになるのは抵抗があるだろうが、今の彼は無害であることを示す証拠がある。


シャーリー、彼が迎え入れた少女の存在がバートという男の安全を担保してくれていた。


「そんなお前に残念な知らせがある」

「な、何だよ藪から棒に」


「お前んところの娘が、もうバーネット達から料理を教わっている」

「知らなかったのか、バート。少しでもお前の力になりたいと、あの子は毎日のようにキッチンへ行っているのだぞ」

「ガーン、知らなかった。なんでいい子なんだ、シャーリー……
君こそ僕の最高のクリスマスプレゼントだよ!」


 別に隠し立てしていたわけではないのに、サプライズのように大はしゃぎするバート。

呆れたものではあるが、本人が喜んでいるのであればいいかとカイ達も苦笑いする。

クリスマスという日に、特別なプレゼントは必要ない。


彼らからすれば、その日を無事に過ごせれば何よりなのである。






























<END>







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