VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter XX "Combat at New Year"








 故郷タラーク・メジェールへ向かう、旅。約一年間を経過して、いよいよ旅も終わりを迎えようとしていた。


この一年間で訪れたクリスマスは、二度。旅の終わりにクリスマスが待っているとなれば、ロマンティックを感じずにはいられない。

男女共同生活とはいえ価値観の違う両者に色恋沙汰はないとはいえ、仲間として仲良く共に過ごしているとなれば意識くらいはするものだ。


この一年間を通じて、仲間も増えている。彼らはクリスマスに向けて、会話に華を咲かせていた。


「ふーん、一応クリスマスという文化はあるのね」

「おい、馬鹿にされているぞ俺達」

「一応言っておくが、私とてクリスマスに思いを寄せた頃もあったのだぞ」


 休憩時間。カフェテリアで憩いの時間を過ごしている時、次のクリスマスに向けて彼らは思いを馳せていた。

カイが遭難事故にこそ遭ったが、故郷への阻む磁気嵐は間もなく突破しようとしている。その束の間の、平凡な一時だった。

各自職場が異なるので、休憩時間が一緒のケースは少ないが、たまに重なることもある。


昔は通り過ぎるだけだったが、今では顔を合わせればこうして話もする。


「どうせまた余計な知識や不要な認識とか、あるんでしょう。あたしが色々教えてあげるわよ」

「何でクリスマスを知っているというだけで、そこまでデカイ顔をされなければならんのだ」

「だが、ミスティの知るクリスマスの習慣には興味があるな」


 クリスマスの日が近いことを聞きつけたミスティは、早速自慢げに自分の知識を披露している。

冥王星生まれの彼女は特殊な価値観などは一切なく、地球より伝わった分野や風習を正しく理解している。

故郷を離れた身ではあるが、クリスマスを過ごした事だって当然ある。ある程度自信を持つのは致し方ない。


カイは不満そうではあるが、メイアは感心した素振りで耳を傾けている。


「まずは何ともいってもケーキね」

「クリスマスケーキというやつか。タラークにはない食べ物ではあるが、甘いお菓子は意外と嫌いじゃないぞ」

「女性陣は好んで食べるから、今年も作るだろうな……私は少し苦手なのだが」

「お姉様は、好き嫌いなさそうに見えますけど」


「別に嫌いではないのだが……少し、苦手なんだ」


 言及こそしないが、カイは何となくメイアの言いたいことは分かる気がした。

ケーキではないが、カイ本人もカフェテリアでお酒などを見かけると、どうしても懐かしくなってしまう。

思い出の味がする食事は美味しさを感じさせるが、同時に苦みも感じてしまう。


思い出は常に、幸せとは限らないから。


「後はターキーね、七面鳥というやつよ。今年はローストターキーなんてのを出してもらうのはどうかしら」

「……鶏肉を用意するのはいくら何でも大変じゃないか」

「その文化は知っているが、我々の世界では再現が難しいな」


 そもそも軍事国家タラークや船団国家メジェールは、生物が育ち辛い世界なのである。

クローン技術を発展させた食糧生産は非常に効率的な分、遊び心というものを排除する傾向があった。

七面鳥なんて用意するのも大変であり、よほどの祝い事でもない限り料理として出されることもなかった。


ミスティも贅沢が言える環境ではない惑星で育ったので、実物にはあまり詳しくない。


「シャンパンを用意するのは鉄板ね、乾杯シャワーをやってみたい」

「お前のクリスマスは、食い物しか無いのか」

「そう言ってやるな、カイ。パーティを開催する予定だ、食事の内容も重要になる」


 カイとミスティがクリスマスの食事や献立で議論する中で、メイアは自分の言った言葉について吟味していた。

故郷のアジトにいた時でもクリスマスの日が来ようと、盛り上がる仲間達に背を向けて仕事を行っていた。

パーティで仲間達が楽しく過ごしていようと、彼女は見向きもしない。常に自分のことだけに邁進しており、仲間達を見ようとしなかった。


そんな自分が次のクリスマスについて離しているのは、彼女本人も不思議ではあった。


「パーティの後は何と言っても、クリスマスプレゼントよ」

「食って土産までもらおうなんて、贅沢なやつだな」

「ふん、何とでも言いなさいよ。ちゃんとプレゼントくらい準備しなさいよ」

「何のためのプレゼント、と野暮なことは聞かないでおいてやるが……女が喜ぶものが思いつかないな」

「旅している時だから贅沢言わないけれど、真心がこもっているものがいいわよ」

「そういうのが一番難しいんだぞ、おい」


 カイ達が話しているのはクリスマスでよく行われる、プレゼント交換会である。

マグノ海賊団だけでも150名もいるので全員一緒になって行うのは現実的ではなく、基本的には近しい人達の中で行われる。


今年になってメイアも、自分だけは別だとは思っていない――けれど輪の中にいざ入るとなると、途端に緊張してしまう。


(ディータ達はともかく……カイに当たった場合も考えなければならないのか)


 プレゼント交換はランダムであり、誰が誰に当たるのか誰にも分からない。だからこそ、きちんと考えておく必要がある。

もしもカイに当たった場合、彼が喜ぶものと言えばなんだろうか。よほど変なものでもなければ、基本的には捨てずに受け取るだろう。

他者への想いを蔑ろにしない人間だという信頼はある。自分のような可愛げのない女であろうとも、彼ならきちんときちんと受け止めてくれる。


しかし出来れば――喜んでほしい、とも思う。


「? お姉様、なんだか顔が赤くないですか」

「珍しく考え込んでいるな、どうしたんだ」

「い、いや……なんでもない」


 誰かに喜んでほしいというこの気持ち――この想いはまぎれもなく、カイから貰ったものだ。

クリスマス前から既に受け取っているというのも変な話ではあると思うが、それでも大切にしたいと思う。


誰かを大切に思えることこそ、もっと尊きものだから。



――今年のクリスマスはきっと、彼らは共にいる。






























<END>







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