VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter XX "Combat at New Year"
「正月行事?」
「この前、女達がクリスマスパーティを開催していただろう?
今度はタラーク代表である僕達が、男の行事を皆に紹介するのさ!」
「……我々は名目上、彼女達の捕虜となっているのだが」
刈り取りによる襲撃も無く、緊急の仕事もない平和な日。故郷への旅も順調で障害も無く、船は宇宙の海を平穏に航海している。
そうなれば基本男達の出番はなく、休憩を与えられて監房で三人大人しく過ごしていた。無理に女性達の機嫌を悪くする必要はない。
カイは毎日着用する服や下着類の洗濯、ドゥエロ・マクファイルは読書、バート・ガルサスはペレットによる食事中。
思い思いに余暇を過ごしていた時の、ちょっとした会話。
「政府のお偉方による新年の挨拶や、高級士官様の演説を再現するのか。非難されるだけだぞ」
「あんなのまで、再現する必要はないさ。
三等民の君はまだ聞くだけだからいいけど、僕達なんて式の準備や敬礼の練習までさせられたんだぞ。
新年のめでたい日に堅苦しい制服来て、大仰に並ばされて――おじいちゃまに言われなければ、誰が好き好んで参加なんて!」
「同感だ。退屈なだけの式――あれほど無駄に思えた時間はない」
ドゥエロにまで辛辣な評価を受けているタラークの一大行事に、カイは苦笑せざるを得ない。
最初こそ三等民だと立場の違いを都度言われては腹が立ってはいたが、今では何の苦にもならず話の種にすらなっている。
「お前らも苦労していたんだな。俺なんて聞く振りして寝ていたのに」
「あ、ずるいぞカイ!? 僕達なんて首相の前に並ばされていたから、始終緊張していたのに!」
「すまない、バート。私も睡眠を取っていた。この前髪は非常に有用で、俯いていれば悟られない」
「そんな理由で髪を伸ばしていたの!? 士官候補生のエリートだろ、君は!
うわー、僕だけ一生懸命睡魔と孤独に戦っていたのか!?」
艱難辛苦を共に超えて成り立った友情に、階級や環境による差など関係なかった。
罪人を閉じ込める監房という悪辣な生活環境でも、三人は全然気にしていない。
気が合う合わない以上に命の絆で結ばれている。誰もが認め合った形で、三人は友となっていた。
「女達は派手な祭りを好んでいるし、俺達の国の行事は向かないんじゃないか?」
「そこを上手く演出するんだよ。新年の挨拶をお頭に、今年の抱負などを副長さんに頼めば、心証だって良くなる。
この行事の必要性を、彼女達も理解してくれると思うんだ」
「悪くない考えだ。まず最初にお頭や副長に挨拶をお願いし、趣旨を理解して貰う。
その上でクルー達にも何か楽しめる催しでも企画すれば、苦情や抗議は出ないだろう。
不平不満は個人の感情、どう思うかは彼女達の感想でも聞いてみればいい。まずは知って貰う事が、大切だからな」
「理解ばかり求めるのではなく、歩み寄る努力も必要か」
マグノやブザムなら企画の趣旨を説明すれば、快く引き受けてくれるだろう。
ブザムは公私混同しない自他共に厳しい人間だが、無理解ではない。規律違反せず誠意を見せれば、きちんと話は聞いてくれる。
幹部達全員に理解を求めるのは難しいかも知れないが、幸いにも今は刈り取りの襲撃も無く日々平和だ。
仕事は毎日忙しくとも、時間が無い訳ではない。むしろ代わり映えしない日々の延長にも飽いている頃だろう。話す価値はある。
一度決断すれば、男達の行動は早い。
「分かった、俺も力を貸すよ。イベントクルーにも手伝ってもらおうぜ。
俺らだけで進めたら後でうるさく言われるだろうし、あいつらが手伝ってくれれば他の連中からの文句も出ねえだろ。
クリスマスの一件で貸しがあるからな、頼めば絶対引き受けてくれる」
「お頭や副長さんには、僕から話をしておくよ。何しろ主催はこの僕、バート・ガルサスだからね。
僕が上の人間に話を通すのは、当然さ」
「私も準備をしておこう。刈り取りがいつ何時襲ってくるか、分からない。
先延ばしにせず、楽しめる時に楽しもう」
短い余暇は終了、ではない。これもまた、彼らにとっての休日の過ごし方。
平和はいつ迄も続かないことは、既に身に染みて理解している。
貴重な時間を大切にする為に、カイ達は自分から行動に移す。少しでも長く、楽しむ為に。
「――長ったらしい挨拶は嫌いなんで、手短に済ませるよ。みんな、明けましておめでとう」
『おめでとーございます!!』
「今年も実り多い年になるように、アタシも祈ってるよ。今年も苦しいだろうけど、頑張っておくれ」
祈りだけに身を委ねない破戒僧らしい挨拶で、男達の企画による新年会が始まった。
紆余曲折は合ったが海賊らしいと言うべきか、皆平和な日々には退屈していた。
カイの持ち込んだ企画をイベントクルーが乗り気でスケジュールを組み、バートによる手回しでお頭や副長の承認を得る事に成功。
唯一ドクターとして信頼が厚いドゥエロによる説得で幹部達からの反対も出ず、無事に新年を祝う事が出来た。
「はい、お頭からの新年のありがたい挨拶でした! 続きまして、副長さんより今年の抱負を伺いたいと思いまーす!」
「……司会者が男で、問題なかったのか?」
「平気、平気。閉会式の挨拶の後、あいつに賽銭ぶつけて笑いを取る企画を内緒で用意してるから」
イベントクルーのチーフであるミカ・オーセンティックの企みに、カイは笑い返した。このチーフには敵わない。
男女共同企画はクリスマスに続いて二度目、前回の反省も生かされてイベント開催まで波風も立たずに済んだ。
自分達はそれでいいのだが、男達を拒絶する面々は心に不満を抱えているに違いない。その為に、男を笑いものにしなければならない。
とはいえ、バートなら喜んで道化になるだろう。結局はそれも、祭りなのだから。
「カイ、カイー、お餅うにゅー」
「見せるな、そんなもの!?」
「日本酒も悪くはありませんわね……まあ、選りすぐりのワインには敵いませんけどぉ〜、ヒック」
「ベロベロに酔ってるじゃねえか!」
一筋縄ではいかない幹部達も、それぞれに楽しんではいるようだ。
キッチンチーフであるセレナはタラークの正月料理を見事に再現していて、クルー達の舌を喜ばせている。
タラークでは労働階級でペレットしか食べていなかったカイとしては、祖国にも料理の概念はあった事に驚きを隠せない。
ペレットは栄養価は高いのだが、味は極めてシンプル。美味くも不味くも無く、食事なんて味気ないものだった。
「宇宙人さーん、見て見て! 着物、着てみたの。似合っているかな?」
「……何故、私まで付き合わされる」
「いいじゃないの、たまには。ジュラだってこうして、見事に着こなしているのよ」
ディータにメイア、ジュラ。戦場では常に共に戦う、三人の歴戦パイロット達。
そんな彼女達も戦場を離れれば年相応の女性、着物の似合う年頃なのだ。
服は恐らく植民船時代だった頃の倉庫にでも放置されていたのだろう。発掘者は誰なのか、容易く予想出来た。
「カイ、アンタも少しは手伝いなさいよ! 手先が器用なんだから、料理くらいは出来るでしょう!
男の料理なんて、どうしてアタシが作らないといけないのよ」
「……意外と付き合いがいいよな、お前って」
普段は喧嘩ばかりしているが、今日は新年会。バーネット・オランジェロも場はわきまえる。
露出の多いボディスーツに白いエプロン一枚と、際どい格好でも働いていれば気にならないようだ。
せかせか働かせているあたり、今年も貧乏籤をひかされそうではある。カイも思わず、心配してしまう。
「――どうするんだい? いい加減やめておいた方がいいと思うけどね」
「いいや、勝負じゃ! ここで引き下がれん!」
「ほい、クッピン。悪いね、いただきだ」
「ぐぬぬ……」
料理だけではなく、男の正月遊びでも盛り上がっているらしい。カード勝負なら、レジの店長には誰も勝てない。
ドゥエロ達から遊びの内容を聞いて、早速場を囲んでいる女性陣。チップは兵装や食事などの買い物で使う、ポイント。
着物を着た女の子が負けているらしく、場は熱くなる一方。まだまだ正月ならではのギャンブルは続くようだ。
平和そのもの、何の問題もない。男や女に関係なく、新しい年を祝えている。
「……今年もこれくらい平和なら、いいんだけどな」
女性陣に付き合わされて疲れはするが、楽しさを感じさせる疲労。祭りが終われば、グッスり眠れるだろう。
戦いが終わった後の、身も心も重くなるようなものではない。こんな疲れならば、すがすがしい。
けれど――こんな日は、続かない。刈り取りがいる限り。
自分が英雄を目指し、彼女たちが海賊であり続ける以上は。
楽しい毎日を喜び合い、嬉しい事を共有し、手に入れた平和を噛み締められる。
それでも悲しみは分かりあえない。過去が違う以上、現実もまた異なるのだから。
「カイー、お頭がお年玉くれるって言ってるよ。アンタも、ホラ!」
「ねえねえ、カイ。書初めってどうやるの? 墨とか使い辛いし、教えてよ」
「カイ、ちょっと! アンタ、セルと何か約束していたんでしょう?
着ぐるみ用意したのになかなか来ないって、さっきから怒ってるわよ!」
けれど、この先は分からない。今この時を一緒に過ごしているのならば、共に生きる未来もあるはず。
カイだけではない。この瞬間を大切に出来るか、それは誰もが皆意識しなければならないことだ。
一生懸命だけではなく、たとえ間違っても後悔しないように。今を、生きていく。
「感傷に浸る暇もねえな、たく……はいはい、今行くよ!」
明日も見えない今を皆で戦って、切り開いていく。来年もまた、共に過ごせるように。
今だけでも、男と女は一緒に生きている。保証は出来なくとも、努力する価値はある。
それがカイの戦いであり――今を生きる男と女の、義務でもあった。
良い年となるように、彼らは決して祈らない。神様なんていないと、頼りにならないと実感出来ている。
両手を合わせて祈るではなく、手に武器を取って自ら運命を作り出す。
未来を切り開く、それが彼らの刃。
新しい年の戦いに向けて、今は束の間の宴を楽しんだ。
<END>
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