あぁ、君よ。君はどうして僕の掌から飛び立とうというのか。
私の手の中にいる限り君は永遠を約束されているんだ。永遠に美しく、今のままでいられるんだ。
あぁ、美しき蝶よ。何故君は飛ぶんだ。当ての無い空へどうして君は飛び立てるんだい?
Vandread−Unlimited− second stage
OUTSIDE:永遠を求めた者達7
「深いと思って光の魔法を落としてみたら、なんとまぁ下に戦艦が係留されてた。そういうわけよ」
合流してきたブザム達に状況説明し、改めて深い穴のそこを覗き込む。
アイリスの落とした光の球は大きな船の上に落ち、眩い光を発している。
「……なるほど、上層とはまるで違うな」
穴の外からでもいくらか見える工場内は、20世紀を模した上層とは一線を引いていた。
太いチューブや配線が縦横無尽に走り、渡り廊下も十数か所。クレーンに繋がれた資材が宙に浮いていたりする。そしてそんな資材のはるか下、建造途中だったのか、はたまた建造を終えてロールダウン寸前だったのか、一隻の戦艦が静かに身を横たえていた。
「……調べる?パスする?」
「我々の任務は調査だ。もちろんする。しかしどうやって降りる?」
一番近い渡り廊下まででも高さは100メートル以上ある。
「ロープで降りるのも心もとないですね」
マリーがつぶやいた。
「マリー、たしかあんた“落下制御”使えたよね」
アイリスが言った。
「“落下制御”?」
「えぇ、重力をコントロールして落下を遅くする。確かに使えますけど、皆さんに使うんですか?」
「それが手っ取り早いって。んじゃお先!」
言うが早いか、アイリスは穴に身を躍らせる。
『あ!!』
落下制御など使っていない状態でアイリスは落下していく。
ゴガンッ!!
鉄球でも落ちたかのような音を立て、アイリスは下の渡り廊下に着地する。若干渡り廊下がへこんでいるが。
「っつー、鳥肌消すのにしびれればいいなんて思ってたけど、あんま変わんないか」
立ち上がって足を擦りながら、アイリスは周囲を見渡す。
先に下りた(落ちた?) アイリスが手を振った。
「それでは、皆さんに魔法をかけますね」
「あ、あぁ」
マリーは両手を広げると呪文を唱え始める。
「風の精霊よ、我々に翼を与えよ。羽ばたく力は無くとも羽毛のように軽く舞う力を与えよ」
若干だがマリーの体が緑に光った。同時に6人の体にも同じような光がまとわりつく。
「後は穴から飛び降りるだけです」
「飛ぶの!?」
「えぇ……、落下制御ですから、飛び降りてください」
さらっと物騒なことを言うマリー。
「では、お先に」
言ってマリーは先に穴に入っていく。マリーの言ったようにたしかに落下速度は遅く見えている。
『…………』
さすがに全員がしり込みする。
「誰から行く?」
「バーネットからどうぞ」
「なんであたし!?」
と、ブザムが足を踏み出す。
「あ、副長さん!」
ディータが言った時にはすでにブザムは落下を始めていた。
「…………」
不思議な感じだった。落ちているはずなのに、何かに包まれているかのようにゆっくりな落下。
「物理法則に反しているが……、これが魔法の力か」
着地も問題なく、ブザムはアイリス達の渡り廊下へ着地した。
「大丈夫みたいだね。」
「やっぱりアイツは肝っ玉デカイな」
「何それ」
「行くわよ、バーネット!」
「へっ!?ちょ、ジュラーーー!!?」
ジュラがバーネットを引っ張って一緒に落下を始めた。
「……へぇぇ、スゴイじゃない」
「うぅぅぅぅ……」
周りの景色を眺めるジュラと恐怖から目をつぶってじっと耐えるバーネット。
「行くか」
メイアも後に続き、
「ディータ!いっきまーす!」
ディータも飛ぶ。
「あ、おい!」
一人ヒビキだけが取り残される。
「……宇宙人さんも早くおいでぇ!すっごいよぉ!」
大の字になって落ちながらディータが言った。
「ていったってよぉ、さすがにこいつぁ……」
この期に及んで怖気づくヒビキ。
「くっそぉ!どうにでもなれ!」
気合だかなんだかを入れて、ヒビキも穴に飛び込む。
目をつぶったままいつぶつかるかと体を硬直させていたヒビキ。だが、落下し始めた直後から何かが体を支えている感覚を覚える。
恐る恐る目を開ければ、思った以上にゆっくりと落下している自分がいる。
「……こいつは、スゲェな」
ゆっくりと、でも確実にヒビキは降りていく。仲間達のいる場所へ。
「さて、初心者達がようやく来たところで、もう1ダイブと行きますかぁ」
「一度術を掛けなおしますね。一度落下してしまうと効果が消えるので」
ヒビキがおっかなびっくり着地したところで、マリーがもう一度“落下制御”を今度は全員にかけた。
「次は一気に戦艦に着地するよ。好きに遊覧飛行してみれば?」
アイリスは、「お先に」とまた渡り廊下から跳んだ。
そして、今度は全員が揃って欄干から足を踏み出した。
トンとメイアが甲板に降り立つ。
「メイアで最後ね」
「よし、さっそく戦艦内部を探索する。このタイプの船なら甲板にハッチがあるだろう」
ブザムの号令以下、全員がハッチを探しに四方に散る。
戦艦は全長約300メートル。巡洋艦クラスの船のようだ。やはり相当古い物らしく表面に若干錆が浮いている。こんなくらい場所に長い間置いてあれば錆びるのも当然だが。
「あったわ!こっちよ!!」
バーネットが大声で皆を呼ぶ。艦橋に通じる非常用ハッチだろうか。
「よし、ではどうやって……」
ドォン!!
「……開けようか。……はぁぁぁ」
ブザムは深々とため息をついた。
ハッチを大剣の一閃で粉砕したアイリスは「え?何か言った?」と言う顔で、みんなを振り返った。
「どうせもう使わないでしょ。大丈夫よ大丈夫!あははは!!」
いけしゃぁしゃぁと言うと剣を銃に持ち替えて、さっさと歩を進める。
その横でマリーがひたすら謝っていた。
「あぁいう二人だったのか。アイツら」
「意外だよね」
もちろん内部に明かりなど灯っていない。ペークシスの新陳代謝が止まってしまっていては、非常灯も付いているはずも無い。
「しっかし歩きづらいなこう暗いと」
ヒビキが断線した配線を避けながら漏らした。明かりは武器に取り付けているライト、そしてバッテリー式のいわゆるガンライトである。
「長い間封印されていた船だ。仕方無かろう」
ガンライトで周囲を照らしながらメイアが漏らす。
「ねぇ、魔法とかで何とかならない?髪が引っかかったら嫌なのよ」
ジュラまで不平が飛び出す。
「そうねぇ……」
アイリスはリュックを下ろすと、下から上に二つに開いた。中には何やら袋に入った薬品のような粉のような物がズラリと並んでいる。
「……前々から気になってるんだけど、そのリュック、どういう仕掛け?」
「それは、秘密です」
光る粉の袋を取ると、アイリスは蓋を閉じる。
ビッと袋を破ると中身を周囲にばら撒いた。ばら撒かれた粉は、いきなり青白い光を発すると船の床、壁、天井と光の数を増し、奥の方へと増殖していく。
「……何、これ」
「すごぉぉい!!」
数秒で全周囲照明のようになった艦内でディータとバーネットが声を漏らした。
「錆を食べる微生物の一種よ。錆を食べて青白い光を発するの。錆を食べて増殖して、すぐ死んで光を発する。
錆がある限り無限に増殖するし、光るって言っても5時間くらい。人には無害だし、こいつらが錆を食べた後は錆も綺麗さっぱり残ってない。あんまり使ってなかったけど、こういう場所ならうってつけね」
「……どっから見つけてきたの。これ」
「ん?スーパーの“お掃除楽々手間なしコーナー”よ」
衛生商品!?
“錆食い”(勝手に命名)のおかげでライトの必要が無くなり、8人は楽に歩を進められた。
また二手に別れ、アイリス、ジュラ、バーネット、ブザムはブリッジへ。マリー、ヒビキ、ディータ、メイアは機関部へ。
さて、ブリッジへ到着した4名であるが、ここも錆食いが縦横無尽に光っていた。
「来たはいいが、やはり非常電源すら生きてはいないようだな」
コンソールのボタンやスイッチをいろいろ弄って見るが何の反応も無い。
「だったら、こっちから直ハッキング仕掛けるしかないわね」
壁に設置された修理用のパネルを引っぺがし、配線をいじり始める。
「ま、ロールダウン寸前の戦艦に残ってるデータなんてたかが知れてるけどね」
一方、機関部組みはというと、
「こいつはまた……ひでぇな」
ペークシスのコントロールルームに到着したはいいが、ここもやはりひどいありさまだった。ペークシスは完全に枯れ落ち、錆食いが周囲の壁を照らしているためさらに物悲しさが増す。
「これでは電力供給は望めないな」
反応しないコンソールを叩いてメイアが言う。
「引き上げましょう。無駄足でしたね」
マリーは無線を開いた。
「分かった。先に外へ出て周囲の探索を行ってくれ。」
『了解』
「アイリス、そっちは?」
引きずり出した配線をリュックから出した配線にくっつけ作業をしていたアイリスにブザムは声をかける。
「やっぱりデータは残ってないわね。最終的に更新された年が20くらい前だってことくらいしか分からない」
メガネ端末でデータを検証していたアイリス。やはり出てくるのは初期的な設定の物ばかり。
「20年か……。よし、引き上げよう。合流するぞ」
『ラジャー』
外に出たとき、先に出ていたマリー達は上を見ながらボーっとしていた。錆食いが外まで侵食したのか甲板も明るくなっている。
「どうした?」
「あ、副長さん。見てくださいよ、上!」
ディータが嬉々として上を指す。
「上?」
4人も釣られて上を見て、
『――!!――』
絶句した。
「うわぁぁぁぁぁ……」
「すご……」
見上げた先、それは幻想的な光景だった。真っ暗だった施設が青白く光り輝き、その青白い光がまるで雪のように舞っているのだ。
どうやら飛び火したかして工場全体に錆食いが増殖したようである。
「へぇぇぇ、なかなか面白い事になったわねぇ。」
錆食いを使ったアイリスもこうなる事は分からなかったようである。
しばし、全員がこの光景を堪能し、
「よし、皆次の仕事をするぞ」
ブザムの一言で全員が視線を戻した。
「当初の目的どおり発電所へと向かう。一度地上に戻り工業区画を抜けるぞ」
「それよりも、この工場から直接行けるんじゃないんですか?」
バーネットが手を上げる。
「何故だ?」
「発電所の位置から考えてこの工場に電力が来ていたことは間違いありません。発電所に通じる通路みたいなものがあってもおかしくないと思いますが」
確かに工場がこの区画だけとは思えない。他にも管理区画や各パーツの開発施設もあるだろう。そしてそれらの大きさを考慮に入れると発電所の下辺りまではあるはずだ。
「……ふむ」
しばし考え込むブザム。
「この広さだ、隅々まで探索するのは不可能だが……、よし、この工場の管理区画を探すぞ。」
『ラジャー!』
−To be continued−
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