たとえるなら、それはまるで空気のような存在。
目の前にあっても見えず、意識しても漠然とし、だがそれ無しでは生きられない。
皆の者、心せよ。我等は未来永劫それから逃れる事はできないことを。
Vandread−Unlimited− second stage
OUTSIDE:永遠を求めた者達6
最初に言ってしまおう、調査しない方が早かったということを。
「もう……、何よこの変な場所は」
元々はクローンによって食料を作っていたのだろう。整備する者達がいなくなり、放置された機械はそのまま作り続け、故障し、動かなくなった。
生産された食料はとうの昔に風化しきり、腐臭さえしない。ガラスも何かの拍子に割れたのか、歩くたびにバリバリと音がする。
「ぼやかないの、ジュラ。まぁ、この調子だとフリーズ加工どうこう言ってる場合じゃなさそうだけど」
廃墟になった工場を一望し、バーネットはため息をつく。
「なら、情報収集に切り替えよう。どこかにここを管理していたエリアがあるはずだ」
メイアもいぶかしげに周囲を見回しながら言った。
いくつかの端末は調べたが、漏れなくぶっ壊れている。
工場の奥の方、光も届かぬ入り組んだ廊下が続く。一応警戒しながら進んではいるが、もちろん人っ子一人いやしない。
やがて、ライトの光がひとつの扉に止まった。
「……『管理室』……」
解析メガネで覗いた、かすれた案内にはそう書いてあった。もちろんというか、硬く閉じられている。
「ほんじゃ、お宝情報をいただきに上がりましょうか」
キンと鞘走りの音が響いた。
『……………………』
最初に起こったのは沈黙だった。それもそのはずである。目の前にはちょっと信じられない光景が広がっていた。
工場に入ろうと入り口をくぐった途端、目の前に現れたのは天井まで届かんばかりに積み上げられたガラクタの山だ。
「何だ、こりゃぁ。何の真似だ?」
「バリケードのようだな」
しかも、その横にはご丁寧に迂回路らしき穴までが開いている。
「何者かが侵入してきて、それを防ごうとしたのか」
「しかし、結果意味を成さなかった」
マリーが続ける。
「争った様子はありませんよ」
「ふ〜む……。先に進もう、時間が惜しい」
開けられた迂回路を抜け反対側へ出ると、地下への階段が見えてきた。もちろん先は漆黒の闇である。
階段を一段一段踏み締める様に降りる。降り立ったところで、マリーがショットガンのライトを点ける。廊下がぼうっと浮かび上がる。左右がガラス張りされた研究ブースになっているようだ。
ブザムとマリーが水平に銃を持ち、周囲を警戒しながら先へと進む。すぐ後ろからヒビキとディータも歩いてくる。ディータはさっきからヒビキにくっつきっぱなしだった。かなり怖いのだろう。
ガラスが散乱し、何かの研究機材の残骸を視界に入れつつ4人は一番奥の扉に着いた。かなり分厚い厳重な両扉だ。先にあるとすれば管理人室、資材庫、メインコンピュータールーム……。
「扉がかなり歪んでしまっている。攻め入った者が入ろうとして破れなかったようだ」
入るのは無理だな、とブザムがため息を漏らす。
「私が開けましょう」
3人が一斉にマリーを見た。
「お前が?あの怪力女ならともかく、お前がこの頑丈な扉を破れるのか?」
「あはは、怪力女ですか。……とりあえず、先に進むためにはここを突破しなければいけませんからね」
そう言うとマリーは両手を扉にぺたりとつける。足を踏ん張ると、
「はっ」
あまり力を入れたようにも見えない気合の声を出し、
ドンッ!!!
完全に反比例する衝撃音が扉、周囲のコンクリから響いた。扉は固定されていた金具から弾けとび、完全に「く」の字にひしゃげて奥に吹っ飛ぶ。
『…………』
「看護婦さん、スゴーイ!!」
アイリスを超える力業に完全にあっけに取られる二人と喚起の声を上げる一人。
「ざっと、こんなものです。少々乱暴でしたかね」
笑みを浮かべながら言う元巫女。……どういう環境で育ってきたんだと本気で考えてしまったヒビキとブザムだった
改めて結論から言えば、日誌の類さえ残っていなかった、と言っておこう。
管理室のパソコンは確かに起動できた。ただ、中身がまったく真っ白なのである。
「……生産工場のくせに、生産管理システムが消去されてる」
天井に打ち上げられた蛍光灯ほどの明るさの魔法球の下、4人は作業を行っていた。
コンテナリュックから伸ばされた数本のケーブルがシステムに接続され、彼女の端末でもハードディスクの検査を行っているが、どちらの結果も「NO DATA」である。
「そっちはどう?」
アイリスはモニターから顔を上げると、周囲で引き出しなどをあさりまくっている3人に声をかける。
「過去の生産データや資料が主のようだな。スタッフの私物が全くと言っていいほど無い」
メイアが分厚い過去データをうんざりしたようにめくっている。まるで読めないのだろう。
「こっちもよ。生真面目な職員らしいわね」
バーネットも紙束を机に放り出す。
「やれやれ……、まったくの無駄足ね」
アイリスはケーブルを引っこ抜くとリュックの中に収納する。
(にしても、なんで生産ラインの情報まで削除する必要があったのかしら)
リュックを担ぎ上げ、アイリスは考える。
(人の生活の跡を消すために徹底的にやったというのなら、なぜ生産ラインまで……。管理コンピュータに日誌を残すスタッフもいるかもしれないけど……、でも入念過ぎる)
アイリスは管理室をもう一度見回した。こざっぱりとした部屋にコの字型にパソコンの配された部屋。典型的な管理室。
「何者かが侵入してきて生産ラインを消去した状況、スタッフがわざわざ生産ラインまでを消去せざるを得なかった状況……」
この部屋に起こった事。
ここは食料の生産工場。それだけの目的をこの工場が、この部屋が与えられていたのか……。
考えればきりが無いが、どうにも腑に落ちないのである。
「一番気になる場所は……」
「おい?どうした」
メイアが声をかける。だが、アイリスは静かに剣を抜き放った。そして、身を捻る。
『??』
「疾っ!!」
その場で1回転。
ギャギャギャ!!
アイリスを中心にして円形に床が斬られる。
…………
チンと剣を鞘に収めると、アイリスはその場で軽くとんだ。
ズ……!
なんといきなり床が陥没していく。バランスを崩す前に再度床を蹴り脇へと飛ぶ。
ゴゥァ!
「キャ!」
床がどこか闇の中へ落ちていくと同時に、部屋の外から穴の中へ強烈な風が巻き起こった。全員なんとか巻き込まれずにすんだ。
風も収まり、アイリスが斬った床の淵から中を見る。
「灯台下暗しって奴……か」
「この下は何だ……?」
メイアが覗き込んでみるが、この部屋から入り込む光量では下に何か物ががあることしか分からない。
「う〜〜ん、いよいよゾクゾクしてきたわねぇ」
アイリスが腕をこする。
「何よ、アンタでも鳥肌立つの?」
「人間ですから。これでも」
『…………』
マリー達はまだ室内に踏み入ることができないでいた。
ショットガンのライトに照らされた先、闇の中にソレがいたから。
「おい、誰かいるぜ?」
「……あぁ」
ブザムも声を押し殺している。
ライトの先にいたのは、こちらに背を向けていすに座る一人の人間。しかし、全身を何かのスーツで覆っている。
誰も踏み出そうとしない。いや、マリーが意を決して踏み出す。
入り口と人間の中央付近まで来る。おもむろに右手を上に掲げた。
「光よ!」
カッ!
マリーの右手の先にまばゆい光の球が形成される。ポピュラーともいえる『明かり』の魔法だ。
その明かりによって部屋全体が明るくなった。
と、
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ディータがいきなり悲鳴を上げる。
「やかましぃぃ!」
引っ付かれたままで叫ばれたヒビキは怒鳴り返した。
「あはは……ゴメン」
『…………』
まぁ、部屋の中は木っ端微塵にされていることを除けば、何もありはしないのだが。
…………木っ端微塵???
「何だ、これは」
ブザムも部屋に入って周囲を見渡す。元々は管理室だったのだろうが、パソコンをはじめ、モニター、机、機材の一つに至るまで木っ端微塵に壊されている。その木っ端微塵にされたモニター群に向かっているのがこの人間だが、まるで動かないところを見ると、
ブザムがいすに近寄ると、背もたれを回転させた。人間がこっちを向き、
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
今度はヒビキとマリーも含めて絶叫が響く。
「死んだのはかなり昔のようだな」
唯一、ブザムは冷静にその死者の検分を始める。
その人間は、スーツの中で骨になっていたのだ。どうやら、防疫スーツらしい。なんとも浮かばれない。
「部屋の扉が開かなかったのでここに閉じ込められ、腹いせに壊したのが妥当だろう」
情報収集もできん、とブザムはつぶやく。
「さすが副長さん。……怖いもの知らずだね」
「あいつの神経が太いのは前からか?」
「少なくとも私は……」
「そこ!しゃべっている暇があったら、何か残っていないか調べるんだ!」
『ははい!!』
まぁ、結局何も見つからなかったのだが。
『ちょっと皆、こっちに来て!スゴイ物見つけたわ!』
収穫無しとして建物から出たマリー達にアイリスから無線が来た。
「何を見つけた?」
『巨大な地下施設。何かの生産工場だと思ってたら、地下にはとんでもない大工場が広がってた』
「それで、何の工場だ?」
『聞いて驚かないでよ。なんと、戦艦の製造工場よ!』
−To be continued−
ご感想、よろしくお願いしますP! hairanndo@hotmail.com2004/04/13