私は永遠に一人である。父も、母も、兄弟も、姉妹も、仲間もいない。
私は永久に孤独である。ただ一人広いジャングルの真っ只中に住み、生きている。
毎日木々をかいくぐって人を求め、風のささやきに耳を傾けては音を求める。
答えるものがなくとも、私はそれを続ける。それをする事が必要だと思うから。
Vandread−Unlimited− second stage
OUTSIDE:永遠を求めた者達5
ガゴン……!
きしんだ音を立ててリフトは工業地帯へ停止した。この町はどうやら3階層からなっており、完全に住む場所を分化しているらしい。
元々地形が扇状地だったのか、それとも来た人たちがわざわざ掘り返したかは分からないが、
一気に油くさくなった空気を裂いて、彼女達は歩を進める。
煙突が乱立し、クレーンが寂しく吊り下げられたワイヤーを揺らしており、そびえる倉庫の壁が迫ってくるような感覚さえ覚える。
上層から見た限りでも発電所はかなり奥まった場所にある。
途中には倉庫郡、何かが作られていたであろう生産ライン、そして発電所という並びになっている。
「倉庫が色々と立ち並んでるのは面白いけど……」
「空ね。どれも……」
彼女達が覗いていく倉庫の中。朽ち果てて中が見えているものが多数だが、その中身は一切ないのである。
「上の狂人達が持っていったっていうのは?」
「それは無いだろうな。上の住宅街にさえ奴らは現れなかった。それを考えるとここに奴らが来たとは思えない」
「でも、いくら倉庫が朽ちるほど日がたったとしても、残骸くらいあってもいいはずなのに」
何かが置かれた様子も無い倉庫達。それともすでに運び去られたあとなのか……。
「ねぇ!この倉庫見て!」
ディータが倉庫郡の終わりの方にあるかなり大きめの倉庫を指す。どうも他の倉庫と作りが違うようだ。他の倉庫と違ってコンクリ作りでやけに頑丈に作られている。
「何かしら」
近くにあった開閉扉のシステムは完全に腐っており、普通に開けるのは不可能である。
「調べてみる?」
「情報は多いほうがいいな。調べてみるか。だが、どうやって開ける?」
ブザムの問いにアイリスは、
「もち、斬る」
ザン!ザン!ギザン!!
3角形に軌跡が走る。とどめと言わんばかりに切り抜かれた部分が倉庫内に轟音を上げて落ちる。
「ざっとこんなもん」
アイリスは肩にかついだ刀身が150センチほどもある大剣を揺らしながら言った。
『…………』
「まいどまいど、非常識だよな」
ヒビキがそう漏らした。
剣が炎を纏い、燃え上がるといつもの長剣の長さに戻る。
「褒め言葉として受け取っておくわ」
剣を鞘に戻したアイリスは最初に倉庫内に進入する。大きさは小学校の体育館程度だ。
倉庫内は天井が年数と共に朽ちて落ちたのかいくつか日が差し込んでおり、倉庫内はいくらか明るかった。
そして、その倉庫内のほぼ中央、奇妙な塊が鎮座していた。
「何かしら、あれ」
周囲に気を配りつつその塊の場所へ向かう。
塊はどうやら幌のような物が掛けられた物体らしい。大きさは蛮型ほどか。
「どら、見てみましょうか」
アイリスとマリー、ヒビキでその幌を引っぺがす。
ザァッと幌が落ち、現れた物に、全員が驚愕した。
「これは……!」
「何でこんなものが!?」
幌の下から現れた物は、機械だった。
タイヤを装備した逆間接の二足、亀のような胴体。さらに横から生えた腕のような部分には5連装のガトリングガン。とどめに胴体の後部にミサイルランチャーが装備されている。完全に戦闘用のマシンだ。
「またまた、ご大層な装備だこと」
アイリスは一挙動でジャンプすると、胴体の上へと登る。
「気をつけろ!何かの罠かも知れん!」
「ご心配なく、この機械はこの星で開発されたものらしいわ!上にエンブレムが刻印されてる」
登った先、ちょうど真ん中の部分に変わった彫刻のパーツがはめ込まれていた。どうも軍か何かのエンブレムらしい。
「この星の軍隊がこんなものを?」
「対刈り取りのためならこんなものを作っても意味はあまり無いわよ?」
ジュラとバーネットの会話を聞きつつ、アイリスは上部を仔細に調べる。コクピットのスイッチがどこかにあるはずである。
「たぶん、この辺に……」
撫で回す先にでカシュっと音がして中から強制開放用の取っ手が顔を覗かせた。
「どらどら」
取っ手をつかむと、一気に引く。
ボンッ!
空気のなる音がして、目の前で盛り上がっている、見るからにコクピットといわんばかりのハッチがゆれた。
ハッチに手をかけると、簡単に後ろへ向かって上がってゆく。どうやらジョイントの部分は腐っていないようだ。
「……これって、なんで?」
思わずアイリスが声を漏らした。
コクピットの内部、そこには一切の損傷が見られなかった。というか、卸したてのマシンのように独特な匂いさえしてくる。
「どうした!」
したから声がかかってくる。
「なんでもない!もう少し待って」
言いながらアイリスはコクピットへと実を滑らせた。
シートは硬すぎず柔らかすぎず、コンソールや操縦桿の周りには塵さえ落ちていない。
「……密閉されていたから腐らなかったのか」
言いながらもそこら辺を弄り回す。おそらくこういったものには常備されているはずの……、
「あった。取説」
シートのしたから引き出したのは取扱説明書。といっても表紙に書かれている文字は見たことが無い字体だ。だが、起動キーらしきものが挟まっている時点で取説でなくてなんであろう。
そして、本の表紙には紙が張られていた。
アイリスは先ほどのめがねをまたかけた。さまざまな機能の中から解読機能を働かせる。文字の特徴、“くせ”、類推できる文字、さまざまな解析がたった一つのめがねの中で行われ、見事にその意味を解読した。
『おい、お前!今度アブソーバーに変な負担かけやがったら承知しねぇぞ!今月だけで何本変えたと思ってやがる!』
「……手荒に使われたようね、この子」
呆れた声でそう言いながら、アイリスは機動キーを鍵穴に差し込んでみた。まぁ、動かないだろうと思ってやったのだが、
ピピピッ!
「!!?」
目の前で、周囲のシステム達が一斉に目を覚ます。
――システムチェック、エラーチェック、動作確認、故障箇所、修理完了……。メインシステム起動。
目の前で踊る文字達。長年放置されていたことがウソのように軽快に。
「……この兵器、動くの?」
いきなりマシンからうなり声がしてきた。
「何だ?」
そういう内に、ボディの各部に光がともる。ペークシスが電子を運ぶ時に起こる発光現象だ。
「アイリス!一体何をやっている!?」
ブザムがコクピットに声をかける。
『あ、ゴメン!今ちょっと動かしてみてるの』
「動かす!?」
「こんなボロをか?」
フシュー……
音を立てて起動兵器は立ち上がろうとする。ギシギシと関節が鳴った。
「……動いちゃった」
もたつきながらも何とか立ち上がる機動兵器。長年放置されていたとは思えないほどにしっかりしている。
「あれま……」
だが、立ち上がったと思うとまた座り込み、機動音が消えた。アイリスがシステムを停止させたのだろう。アイリスも本を持って降りてくる。
「ごめんね、脅かして」
「それよりも……なんでコイツが動いたんだ?」
「簡単よ。単に起動キーを差し込んだら勝手に起動したの。ペークシスも腐ってるのかと思いきやきっちり機能してるし」
持ち出してきた本をパラパラめくりながら言う。
「それ何?」
本をジュラに示しつつ、
「取説。形式名は“DLX−LANDSAT”。対刈取り用に設計されたものと見て間違いないわね」
取説を「読んでるのか?こいつ」的なスピードでめくりながら、アイリスは一人うなずいている。
「……でも、こんな設計じゃ……いや、むしろこうした方が……でもミサイルなんて」
何やらブツブツ言い始める始末。
「まぁ、とにかく。これが腐っていなかったのは謎だな」
「これのせいじゃないでしょうか」
マリーがさっき引き剥がした幌を持ち上げながら言った。
「表面が腐臭でもない独特な匂いがしてます。おそらく油の一種です。全面に油を塗布すれば物によっては相当に持ちますよ」
「……なんだ、この変な匂いってそれだったの」
ジュラが顔を背けながら言った。どうやら嗅覚が敏感らしい。化粧品のせい?
まぁ、機動兵器はどうしようもないので、一応写真を撮って母艦に送信すると先へと進みだす。
倉庫群が終わると早々に食料の工場に到達した。しかし……、
「食糧補給はできそうにないわね」
その工場を一目見てアイリスが一言。ほかの皆もさすがに声を出せない。
そこらじゅうに並んでいる工場のガラスは剥がれ落ち、ひどいところは壁が倒壊しているところもある。何を誇示したかったのか、前面をガラス張りにしている工場まであるし。その工場の周囲にはガラクタやゴミの山が築かれていた。
「どうする?調査する?」
「……う〜む」
「フリーズ加工された製品なら、なんとか残ってればいいほうね」
バーネットがそう漏らした。
「よし、だめもとで調べてみよう。二組に分かれる。アイリス、ジュラ、バーネット、メイアの4人で左の工場を、残りは私とともに右の工場だ」
『ラジャー!』
−To be continued−