我は汝らの創造主なり。わが声を聞け臣民たちよ。我が詔を彼方まで広めよ。
例え国が滅びようと私はお前たちを忘れない。例えこの身尽きようと、魂のみとなっても我は汝らを見ているぞ。
Vandread−Unlimited− second
stage
OUTSIDE:永遠を求めた者達4
「こいつら、いつの間に!」
ガスコーニュが気づかぬうちに周囲500メートルは全方位から包囲された形になった。
『ガスコさん!ライトを!』
『囲まれてます!しかも何か投げつけてきましたよ!!』
外にいるクルーたちが動揺し始めた。ガスコーニュはすぐに外部のライトを点けた。
すると、周囲に集まってきた奴らが一瞬進むのをためらう。
『何よコイツらぁ!!』
『イヤァァァァ!!』
まぁ見えたのはヒビキ達が見たようなボロ服に槍の連中も混ざっている。他にも全裸の男や女、子供までが混じっている。
それが「うおー」とうなりながら向かってくれば、さすがにこんな常軌を逸したことを経験しない少女たちには酷だ。
「マズい!みんなデリ機に戻るんだ!脱出するよ!」
ガスコーニュはそういうと自分もデリ機の外に出た。
「こいつは……!?」
外の様子にさすがにガスコーニュも言葉を失った。まるで獣のように牙をむいて向かって来る人間達を見て、さすがに彼女も身が下がる。
「くっ、早く乗るんだ!」
さすがに皆をせかす。
だが、せかしたのが悪かった。慌ててデリ機に逃げ込むクルー達を見て襲い易いと思ったのだろう。狂人たちが一斉に襲い掛かってきた。
「このっ!」
クルーの一人が持っていたリングガンで一人を撃った。だがそんなことで止まるような神経をしていない。まともにレーザーを食らったにも関わらず、さらに足を速めたではないか!
「早くするんだ!!」
そのクルーの首根っこをつかみ、後ろへと押しやる。そこにガラスと鉄パイプを結びつけた槍を持った男が襲い掛かった。
「グオォォォ……!」
突き出される槍。逆にそれをつかんでガスコーニュは男を引き寄せる。
「ふっ!」
ぼぐぅ!と鈍い音がして男のあごにアッパーカットが決まった。モロに男が吹っ飛んでいく。ダテにガスコーニュもいいがたいをしていない。
「ったく……こんなのに追われちゃ、BC達も逃げたくなるか」
ガスコーニュを警戒してか、彼女を取り囲み始める集団。
「やれやれ、殴り合いは趣味じゃないんだががねぇ」
「ガスコさん!」
後ろからクルーが呼んだ。全員収容したようだ。ガスコーニュはじりじりと移動し始める。
「ウォォォ!!」
横から一人飛び掛かる。だが、ガスコーニュもさっき奪った槍を片手で振り、男を打ち落とす。また一人、また一人と狂人達が襲い掛かるが、ガスコーニュは下がりながら全員を一撃で昏倒させていく。
そしてコンテナまで3メートルまで来ると、槍を捨て、コンテナに飛び乗る。すかさずクルーが入り口を閉めた。
外からは集団がコンテナを叩く音がする。まぁ、宇宙用に作られたデリ機が壊れるはずも無いが。
「長居は無用だ。出るよ!」
ハッチからコクピットに戻り、ガスコーニュはスロットルを引く。デリ機は少しずつ浮上し始めた。
「こいつはオマケだよ!」
コンソールを操作すると、ガスコーニュは冷却剤を外部に噴出させる。いきなりの事に群集も驚き、将棋倒しに倒れていった。
「BC!コイツはどういうことだい!?」
上空に移動し、安全を確保してから無線に向かって声を荒げるガスコーニュ。あんな騒ぎになって怒るなという方が無理だが。
「一体連中はなんなんだ!?ありゃ全員狂ってるよ!」
『私にも分からん。だが、この星の住人には変わりない』
『だとしたら、どうしてそうなったかさね』
ことの顛末を報告し、3人はヴァーチャル会議の開始である。
『大体、どうしてこの星は20世紀なんて旧時代の姿をしてるのか、ということ』
『……そして、何故住人達が揃って狂人化したか、ということ』
「おまけに、この上層部は連中で一杯なのに、BCのいる所は人っ子一人いないのか、ということ」
『いや、バーネット達やマリーが何者かの気配を感じている。多くは無いがあの連中がここに降りていることは間違いない』
「どうします、お頭?BC達を回収しておさらばしますか?」
『う〜む、気になるねぇ。この星……』
マグノは何か思うところがあるらしい。決断しない。
「お頭……?」
『BC!まだそこを調べる気はあるかい?他のみんなとも相談して欲しい』
『続行ですか?』
『こっちはやる気あるわよ!』
画面の外からアイリスの声がした。
『分かりました。少々お待ちを』
ブザムが画面からどいた。
『ガスコーニュ、中継器を設置して戻ってきな』
「お頭、よろしいんですか?」
冷静な口調でそう聞くガスコーニュ。
『物事を判らないまま放置するのはあまり好かないからね。それにこんなことを起こした張本人もいるだろう』
「……わかりました。中継器を設置して帰還します」
『お待たせしました。意見がまとまりました』
『それで?』
『調査を続行します。ガイドビーコンの正確な位置を転送していただきたい』
「来た」
アイリスが座り込み、操作する端末にMAPと共にガイドビーコンの位置が送られてきた。
「では、これより調査に戻ります」
無線に使っていた別の端末にブザムは言った。それはなんとカメラ付のモバイルだ。画像が荒かったのも頷ける。
『ガスコーニュに中継器を設置してもらう。通信は確保できるよ』
「了解しました」
通信が切れ、ブザムはモバイルを閉じた。アイリスにそれを返す。
「では、これより本格的に調査に入る。ガイドビーコンの位置が分かったと言ってもそこへ行くまでの道が分からない。とりあえず、もう一つ下の工業層まで行き、発電所を調べることにする。」
円形に集まった皆に方針を発言するブザム。
「どうして、発電所?」
ジュラが言った。
「ガイドビーコンに電気を送っているのもそこだと思われるからな。確信には迫れなくとも何らかの情報はあるはずだ。こんな事になった情報もな」
「行くのはいいけど、こんな暗い中を移動するのは襲ってくださいって言ってるようなものよ」
アイリスがさすがに暗がりを指して言う。
「そうね、下水にいた奴も、さっきマリーが逃がした奴も気になる」
バーネットが賛同した。
「うむ。とりあえず今日は休むことにする。民家の中なら安全だろう。以上だ」
場を締めくくったブザム。と、その直後、上空から光が射した。
「デリバリー?」
なんと、デリバリー機がまだ残っており、通信位置を追ってブザム達を見つけ出したようである。ブザム達を見つけるとデリ機は少しずつ下降して来た。
『おまえさんがた、食料は持ってきてないだろ?デリに積んであった非常食、持ってきな』
通信機からガスコーニュの声が響き、コンテナの一つが開く。クルー達が何やら入ったリュックをいくつか投下した。
文字通り、食料のデリバリーである。
『そんじゃ、あたしはこれで』
「あぁ、すまない」
デリバリーは急速上昇し、やがて点ほどになっていった。
「だけど、どうしてこんな事になったのかなぁ」
民家の一つに入り、アイリス達がセンサー類を設置して回っている時、ディータは椅子に座り言った。
「さぁな、おおかた病気の類じゃねぇのか?」
ヒビキが脇に立ち、この民家の様子を眺めながら言った。
「病気?」
「あぁ、人間を狂わせる病気かなんかが暴走してこうなった、と」
「それは、無いですね」
マリーがやってきて突っ込む。
「それが空気感染する病原体だとすれば、アイリスさんが真っ先に気づきます」
「……そんな、敏感なのか?」
「いえ、彼女が、ではなく彼女の持っている機械が、ですね」
「機械ぃ??」
「はい。アイリスさんが左腕に巻いている時計、色々な計測器がついているんですけど、今までに行ったどの場所でもウィルス、細菌、微生物。ありとあらゆる毒類を見事に感知してしまいましたから」
「すごい、……やっぱり魔法使いさんだねぇ」
「彼女の能力の一つですから。」
「ふ〜ん、ますます人間離れした奴だと思えるぜ」
「へーっくし!!」
「大丈夫?」
センサーを取り落とし、派手にくしゃみをしたアイリス。
「ったく、……マリーだな」
センサーを拾い、色々いじくりまわしてから手近な壁に貼り付ける。
これはまぁ、簡単に言うならモーションセンサーだ。
家の周囲10数箇所に設置し、どこから来てもいいように備えるのである。
「これで、最後か」
方々に散っていた皆が集合し、アイリスは端末でセンサーの受信感度を調べる。
「あんな、小さな物で大丈夫なの?」
「大丈夫。あり一匹通ったって反応するわよ」
端末を操作し、遠隔操作でセンサーを起動させる。
「OK。これで、家の周囲50メートルは押さえたわ。一応見張りを立てたほうがいいでしょうけどね」
見張りとしてバーネットが居間に陣取り、一行はその家の寝室に下がった。
意外にも大家族らしいこの家には大小4つの寝室があったが、さすがに布団等は朽ちており雑魚寝となった。
「……ふぅ」
タンスにもたれて胡坐をかき、銃を肩に立てかける。
マリーもアイリスと向かいの壁にもたれて座る。
「ねぇ、マリー」
「はい」
「今まで……何回こんな状況に出くわしたことある?」
唐突にアイリスはそう言った。その目は床のカーペットに向いていた。大きな赤い花がペイントされたカーペットらしいがすでに色はあせている。
「人のいない、マリーセレスト号状態ですか?」
「そう……あたしは5回くらいかな。さすがに毎回こたえたわ」
頭をガシガシと掻く。あまりいい思いをしなかったようである。
「そうですね……私は6回くらいでしょうか」
目を閉じて両手を組んだ。
「ただ風が響いて、建物は空虚なままで、ふと気づくと方向感覚さえ無くなってしまう……」
「誰もいない状況って言うだけならいいんだけど……、上があぁなってるとは」
「そう、ですね。」
「それで?一番キツイ状況はどんなんだった?」
「え?」
「どこまで言っても終わらないとか、誰かを追いかけている内に深みにはまったとか」
「そうですね……」
マリーは天井を見上げた。
「声がまったく聞こえなかったときや、聞こえすぎたときが……」
「声?」
「人の……心の声が。助けを求めているのに見つけられない、逆に精霊達の声までがまったく聞こえなくなって、耳鳴りがしそうになって……」
「なるほど、ね」
アイリスは銃を床に置き、左腕を伸ばして横になった。その伸ばした左腕がカーペットの絵柄と重なり、手首でも切ったかのような……、
「アイリスさん?」
「…………」
このまま楽になったほうがどんなに楽だろう。そんな限界の一線を超えるような精神的な攻撃。生きることの放棄、諦め、挫折。
ここに住んでいる人達は、一体どうして人の生き方を放棄したのだろう。
そんな考えがめまぐるしく頭の中をかいくぐる。
やがて、マリーが寝息を立て始めた。
だが、アイリスは寝付けなかった。考えることが多すぎたから。
「よし、出発する」
翌朝、支度を終えた一行は工業地帯へ続くリフトを目指す。
あくびをかみ殺しながら、アイリスは下層の工業地帯を見つめる。
浄水施設、発電所、研究施設の類もあるかもしれない。
この星にやってきた人々が何故こうなったのか興味が沸いて来る。
だが、それは決して好奇心のためでない事は、彼女自身がよく分かっていた。
−To be continued−
2004/03/27 P!
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