汝の名をこの身に刻めよ。汝の魂はこの地へと残され、永遠にこの地を見守るだろう。

 汝の骸を地へと埋葬せよ。汝の骸は地へと還り、この地を永遠のものとするだろう。

 

 

 Vandread−Unlimited second stage

  OUTSIDE:永遠を求めた者達3

 

 

「お……、しっか……しろ!お……い!おい!!」

 ヒビキの声が遠くに聞こえる。

「!!」

 はっと覚醒すると、ヒビキがガードレールで身を支えながらマリーの腕をつかんでいた。

 どうやら川に落下しそうになった所にヒビキが飛び出し、間一髪落ちるのを免れたようだ。

「早くあがって来い!落ちるぞ!」

 額に汗を浮かべながらヒビキが怒鳴った。慌ててマリーは両手でヒビキの手を握った。

 川から何とか上がってきた二人を見て、

「よかったぁぁぁ……」

 ディータが心底安心してその場にへたり込んだ。

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

 座り込み、マリーは謝罪する。

「ったく……勘弁してくれよ。いきなりどうしたってんだ?」

 拾い上げたショットガンを返しながら、ヒビキは聞いた。

「ちょっと、信じられなくて」

「何を?」

「この異常な現状です」

 マリーはコンビニを指す。

「上層部は完全に廃墟と化していました。それなのに、ひとたびここに来れば民家は老朽化しただけ、しかも電気さえつき、食べ物のあるコンビニは荒らされた形跡も無く、綺麗にそろえられて陳列までされている。まるで、人がこの世から消え去って1週間というような光景に……当てられてしまって」

 ショットガンを杖代わりに立ち上がるマリー。

「戻りましょう。もう調べることも無いでしょうし」

「あぁ……そうだな」

 

 

 3人は元のマンホールへと戻ってきた。二人はまだ戻ってきていないようだ。

 しばらくして、息の上がったブザム達も戻ってきた。

「副長さん。ご無事でしたか」

「あぁ……、だが、恐ろしい場所だ。ここは」

 ブザムもジュラも完全に息が上がっている。この世ならぬ物でも見てきたかのようだ。

「民家に損傷がほとんど見られない。荒らされた形跡も無い。無い無いずくしで不気味すぎる」

「こっちもだ。あまりの不気味さに、コイツが倒れたけどな」

 ヒビキがマリーを見ながら言った。マリーはうつむいてしまう。

「大丈夫なの?」

 ジュラが聞いた。

「はい、とりあえずは」

「バーネット達はまだ戻らないのか?無線は?」

 マリーが無線を取り出して、通話を試みるが雑音だけで通じない。

「何か起こったようです」

「そんな……バーネットが!?」

 ジュラの顔が蒼白になる。

「ご心配なく。アイリスさんがついていますから。彼女の生存本能は並じゃありませんからね」

 友人を指して褒めてるんだか貶してるんだか分からない発言だが、一応大丈夫ということだ。

「彼女には……魔法もある。こちらが下手なことをしない限り合流は可能だな」

「それより、そろそろ連中の警戒したほうがいんじゃないか?完全に暗くなっちまったぜ?」

 ヒビキの言うとおりである。日は完全に落ち、あたりは漆黒の闇だ。

「ふむ、さて……どうするか」

「皆さん伏せて!」

 マリーがいきなりジュラを横に突き飛ばし、その後方へ向かってショットガンを発射した!弾丸は民家の塀を粉砕したにとどまった。

「何だ!?」

「妙な影が。逃げられました」

「くっ……、仕方ない。移動だ!川の向こうへ行く!」

「おうっ!」

「はいっ!」

 

 

 その頃、下水から押し出された二人は、下水処理場らしき施設にいた。

「げほっ!げほっ!……」

 いきなり巻き込まれたにしてはアイリスは対処がすばやく、落下したあと、すぐにもがくバーネットを捕まえると岸へ泳いだのである。

 下がかなり深く掘られていたことに感謝しなければなるまい。

 バーネットが落ちついたところで、ようやく話を切り出す。

「押し流されたわね」

 流されてきた排水溝を憎々しげに睨みながら言った。

「けほっ、……戻れるかしら」

「戻れるわよ。飛べばいいんだから。それより、無線、無線と」

 耳につけていた無線は流されていた。防水性じゃないから今頃イカれているだろう。

「ったく……」

 アイリスはポケットを探り、めがねを取り出した。まん丸の瓶底めがねのようだ。

 そのめがねをかけ、つるをいじる。すると、レンズ部分が光りだした。メガネは高性能の端末機だったのである。

「無線モード。全周波数呼び出し」

 レンズに呼び出し中の表示がされ、アイリスの耳に直接音が響く。

「それ……かっこ悪くない?」

「ほっといて」

『アイリスさん!無事でしたか!』

「無事よ。バーネットもね」

『一体何があった。なぜ通信が切れたんだ?』

 さっそくブザムが聞いてきた。

「探索中に下層への出口に来てしまいまして、鉄砲水に押し出されてしまったんです。それはそうと、そっちはどうです?」

『あまり芳しくないのが現状だな。暴徒に見つかって今移動してる』

「移動中、いまどこに?……サーチモード、無線受信者」

 画面が切り替わって、現在地点からの位置が円形レーダーに表示された。大して離れていないが、少しずつ離れていっている。

『場所は……』

「確認しました。1キロも離れていませんね」

『……分かるのか?』

「並みの装備じゃ生きていけないので、ね」

「アイリス!」

 バーネットが鋭く叫んだ。すぐ後方、異様な機械音が響いてきた。

 

 

『ちぃ!!』

「どうした!?」

『何者かの接近を確認!申し訳ありませんが、少し待っていてください!』

 ぶつっと通信が途切れた。

 ほぼ同時に遠くのほうで銃声が響き始めた。

「あっちだ!!」

 ヒビキに言われるまでも無く、全員が駆け出していた。

 橋を渡り、民家の間をすり抜けて銃声の方へひた走る。やがて、廃墟のときと同じように、崖になっている部分に出た。

「あそこ!」

 崖になった部分を走りながら、ジュラが下層の一部を指した。マズルファイアといくつかのライトの光が錯綜している。

「行きます!」

 マリーがいきなりガードレールを蹴って、飛び出した。

「おい!!何を……!?」

 マリーは暗がりの中を落下していった。

 

 

「何なのよ!コイツら!」

 無線を切ったアイリスも暗がりから次々と現れてくる物体を見て驚いた。おそらくは保安・警備用なのだろうが、およそ全長2.5m、2速歩行でマジックハンドのようなアームを持ったロボット達がガチャガチャ言いながらライトを向けて迫ってくるのだ。メガネに装備された解析機能を作動させてロボットの外観を検査する。

「武器は持ってないようね。でも、安心もできないわよ!」

「くっ!」

 バーネットがM4を乱射し始めた。デカいだけに外す方が難しいが、M4A1に使われている弾丸程度でどうにかできるようなやわでもない。

「そんなんじゃ無理よ!まかして!」

 アイリスはM4のマガジンをバックパックから取り出した長めの物と変えると、銃の上側を押さえ足をしっかりとふんばった。

「音がうるさいから耳ふさいで!」

 バーネットが耳をふさぎ、アイリスは引き金を引く。

 ドンドンドンドンドン……!!

 強烈なマズルファイア、衝撃、反動にアイリスの体が少しずつ押しやられる。

 そして、弾丸を食らったロボット達は文字通り四肢を吹っ飛ばされ、ガラクタに変えられていく。

 弾丸を撃ちつくし、白煙を上げる銃からマガジンを外す。

「何よ、それ!」

 ふさいでいたにも拘らず耳鳴りがする耳を押さえながらバーネットは叫んだ。

「強装弾。弾丸から火薬から色々と強化を施した、対装甲兵器用の弾丸よ!」

 言いながらM4の留め金を外し、前後をすばやく折ると、バレルを取り出した。

「っちぃ!」

 それを後ろへと放り捨てる。バレルは水に落ち大量の蒸気を発した。

「ただ、これを使うと一発でバレルがおしゃかになるのが欠点なのよね。」

 バックパックから新しいものを取り出し、装着する。

「魔法弾使えばいいのに!」

「あぁ、……そうか、それもあったわね」

「!? 何、忘れてたの!?」

「切羽詰ってんのよ!あたしも!」

 と、

「アイリスさん!!」

 いきなりマリーの声が響いてマリーが降ってきた。

 上の階層から飛び降りてきたようだが、着地は羽毛のように軽く音さえ立てない。着地と同時にショットガンをロボット達に向けた。

「何だ、来ちゃったの?」

「心配だったので、バーネットさんが」

「あたしの心配は無いわけ?」

「心配して欲しかったんですか?」

「……まぁ、少しはね」

 マリーは最初から魔法弾でロボットたちを掃討していく。アイリスも魔法弾に切り替え、1機1機仕留めていった。

 だが、ロボット達はどんだけいるのか、一向に減る気配が無い。

「……撤退しろ!」

 上の方からブザムの声が響いてきた。

「ちぇ、面白くなってきたのに」

「バーネットさん、つかまってください!」

 バーネットの肩を取ったマリーは一気に地を蹴って下層から上層までジャンプして見せた。

 アイリスもそれに続く。

 

「お待たせ」

 なんとか合流を果たした全員。

 ロボット達はといえば、アイリス達が去ったと見るやガラクタを片付け始めた。

「ここの管理はアレがやっているというのか?」

 ブザムがライトの中で揺れ動く影を見ながら言った。

「たぶん、そうでしょ。部外者の侵入を感知して、散っていたのが集まってきたんだと思いますけど」

「……。まったく、上といい、ここといい、下といい。なんて訳の分からん星だ」

 と、その時、

「ねぇ、流れ星だよ!ほら!!」

 ディータが空を見上げて、そう叫んだ。

「はぁ?」

 ヒビキもディータの指す方向を見上げて、

「おい、アレ何だ?」

 全員がその方向を見た。見上げる1点に赤く輝く流星の様な光が映っていた。

「あれは……」

 

 

「地上まで後3000メートル。大気圏の突入に成功したよ。」

『夜間で視界が利かない。あまり無理するんじゃないよ』

「分かってますって」

 愛機であるデリ機を駆り、保安クルー達とともに星へと降りてきたガスコーニュ。

「しっかし……街灯がついてても、人の気配がありゃしない」

 シャトルの着陸地点に向かって飛行中、上層のビル街を見ながらガスコーニュはつぶやいた。これが昼間だったら、その光景に呆気にとられることだろう。

『まもなく、シャトルの着陸地点です』

「あいよ。さて、お仕事お仕事……」

 船外の照明を灯し、地上を照らす。目的の物はすぐに見つかった。

 デリ機をそのすぐ横に着陸させる。

「周囲500メートルに人影無し。降りてもいいよ」

 デリ機に搭載されているコンテナのひとつが開き、数人の保安クルーが装甲服装備で降りてきた。すぐにシャトルを調べ始める。

『ブースターが完全に逝っちゃってますねぇ。しかも内側から爆発してますよ、これ』

『なんらかの衝撃で回路サーキットが数枚割れています。浮いたはいいけど、落ちたらしいですね』

『あちゃ〜、通信回路までおシャカになってるしぃ。こりゃ反応が消えるのも当然だ』

 いろいろと報告してくるクルー達。

「書置きの類はないかい?」

 あのブザムが何の連絡も残さないままここを去るとは思えない。飛べないシャトルを放置して一体どこへ行ったのか。いや、見当はつく。ガイドビーコンの発信地点だろう。そこなら通信できる何らかの方法があるはずだし。

 あれから、何度も呼び出しては見たもののやはり返答はなく、ガイドビーコンが発信され続けている。

『はい……あ、ありました。「ガイドビーコンへ向かう」とだけ』

「やっぱり。……お頭」

 ニル・ヴァーナへとすぐさま通信をつなぐ。

「BC達はやはりガイドビーコンへ向かったようです」

『シャトルの様子は?』

「ブースターが何らかの要因で爆発。そのショックで通信機能もイカれたようです」

『また、何で。パルフェ達が整備したはずだろ?』

「さぁ、そこまでは」

 と、いきなり外部から呼び出しのコール音が鳴った。

「お?噂をすればどなたかな?」

 ガスコーニュはすぐさまその回線を繋いだ。ニル・ヴァーナにも中継する。

『ガスコーニュか』

 モニターに映ったのはまぎれもなくブザムだった。画像が結構荒いが。

「おやおや、シャトルを離れてどこにいるのかと思えば、元気そうだね」

『それほどでもないが、今どこだ?』

「あぁ、シャトルの確認をね。しかしお前さん、一体なんでぶっ壊れたんだい?」

『ガスコーニュ!すぐにそこを引き払え!奴らが来るぞ!』

「……奴ら?」

『BC!何事だい』

『申し訳ありませんお頭。どうやらここの住民はほとんど狂人化しているらしく……』

「きゃぁぁぁぁ!!」

 突如、外からクルーの悲鳴が聞こえた。

「なっ!?」

 あわてて、レーダーをチェックするガスコーニュ。

「……こいつは!」

 一体いつの間に集まってきたのか、レーダーには無数の影が映し出されていた。

 

 −To be continued

2004/03/08