汝の名をこの身に刻めよ。汝の魂はこの地へと残され、永遠にこの地を見守るだろう。
汝の骸を地へと埋葬せよ。汝の骸は地へと還り、この地を永遠のものとするだろう。
Vandread−Unlimited− second
stage
OUTSIDE:永遠を求めた者達
「現在、我々はメジェールからほぼ60日の距離まで達しており……」
いつものごとく定例会議。話すことは現在のニル・ヴァーナの状況と食料問題。ほぼ、この2点だけだった。
しかも、食料に関してはかなり乏しくなってきている。150人の胃袋を満足させているトラペザでさえ、料理の数を制限しているのが現状だ。
「早急になんとかしなければ、メジェールにたどり着くまでに餓死しかねません」
食料問題に関してはブザムが散々危惧していた通りの状況になっている。当初はこんな“大それた”ことになるなど思ってもいなかったので、食料はろくに積んでいなかったのだ。だからといってタラークのペレットに手を出すほど、女達の舌は腐っていない。
「アンパトスは喧嘩別れしちまったし、砂漠になっちまった惑星は爆発しちまったし、とことん食糧補給とは縁がなさすぎだね。うちらは」
ガスコーニュの皮肉をブザムが睨みすえる。
「何にしても現状維持しかないだろうね。今は、人のいそうな惑星を探すしかないだろうからねぇ」
マグノがそう締めくくって、その場は解散となった。
「食べ物がないってのは、かなり嫌な状況ねぇ」
「……アイリスさん。暇なら手伝っていただけませんか?」
医務室、アイリスは暇をもてあましてマリーのいるここに遊びに来ていた。もっとも、ホームシックなどにかかっている人達を診て回るマリーは多忙なのだが。
「あたしは戦闘要員。悪いけど医療は専門外なの。それに人の心のケアなんて、できゃしないわよ」
言いながら、キッチンから持ち出してきたオレンジジュースのパックを、ちうー、と吸い上げた。
「…………。じゃあ、せめてドゥエロさんの手伝いでも」
アイリスは黙ってコンソールに向かって黙々と作業しているドゥエロを指した。カルテの整理をしているのだろうか、完全に無言である。あまり声をかけられそうになり雰囲気が漂っていたりする。
「……後15分くらいで終わりますから」
ため息一つついて、マリーは病室へと引っ込んだ。
1時間後、ブリッジ。
レーダーに未確認の惑星が入ってきた。
すぐに主要クルーがブリッジへ集合する。
「さて……何が出るかね」
マグノがモニターに表示された惑星の表面図を見てつぶやいた。緑に覆われたなかなかに綺麗な星である。
惑星軌道上に位置を取ったニル・ヴァーナは、すぐに惑星のサーチを開始する。
「酸素濃度、二酸化炭素濃度、ともに地球標準です」
「惑星表面に、移民船らしき残骸を確認。人が住んでいるようです」
「微弱ですけど、生命反応も確認できます」
アマローネとヴェルヴェデール、いつの間にかブリッジクルーに定着したミスティが矢継ぎ早に判ったことを報告していく。
「食料問題に終止符が打てるかねぇ、これで」
「お頭、ぜひとも上陸許可をお願いします!」
ガスコーニュのつぶやき、ブザムの嘆願が重なった。
「よし、いいだろう。ただ、まず挨拶からだよ」
「はっ!」
10分後、
「おかしいですねぇ、まったく応答ありません」
エズラの再三の呼びかけに対して、先方はまったく沈黙したままだ。
「ガイドビーコンは出ているんですが、森の真っ只中ですし」
そう、呼びかけた直後にガイドビーコンの発信があった。その後それっきりなのである。
「どうなってるのかねぇ……」
マグノの目が細まる。
「確認しに行きましょう。上陸許可を」
「仕方ない。おやり」
「了解しました!メイア!」
通信でメイアを呼び出す。
『こちらメイア』
すぐにメイアが出た。
「上陸メンバーを選んでシャトルへ。私も出る」
『了解、すでにメンバーの選別は済んでいます』
「ふ、早いな」
20分後。シャトルポート、そこにはメイアを筆頭にジュラ、バーネット、ディータ、ヒビキ、アイリス、マリーが揃っていた。
「我々は先遣隊だ。シャトルで降りて惑星を調査、安全を調査した後本隊を待つ」
『了解!』
5分後、シャトルは惑星へと降下し始めた。
成層圏を抜け、大気圏に入る。やがて、下に広大な森が姿を現した。
『ガイドビーコンの上は、森の中心部で着地は困難です。南方の開けた場所へ降りてください』
ニル・ヴァーナから指示が来る。
「了解、南方3キロの地点に着地するわ」
シャトルが飛ぶ下では、何かの生き物がシャトルの音に驚いて逃げ惑っていた。
ビーコンから南方3キロの地点。開けた広場のような場所にシャトルが着地。
そしてシャトルから降りた途端、全員が絶句した。
「……何よ、これ」
全員の意思を代表するかのように、バーネットがそう漏らした。
目の前にとんでもないものが広がっていた。
森といわれれば森。町といわれれば町。全ての木々が、町にはびこっているのである!
ビルはすでにその機能を失い、全身を木々のツタが覆いつくしている。かつて道路だったものは、ひび割れ、剥がれ落ち、そこを走るものはない。
まさに、コンクリートジャングルそのものだ。
『…………』
1分は全員が頭の中を整理するのに時間をかけただろう。
「と、とにかく、調査する。食料くらいは残されているだろう」
ブザムも声が震えていた。常軌を逸した光景にかなりショックを受けたようだ。
彼女達は森(町?)へと分け入った。かつては人々が往来し、車が人々を運んでいたであろうメインストリートに人影はまったくなく、ただ木々がささめく音と澄んだ風が頬を撫でるのみ。
「こう誰もいないと、ひたすらに不気味ね」
アイリスも無駄に周囲に気を配りながら、漏らした。あまりに広い場所に一人放り出されると本能的に恐怖を感じてしまう。誰か一緒にいなければひたすら影を探してしまいそうだ。
「すごい、すごいーー!」
だが、ディータはそんな事をまったく考えていないのか、カメラを取り出してひらすら周囲の状況を納めている。
……ジャリッ
いきなり、真横のビルからガラスを踏む音が聞こえた。
「!!」
その音に誰よりも早く銃を向けるアイリス。だが、誰もいない。
「誰かいるのか?」
さすがに不気味すぎる現状。全員が武器に手をかける。ディータとヒビキは何も持っていないが。
「待ってて。調べてくる。マリー」
「はい」
マリーも今回は武器を持ってきていた。12番ゲージで長身の自動式ショットガン。バーネットの所有物からここへ来るときに渡されたのだ。銃身の下にライトが装備されている。弾丸はアイリスからスラグ弾を貰っている。
スラグ弾はショットガンの持ち味である“散弾”の特徴を殺した、いわば遠距離攻撃用シェルである。
もちろん、散弾も背負っているリュックに100発ほど入っている。
そんな武器を苦もなく扱い、マリーはアイリスとともに、元々はブティックだった物の中へと進入する。
アイリスもここに来て、武器をいつものM4にごてごてした装備を付加していた。銃身の下にグレネードランチャーを取り付け、照準の部分にライトを取り付けているのだ。
いつもなら、こんな重装備は嫌いなのだが、こんな場所では何が起こるのかわからないので、一応の措置だ。
二人はライトを点けると周囲を照らした。床には衣類が散乱し、綺麗に飾られていた服はズタズタに裂けてしまっている。店内も完全に荒れ果て、何も着ていないマネキンがかなり悲しい。そして、もちろん誰もいない。
アイリスは外の面々に誰もいないことを合図する。
「アイリスさん」
マリーが奥に続く扉を見つけた。扉といってもすでに朽ち果てているが。
「入ってみます?」
「必要ないわ。出ましょ」
と、いきなり、
ガガガガ……!
外でバーネットの銃が火を噴いた。
『!!?』
慌てて外に飛び出す二人。
「何事!?」
バーネット以外もいきなり撃ったことに驚いてバーネットを見つめている。当のバーネットは向かいのビルの上のほうに銃口を向けている。
「何かいたわ!」
「連絡員だったらどうする気だ!」
さすがにメイアが突っ込む。
「いや、そいつは無さそうだぜ」
ヒビキが声を上げる。ヒビキは通りの先を見つめていた。
「見ろよ」
ヒビキの指す先、そこには人がいた。だが、その人の手には手製と思われる槍が握られている。しかも衣服はボロボロで髭も伸び放題。こっちを睨みつけている。
「あれが友好的に見えるか?」
「うわー!新しいファッション!?」
「お馬鹿!」
カメラを向けるディータをジュラが押さえつける。
と、
「ウオーーーー!!」
男がいきなり槍を突き上げ、獣のごとく吠えた。すると、まったく気配のしなかった周囲から突如同じような咆哮が響いてくる。
「何だ!?」
「どうやら、何か気に障ったらしいわね」
アイリスがグレネードに弾を込めながら言った。
そして姿を現す、人、人、人……。ビルの上から、通りの陰から、さっき誰もいないことを確認したはずのブティックから。全員が同じようなボロボロの格好で、槍や、ガラスで作った剣のようなものを持っている。
「どういう事だ!ここの人間達は文明レベルが低すぎるぞ!」
ブザムやヒビキもさすがにバーネットから銃を受け取った。
「話の通じるような相手じゃ無さそうだって事は、判るわ」
「副長、いったん引きましょう。完全に敵視されてます」
メイアがリングガンを構えながら言う。
「仕方ない、撤退する」
シャトルへ戻ろうとじりじりと移動し始める全員。と、いきなりビルの上の方にいた男が手に持った槍を投げはなった。手に武器を持っていないディータを狙っている。
「!!」
それに反応したマリーが迫ってくる槍に向かってショットガンを発射した。轟音と共に槍を砕き、男のいた窓の横を直撃する。
それが引き金になり、次々と男達が槍や凶器を投げつけてきた!
「走れ!!」
ブザムが叫んだ。
マリーはすぐに結界を作り出し、全員を覆う。
「くそったれ!」
「どうなってんのよもう!!」
アイリスは、フラッシュグレネードをいくつか放り投げながら、逃げる。閃光に目を焼かれ、男達が怯んだうちに、なんとか彼女達は逃走に成功した。
なんとか振り切った彼女達はすぐにシャトルにたどり着いた。
「長居は無用だな」
シャトルへと乗り込む全員。
「出ます!」
シャトルはブースターを吹かし、出力を上げ、
ドン!!
『っ!!?』
いきなり、鈍い音と共に爆発し、浮き始めた機体は地面へと叩きつけられた。
「……いったぁぁぁぁ」
「く、みんな、大丈夫か?」
「こっちは何とか」
シートベルトのおかげで全員無事なようだが、
「何事だ、一体」
「分かりません!いきなりブースターが爆発して……」
「くっ!とにかく、確認だ。ニル・ヴァーナへ連絡を」
数人が船外へ出て行き、バーネットは通信機を作動させる。ところが、
「だめです。今の衝撃で通信機がいかれたようです」
コンソールに表示されるエラーの乱舞を見てバーネットがさすがに冷や汗を流す。
「こっちもだめ!誰かがブースターに何か詰め込んだみたいよ!」
船外からアイリスがそう言った。
「修理は可能か?」
「無理!完全に吹っ飛んでる。」
ガン!とブザムが船体をぶっ叩いた。
「おのれ……」
どうにも、……また前途多難な事になりそうである。
船外へ出た一同は今後の方針を話し合う。
「通信機がいかれたんじゃ、ニル・ヴァーナとの通信はできないな」
各通信機は全てシャトルの通信機を介してニル・ヴァーナと連結している。通信機の修理はやっているがどうにも芳しくないのが現状だ。シャトルの修理は完全に不可能。アイリスやヒビキも船の修理は仕様書が無いとさすがにお手上げであった。大体こんな場所で欠落した部品を探し出せるかが分からない。
「助けを待つってのはどう?」
「助けが来るまであの連中が静かにしててくれるかは疑問だな」
ジュラの提案にヒビキがそう言った。
今の爆発はかなり大きかったはずだ。さっきの連中や、他の連中が集まってくるのは目に見えている。
「サバイバルゲームといきますか……」
アイリスがそう漏らした。
「何?」
「ガイドビーコンまで行けばなんらかの方法でニル・ヴァーナと交信できるはずでしょ?ここからちょうど北へ3キロ。そこに何があるか分からないけど、行くしかないんじゃない?黙ってても事態が悪化して終わりよ」
『…………』
最もである。
「仕方ないか」
ブザムがしぶしぶ言った。
「ガイドビーコンに向かう。各自武器を持て。相手はなぜか文明レベルが低い上に、こちらを敵視している。対峙した場合は任意に排撃」
「了解」
「……了解」
5分後、武器の行き渡った全員はまたメインストリートへ戻ってきた。通りはさっきと同じく不気味に静まり返っている。
「嫌だな〜〜」
ジュラがつぶやいた。
んなもん誰もが嫌である。
「行くぞ、この通りは一気に駆け抜ける!」
先陣を切ってブザムが走りだす!それに続く一同。
ブティックを通り過ぎ、なるべくビルの下を走る。すぐにあの咆哮が響き渡った。
「無視して走れ!」
アイリスは、バックパックからスモークグレネードを取り出し、周囲にばら撒く。爆発と共に、通りやビルが煙で覆われる。知能が低い連中ならこれだけでかなり時間が稼げるはずだ。
「きゃっ!?」
と、ディータが何かにつまづいて転んだ。
「何やってんの!」
ジュラが手を伸ばしたその時、ビルの陰から槍を持った男が飛び出してきた。
「グオオオオォ!」
おたげびを上げて二人に襲い掛かる。
だが、直後に鈍い衝撃とともに、男はもんどりうって倒れた。
「お早く!」
ショットガンの柄で殴りつけたようだ。弾の装填されているショットガンで無茶なことをする……
5分も走り続け、そろそろ全員の体力も尽きてきた頃、ようやくメインストリートは終わった。だがそれと同時にその先は崖になっている。下には住宅街らしい町並みと緑が広がっている。
「くそっ!」
「見て、あそこ!」
バーネットがすぐ近くにある建物を指した。どうやら下へ続くリフトらしい。
「行くぞ!」
シャトル中破直後、ニル・ヴァーナでは、
「大変です!副長達のシャトルの反応が消えましたぁ!」
「何だって!?」
通信機が壊れたと同時に、ビーコンの発信も止まったらしくレーダーから反応が消えた。
「そんな……みんなが」
「エズラ、落ち着きな。まだみんな死んだと決まったわけじゃないだろう」
「は、はい……」
そう言ったもののマグノの心中も平静ではいられない。
「一体、何が起こったってんだい。……ガスコーニュ!」
マグノはレジのガスコーニュを呼び出す。
『何ですか?』
「すまないが、連中の様子を見てきて欲しい。何かトラブルが起こったみたいでね」
『おやおや……、分かりました。すぐに出ます』
「ヒビキ……」
ミスティもヒビキの身を案じてつぶやいた。
−To be continued−
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