ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action51 −微身−
ブザム・A・カレッサ――その本名は、浦霞天明という。
年齢は25歳で、タラーク政府が送り込んだスパイである。当時マグノ海賊団の蛮行が苦慮されており、何としても殲滅するべくスパイとして送られた。
若くして特務諜報部中佐という高き階級にあり、能力もずば抜けて高い。当時彼だった人間は、タラークによる性転換手術を受けて完璧に女性化されている。
つまり浦霞天明は元性別が男性であるというだけで、身体的には女性となっている。
(――バートとドゥエロ、あの二人め。士官候補生達に目をつけたな)
スパイとなった彼女はニル・ヴァーナの副長になる程、マグノ海賊団の中枢にまで食い込む事に成功していた。
艦長のマグノをAとして、その下に続く副長を務めていることからBCとまで愛称で呼ばれる関係を築けている。
マグノの参謀としても有能で、クルー達全員から慕われている存在。声帯だけは本来のものが残されており、首に着けているチョーカーで声を変えていた。
タラークへ帰還した彼女は軍人へと戻り、再び軍部へと戻っている。
(軍部にはまだ気取られていないようだが、念のため痕跡は消しておく必要がある。
やれやれ、人間的に成長しているようだが……軍人としてはまだまだ未熟か。
ふっ、とはいえ本人達は戻るつもりはないようだが)
数年もの間、見事なまでにスパイとして戻り込んでいたブザムの正体はひょんなことから明らかとなった。
ニル・ヴァーナが母星宙域に達した際、タラーク防衛システムが行く手を阻んでしまったのである。
穏便に事を済ませるためには音声認証で停止させる他はなく、彼女は声を戻したことで正体を明かすことになった。
その後自ら監獄に入ったが――ニル・ヴァーナを接収したタラーク艦隊によって救出される体となった。
(奴らが基礎を固めているのであれば、私は上から制圧していくとするか。
バートも祖父の権力に頼るはずだが、軍部の中枢にまで掌握するには時間が足らなさすぎる。
軍人達はバート達に任せ、私は軍部を掌握していくとしよう)
スパイとしてマグノ海賊団に打ち明け、虜囚として両手を挙げた彼女だったがカイ達の説得によって立ち直った。
立場的にはまだ微妙ではあるものの、ブザム・A・カレッサは浦霞天明に戻るつもりはない。
彼女もまたカイ達と共に地球の真実を知り、刈り取りの狂気を思い知った。
そしてタラークやメジェールが地球の手先となっているとわかった以上、もはや忠誠心なんて砕け散っている。
(タラーク軍部の力は、政府に及ぶほど強い。グラン・パへの忠誠心にいたっては、自分の生命よりも重い。
奴らの忠誠心を砕くのは至難の業だ。私から真実を打ち明けたところで、階級を剥奪されるのが関の山だろう。
軍部を味方につけるのは、政府の陰謀を明らかにすることだな)
軍部と政府の関係は蜜月に見えるが、あくまでもタラークという惑星の虚構によって成り立っている。
つまりメジェール憎しという思想で共感されており、男尊女卑という理念が彼らの関係の基盤となっているのだ。
この2つの関係を崩すには、虚構そのものを成立させなければいい。
つまり――
(政府がタラークという惑星そのものを地球に差し出すつもりだと明らかにすれば、軍部は反乱を起こす筈だ)
――軍人とはあくまで、国を守るために存在している。
メジェールを敵視するのも、あくまでタラークを滅ぼさんとしている仮想敵だからだ。
女を憎むのはメジェールが敵だからであって、メジェールさえ倒せばタラークは平和になるという考え方より成り立っている。
その政府の思想がタラークという国を殺す事にあれば、軍部が政府の味方をする道理などない。
(ふっ、まさかマグノ海賊団のスパイとしてのキャリアが生きる事になろうとは……お頭が聞けば、笑い飛ばしそうだな。
ともあれ今は感傷に浸るのではなく、行動に移す時だ。
二重スパイとして、私は汚名を着ようともこの惑星と仲間達を守る)
特務諜報部中佐という高き階級は、軍部への中枢にまで潜り込める特権を持っている。
ならば、タラークという国が保有する、秘匿情報にも迫られる筈だ。
ブザム・A・カレッサ――彼女は今、浦霞天明という二重スパイになった。
<to be continued>
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