ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action25 −洛楽−
――マグノ海賊団が連行されたのは、流刑地だった。
メジェールは船団国家であり、特定の惑星を持たない。厳密に言えばあるのだが、人の住める環境ではない。
メイア・ギズボーンの父はかつて惑星のテラフォーミングを試み、やがて失敗した経緯がある。そうした船団国家における、流刑とは――
罪人に命じた行き先となる土地、つまりは「惑星」メジェール領海である。
「……こういう形で故郷へ戻ってくることになるとはね」
メジェール立法府が判決を下した流罪とは刑罰の一つで、マグノ海賊団のような罪人を「惑星」メジェールへ送る追放刑である。
配流とも呼ばれる刑罪は、惑星を島に見立てて島流しとも呼ばれることもある。
メジェールの歴史的には刑務所へ送られるよりも、本土での投獄の方が罪深い。かつての故郷は最早遠き離れ島であり、歴史に取り残された墓所である。
彼女達のような重刑者が生涯を閉ざす、苦痛より重い刑罰とされている。
「わざわざ故郷へ送ってくれるなんて、あの人も粋な事してくれるじゃない」
「ジュラの一喝がよほどきいたんでしょうよ」
「うんうん、あの人の心に少しでも届いたのなら良かったわ」
「……皮肉で言ったんですけど」
感慨深く見つめるマグノを横目に、ジュラとバーネットが己が境遇を語り合う。
流刑は非常に残酷で、流刑の途中も勿論だが、実際の流刑地で独り生涯を終える流刑者が殆どである。
子孫を残したり、赦免されたりした例は殆どなく、脱走を企てた流刑者もいない。理由は、単純である。
夢破れ――「故郷」へ帰ってきた人間が、再起することなどない。
「宇宙人さんも連れて来たかったな」
「こんなところ連れてこられても迷惑でしょ」
「でもでもパイだって、お医者さんを自分の故郷へ連れてきたいでしょう」
「うーん……頷いてしまいそうなのが、怖いケロー」
元より仲の良いディータとパイウェイが想い人を脳裏に浮かべて、元気を出し合う。
離れてからこそ分かる人間関係というのもあり、ディータやパイウェイは自分達の大切な人のことを思う。
心配はしていない。カイやドゥエロは、困難に負けるような人間ではない。
だからこそ彼女達は今、未来を語っている。
「今この場で、お前たちに言うべきことはなにもない」
「……」
「我々はお前達を収容するが、それだけだ。何をしようと、どうでもいい」
マグノ海賊団を流刑地へと送った兵士達を連れた長は、彼女達犯罪者に簡素に告げた。
死刑にされても不思議ではない海賊達を前に、兵士達は何もしない。
威圧することもなければ、不遜に振る舞うこともない。突き放した様子で、事務的に彼女達を収容所へ送った。
それらを目の当たりにして、マグノ海賊団の主要メンバーが状況を理解する。
「人選、しっかりしてくれてるね」
「あの裁判官の配慮、なのかな」
「意外と本当に、ジュラの言葉が届いたのかも知れないわよ」
ニルヴァーナのブリッジを守っていたアマローネ達が、兵士達の様子からすぐに看破した。
手荒な真似に出ないのは、義務として徹底されているからだ。
余計な感情を一切交えず、職務をまっとうする。海賊達を前に姿勢を貫けるのは、難しい。
ここは流刑地、何をされても文句など言えない――何をされても。
「――カイ、助けに来てくれるよね」
「セル……あんた、あいつのこと嫌いじゃなかったっけ」
「苦手だっただけ。いいやつなのは分かってた」
「私は最初から知ってたけどね」
「あー、ずるいわよアマロ。今になって態度見せるの、反則!」
彼女達三人組は状況に流されたり、誰かに言われたから流刑されたのではない。
無条件降伏なんて、どう考えても悪手だ。こんな風に裁かれるのは、目に見えていた。
優秀な彼女達は今の状況を完璧に想定していたが、それでも敢えて大人しくされるままとなっていた。
カイが助けに来てくれるのだと、信じ切っていたからだ。
「ニル・ヴァーナの艦内セキュリティを固めたのは、わたしだよ。カイはパスコード知ってるし」
「ホーミングレザーやペークシスアーム、ニル・ヴァーナの主要兵器をロックしたの、アタシなんですけど」
「それを言うなら、私だってニル・ヴァーナが保有する一年間の分析データをカイの端末に転送しておいたわよ」
そして――助けられるだけのヒロインになんて、最初からなるつもりもない。
彼女達は自分に出来る仕事を完ぺきにこなして、ここへ来ている。
白旗を振って、敵に幸福。命を無防備にする危険な行為でも、平気な顔で両手を上げられる。
背中を守ってくれる人がいるから、彼女達は絶望の地へ平然と降り立っている。
<to be continued>
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