VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 5 -A shout of the heart-
Action14 −貴方−
---------------------------------------------------------------------------------------------
初めて対峙した時、何ら感情はわかなかった。
計画通り男の軍の母船を攻略し掛けていた時に現れた一体のヴァンガード。
同系機を何体も蹴散らして来た女にとっては、立ちはだかるそのヴァンガードも同列に過ぎなかった
。
邪魔なので蹴散らす。マニュアル通りだ。
しかし、そのヴァンガードは他とは違った。
どれほど叩き伏せても、追い払っても、まるでめげる事なく何度も自分の前に現れる。
ついには追い込まれて、自らの機体ごと自爆紛いの特攻により墜落させられた。
初めてその男に芽生えた感情は怒りだった・・・・・・・・・
砂色に包まれた蛮型が振るうナイフを、金色の蛮型は難なくかわす。
宇宙での激戦で鍛えられた反射神経と操縦テクニックは、稚拙なナイフ捌きをものともしない。
恐怖も迷いもない動きを持って、金色の蛮型は同様の偽装を倒した時のようにナイフを横薙ぎにする。
もし同じ偽装体であったならば、それでチェックメイトだった。
しかしこの砂色の蛮型の搭乗者はメイアであり、中身は本物の蛮型である。
一閃したナイフの軌跡より一歩下がり、逆に砂作りの自分のナイフより砂をおみまいする。
飛び散った砂は一粒一粒が微小のメカであり、システムに介入するウイルスだった。
細菌兵器にも似た小型の殺戮者達は、態勢が整っていない金色の蛮型に群がる。
もしただの蛮型九十九式であるならば、それでチェックメイトだった。
しかしこの金色の蛮型の搭乗者はカイであり、中身はヴァージョンアップしたSP蛮型である。
咄嗟に足元を蹴り舞い上がらせる事により、金色の蛮型は微小メカの接近を阻んだ。
他の二人は迂闊には手を出せず、他の偽装体の相手に精一杯である。
二人は互いに距離を取り、正面から対峙する。
男は女に背を向けていた。
互いの機体は損傷を受けたが、幸いにも女の機体は稼動可能な状態であった。
対して男の機体はダメージが大きく、もはや動かすことも困難な状態に見えた。
男は無防備な様子で、自分の大破した機体に目を向けたまま悲嘆に暮れている。
自分との戦いの結果で男の大切な機体を壊した事に、女は何とも思わなかった。
男は敵。相容れない最低の種族。
生まれ持った個性と、植え付けられた価値観が女から男を否定させた。
女はただ自分の邪魔をした男に怒りを持っていた。
だから――
背中を向けている男に発砲しようとしている自分に、疑問すら持たなかった。
男は敵、ただそれだけなのだから・・・・・・・
戦いは続く。
荒れ果てた砂漠で、朽ち果てた大地を駆けて二つの機体は交差する。
戦況は互いの能力とテクニックを駆使して、現状はダメージはほぼ半々だった。
動きにハンディが生じる程ではなく、果敢に両者は戦い続ける。
砂色の機体はただ黙々と、金色の機体はただ純粋に目の前の敵に没頭する。
砂色の機体は憎しみを抱くがために、金色の機体は夢を抱くがために相手を倒す。
戦いの果てに待つのは、ただ一つ。
相手の完全破壊、他には何も望まない。
相手を否定するために、自分を肯定するために。
白亜と金色はぶつかり合った。
女は男に、男は女に怒りと憎しみを抱いた。
発砲により頬から血を流す男は、女を見つめる。
男の視線に宿るのは相棒を壊した事への怒り、自分を傷つけた憎しみだった。
女は憎まれる事に何も感じはしなかった。
常に負の感情を向けられてきたのだから、男は敵に過ぎないのだから。
女は男に警告する。
自分への恭順、自分への降伏、自分への屈服。
命を保証する代わりに、自分の全存在を否定する勧告を女は行った。
女に罪悪感はなかった。
今まで数多くの男達を否定して、侵略して自分はここまで来た。
生きていくために、自分を強くしていくために女は一人で戦ってきた。
他人を否定する事に、男を敵対化する事に何も思わない。
崇高な強さへの思い入れが女をリーダーとしてたらしめ、高みに昇ったのだから。
男の返事は――
次の瞬間、女は全身に電流を浴びて仰け反って倒れた。
男は油断なく近づいて、女を組み伏せる。
電撃の後遺症で弱々しくもがく女を許さずに、男は十手を振り上げて先端を女に向けた。
戦況に変化が訪れる。
時が経てば経つほどに、砂色の機体は金色の機体に追い込められていく。
互いの力量は長期戦に繋がり、差は歴然として現れていた。
金色の機体は修羅場を幾度も乗り越えて鍛えられた精神と技量の持ち主。
互角に至らしめられていたのは、あくまで陸上戦に慣れていなかったから。
砂色の機体は搭乗者の技量に、全身を覆い尽くす砂に取り付くメカのサポートがあったからであった。
自分のトラップフィールドに金色の機体を追い込み、助手付きで戦う。
砂色の機体は金色の機体と互角で戦えたのはハンディありだったからであった。
しかしハンディがハンディでなくなればどうなるか?
金色の機体は次第に大気圏内の戦いに慣れてきており、戦い方にも洗練された動きが見えてくる。
ナイフによる近距離戦に砂色の機体の搭乗者が不慣れな事も災いした。
金色の機体は至近距離よりナイフを振り払った時、砂色の機体はバックステップで回避する。
その瞬間、動きを見切っていた金色の機体はさらに先行して足払いをかける。
なす術もなく横転した砂色の機体に、金色の機体は即座に圧し掛かった。
もがく砂色の機体を許す事無く、金色の機体はナイフを振り上げて頭部へ切っ先を向けた。
男は油断していた女を組み伏せる。
女は敵だと教えられており、女を動けなくしていても男には隙はなかった。
実践の場は初めてだという事もあり、男は必死だった。
自分の武器であり、自分の道標でもある十手を向けて、男は女をどうするか思案する。
女は男に殺せと言った。
男の国では捕虜になる事は生き延びる事より恥であるとの言葉がある。
女にとってもその言葉はまた同じであり、男にいい様にされるのなら死んだ方がましだった。
男に全てを曝け出して生き長らえるならいっそ、と考えてもいた。
対して、男はそんな女を嘲笑った。
男は女と同じになるのが気に入らなかった。
敵であるから相手を平気で傷つける、敵であるから迫害しても厭わない。
海賊として、己の信じるやり方として通してきた女の生き方に男は真っ向から異を唱えた。
女は自分を否定する男に殺意すら抱いた。
自分のこれまでの苦難を何一つ理解せず、馬鹿にして笑う。
奇麗事ばかり言い募る男に、女は殺意をこめて行動する。
殺そうとしないのなら、自分が男を殺す。
女は組み伏せられた状態から反撃し、男を殺そうとする。
許せなかった、どうして許せなかった。
女の抵抗に男は説得の無駄を察知して、女を無理やり行動不能にする。
男は理解する。女は所詮敵であると。
女は理解する。男は所詮敵であると。
男は乱暴に押さえつけて、自分が被っていたマスクを引き剥がして女の素顔を見る。
女を死を覚悟して、硬く瞳を閉ざす。
しかし攻撃は一向に襲ってこない。一向に、一向に・・・・・・・・
男は女の顔を見つめて、困惑した声をあげた――
「青髪・・・・・・・・?」
振り下ろしたナイフは辛うじて頭部を貫く寸前で止まる。
転がして押さえつけた際に、頭部の砂が剥がれて素顔が見えた。
砂色に包まれていた筈の顔は白亜色に染まっており、醜悪な雰囲気が消えていく。
カイはようやく気がついた。
自分が誰と戦っていたのか、誰が自分に襲い掛かってきたのか、を。
『何故殺さない・・・?』
おぼろげな意識の中で、メイアは小さく声を上げる。
砂に取り込まれてしまい意識を放棄したその時、メイアはカイとの出会いの幻を見ていた。
屈服した精神は疲弊しており、冷静だったはずの心は波風を立てている。
恐怖に蹂躙された魂は剥がれた砂より光が生じて、洗浄されるように意識を開放していく。
『・・・・・・馬鹿野郎』
激しいバトルで興奮していた感情は完全に冷え切っている。
頭部の砂が剥がれた事により通信モニターは回復しており、メイアとカイの個人的なリンクが開かれていた。
疲労し、衰弱しているメイアの様子にカイは堪らない程の憤りを感じる。
自分に襲い掛かって来た事への怒りよりも、悲しみが強かった。
あまりにも哀しすぎた・・・・・
『カイ、待って!それは敵じゃないわ!それは・・・・』
操られたメイアに置き去りにされて、慌てて戻って来たバーネットはカイ達を見て驚愕する。
砂に塗れているメイア機を、カイが力づくで抑えているのだ。
敵と間違えて攻撃しているのだと知ったバーネットは、慌ててカイに通信を送ったのである。
バーネットの声に、カイは首を振って答えた。
「分かってる・・・青髪だろう」
『そうよ!だから・・・・』
「だけど、こいつは俺を殺そうとした」
静かな声で返答すると、バーネットは通信モニターから驚いた顔をする。
『で、でもそれは砂が・・・・!?』
「・・・違うな。さっきの戦いぶりは明らかに意思があった。
でなければ、砂共にあんな動きはできないはずだ」
何体もの偽装体を相手に戦い続けたカイならではの指摘である。
砂から偽装した蛮型は姿・能力こそコピーはしていたが、動きそのものは単調だった。
殴る・蹴る等の攻撃は出来ても、ナイフで切り結ぶような高度な攻撃パターンは出せない。
砂に襲われた影響も多大にある。
ただでさえ精神状態が思わしくなったところへ,砂による精神的圧迫があったのだ。
通常の精神状態のメイアなら、カイに襲い掛かるような無益な真似はしない。
カイにいい感情を抱いていないのは事実だが、殺すことへの愚は何よりメイアがよく分かっている。
でも、メイアがカイに襲い掛かったのも事実だった。
モニター越しにのぞくメイアの瞳が何よりも物語っている。
メイアは青ざめた顔で呼吸を荒げながら、カイを見て独白した。
『お前は敵だ・・・・・これ以上お前が存在するのは迷惑だ・・・・』
「まだそんな事言ってやがるのか!
言っただろう、お前なんぞ・・・・・・・・」
『ならば、何故お頭に進言した?』
「!?あの野郎、ちくったのか」
『・・・・やはりお前だったか』
カイはメイアの確信のこもった言葉に、自分がはめられた事を悟る。
メイアの指摘は半分は予想だったのだ。
簡単な誘導尋問に引っかかってしまった事に、自分の迂闊さを恥じた。
同時に分かっていながらもこの星へむざむざ突入してきたメイアに、カイは改めて怒りを感じた。
「てめえこそなんで来たんだよ。
半病人は迷惑だってのがわからねえのか!」
『私には・・・・私には責任がある。自分の面倒は自分で見られる。
お前に口出しされる謂れはない』
マグノからの命令にすら反論したメイアの強固なまでの責任感。
何者の干渉も受け付けず、迷惑だとはね付ける他人への拒絶。
これまでメイア自身が覆ってきた心の枠であり、強さだと信ずる自分の生き方だった。
メイアの生き方に否定できなかったからこそ、マグノも強く言い出せなかった。
何故なら、その確固とした信念がこれまでのメイアを支えてきたのだから。
周りには警告音が鳴り響き、擬装体の群れも再び集結し始める。
緊迫した状況の中で、カイは周りに気にもせず口を開いた。
「まだそんな事言ってやがるのか、てめえは!!」
「!?」
マグノが、ブザムが、海賊クルーの誰もが言わなかった言葉。
メイアへの否定。
誰もが崩せなかった心の壁を、誰でもないカイが強く殴りつけた。
「てめえはそれで自己満足に浸ってりゃいいかもしれねえけどな、周りが迷惑してるって言ってんだよ!
お前は自分一人で生きていけるとか思ってんのか?甘いんだよ!
お前みたいなくそ馬鹿の弱虫がな、一人で満足に生きていける訳がねえだろうが!!」
『お前などに・・・・私の何がわかる!』
メイアの恫喝を、カイはそれ以上の言葉で強く一括した。
「分かる訳ないだろうが!お前は自分がどういう奴か分かってんのかよ!!」
「!?・・・・・・」
考えた事もなかった。
自分を知ろうとする、自分の事を考える。
今まで生きていて、一度でも自分を考えた事があったのだろうか?
呆然とするメイアに対して、カイは無理やり首もとを掴んだ。
「周りの迷惑も考えないで、自分は正しいとか思っているような奴がな・・・・・・
見ていてむかつくんだよ!!!」
そのままカイはメイアを殴った。
無論蛮型越しではあるが、頬を殴られた衝撃はコックピット内に届きメイアは目を伏せる。
カイの言っている事は感情論に過ぎない。
自分を主観とした考えであり、自分が納得できないからメイアを罵る。
メイアも心の片隅ではそう思っている。
でも怒鳴りつけて強く言葉を言い募るカイに、メイアは自分へのメッセージを感じて胸の奥を痛める。
メイアが心を痛めている時、カイもまた心が痛かった。
自分が慟哭するメイアへの非難は、昔の自分への非難でもあった。
かつてアマローネ達を馬鹿にして、マグノを困らせて、ディータ達に迷惑をかけた自分への言葉でもある。
今のメイアを見ていると、昔の自分と重なって切なくて仕方がなかったのだ。
「はあ、はあ・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・』
互いにそれ以上何も言えず押し黙り、荒い呼吸のみが響く。
カイはこれほど感情的になっている自分を振り返り、改めてメイアの事を意識している自分に気がついた。
むかつく女ではある、相反しない人間ではある。
こんなに言葉をぶつけても、決して分かり合えない事はカイ自身何より理解できていた。
でも、言わずにはおれなかった・・・・・・
カイは無言で吹っ飛んだメイア機の傍に駆け寄り、体にこびり付いた砂を払い始める。
『お前・・・・』
「・・・・じっとしてろ」
戸惑いのこもったメイアの声に、カイは静かに返答して作業を黙々と続ける。
カイのさっきの言葉がよほどこたえたのか、メイアはそれ以上何も言わずにカイに身を任せた。
メイアを復帰させるには、全システムを開放しなければいけない。
それには今だ胴体と手足のほとんどを覆っている砂を取り払わなければいけない。
カイは一生懸命手で払っていくが、元々砂は微小メカが操っているのだ。
何度払いのけても、砂は勝手に集まってきて装甲を覆い尽くそうとする。
努力を重ねても時間の無駄だと分かったカイは、ジュラに助けられたやり方でメイアを助けようと試みる。
胴体部分の放熱フィンを当てて回転させようと思ったその時、女性の悲鳴が飛び込んできた。
『宇宙人さん〜、砂に全然攻撃できないよぉ!』
ディータの悲鳴に周りを見ると、砂の擬装軍団が周囲を完全に包囲していた。
ディータ・ジュラ・バーネットの三人も奮戦してはいるが、ダメージは与えられてはいないようである。
無理もなかった。
今までカイがどれほど攻撃力を振るおうと、完全消滅に至らなかったのだ。
何しろ相手は砂を成分としているので壊す事ができない。
何度倒してもすぐに復活して立ち上がってくるので、実質敵はノーダメージである。
そこへ新たな回線が開かれ、ベルヴェデールの焦った様な顔がカイに向けられる。
『良かった、ようやく回線が開いた・・・・・カイ、聞こえる?』
「何だよ、こっちは非常に今忙しいんだぞ」
『それどころじゃないわよ!今すぐ惑星から離脱して!』
「はあ?お前な、そんな簡単に脱出できたら苦労しないっての」
『馬・鹿!周りを見なさいよ!!
建物が異常事態を知らせていない?』
ベルヴェデールの指摘に、ようやくカイは建築物の全てからレッドランプが点滅している事に気づく。
「な、なんだあれ・・・・?」
『いい、落ち着いてよく聞いて。
地表面に設置された全ての施設が自爆シークエンスに入ったの』
「・・・・・・・・・・・・・・・自爆?」
『うん、自爆。カウントダウンも始まっているわ』
「・・・・・・・・・・・」
たっぷり十秒間は固まった後、カイは絶叫する。
「おーーーーーい!?早く言えよ、そういう事は!!」
『繋がらなかったのよ!とにかく急いで脱出して!!
もうすぐ星は全部火の海になるのよ!!』
「脱出たってお前・・・・・」
自爆発動のきっかけはカイは知る由もなかったが、砂に覆われたメイア機がシールドに触れた時点だった。
一連のトラップの数々は、最終的に全破壊を想定されていた事になる。
シールドで逃げ道を塞ぎ、砂を操ってシステムを制御不能にする。
砂を成分とした擬態の群れで侵入者を翻弄し追い込んで、最後の最後で全てを木っ端微塵。
もし惑星の建築物全てが爆発するとしたら、地表面は何も残さず吹き飛ぶだろう。
まさに惑星そのものが大規模なトラップだったという事である。
全ての事実を知ったカイは襲い掛かる危機感に焦りを覚えた。
一刻も早く逃げなければいけないのだが、惑星を離脱するには上空を遮るシールドを破らなければいけない。
シールドを破るには地上に群れている擬装の群れを倒さなければいけない。
カウントダウンが始まっているという事はもう時間が押し迫っているという事だろう。
「くっそ〜、いやらしい罠を仕掛けやがって・・・・
どうする、どうすればいい!」
脱出には関門がある、関門突破には時間がいる、しかし時間はない。
八方塞がりな状況に、カイは真剣に考え込んだ。
このままでは自分はおろか、ディータ達までやられてしまう。
考えれば考えるほど緊迫している状況である事を思い知り、塞ぎ込んでしまいそうになる。
あまりに脱出は困難なのだ。
「打つ手はない・・・・・か」
コックピット内で視線を落としたその時、ふとマグノの言葉を思い出す。
『心が縛り付けられてしまえば、自分を見失う。
自分を見失えば、当然他人なんか分かりはしない。
他人が分からなければ、周りの世界そのものすら理解できなくなる』
自分が慢心に陥った時、マグノが自分を戒めるために放った言葉がこれだった。
自分本位な考えに心を奪われて、周りが見えなくなっていた自分。
今の自分も同様に陥っていることにカイは気がついた。
あの時は慢心に、そして今は焦りで周囲が見えなくなっている。
「落ち着け、落ち着け・・・・何か手はあるはずだ。
宇宙一のヒーローたる俺が諦めてどうする」
深呼吸一つして、カイは視界を全方位にする。
突破口を見出すためには、全ての状況を把握しなければいけなかった。
思考を凝らして冷静に周りを観察していくと、ふとカイの目に飛び込んできたものがあった。
警告を発する建物群に混じっている機械保存用の冷却施設。
カイは決心を固めた。
心を落ち着かせて通信回線を全開にして、全員に聞こえるようにリンクを広げる。
「皆、時間がない。落ち着いて聞いてくれ」
『宇宙人さん、どうしたの?』
ディータの声にかまわず、カイは自分の決意を口にした。
「今からシールドを一時的だが解除させる。
おそらく一瞬しかもたないが、その隙にお前らは脱出しろ」
『ちょ、ちょっとそれって、まさか・・・・!?』
ジュラの驚愕の声に、カイは静かに頷いた。
「俺はここに残って、あいつらを食い止める。お前らは先に逃げろ」
全てが消滅しかけている状況の中で、カイはそれでも笑顔を向けた。
<続く>
--------------------------------------------------------------------------------