ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action17 −稠度−
船団国家メジェールでジュラ達、軍事国家タラークでバート達が奮戦していた頃――カイ達は、わりと暇だった。
勿論、本人達は暇を持て余していたのではない。単純に今動けないので、大人しくしている他はなかったのである。
何しろカイ達が潜んでいるのは、ニル・ヴァーナ内に保管されているペークシス・プラグマの中である。動きようがなかった。
一人だったら気が狂いそうな空間なのだが、面子は豊富に揃っている。
「ペークシス・プラグマの中というのは何というか、不思議な感覚だな……夢の中にいるかのような」
「事故で不時着したあの惑星でも、同じ体験をしたな」
「精霊の試練という奴ね。あたしもついこの前、この子と体験したわ」
融合戦艦ニル・ヴァーナはタラーク・メジェール両軍に無条件降伏したせいで、確保されてしまっている。
大型戦艦なので直接拿捕することは出来ず、両軍が保有する軍艦に牽引されている状態だ。
海賊船であれば問答無用で破壊するべきで、メジェール軍としても本来は海賊船の破壊が行われる――筈だった。
カイ達にとって不幸中の幸いなのは、ニル・ヴァーナが海賊船とタラーク軍艦が融合した船であった事だ。
「な、なんだか隠れ家みたいでドキドキするね」
「へん、シャーリーは子供だな。アタシくらいになると、自分の隠れ家の一つや二つ確保しているぜ」
「それってカイの部屋じゃないピョロか?」
「ちょっと、ますたぁーの部屋はユメのスイーツルームなんだからね! 占拠、禁止!」
元々ニル・ヴァーナは軍艦イカヅチという最新鋭の軍艦が、メジェールの海賊船と融合したことで生まれた戦艦である。
イカヅチはタラーク軍によって一度廃棄された軍艦なのだが、その経緯はマグノ海賊団に襲撃されたせいで起きた事故であった。
つまりタラーク軍にとっては恥部そのものであり、敗北の象徴とも言える。
「ペークシスちゃん――おっと、ソラちゃんだったね。
ここって何気にあたしが入るのは初めてなんだけど、他の連中が入れたりしないよね」
「問題ありません。マスターの許可無く立ち入ることは、何人たりとも許されません。
外部が接触しようとすれば、固く閉ざすだけ。外から見れば、ただの結晶体です」
だからこそ表沙汰には出来ず、さりとてメジェール軍の前で廃棄も出来ない。
敗北を認める事になってしまう。だから両軍で意見が衝突し、妥協することになった。
破壊はしないが、放置もしない。両軍管理の元でニル・ヴァーナを徴収し、然るべき施設へ移して隔離する。
タラーク・メジェール両軍が一時的であれ手を組んだことが、結果としてニル・ヴァーナの寿命を伸ばすことになった。
「それでカイ、今後はどうするつもりだ」
「バアサン達はメジェールへ、バート達はタラークへ移送されている。連中ならうまくやるだろうが、相手は国家だ。
無条件降伏したせいで武装も取り上げられているし、地球の事を知る奴らが穏便に事を済ませるとは思えない」
「……あたし達は生き証人だもんね。不都合なことを知られた以上、抹殺を図る可能性は高いね」
「バート達は軍属へ戻った形ではあるが、それもどこまで野放しにされるか未知数だからな」
一応ブザムも一緒に戻っているのだが、彼女本人が味方とは限らないし、何より上層部がブザムを重宝するかどうかは未知数だ。
軍部はブザムの能力を高く買おうと、その上のグラン・パ達は地球の事を知られたと内々に処分する危険性だってある。
勿論、いきなりすぐに抹殺など行わないだろう。突然処分などしたら軍部だって疑うし、海賊達の件もあるのでブザム達はまだ必要だ。
だが、その先に――明るい未来がある保証はない。
「お、お兄ちゃんたち、大丈夫かな……」
「たく、大人ってのはどいつもこいつも汚えよな」
「人間のドロドロを見せつけられて、ピョロも困惑ピョロ。ピョロUを絶対そんな大人にしないピョロ!」
「とーぜんでしょう、ユメの妹なのよ。大事に、大事に育てなきゃ!」
子供達どころかエズラより預かったカルーアにまで見つめられて、カイ達は顔を見合わせて苦笑いする。
彼らも大人とはまだいえない年齢だが、シャーリー達に比べれば人生経験は多く積んでいる。
やるせない大人の事情を見せつけられれば、大人に対して軽蔑の目を向けてしまうのは仕方がないかもしれない。
子供達に聞かせる話ではないが、だからといって話し合わない訳にはいかなかった。
「話は分かった、お頭達への支援を行いつつ我々も行動に出るのだな」
「ああ、まず単純に人手を増やすところから始めよう。今のところ大人しく捕まっているが、このまま連中に流されるのはゴメンだ。
地球が来るまでに、なんとか主導権を確保しておきたい」
「具体的にどうするのよ。人手と言っても、心当たりはあるの?」
「このツバサがいたミッションで、ラバっトという怪しい顔したおっさんと手を組んだ。
来たるべき決戦に備えて声をかけてくれるように頼んでおいたので、戦力を揃えてこっちに来てくれるはずだ」
――この一年間の旅は決して、苦労だけではない。
一つ一つの苦労が、ようやく実を結ぶ時が訪れたのである。
タラーク・メジェール、かつての敵同士が手を組んでまで地球に味方をするというのなら――
カイ達はこの宇宙全ての味方を揃えて、戦いを挑む。
<to be continued>
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