VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action12 −擬態−




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 たった四機にすぎないが、それでも確固たる侵入者なのだろう。

種族・性別・価値観を問わず、理由も求めずに感情無きトラップの数々は確実に牙を向いていた。

タラークが誇る最新鋭人型兵器・蛮型九十九式も、襲来する罠の数々に抗う事すら出来ずにいる。

周囲を完全に包囲しているレーザー条のシールドに、全システムの一切を強制停止させる『砂』。

人為的な作用が働いているのは間違いないが、誰がどのようにして行ったのか判断できる者はいなかった。


「くぬっ!くぬっ!!くぬ〜〜〜〜〜っ!!!
ええい、全然動けねえじゃねえか!相棒、もっと気合入れて頑張ってくれよ!!」


 鉛のように重い操縦桿を必死で動かそうと汗だくになるカイだが、いかんせんぴくりとも動かなかった。

何とかレーザーによる麻痺からは回復出来たものの、搭乗している機体は大部分が砂に侵食されているのだ。

頭部から臀部に至る金色の装甲も砂塵が溢れており、カイの蛮型は無様に砂漠に転がされている。

起動に必要なエネルギーこそ残ってはいるのだが、稼動させるシステムをやられてはただの模型であった。


『う、宇宙人さん・・・い、今ディータが行くからね!』


 炎天下による温暖で意識が朦朧としかけるが、カイはディータの声に我に帰った。

キッと眼光を鋭くして、カイは通信モニターのディータの顔を見やる。

画面向こうからのディータの表情は襲い掛かってくる罠への恐怖に怯えながらも、健気に微笑んでいた。

ディータ自身仲間や自分がピンチになり、どうすればいいのか分からずに不安になっているのだろう。

それでも身動き一つ取れないカイを安心させようと、ディータは無理やりにでも笑おうとしていた。

ディータと懇意にしている者であれば、一発で見破れる無理のある笑顔。

常日頃、自分の元へ満面の笑顔を向けてくるディータの今の表情をカイが看破できない訳がなかった。

少し気遣う表情を見せて、カイは後にすうっと一深呼吸をして怒鳴った。


「あほか!お前なんぞに助けられる程、俺は落ちぶれてねえよ」

『ち、違うよ!ディータはただ・・・・』


 余計なお世話だと言われたと思い、ディータは悲しみに顔を曇らせる。

カイはディータの落ち込みぶりに、畳み掛けるように人差し指を突きつけた。


「くだらねえトラップなんぞでやられる俺だと思うのか?
へ、笑わせやがるぜ。俺を随分見くびってくれたもんだ。
てめえはてめえの事だけに集中して精一杯頑張ればいいんだよ」

『宇宙人さん・・・・』


 言葉言葉に不器用な気遣いが伝わり、ディータは胸がいっぱいになった。

暖かい気持ちは瞳を潤して、優しい気持ちが頬を桜色に染める。

カイのこうした心意気が、まだまだ自分の周りの仲間に理解されない事をディータは残念に思えてならない。

目の前の宇宙人さんは、こんなにも自分をどきどきさせるのに。

息詰まるような胸の苦しさを感じてディータはぎゅっと手を握ると、カイは睨みを入れて怒鳴った。


「宇宙人さん・・・、じゃねえ!!早速ぼけっとしてどうするんだ!
てめえの機体見ろ!!」

『え?あ、ああっ!!』


 時間にして数十秒間の停止だったが、敵側からすれば十分すぎる時間であった。

歩みを止めたディータ機の周囲を砂が舞い、あっという間に機体の右半身を覆い尽くす。

半身を麻痺させられたディータはバランスを立て直そうとするが、彼女は今日初めての初心者パイロット。

当然急ピッチな操縦を保てる筈がなく、仲良くカイの隣に豪快に倒れ臥した。


『う、宇宙人さん〜、動けないよ〜』

「言っている傍からこいつは・・・・
あーもう!クソの役にも立たねえな、お前は!」

『ご、ごめんなさい〜』


 さっきまでの健気な態度はなんのその、ディータは完全にカイを頼っている。

どことなく甘えているようにも見れる仕草でもあった。

カイは頭を抱えたくなるのを抑えて、外部モニターを近距離に切り替える。

全方位の遠距離対応も可能なのだが、宇宙空間での戦闘ならまだしも視界不良の現状では意味がなかった。

とにかくピンチを切り抜けるには、まず己の機体を何とか動けるようにしなければいけない。

カイはそう判断し、再度操縦桿を握り締めた。


「ふんぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!!動け、動け!!」


 力ずくでもこびり付いている砂を吹き飛ばして動かそうとするカイだったが、現実は厳しかった。

何度振り払おうとしても、周りは砂嵐で埋め尽くされているのだ。

機体表面を撫でても足掻いても、侵食される速度の方がはるかに速い。

つまりもがけばもがく程、悪循環に陥る陰湿性を秘めた罠だと言う事だ。

実害的な損傷は今の所は少ないにしても、まず間違いなくパイロットの精神は疲弊してしまう。

閉じ込められた密閉空間でじわりじわりと攻め入れられるのは、苦痛に他ならない。

蛇の生殺しのような状況だが、それでもカイは抵抗を続ける。

「くそ・・・・・
な!ん!と!か!し!な!い!とぉぉぉっ!!」

『もう、だらしがないわね。ジュラが一肌脱いであげるわ!』


 悪戦苦闘するカイのコックピット内に通信が入ったかと思うと、外部モニターに赤い影が映る。

砂のスクリーンに映し出される影はぐんぐん接近し、やがて砂を割って宙を舞う。

調査班メンバーが一人、ジュラの蛮型だった。

不幸中の幸いに砂の影響が少なかったジュラは活動を抑制される事なく、比較的自由に動けていた。

ようやく惑星外で待機している母船に連絡を入れて、打開策を検討するよう要請をしたのだ。

現段階では惑星内のデータを送る事しか出来なかったので、後は指揮するブザム達に頼る他はない。

ジュラはそう判断して、連絡を終えた後に急遽カイへのサポートに入った。

砂に埋め尽くされそうになっているカイ機の傍らへやって来たかと思うと、徐にその場に屈んだ。

そのままカイ機に寄り添うように近づくと、胴体部分の出っ張りをカイ機に固定する。

すると出っ張り部分内の放熱フィンが急速回転し、小規模の突風が生まれた。

突風が並み居る砂を完全に押し退けて、見る見るうちに吹き飛ばしていく。


「お、いいぞ!システムが回復してきた!」


 ピット内のダウンしていた情報系のメカニズムが点滅し、立ち上がっていく。

完全に固定されていた操縦桿も少しずつ軽くなっていき、小刻みな動きが可能となって来た。

ジュラはそのままフィンを頭部から手足に至るまで回転させて、砂から機体表面を洗浄していった。

そもそも胴体部分に装着された放熱フィンは、その名の如く熱を逃がすために付属されている。

通常起動する上で体内より莫大なエネルギーを放射するために、密閉された熱量を放熱しなければならない。

背中からはブースターよりエネルギーを噴出し、胸からは風を排出して熱を逃がしていく。

程よい長期化の起動を求めての画期的な設計の賜物だった。

ジュラはブザムとドゥエロから蛮型の説明を受けた際に、半分聞き流しながらも覚えていたのだ。

彼女なりの砂への対策と言った所だろうか。

例えシステムを麻痺させる効果があるとはいえ、砂は砂である。

事実放熱フィンより排出された風により砂が吹き散らされ、カイ機は機能を取り戻していった。


『どう?これだけやれば動けるでしょう』

「おう、ばっちりだ。お前、すげえな。
ちょっと見直したぞ、俺」


 まさかこのような応用ができるとは思っていなかったのか、感心した顔でカイはジュラを誉める。

少し前のカイならば他人が功績を立てる事に腹を立てていたが、今はそれほど気にはならなかった。

ウニ型での事件で、マグノとガスコーニュ二人に自分以外の他人の大切さを教わったからこそである。

純粋に賞賛を浴びたジュラも、男であるとはいえカイの評価に悪い気はしなかった。


『ふふ、ジュラにかかればこんなものよ』

「普段威張ってばかりの口だけかと思ってたけど、そうじゃなかったんだな」

『あんた・・・本当はジュラの事そんな風に思ってたのね』


 変に感心するカイに、ジュラは眉を潜めて口を尖らせる。

剣呑な雰囲気が漂うかと思いきや、意外にもギスギスした感じは両者共にしなかった。

お互いに分かり合えた訳ではないが、何か認められる部分は発見できたのかもしれない。

二人のそんな様子に、倒れたままになっているディータはつまらなそうに呟いた。


『宇宙人さんはディータが助けたかったのに・・・』

「助けようとした奴が転がってたら、説得力がないぞ」

『うう・・・・ごめんなさい』


 カイの冷たい指摘に、ディータはシュンとなって俯いた。

出撃前より合体の事で争っていたジュラは、ディータの落ち込みように勝者の気分を味わっていた。

やがて全体的な洗浄が済んで、カイの蛮型は九割方再起動を完了させた。

困難だった立ち上がりもすんなりと出来て、カイは動作が取れる事への開放感に身を奮わせる。


「うし、ふっか〜〜〜〜〜〜つ!!!!
動けるようになればこっちのもんだ!この嘗めたトラップをぶっ潰してや・・・」

『ちょっと、待ちなさい!あんた、何か忘れてない?』


 盛り上がりかけた気分に待ったをかけられて、カイは気分を害したようにモニターを見る。

通信モニターには咎める様な顔をしたジュラが腕を組んで、カイ本人を見つめていた。


「何だよ?礼ならちゃんと言ったじゃねーか。
お礼の品をよこせとか言われても何もないからな」


 カイがそう言うと、分ってないと言わんばかりにジュラが首を振った。


『別にあんたから何かもらおうとは思わないわよ。
た・だ、ジュラと合体さえしてくれればそれでいいから♪』

「はあ?お前まだそんな事を言って・・・・・・」

『ず、ずる〜い!ずるいよ、ジュラ!!
ディータだって宇宙人さんと合体したいのに!!』


 ちゃっかり話を聞いていたのか、カイ機の通信ラインはまだディータ機とも繋がったままだった。

砂に半身を不稼動にさせられているとは言え、ディータ機は地面でどたばた喘いでいる。

何とか阻止しようと必死なのだろうが、ディータの相棒は生憎と奇跡を起こしてはくれないようだ。

ジュラもディータが動けない事を分かっていながらも、砂を払わなかったのである。

命の危険すらある罠に陥っているのに、今だ余裕さを失わないのは大したものかもしれない。

まるでカイを誘惑するように、ジュラは巧みに言葉と仕草で惑わそうとする。

『ね、いいでしょう?ジュラ達の華麗な合体をこの娘にも見せ付けてやりましょう』

『駄目駄目駄目駄目!!宇宙人さん、騙されないで!!』


 擦り寄るジュラに必死で訴えかけるディータ。

出撃前から換算して何度目になるか分からない二人のやり取りに、カイはもう我慢が出来なかった。

スピーカー音量を最大にして、カイは口から大声を発散する。


「お前らは馬鹿かーーーー!!!」

『きゃっ!?何よ!』

『うええ、耳がキーンって・・・・・』


 両手で耳を抑えてそれなりにダメージを受けている二人を見て、カイは怒鳴り散らしながら指摘した。


「人が黙って聞いていれば、合体合体とピーチクパーチクほざきやがって!
いいか、よく聞けよそこの馬鹿二人。
今まで俺とお前らが合体できたのは、俺の相棒とお前らのドレッドだろう。
お前らが今乗っているのは何だよ」

『あ・・・・・・・・・』


 そうなのだ。

これまで合体できたのは、ペークシスの暴走による影響を受けたカイ蛮型とメイア達ドレッド。

ジュラとの合体は一度も果たしていないので条件的には定かではないが、

少なくとも合体が行えたのは蛮型とドレッドの二タイプである。

しかし、今ディータ達が乗っているのは改良すらされていない蛮型九十九式。

これまでの法則に従うのなら、今現在合体が行える事はありえないのだ。

そもそも合体が行えるのであれば、ジュラが先程カイを助けた時点で合体している筈である。

今までカイの蛮型とディータ・メイアのドレッドが互いに接近した時点で、現象が起きていたのだから。

ようやく気がついた二人は、それぞれに反応を見せる。

『・・・・何よ、何よ!もっと早く言いなさいよ!
そしたらこんな星にわざわざ来る事なかったのに〜』

『う〜ん・・・・残念だけど、ジュラもこれで合体は出来なくなったんだよね。
喜んでいいのかな、悲しむべきなのかな・・・・』


 それぞれに緊迫感に欠けた様子に、カイはそれ以上何も言わなかった。

相手にしても疲れるだけだと、ようやく悟ったからだ。

と、その時カイは一人メンバーが欠けている事に気がついた。


「あれ、黒髪はどうした?」


 自身が身動きが取れなかったのとジュラ達二人が騒がしかったので、カイは今まで気がつかなかった。

外部モニターより前方や左右を確認するが、バーネットの姿はどこにも見えない。

まだ合体できない事にショックしている二人に聞いても無駄のようなので、カイは探しに歩く。


「黒髪、どこだ?返事しろ」


 まだトラップは解除された訳ではない。

シールドは展開されたままで、砂嵐は一向に止む気配すらないのだ。

もしかするとトラップの影響で蛮型の機能を停止させられているかもしれない。

動作への強制停止だけならまだいいのだが、コックピット内の空調機能をやられたら命の危機に瀕する。

カイは徐々に焦りを感じながら、何度も通信回線を開いて訴えかける。


「黒髪、黒髪!返事しろ、黒髪!!」

『きゃっ!?えぅ・・・!!』

「黒髪!?おい、どこだ!何があった!!」


 ノイズ混じりの音声のみだが、リンク先からのバーネットより聞こえてきたのは悲鳴だった。

カイはこの声で完全に確信した。

バーネットは何らかの危機に晒されているのだ。

カイは自分でも気がつかないほど無我夢中で、バーネットに大声で呼びかけながら駆ける。


「しっかりしろ、黒髪!今行くからな!
畜生、どこにいやが・・・あっ!?」


 激しい砂の空間の中カイは数メートル進んで、若干ながら視界が広がった。

モニターに投影されたのは、陸上専用の武器を片手に立つバーネット機。

そして――


「こ、こりゃあ!?」


 バーネットの周囲をまんべんなく取り囲んでいるそれを見て、カイは驚愕の声を上げた。















    困難に困難が重ねられている現況において、ブリッジでは誰一人休む事なく手立ての発案に扮していた。

手元のコンソールより受信されたデータを元に、分析を開始しているのだ。

アマローネ達は発動したトラップの種類と弱点の検索。

ドゥエロは上陸したパイロット達の健康管理と心理分析による状況把握。

マグノとブザムはトラップに完全に遮断されたパイロット達を助けるために、打開策を検討中。

唯一例外である操舵手のバートは母船待機のために、ナビゲーション席で一人静かにしていた。

先だって調査に向かったカイが心配と言えば心配である。

しかし救出に行く事は出来ず、かと言って自分も危険に晒されるのが怖いのもあった。


「カイ、死んだら墓くらいは作ってやるからな」


 あまり洒落にならない事を考えながら、バートは一人安全でいる事に安堵していた。

心のどこかではカイが死ぬ事はないだろうと、楽観視しているがためであった。

一方クルー達の現状を分析できていたエズラは、それどころではなかった。


「副長、大変です!」

「どうした、エズラ」


 顔色を変えて叫ぶエズラを、ブザムは何事かと見る。

エズラは一呼吸置いて、ブザムマグノに助けを求めるように訴えかけた。


「メイアちゃんの反応が消えました!上陸時に何かあったみたいです」

「何だと!?」


 悲痛なエズラの報告に、ブザムはパイロット顧問のドゥエロを見やった。

心理グラフを正確に読み取ったドゥエロは額より汗を流して、ブザムに進言する。


「メイアの心拍数が急激に乱れている。
精神的不調も原因の一端だが、それ以上に外部的な要因も考えられる。 乗組員達も混乱しているようだ。手立ては早くうったほうがいい」

「トラップにはまってしまった可能性もあるか・・・
アマローネ、ベルヴェデール、分析作業を急いでくれ」

「りょ、了解。間もなく解析が終わります」


 惑星発見時よりもう数時間に及ぶ集中的作業で、ブリッジクルー二人の疲労はピークに達していた。

後方のセルティックもサポートはしているが、彼女も母船周囲の探索とレーダー分析で忙しい。

敵は何も惑星内だけに潜んでいる訳ではない。

むしろこれまでは何の予告もなく、突発的に襲撃をかけて来ているのだ。

敵の発見に遅れれば遅れるほど危険に晒される事は、今までの経験で一番よく分かっていた。

しかも今は主だったエースパイロット達は全員惑星に降りている。

この状況でキューブ型やウニ型の敵陣が来襲すれば、残ったドレッドチームだけで対処しなければならない。

アマローネやベルヴェデールが惑星に集中している間、セルティックもまた一人戦っているのだ。

そうしてクルー達が自分の仕事に徹しているのを見つめ、マグノは自分の浅はかさを悔やんでいた。


「無理を言ってでも、メイアを引き止めるべきだったね・・・」


 中央モニターに映し出されるレーダー観測図には、カイ達四人の反応しかない。

数キロ離れた地点で降下したメイア機の反応は消失したままになっていた。

出撃前に説得してくれるように自分に頼んだカイの真剣な表情を思い出して、マグノは息を吐いた。

違う形ではあるが、カイの心配は正しかったのだ。


「自分を責めないでください、お頭。あの段階ではメイアを止める事は無理だったはずです。
我々がどれほど強く言おうと、メイアはきっと飛び出していったでしょう」


 マグノの様子を察して、ブザムは口添えをする。

日頃任務には忠実で、多くの部下への責任を一人で背負っているメイアを理解しての意見だった。

マグノもそれは分かっているが、背負っているが故の重荷もマグノは知っているのだ。


「何もかも一人で背負うほど悲しい事はないんだ。
あの娘は自分が思っているほど強くはない。誰かが支えてやらないと駄目なんだけどね・・・」

「メイアはこれまで立派に勤めを果たしてきました。
でもそれはお頭が見守っていたからでしょう。メイアもお頭を誰より信頼しています」


 強く言い切るブザムだったが、マグノは迷う事なく首を振った。


「あの娘はアタシにも弱さを見せていない。
人ってのは強い部分と弱い部分を持っているんだ。
本当の信頼関係ってのは全てを見せてから始まるんだよ」


 メイアはある特殊な経緯で海賊になった。

その時から任務に殉じ能力を遺憾なく発揮していたが、今だかつてメイアは弱い面を誰にも見せていない。

苦労や疲労、そういった精神的マイナスを外面に現した事がないのだ。

強いと言えばそうかもしれないが、逆を言えばそれだけメイアは他人に壁を作っている事になる。

マグノの言葉に自分にも感じるものがあるのか、ブザムはそれ以上何も言わなかった。


「分析結果、出ました。読み上げますか?」


 ふうっと一呼吸吐いて、アマローネは後方のブザムを振り返る。

アマローネの声にブザムは一つ頷いて、続きを促した。


「モニターに表示を頼む。お頭にも見てもらいたい」

「分かりました。観測データ、表示します」


 アマローネの素早いテクニックで一瞬でモニターは切り替わり、コンソールからデータが転送される。

中央モニターに映し出された観測図はカイ達周辺へと縮小され、表示は一点を集中していく。

蛮型周囲を阻んでいる砂嵐より分析し、砂の一粒一粒にまで照準を絞り込むとある機体が映し出された。

ミクロ単位で砂粒を掴んでいるその機体は胴体部分に手足が装着しており、二対の羽を有していた。


「この機体が砂を操作し、ヴァンガードに取り付いてシステムに介入しています。
ごく僅かな大きさであるために、全機体を消滅させるにはかなり困難です」


 砂一つ部分にすぎない大きさなのだが、その数は砂嵐を発生される程に膨大なのだ。

言ってみれば、集団での攻撃を得意とするタイプの機体なのだろう。

一つ一つ対処しても、全体的にやられてしまうのが落ちである。

出現した新しいタイプの攻撃型に、報告を聞いたマグノは戦慄を隠せずに言った。


「危険はやっぱり潜んでいたようだね・・・・
連中が残していった置き土産って事かい!」


 惑星探索を最後の最後まで迷っていた不安の種は実在していた事になる。

前もって存在を看破出来なかった敵の隠密性と陰湿性に、

そして自分にマグノは怒りを抑えられなかった。

むざむざ敵が張った罠に、自分の大切なクルーを投入してしまったのだ。

自らが強く調査を進言したブザムも責任の重大性をひしひしと感じている。

苦渋に満ちた表情で、ブザムは中央モニターより通信を開いて呼びかけた。


「カイ、ジュラ、バーネット、ディータ聞こえるか!
分析した結果が出た。応答しろ!!」


 しばらくの沈黙後、何か焦った様なカイの声が聞こえてくる。


『どりゃあああっ!!はあはあ・・・
何だよ!?こっちは今忙しいんだ!!』

『きゃああっ!?宇宙人さん、宇宙人さん!!こっちにも来たよ〜〜〜!!』

『少しはてめえで対処しろよ!
・・・ああ、もう!そこ動くな!今行ってやるから』


 只事ではない緊迫した状況が、回線を通してブリッジに伝わってきた。

さらに何かあったのだと通信で分かったブザムは、顔色を変えて訴えかける。


「状況を説明しろ、カイ。今何が起きている?」


 今のところ一番冷静そうなのはカイのようだ。

ジュラやバーネットはまったくの音信不通で、それどころではない様子が見受けられる。

危機感を込めて呼びかけたブザムに、カイは苛ただしく怒鳴った。


『砂が変形して襲ってきてるんだよ!完全に周りを囲まれてる!』

「砂が変形?どういう事だ?」

『だからだな・・・・後で説明するよ!
そっちこそなんだよ?つまらねえ用だったら承知ししねえぞ』


 何とか話を聞く態勢になったのかカイは続きを促すと、ブザムは神妙な顔で説明した。


「実はメイアがそちらへ向かって、突如ロストした。捜索を頼みたいんだ」

『はあっ!?青髪がこっちに来てるだぁ!?
おいおい、ちょっと待てよ。青髪は来させるなって俺は頼んだはずだろう?
なのに、何で来てやがるんだ!』


 カイの辛辣な指摘にブザムが答えに迷うと、カイは沈黙の意味を理解して怒鳴りつけた。


『・・・あいつが勝手に出やがったんだな?そうだろ?
って、ええい邪魔だ、この!』


 どさっと何か払いのける様な音がして、再び回線にカイが応答する。


『俺がそうならない様にお前らに頼んだんだよな?
なのに、これじゃあ意味ねーじゃねーかよ!
おい、くそばばあ!聞こえてるんだろう、答えろ!!』


 ブリッジ全体に響く怒鳴り声は、カイの怒りの深さを物語っている。

海賊団のお頭にあるまじき暴言の数々だが、誰も咎めようとはしなかった。

カイ自身は認識していない事かもしれないが、メイアを思いやっての怒りだと分かっていたからだ。

しばらく静寂がよぎり、やがてマグノが通信モニターのカイを見て静かに答えた。


「すまなかったね・・・あの娘の事は全てアタシの責任だ」

『・・・・俺はあんたなら止められるって思ったから言ったんだ。
仮にもお頭だろう?
仲間一人の面倒もまともに見れねえのか!』

「カイ、ちょっといい過ぎよ」

『てめえは黙ってろ!!』


 カイの大声に、ベルヴェデールはびくっと体を震わせて黙りこむ。

一方的に責められるマグノは無言で、申し開きも言い訳もしなかった。

メイアの事情を察するブザムはマグノが強く止められなかった理由を痛いほどよく分かっており、

心中辛い立場にいるマグノを補佐するように静かに口を開いた。


「カイ、お前がメイアを心配する気持ちは分かる。
しかしメイアが生半可で止められない事はお前とて分かっているはずだ」

『だ、だから俺はお前らに・・・!!』

「我々もメイアに強くはいえない。お前もそうだろう。
お前は誰かに強く止められたら言う事を聞く男か?」

『・・・・ちっ・・・・・・』 


 ブザムの言いたい事が分かり、カイはそれ以上文句は言えなかった。

罵声が収まりブリッジに居た堪れない雰囲気が流れた時、マグノは心のこもった言葉を発した。


「こんな事が言える筋合いじゃないけどね・・・・
カイ、メイアを助けてやっておくれ」

『・・・・・・・・・・・・』


 モニター先のカイの表情は躊躇いがありありと出ていた。

心に葛藤する何かがあり、素直に承諾できないのだ。

そこへ黙っていたエズラが懇願するように言った。


「カイちゃん、お願い。
メイアちゃんを、メイアちゃんを・・・・・・・」

『分かった!分かったよ・・・・
わかったからそんな泣きそうな顔しないでくれよ、おふくろさん。
ばあさんもブザムも、ベルヴェデールもしけた顔すんなよ。
俺が悪者みたいじゃねーか・・・・・』


 カイはバツの悪そうに頬を掻いて、困ったような顔をして叫んだ。

『あ〜あ、めんどくさい事ばっかり押し付けやがって!
助けりゃあいいんだろう!助ければよ!!
こうなったら全員まとめて助け出して、こんなトラップぶっ潰してやんよ。
てめえらはそこで安心して見ときやがれ!』 


 悪態なのか励ましているのかよく分からない言葉で、カイは通信を切る。

結局、カイは助けを求められて無視はできなかったのだ。

ブザムとマグノは顔を見合わせて・・・・





互いに、微笑みを交えた。 






















<続く>

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