ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action13 -神奈-
「そもそも、あんた達は何なのよ」
――精霊の試練。かつてカイが挑んで乗り越えた試練に今、ミスティが挑んでいる。
売り言葉に買い言葉のような形となってしまったが、ジャーナリストを目指す彼女としても渡りに船だった。
感情的になってしまっているが、真実を追求する姿勢に違いはない。
『我々は、マスターの下僕』
「はいはい、あんた達があいつ大好きなのは分かっているわよ。そもそもあいつをマスターと呼んでいるのも、よく分からないしね。
あんたやユメと呼ばれてるあの子が、精霊ってのは知ってる。
あたしが聞いているのは、真実よ!」
曖昧な追求に見えて、根幹をついたミスティの質問。
誰もが気にしていながらも、誰も追求できなかった問いかけを行っている。
本人は自覚していないが、ミスティ・コーンウェルにもまた精霊の試練に挑む気質を持っているのだ。
『我々はペークシス・プラグマを母体とした存在、任意に結合と分離を繰り返しています』
「エネルギー結晶体に、意志が宿っているとでもいうの?」
『人間の感情は、分析中』
「ふーん、意思を持っていながらも自覚が乏しい感じなのね」
推測と憶測を交えつつ、ミスティは真実を明らかにしていった。
真実を求めていながらも、精霊の試練として自分が問われているのも自覚している。
未知に挑む恐怖や不安はあるが、真実を知ることに恐れていてはジャーナリストは務まらない。
『この次元の探査中もまた、分離を行いました――今は、隔離されている状態です』
「隔離……まさか、あの子!?」
目の前に浮かぶソラが、このニル・ヴァーナのペークシス・プラグマであることは判明している。
ペークシス・プラグマ本体が分離をしたのであれば、片割れがどこかに存在することになる。
そしてこの船には二人、ソラと――ユメが存在する。
『地球の調査船に遭遇した際、事故により休眠に入りました』
「分離したって……あの子は、一体どこにいるの!?」
――聞かずとも、ミスティは薄々察してはいた。
明確な証拠はないが、状況を見れば明らかなのだ。刈り取り部隊を率いる地球には、ペークシス・プラグマが存在する。
そしてユメは人間を嫌っており、人間を殺すことを是とする少女なのだ。
「人間の感情は分析中とか言っていたけど、結構毒されているんじゃないの」
『マスターの下僕となった以上、あの方に求められる存在となるのは当然です』
「そういうところも含めて、毒されていると言っているのよ」
ユメは明らかにカイを愛しており、ソラはカイを明確に崇拝している。
好悪という感情を超えた気持ちは、人における影響と断言してもいいだろう。
彼女達は優れた存在であり、自身の感情も含めて自覚はしているはずだ。
ミスティが指摘しているのは、その認識さえも超えた影響を受けているという点に尽きる。
「人を好きになる気持ちに限界はないのよ、覚えておきなさい」
『指摘には感謝しますが、実体験には結びついていない御様子ですね』
「ぐっ……試練となると辛辣ね、あんた」
人を思う気持ちを説きながらも、人を思うことの経験がないことを指摘されてしまうミスティ。
かつてカイも試練の最中に負の感情に襲われて、恐怖や不安に振り回されてしまった。
ミスティの不安は故郷がない事、家族や仲間を失ってしまった事、傷を負ったまま孤独となってしまっている事――
地球を相手に勝利したとしても――その先は、どこにあるのだろうか。
『貴方の感情の行く先は何処ですか、ミスティ・コーンウェル』
「わ、わたしは……」
自分の真実は、一体どこにあるというのか。
今問われているのは、精霊からの試練。カイは過去がないが、未来があったからこそ戦えた。
彼女の未来は、形となっていない。
<END>
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