ＶＡＮＤＲＥＡＤ連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action10 −罠−

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　故郷への帰参を目指すべく旅を続けてきたマグノ海賊団とカイの前に、突如現れた謎の惑星。

死の可能性と生への展望を天秤にかけて思い切った決断を取った頭目マグノだったが、期待は裏切られた。

危険が迫りくるカイ達は突然の危機に戸惑い困惑した状態であったが、

惑星大気上に待機するニル・ヴァーナ艦内においても、突然の出来事に困惑する女性が一人いた。


「お頭、明確な説明をお願いします。何故私の出撃を認めてもらえないのでしょうか？」


　カイを筆頭にした蛮型数機が出撃した後の格納庫にて、元来調査班リーダーだったメイアが声を出す。

数十分前までは整備クルー達が活動をしていて騒がしかったこの場所も、今では静けさに満ちている。

メイアは自分が乗り込む予定だった蛮型の前で、マグノ海賊団お頭のマグノと口論を続けていた。


『ドクターから検査結果を見せてもらった。
その上であんたは今回の仕事には不適切だと判断したんだよ』


　携帯型通信機の小型モニターの向こうより、マグノは厳しい表情で言葉を述べる。

事の起こりは艦内に出撃合図のアラームが鳴り響いた時、メイアが蛮型に乗り込もうとした時である。

マグノの命令と精神的ケアの不十分さにより、メイアは予定時刻より行動が遅れてしまったのだ。

仕事時間に対する遅刻。

これは今までメイアには一度たりともなかった事である。

いや、あり得ないと断言してもいい。

女性ながらに勤勉実直を絵に描いたようなメイアは、パイロットとしての責務には忠実に行っていた。

だからこそ数多くの部下に頼られて、マグノ達重鎮に信用されてきたのである。

真面目であり、責任感も高い。

そんなメイアが遅刻してしまう程に、先のトラブルはダメージが大きかったのだ。

出撃して精神的外傷が尾を引いてしまう事を懸念してのマグノの言葉に、メイアは反論した。


「私は問題ありません。任務には影響を及ぼしませんので許可を！」

『シュミレーション時に多大な悪影響を見せているパイロットを信用しろと言うのかい？』

「そ、それは・・・」


　お頭としての厳しい言葉に、いつもは強気な姿勢を崩さないメイアも弱腰だった。

メイアにとってマグノとは一番の自分の理解者であり、この宇宙で一番尊敬している人物である。

常日頃気にかけてもらい、過去に命を救ってもらった恩人でもあった。

そんなマグノの命令に、メイアは真っ向から反対を出しづらいのである。

しばし考えて、メイアは通信機越しにマグノと視線を合わせる。


「お頭、私にはチームリーダーとしての責任があります。
ジュラやバーネット、パイロットとしてはまだ新人のディータも命を賭けているんです。
私一人がどうしておめおめと休む事なんて出来るのでしょうか！」


　メイアの意見は至極立派であり、リーダーとして輝かしい気質を漂わせている。

部下が危険の可能性を承知しながら出向いている状況で、一人安全な場所にはいられない。

責任の中に思いやりをこもっている、メイアという女性の優しさが浮き彫りとされていた。

メイアの気持ちに触れて、マグノは困った顔をして虚空を仰ぎ見る。

マグノとしてはカイと同意見であり、出来るなら惑星への調査は中止してもらいたいのが本音である。

特にマグノは、メイアが何故蛮型のコックピット内で異常を喫したかの理由を知っているのだ。

海賊クルー150名を束ねるお頭としては些か不平等ではあるが、メイアはそれほど特別な存在なのだ。

能力的にどうこうではなく、本人の過去に起因している。

知りえるからこそ、行かせたくはない。

このまま強固に命令をすれば、メイアとて強引な出撃は行わないであろう。

しかしメイアという人物を尊重するのであれば、そのような強引な真似はできなかった。

マグノが内心苦悩していると、押しが弱いと判断したメイアは言葉を続ける。


「それにあの男も出撃しています。
正直私は何故あの男を調査班のメンバーに加えたのか、理解に苦しみます。
また身勝手な行動をされては調査そのものが断行する可能性もあります。
私が行って監視をしなければいけません」

『随分と信用がないね、あの坊やも。今まで結果はきっちりと出しているじゃないか』

「偶然です！それに男にどうして信用を置かなければいけないのですか！
お頭はあの男に信頼を置き過ぎています。あの男は敵なのですよ！」


　男は敵なのではなく、メイアにはカイ＝敵の方程式が出来上がっている。

ではドゥエロやバートの方が信用しているのかといえばそうではなく、むしろカイのみを目の敵にしていた。

ひとえに近頃の気まずい状態に加えて、シュミレーション室での一件が関係そのものを難航化させている。

カイがのびのび出撃しているのに、自分が留まっているのは我慢ならないのだ。

メイアの身を思いやるカイの心遣いと完全にすれ違っており、マグノは二人に不憫すら感じた。

一体何がカイとメイアをこうまで分け隔てているのだろうか？

男と女、タラークとメジェール、捕虜とチームリーダー。

そんな性別・国境・立場そのものを越えた何かが、二人に哀しい冷たさを舞い落とさせているのだ。

マグノが言葉を失っていると、格納庫入り口よりおずおずと一つの影が入ってくる。

瞬時に気がついたメイアが視線を向けると、こちらへ向かってふよふよ飛んで来るピョロの姿があった。


「メイア、どうしても行くぴょろか？」

「お前もか・・・・
当然だ。私には責任がある」


　厳しい表情を崩さずにメイアが答えると、ピョロは悲しい瞳で見つめ返してくる。

ピョロもまた、カイに頼まれてやって来たのだった。

「万が一何かしでかすかもしれないから、それとなく様子を見てろ」、カイの言葉だった。

と言っても、ピョロはカイに言われたからだけでメイアの様子を見に来たのではなかった。

普段は決して見られないメイアの苦悩する情景を、あの一室でピョロは見ていた。

それでいてカイの気遣いを刎ね付けて、一人孤独に戦い続けるメイアに哀れみの感情を抱いたのである。

未成熟な心ながらに、ピョロはメイアの身を案じている。

周りの環境・周りの状況・周りの人間達がピョロを人間らしくしていっているのだ。


「メイアがそんなに頑張る事はないぴょろ。カイ達がきっと成果をあげるぴょろよ」

「あの男に任せておく訳には行かない！私も行く」


　カイという単語を聞いてからというもの、メイアはすっかり意固地になっているようだ。

ピョロはいち早く気がついて、自分の言葉を分析し直して修正する。


「お頭の命令を無視していいぴょろか？」

「・・・・・・」


　ネックとなっている箇所を指摘されて、メイアは苦渋の表情で黙り込んだ。

仲間達と任務への責任とカイへの意地。自分にとっては絶対的な人物マグノ＝ビバンからの命令。

優先するべき事項はどちらかと問われれば、即答は出来ない程の二社選択だった。

命令を無視して飛び出せば、任務をこなせるが重大な上司への反逆となる。

命令に甘んずれば、上司への顔は立つが仲間達へ背を向ける事となる。

どちらを選んでも何かを得て、何かを失う。

カイがマグノに頼んだ事への思惑は、実に的確にメイアを悩ませる足止めとなった。

が、そんなメイアを決断させる出来事が始まろうとしていた。

ほっそりとした手に持っていた通信機より、切迫した声が届いたのだ。


『乗組員の心拍数が急激に乱れている。彼らに何かあったようだ！』


　ドクターであり調査班の顧問を勤めるドゥエロの声に、メイアははっと顔をあげる。

先に惑星降下をしたジュラ達に何か異変が起きたのだ。

重く圧し掛かっていた脳裏が瞬時に消えうせて、メイアは毅然とした瞳を前に向ける。

向けられた視線の先にはメイア用にカラーコーティングされた白き機体が鎮座していた。

メイアは通信機を口元へ当てて、一言こう宣言した。


「ジュラ達の援護に向かいます。お話は後で！」

『待ちな、メイア！まだ事態は把握できた訳じゃ・・・・』

「今はそのような事を言っている場合ではありません！」


　静止するマグノにぴしゃりと言い捨てて、メイアは通信機を強引に切り走り出す。

自分の搭乗が決定している蛮型の足元に設置された梯子を登り、ハッチへ向かおうというのだ。

様子に気がついたピョロは慌ててメイアの前に立ち塞がり、焦ったような声を出す。


「無茶だぴょろ！やめるぴょろ！」

「止めても無駄だ。私は責務を果たす」


　きっぱりと言い切ったメイアをしばし見つめ、ピョロは諦めるしかなかった。

今のメイアにはもう何を言っても聞かないと理解できたからだ。

ピョロは心底疲れたような仕草をして、小さなボディをがっくり落とした。

内心助けになれなかったカイに謝りながら、ピョロはメイアに道を譲る。

ピョロの様子にメイアはやや戸惑いを見せたが、それも束の間であっという間にハッチ近くまで進んでいく。

焦りを隠せずに射出を急ぐメイアに、ピョロは最後の忠告を行った。


「メイア、宙航船はジュラ達が乗っていった奴一機だけぴょろ」
もう予備はないぴょろよ」

「一騎しかないだと？・・・・では」


　メイアが確認の声を上げると、ピョロは順応して頷いた。


「そう、カイのように独力で進まないといけないんだぴょろよ。
でもカイの蛮型のように改良がされてないから、かなりの時間を必要とするぴょろ」　


　カイとジュラ達女性クルーが乗る蛮型には違いがある。

改良されたか、改良されてないプロトタイプか、である

ペークシス暴走により改良されたカイの機体は飛躍的な機能性の向上を見せているのに対して、

ジュラ達の乗る蛮型はベースそのものであり、陸上戦用であるがためにブースターの速度は相当貧弱である。

基本型で蛮型とドレッドが争っても、スピード性はドレッドに軍配が上がるのだ。

その弱点を生かすべく開発されたのが、ジュラ達が乗っていった宙航船である。

蛮型数機を格納する事が出来ながらも、ＳＰ蛮型並みの加速力が可能な船。

旧艦区に出番もなくそのままにされていたのを、ブザム達が新しく利用したのであった。

ただ現況で問題点が二つあり、一つはピョロの言うように旧艦区内に宙航船は一つだけしかないという事。

そしてもう一つはと言うと、


「それに宙航船は燃費が悪いから、その一機も連続使用は出来ないんだぴょろ。
万が一のために宙航船を利用しようとしても、恐らくは無駄だと思うぴょろよ」


　ピョロの指摘が正しければ、メイアは初っ端からペナルティを背負わされる事となる。

ジュラ達が惑星降下を手早く順調に行えたのは、宙航船の機能性があってこそなのだ。

その宙航船がなければ、メイアの乗る蛮型九十九式はおなざり程度のブースターしかない。

結果多大な時間ロスとなってしまい惑星到着は遅れ、ジュラ達の状況が悪化する恐れがあるのだ。

何しろ現段階で既に異常が発生しており。逃げるにも一機しかない宙航船は今はもう燃料切れとなっている。

好転する可能性はあるかもしれないが、少なくともメイアは何も出来ないまま終わってしまうだろう。

ピョロの忠告を聞き入れたメイアはしばし瞑目したが、そのままコックピットに乗り込んでしまった。

結局、どの言葉もメイアを止める事は出来なかったのだ・・・・・・

スライドしてコックピットは閉まってしまい、ピョロは自分の頭を頼りなく掻いて言った。


「気をつけるぴょろよ、メイア・・・・」


　傷を抱えてそれでも尚進まんとするメイアに、第三者に過ぎない身では祈る事しか出来なかった。















　事前調査が終わり、調査班の動向のみに気を配っていたブリッジだったが異変が起きた。

最初にその異変に気がついたのは、パイロット全員の心理状態に目を配っていたドゥエロだった。

ブリッジの右舷後方に位置する自分の席に着席して、コンソールを見つめていたドゥエロが目を見張る。

コンソールの画面内でのカイ・ディータ・ジュラ・バーネット四人の心理グラフが荒れ始めたのだ。

つい一分前までは四人とも落ち着いた波形であったのに、今では波紋が生じている。


「乗組員の心拍数が急激に乱れている。彼らに何かあったようだ！」


　落ち着いた表情より緊張気味の声を出して、ドゥエロは副長席のブザムに進言する。

起こりえてほしくはなかった異常事態の発生だった。

惑星探索を申し出た上で任務の全ての責任を背負っているブザムは立ち上がって、クルー達に命令する。

当のお頭はメイアとの口論中であった。


「報告！パイロット達に何があった？」


　問われたアマローネ・ベルヴェデール両名は、手元のコンソールより送られてくるデータに顔を青ざめる。

画面より表示されるデータには、四機が危険な状況に追い込まれているとあるのだ。

年長者ゆえ比較的まだ冷静さを保っているアマローネが、背後を振り返って答えた。


「地表上の建築物よりトラップが発生しました！
パイロット全員が巻き込まれている模様です」


　アマローネの声に我に返ったのか、ベルヴェデールも息を呑んで報告の補足を行う。


「四機の周囲数百メートルに渡って、大規模なシールドが発生！
調査班は完全に閉じ込められ、現在混戦しています！！」

　現ブリッジクルーでトップクラスの優秀さを持っている二人の報告に、ブザムの頬を一筋の汗が伝う。

それでも混乱や動揺を周囲に見せないだけ、ブザムは副長として冷静であった。

異常事態発生後ノイズが走るのみの中央モニターに目を向けて、威厳のある声を張り上げた。


「上陸班、応答せよ！何が起きている！！」


　惑星上にいるパイロット達に届けとばかりの大声だったが、どうやらきちんと通じたようだ。

ほどなくして三つの通信モニターが展開し、ジュラ・バーネット・ディータ三名が応答する。

全員が全員苦渋と苦痛に満ちた表情をしており、見ている者の心を締め付ける。


『ちょ、ちょっと何よこれ！きゃあっ！？』

『駄目だわ、完全に閉じ込められた！
トラップに気がつかないなんて迂闊だったわ・・・・』


　完全に状況を見失っているジュラと悔恨の響きを声にのせたバーネットが、口々に叫んだ。

そして最後ディータの悲鳴交じりの声が、ブリッジにいる全員の肝を冷やした。


『宇宙人さんがビビーって撃たれました！宇宙人さんが死んじゃいます！！
お頭〜、助けてください〜！！』


　元々思った事をそのまま口に出す性格のディータだが、混乱している今では内容の把握がしづらかった。

それだけに映像や物語にはない生のリアルさがある。

ブリッジの皆が動揺しているのを察して、報告を聞き入れたマグノは身を乗り出してディータに問うた。


「ゆっくり落ち着いて話しておくれ、ディータ。
カイは撃たれたというのは本当かい？」


　ゆるやかで慈愛のこもったマグノの声に、ディータはスンスンとしゃくり上げながら答えた。


『は、はい！お空から偵察すると言って飛んでいった宇宙人目掛けて、お家からビビーって光が出たんです。
宇宙人さんの後ろから飛んでいって、宇宙人避けられなくてそれで・・・』


　たどたどしい説明だったが、大まかな内容は全員に伝わった。

つまり上空より偵察しようとしたカイを目掛けて地表面の建物からレーザーが発射され、やられたのだ。

カイの取った行動が惑星からの離脱と判断されて、逃がすまいとしたトラップ類が発動なのだろう。

ブザムやマグノはそう推論を組み立てたが、ベルヴェデールはそう落ち着いてはいられなかった。


「カイは！？カイは無事なの、ディータ！」


　焦燥の募るベルヴェデールの叫びに、ディータはおろおろして答えた。

ベルヴェデールの言葉はブリッジにいる者全ての問いだったが、ディータとて混乱は冷めきっていない。


『そ、それが、全然動かなくて、あ、あの・・・・』

「それじゃ分からないわよ！もっとちゃんと見て！！」

「落ち着いて、ベル！そんなに責めちゃ余計に混乱するわ！」

「ご、ごめん・・・・」


　アマローネの叱責に、ベルヴェデールは身を縮めて小さく詫びた。

とは言え、アマローネ自身もさほど心情はベルヴェデールと変わりはない。

ただ傍らで取り乱しているベルヴェデールを見て、逆に冷静になれただけであった。

二人のそんな気持ちを思いやって、ブザムはジュラ達に視線を向ける。


「ジュラ、バーネット。カイの状況は分かるか？
せめて生存だけでも確認を・・・・・・・」





『生きてるわい！勝手に人を死んだ事にするな！』





　やや元気のない、されど気合と活力はまだまだ衰えていないカイの声。

一同は表情を明るくし、ベルヴェデール達は身を乗り出して声を張り上げる。


「カイ、無事なのね！」

『当然よ。こんなちゃちな攻撃でやられる程俺はひ弱じゃないぜ』


　相変わらずの強気な発言にアマローネは安心したように息を吐いて、同じくいつものように言った。　


「ま、あんたみたいな奴が死ぬなんてありえなかったわね。
ゴキブリより生命力がありそうだし」

『お前ね・・・宇宙一のヒーローを一体なんだと思ってやがる！』


　危機感の迫った状態だったが、カイはいつも通りだった。

ベルヴェデールやアマローネ、オペレーター席に着席しているエズラも安心したようだ。

しかし、ブザムとマグノだけは気がついていた。

カイの声にいつもの元気さとは裏腹に、少々の隠された苦痛が混じっている事に。

レーザーを撃たれた事の後遺症なのだろう。まだダメージが抜け切っていないのだ。

だが心配をかけまいとそんな様子を見せずにいるカイに、二人は改めてカイを見直した。

ブザムは口元を緩めて、ヴォイスのみでブリッジに繋いでいるカイに問い掛けた。


「カイ、状況を説明してくれ。どのようなトラップなんだ？」

『ち、やってくれたぜ敵さんはよ。俺達が散々見てきたのに欺いてたんだ』

「？どういう事だ？」


　ブザムの静かな声の質問に、どこか鬱陶しげにカイは答えた。


『砂そのものが襲い掛かってきているんだ』

「！？な、なんだと・・・・」


　常軌を逸脱したカイの返答に、ブザムは言葉を失った。

どうやらブザムの想定していた危険性をはるかに凌駕する事態が、惑星上で起こっているようだった。

＜続く＞

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