ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action2 -抱持-
カイに半ば引っ張られる形となったが、功績が少ないと脅されたジュラは渋々ヴァンドレッド・ジュラに乗り込んで出撃した。
戦闘そのものが行われることはない。磁気嵐に潜んでいた刈り取り兵器は全て討ち取られており、戦闘はマグノ海賊団の勝利で終わっている。
今回の相手は磁気嵐という自然現象そのものであり、ある種地球よりも手強い驚異であった。話し合えないという点では、一致している。
その為の、ヴァンドレッド・ジュラ。防御に特化したこの期待が、役立つ時が来た。
「確かに色んな部分が強化されているな」
「スーパーヴァンドレッド誕生の影響で、ヴァージョンアップされているもの」
シールドを展開してニル・ヴァーナを包み込み、ヴァンドレッド・ジュラが牽引。分厚い装甲に守られている母艦が先陣に立ち、血路を開いていく。
地球最大の戦力である母艦を略奪できた点も大きいが、何より母艦との一戦で誕生したスーパーヴァンドレッドによる恩恵も素晴らしい。
全ての機能がヴァージョンアップされていて、以前より優れていた防御力が密度を増している。
シールドの展開範囲も拡大されており、ニル・ヴァーナ全体を守れるほどの出力を維持できていた。
「これなら少々の磁気嵐でも乗り切れるぜ」
「本当に?」
「何故念押しするのか分からんが、本当だよ。一緒に搭乗していて分かるだろう」
眉をひそめてカイが問いかけると、ジュラがニンマリ笑うのが見える。もうこの時点で、カイは嫌な予感がしていた。
ジュラとももう一年ほどの付き合いとなり、多くの戦場を共に戦って戦友となっている。彼女の人間性は疑っていない。
特に髪を短くしてからというもの、殊勝な性格となって、よく出来た女となっている。バーネットとも色々あったが、親友に戻っている。
だが人間、性根というものはそう簡単には変わらない。
「じゃあさ、ジュラが言っちゃっていい?」
「何を……?」
「磁気嵐はちゃんと突破できると、皆に言って安心させたいのよ」
「ああ、なるほどな。だったら、どうぞ」
理由を聞けば、至極頷けるものであった。別におかしな事でも何でもなく、むしろ拍子抜けさせられた感じである。
ご体操に勿体つけた割には当然の理由で、むしろ警戒した自分が悪いのかカイは苦笑いさせられた。
自分から言わなければならない理由は全く無いので、ジュラに任せて操縦を続ける。長年の仲間であるジュラから言った方がいい。
カイに促されて、ジュラは満面の笑顔でニル・ヴァーナの全艦内放送で訴えかけた。
「皆、見てる〜? ヴァージョンアップしたジュラが、メジェールまで引っ張っていってあげるからね!」
「うわ……」
カイはジュラの真意を悟って、げんなりとした顔でつぶやいた。ようするに、功績がないと言われたのを気にしているのだ。
彼女とて別にサボっている訳ではないのだが、メイアやディータが目覚ましい活躍をあげているため、指摘されて焦ったのだろう。
ここぞとばかりにアピールするその姿勢には呆れつつも、見上げた根性には感心させられるカイだった。
この強かさがあってこそ、海賊の世界で生き延びてきたのだろう。
「みんな、感謝しなさいよー!」
(まあ皆も喜んでいるみたいだから、敢えて何も言わないでおいてやるか)
カイが艦内の様子を探ると、ジュラの吉報を聞きつけて、仲間達がはしゃいでいる声が聞こえてきた。
一年以上もの苦労を経て、ようやく自分の故郷へと帰ってきたのだ。何処ぞと知れぬ宇宙の果てにまで飛ばされた彼女達の不安は想像に絶する。
その旅も地球に臓器を狙われていた、過酷な旅であった。死なずに無事帰ってこれたのは、奇跡そのものだ。
この磁気嵐を突破すれば、故郷メジェールがもう目の前であった。
(故郷か……クソ親父の奴、元気にしているかな)
本当の故郷は地球だが、捨てられた以上カイには何の思い入れもない。さりとて労働階級だったタラークも、感慨に浸る程でもなかった。
カイにとって気になるのは場所ではなく、人物。場末の酒場を切り盛りしていた頑固な中年オヤジ、マーカスただ一人である。
育ての親であり、毎日ケンカしつつも一緒に生活していた。育ててもらった音は、今でも忘れていない。
病気の一つもしない元気な男ではあるのだが、一年以上も過ぎてしまうと気になってしまう。
(だからといってそのまま帰るのは難しい……バートやドゥエロを頼ってみるか)
雇われて軍艦イカヅチに乗り込んだ身であるのだが、女海賊と共に旅をしていたとなれば何を言われるか分かったものではない。
極刑になることはないのだが、不慮の事故として温情をかけてもらえるとは思えなかった。軍国タラークにとって、三等民に人間としての価値はない。
その点、バートやドゥエロは士官候補生であり、将来を約束されたエリートである。特にドゥエロはトップクラスであり、相当目をかけられていたそうだ。
彼らの一声さえあれば、少なくとも故郷の地は踏めるだろう。親に紹介するのも悪くはない。
(故郷へ帰ったからが、本当の勝負だな)
少なくとも故郷を懐かしむ余裕は、カイにはなさそうだった。
<END>
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