ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action35 -真持-
天から、光が差し込んでくる――延々と続くかと思われたが、この高い崖も終わりが見えてきた。
喜びも悲しみも、怒りも憎しみも、いつまでも続かない。思いはやがて途切れ、気持ちは切り替わっていく。永遠なんて、この世にはないのだ。
精霊達も同じである。寿命を超越した存在だが、さりとて一個の存在。不変はやがて終わり、違う存在へと変わっていく。
この精霊の試練は、人間も精霊も等しく試されるのだろう。
「こんな俺でも、信じてくれる奴らがいるんだ」
決して途切れることなく思いを保ち続けるには、一人では不可能だ。孤独である限り、やがて途切れてしまうのだから。
だからこそ人は一人ではなく、集団で生きている。人間のそうした性質を弱いと評するのは正しくあり、間違えてもいる。
一人では、確かに弱い。けれど、自分以外の他人がいる。誰かと思いを共有できれば思いは強くなり、途切れることなく貫ける。
カイは自分以外の存在に手を伸ばし、精霊は一人の人間の手を繋いだ。
「仲間や家族、自分以外の誰かのためにだって、俺は戦える」
ヒーローを目指している自分、その気持ちは今も持っている。夢を持てているのは、ヒーローとならんとする自分を応援してくれる人達がいるから。
肯定している人達ばかりではない。マグノ海賊団、自分とは真逆の生き方をしてきた人達。最初こそ否定したが、彼女達がいてこそ今の自分がいる。
違う生き方を見せられて、自分の生き方を見つめ直せた。肯定されるだけでは、きっと分からなかっただろう。独善的な正義に、溺れてしまっていた。
そして試練を通じて、自分とは異なる存在と交流できた。
「だからこそ、俺は」
そして、少年は手を伸ばす――光在る場所、頂上。試練は今、終わる。
少しでも振り返れば奈落の底、もしも落ちてしまえば死ぬだろう。死と生は隣り合わせ、恐れてしまえば手が縮こまる。
それでも、カイは前を見つめている。空を見上げている。あの頃のままに、あの時のように――そして今も、こうして。
天に向かって、登り続ける。
「生きる」
――そして、辿り着いた。
山の頂、眩い太陽が見える場所。この惑星で一番空に近い地点に、カイは立っている。
手をボロボロにして、足をふらつかせて、心を疲弊させて、ようやく辿り着いた。この一年、生き続けたことは無駄ではなかった。
けれど、ここは空ではない。
「ふふ、そうだろうな……今の俺はまだ、ヒーローじゃない」
随分と頑張ってきたつもりだったのだが、それでも一年である。人生はまだまだ先が長く、背丈も伸び切っていない。
思わず、カイは笑ってしまった。試練を突破できたが、思い知ったのは自分自身の小ささである。この試練で心境の変化があった訳ではない。
大切なものを思い出し、大切なもの達を見つけられた。それで十分だった。
自分は、世界の中心ではない――皆で一緒に、そこへ向かって進むのだ。
「ソラ、ユメ、一緒に行くぞ」
"イエス、マスター。貴方と共に、何処までも"
"ずーと一緒に生きようね、ますたぁー"
――大空の彼方から、仲間達が乗る船がやって来るのが見える。素晴らしいタイミング、まさに神様からの贈り物だった。
試練を終えて、少年はとても晴れやかだった。何も変わることはなかったが、変わらないものを見つけられた。
後は、変えるだけだ。故郷を、人間を――
そして、地球を。
<to be continued>
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