VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 5 -A shout of the heart-
Action9 −砂−
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戦闘的と表現するには戦意がない。保身的と表現するには頼りがない。
カイ機が目下大気圏内に突入し、装甲を赤く彩られた瞬間にそれは突如として展開された。
一本の鉄色の棒にしか見えないそれは両手に真っ直ぐ掲げると、先端が急速に変化を遂げる。
先端より突出した鉄の板は全方位に広がっていき扇状になったかと思うと、円形に固定化されて停止した。
タラーク軍最新鋭兵器・蛮型九十九式の絶対的不可侵であった大気圏への突入。
陸上戦用に製作された人型兵器に致命的であった弱点を補うべく開発されたのが、この「蛮傘」である。
安易ながらに的確な固有名称。
完成形としてカイ機の両腕に掲げられているのは一本の傘だった。
「こんな傘で本当に大丈夫なんだろうな・・・」
飛躍的に高まりつつある温度上昇の影響下にあるコックピット内で、カイは疑わしげに言った。
蛮型の操縦は通常機体とパイロットは関係はなく、機体に損傷を受けてもパイロットに傷はつかない。
大破・破損をしたのならともかく、人型だからと言ってもパイロットとシンクロしている訳ではないのだ。
一般的な蛮型であるのならば。
ところがカイの相棒であるペークシス改良型蛮型は、規格からして異なる。
機能性・操縦性・攻防性の進化と強化に合わせるかのように、搭乗者との密接的な関係を強制されるのだ。
言っていれば、機体のダメージは100パーセントカイのダメージに繋がる。
装甲がダメージを受ければカイも傷つき、機体が破壊されればカイもまた滅するのである。
今回の惑星降下による大気圏からの膨大な熱量に晒されれば、カイもまた比例して高温度に包まれてしまう。
蒸すような暑さに吹き出る汗を拭いつつ、カイは必死で操縦桿を操る。
現在も恐ろしい速度で急落下している上に、第一関門である大気圏内にいるのだ。
一度失敗するだけでも死の危険性をはらんでいる為に、カイも真剣にならざるをえない。
「怪しいもんだけど、ドゥエロが太鼓判押してくれたからな。信用するしかないか」
惑星への突入にむけて、カイ達調査班の指揮にあたっているのは副長のブザムだった。
今回の調査を提唱したのは自分であるがために、ブザムは慎重に事を構えていた。
調査前には念入りな整備とシュミレーションの徹底を促し、パイロット達に計画の詳細を説明。
その際に蛮型の弱点を説明して、対大気圏用に蛮傘を準備させたのだ。
パイロット全員が初使用であったために、監督であるドゥエロが使い方を説明。
一度の失敗も許されないために、何度もシュミレーションは重ねている。
幸い各パイロットの腕前は一定値以上であったがために、コントロール可能までには全員至っていた。
「おっし、本格的に突入するぜ。全員準備はいいか?」
アマローネ達との交信に時間を割いてしまったカイは、ようやく追い抜かしたジュラ達の後ろにつく。
全員に向けての通信を送ったのだが、カイへの反応は一様に冷たかった。
『あんた、今ごろ来て何言っているの!こっちはもうとっくに準備はできてるわよ!』
『宇宙人さん、誰と話していたの!』
二人のいきり立つ理由がすれ違っているような気がして、カイは戸惑い気味に答えた。
「ちょっと調査前の最終確認してただけだよ。
何しろ俺は慎重な男だからな。物事は常にあらゆる可能性を考慮して対処してかかるのだ」
言っている事は立派なのだが、日頃のカイをある程度知っているバーネットは冷淡に呟いた。
『あんたがそんな殊勝な心がけで挑むとは全然思えないわ。
どうせお頭か誰かに注意でもされてたんでしょ』
バーネットの指摘はあながち的外れとは言えず、カイは言葉に詰まる。
微妙な沈黙にジュラはぴくりと眉を動かして、通信モニターを開いてカイの顔を覗き込む。
合体を約束してからか、以前は話すのも嫌がっていたジュラがカイに対して自然な態度で接していた。
『何でもいいけど、仕事はちゃんとしてよね。
あんたにはジュラと合体してもらわないといけないんだから』
『ええええっ!?どういう事、どういう事!?
どうしてジュラと宇宙人さんが合体するって決まっているの!』
音声いっぱいにぶつけて来るディータのソプラノ声に、カイは顔をしかめる。
あまり知られたくなかった事実なので、カイは口をつぐんでいたのだ。
もしジュラと合体すると約束した事がばれたらどうなるか、カイはディータがどう言うか想像は出来ていた。
「言っておくが、一回だけの約束だからな。
ちょっと頼まれて仕方がなく引き受けただけだ」
何とか宥めようと簡潔に説明するカイだったが、ディータは一言二言では納得できなかった。
前回のウニ型との攻防で、合体への思い入れを深めたのは何もジュラだけではない。
同じく合体できるディータもまた、カイとの合体には夢見ていたのだ。
メジェールにて生まれ育っていた頃より宇宙人とのコンタクトに思いを寄せていたディータにとって、
ヒーローを目指して活躍するカイとの合体は、積み重なった思いの結晶化とも言える。
だからこそメイアとの二度目の合体には敵を殲滅できたものの不満はあったし、
その後の平穏な生活において、積極的にカイと仲良くなろうとしていたのである。
しかし実情はカイとの関係は仲良くはなっているがまだまだであり、合体への容認は程遠かった。
ヤキモキしていたそんな状態で、こともあろうかジュラがカイと合体すると言い出した。
しかも、カイはその事実を認めている節がある。
いかに天真爛漫な性格をしているディータも、不満が爆発しておかしくはなかった。
『駄目駄目駄目駄目!!宇宙人さんはディータと合体するの!!』
「何言っているんだ、お前まで」
ただでさえジュラとの合体には乗り気ではないのに、それ以上希望者が出てはたまらない。
疲れた顔をして落ち着かせようとしたカイだが、第三者がよりにもよって激化させた。
『ちょっと、ディータ!あんた何言っているのよ。
カイはジュラと合体するって言っているのよ。あんたはお呼びじゃないわ』
「ジュラと」の部分を殊更に強調して、ジュラはモニター先で髪を掻きあげて述べる。
そこへ新しいモニター回線が開いて、ディータの表情がアップ化される。
『宇宙人さんはディータと合体するの!ジュラこそ駄目なの!』
普段はジュラに対して一歩引いた関係のディータだが、ことカイの事になると強気だった。
自分にとって本当の英雄であるカイを一人の物にしたい乙女としての願望が、健気に働いているのだ。
一方ジュラとて負けてはいない。
カイと合体する事による新しい自分への可能性に、ジュラは胸の内を熱く燃やしているのだ。
『何よ、あんた!ジュラとやる気!』
『ディータ、負けないもん!』
そのままモニター越しに睨み合って、ディータとジュラは一種即発状態に陥った。
矢面に立たされたカイは口を挟むのも馬鹿らしくなり、一人で頭を抱える。
すると操縦桿中央のモニターにノイズが一瞬走り、調査班ラストメンバー・バーネットが映し出された。
美人顔には同情の色が濃く、小さくため息を吐いてカイを見やった。
『色々と大変ね、あんたも・・・』
「そう言ってくれるのはお前だけだよ、黒髪」
正確には独特の緑の混じった髪だが、そうバーネットを呼んでカイも同じくため息を吐いた。
ジュラとは数年来の親友であるバーネットだが、共にする事で苦労は多いのかもしれない。
二人して控え目に笑みを交えると、カイのコックピット内に警告ランプが点る。
コンディション表示もグリーンからレッドに変わって、状態表示には「状態不良」とあった。
「やっべ!機体が熱膨張を起こし始めてやがる!?
おい、お前ら。喧嘩は後にして、星へ突っ切るぞ!!」
カイ達が話しこんでいる間にも機体は降下を続けており、大気の反作用エネルギーが高まっているのだ。
一刻も早い対処を行わなければ、蛮型は着陸をする事なく燃え尽きてしまう。
SP蛮型よりグレードダウンする九十九式に乗り込んでいる彼女達は、カイの警告に表情を引き締める。
喧嘩をしている状態ではないことに気がついたのだ。
『しょうがないわね。とりあえず星に降りてからね。
そこでゆっくり合体しましょう』
『だーめ!ディータとするの!』
「どっちでもいいから早くしろ、お前ら!!」
再び第二ラウンドが始まりそうな気配に、カイはたまらず怒鳴り声を上げた。
信頼を培うのも難しいが、信頼を寄せられつつある場合でも難しいところなのかもしれない。
エネルギーには物理学的観点からして、相反する放出のぶつかり合いが生じると提唱されている。
前へ進もうとするエネルギーを「+」とすると、後ろへ引こうとするエネルギーは「−」。
世界とは均衡の上に成り立っており、エネルギーにおいても不変的なバランスは存在する。
バランス無き事象の果てにあるものは消滅でしかないからだ。
それは現状においても同様である。
大気圏という言わば星の防御壁に対して侵入を試みれば、反するエネルギーもまた生まれる。
地表への蛮型の垂直降下に対して、真上に生じる大気からの爆発的なエネルギーがそれだ。
簡単に言えば降下エネルギーへの反作用であり、真上へ向かって蛮型に熱量がぶつかってくるのである。
そのエネルギー量は人間など一瞬で灰燼に帰す程であり、蛮型の装甲でも太刀打ちは出来ない。
蛮傘は大気圏のそんな反作用エネルギーを完全に遮断できる対熱コーティングがなされており、
降下するタイミングに合わせて傘を逆さに向ける事で、完全なる防御が可能となるのだ。
カイ機を先頭に、宙航船に乗り込んでいるディータ達三機もそれぞれに蛮傘を大気圏へと向ける。
惑星からの重力に導かれるように濃密な大気圏内を潜り抜け、傘の表面は反エネルギーを浴びる。
突き進んで行くに連れてヒートして発生する炎すらものともせずに、傘は持ち主を守り続けた。
炎という塊に凝縮した熱は朱に染まり、傘を絶え間なく炙る。
まるで星への侵入を拒むかのように。宇宙からの訪問者に熱い歓迎を行うかのように。
執拗なぶつかり合いはやがてデッドラインを超えて、周りの空間ごと冴え渡り始める。
蛮型はカイ機を初めに無傷のまま舞い降りて、やがて灼熱地獄を突破した。
外見こそ優れた効能を期待できない構造となっていたが、
蛮傘は生まれ持った使命を見事に果たし、さらにパイロット達に恩恵を与える。
大気圏を突破すると苛烈なエネルギーの抵抗は徐々に消えていき、機体は重力に縛られて地面へと落下する。
重力の影響をまともに受けるとどうなるかは知らぬ者はいないだろう。
直格好で急激な落下が行われるその瞬間、カイ達は傘を元の体勢へと戻す。
下から上へ傘の状態を戻す事により、空気抵抗を利用した緩やかな着陸を可能と出来るのだ。
気圧も降りる速度と比例して高まり、カイ達はコックピット内から肉眼で惑星環境を見渡せるようになった。
ブリッジにて観察されていた砂嵐は止んでいるものの、惑星内の大気の状態は不安定である。
地表面を覆い尽くす砂は空気中を舞って上空へと駆け上がり、雲を黄土色にペイントしていた。
そんな環境において見上げる事1000メートル、雲の間より蛮型の数々が登場する。
金色・赤・青・紫の特色あるカラーに色分けされた四機は、ふらりふらりと風に煽られて地面に落ちる。
惑星降下の最終関門、地表面への着陸である。
宇宙からの急降下は蛮傘により速度は緩やかとなるが、それでも着陸にはテクニックを必要とする。
人型兵器とはいえ、自分の身体とは違うのである。
操縦をし損なえれば当然機体は不自然な動きをしてしまい、地面に激突して大怪我を負う可能性もあるのだ。
地上への着陸は技術云々ではなく、要は操縦者のセンス次第なのである。
カイ達調査班四人はその事実を如実に証明してくれた。
上陸一番乗りであった金色の蛮型搭乗者カイは蛮型操縦はディータ達よりは経験を積んでおり、
慣れない地表面着陸を独自のやり方で無事にクリアーした。
「だー、うざったい!こんなもん、こうすればいいだけだろうが!!」
ゆっくりと降りていく状態にイライラが募って、カイは蛮傘を手から離す。
分離した蛮傘は主を失って力なく流れ落ちて、そのまま砂の積もる大地へ不時着。
カイはというと傘を手放した事への急速落下時の途中に背中の盾形フォルダーを抜き、足に乗せる事により、
高く積もる砂とフォルダーの緩衝材によって落下の衝撃に耐えた。
二番手の紫の蛮型操縦者バーネットは落ち着いたやり方でそのままバランスを保って、無事に着陸。
三番手の赤の蛮型操縦者ジュラはシュミレーションを途中でやめた事が裏目に出て、着陸時に転倒。
派手に転げ落ちたが、幸い下は砂地だったので大した怪我はなかった。
ラスト青の蛮型操縦者ディータは降下による急激な落下感を楽しんでしまって、
蛮傘を離すタイミングを逃してしまい、結果着陸と同時に傘ともつれ合ってしまった。
一人一人が個性的な上陸の仕方はしたものの、カイ達は怪我もなく惑星への降下を実現させた。
徹底したシュミレーションと一人一人のテクニックが実を結んだ結果である。
カイは初めて蛮型で地上に立つ事の居心地の悪さを感じながら、周りを見つめた。
『ここが今回の調査場所か。殺風景なところだな』
機体のモノアイから映し出される光景は、カイの想像を越えた荒廃の世界だった。
見渡す限り砂・砂・砂。
人の目を潤す緑はまるで存在せず、寂れてしまっている施設の数々が砂漠において乱立しているのみだった。
『何にもないじゃない。こんな所から何を探せっていうのよ』
カイに同意見なのか、転んだ衝撃より立ち直ったジュラが同じく見渡してそうコメントする。
人類が存在したという証明は、この数々の人工物から確認は取れるだろう。
『この星も悪い宇宙人さんにやられちゃったのかな?宇宙人さん』
落ち着かない様子で不安そうに尋ねるディータに、カイは難しい顔をして答えた。
『そう決め付ける事はねえだろう。
確かに人っ子一人見あたらねえけど、ひょっとしたらこの星から逃げたか、どこかで住んでいるかも知れん。
砂ばっかりで建物は埋もれているからな。環境による異常の可能性もある』
調査開始時ベルヴェデール達と話し合った事を思い出しながら、カイはそう洞察する。
生きとし生ける者全てに言えるが、自然への猛威にはまるで無力である。
科学がどう進歩しようと、人間は自然の恩恵無くしては生きられない。
地表に建設されていた建物や施設の数々の崩壊ぶりからすると、劣悪な砂嵐に巻き込まれたと考えられる。
何者かに壊されたという印象より、寂れて腐敗したという感じが強いからだ。
まるで人間の文明の行く末を象徴するような死のイメージがそこにあった。
『もう人は住んでなさそうね・・・・
長く滞在していない場所でもないし、やる事やって引き上げましょう』
一人会話に加わらずに簡易的な下調べを終えて、バーネットはそうコメントした。
普段は自己を通したがるカイも、今回ばかりはバーネットに賛成だった。
想像を越える現状の文明の退化ぶりには、バーネットでなくても失望してしまう。
『だな。結局副長さんの展望は今回は外れだったって訳だ。
こんなボロボロじゃ何もねえだろう』
結局調査は思ったより張り合いのない結果となりそうで、カイは退屈気味にそう呟いた。
もっとも、内心では少し安心している部分もある。
何やらひどく心配していた様子だったベルヴェデールの予感が杞憂だった事である。
惑星から離脱して船へ戻ったら、ブリッジへ行って今回の事をネタにからかってやろう。
カイは今ではすっかり警戒心を解いてそんな事を考えていた。
『宇宙人さん、悪い宇宙人さんの事を調べないの?』
通信モニターより無垢な表情を見せて、ディータはカイに尋ねる。
カイはやる気のなさそうな態度で、後頭部に腕を組んで口を開いた。
『周り見てみろよ。な〜んにもないぜ、ここは。
探すだけ無駄ってもんだ。
お前、あの潰れている建物の一つ一つを調べて回るのか?』
広大な砂漠のあちらこちらに立っている建物や何かの装置類は、大小合わせても数十は超える。
視界に入る距離内でこの数だと、全て合わせたら数百になるだろう。
その数一つ一つを探索して調べて回るのは、骨が折れるどころではない。
もしこの場にメイアがいれば調査を強行するだろうが、現在彼女はこの場にはいない。
カイの手回しもあって、マグノに足止めを受けているのだ。
メイアの身を思いやっての事だったが、ベルヴェデールと同じくカイの心配も無駄骨に終わりそうだった。
カイの指摘にディータは困ったような笑みを浮かべていたが、その笑顔が次の瞬間強張る。
『それじゃあ早い所合体して終わりましょう。ね』
まるで擦り寄らんばかりに、蛮型越しにカイ機へジュラ機が寄り添った。
これが生身の男女であれば色好いシーンだが、人型兵器同士では不気味の一言だった。
『はあ?!何で合体しなくちゃいけないんだよ』
『む、何よ。約束を破る気!』
返答によってはただでは済まないとばかりに、コックピットよりジュラが険しい顔で叫んだ。
ジュラの態度と言葉に露骨に呆れた表情を浮かべて、カイは言った。
『意味がないだろう、意味が。調査はほぼ終わったんだ。
簡単に周りを調べたら、すぐに済む話だぜ。敵もいないんだしよ』
確かにカイの指摘どおり、惑星内は危険な要素は何もなかった。
マグノが懸念していた敵の姿はまるでなく、砂嵐は止んでいる。
情報もなければ、物資の補充も見込めない厳しい環境のみがあるだけであった。
ジュラは少し詰まるが、自身の目的が最優先とばかりに身を乗り出してくる。
リーダーのメイアの次にしかポジションに就けないのは、何も能力の差ばかりではない。
仕事を後回しにして、自分を第一とするジュラの性格にも問題はあるのだ。
『別にいいじゃない。ジュラ達の華麗な姿を皆に見せ付けてやるのよ』
『あ、あのなあ、お前・・・・』
くどいジュラにカイは眉を潜めて何か言おうとしたが、青いボディの蛮型が二人の前に立ち塞がった。
『だ〜め!宇宙人さんはディータと合体するの!!』
む〜と子供のように頬を膨らませて、ディータはジュラの脆くみを阻止しようとする。
ジュラもまたディータの執拗な妨害に血が上ったのか、通信モニター越しに睨み合った。
『いい加減しつこいわよ、あんた。カイはジュラと合体するって決めているの。
あんたの入る余地はないわ』
『ジュラこそあっちに行って!合体はディータとしかしないもん。
ディータと合体した時は氷の塊から皆を守ったんだから。ね、宇宙人さん♪』
ペークシス暴走時の事件を言っているのか、ディータは切り札とばかりに胸を張って呼びかける。
生の実績を聞かされてジュラはやや怯むが、ここで引下れるほどジュラは気弱ではなかった。
『たった一度きりじゃない。
ジュラとカイが合体すれば、それこそ何度でも皆の力になれるわよ。
あんたみたいなしょぼいのは根底から違うのよ。ね、カイ』
自分の容姿端麗さと機体の優秀性に完璧な自信を持っているジュラもまた胸をはって呼びかける。
困ったのは両者に挟まれたカイである。
どちらを優先しても、もう一方から文句が出る。
互いに必要とされている状況はカイも初めての事で嬉しさがない訳ではない。
しかし取り合いをしている二人の個性的な性格には、カイも流石に鬱陶しくなってくる。
ディ−タもジュラもカイの個人的な意思を無視しているような言動が目立つからだ。
『いい加減にしろ、お前ら!
さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃぬかしやがって!
とっとと仕事するぞ、とっとと』
『ちょ、ちょっと!どこに行くのよ』
『飛んで、上空から一度偵察してくる』
突然の行動にびっくりするバーネットにカイは投げやりにそう言って、背中のブーストを最大噴射する。
地面の砂が砂塵となって周囲が吹き荒れたかと思うと、カイの蛮型は上昇し始める。
元々地表面を歩くより、中空状態の方が慣れていて動きやすい。
それに一人になって調査を行ったほうが気が楽だと考え、カイはそのまま真っ直ぐ空へ昇っていく。
この瞬間、カイは忘れていた。
いや、この場にいた全ての者が忘れていたと言っていい。
自分たちが今いるこの世界は平穏な故郷ではない。
ましてや安全を約束された船の中でもない。
どのような可能性が待ち構えているか分からない、未開の世界だという事に。
加速噴射して飛び上がったカイをまるで待っていたかのように、沈黙していた建物の一部が突如光を発する。
ビルの窓から突然発射されたレーザーは、紅の光線の如く中空のカイを貫いた。
『があっ!?』
黄金色の装甲に侵食するように、光線は火花を発してカイ機の全身をスパークさせる。
コックピット内も当然届き、カイの全身に痛烈な電流に包まれた。
『ぐがあああっ!?』
そのまま力尽きたように、レーザーに撃ち落とされたカイは無様に砂漠に転がされた。
『宇宙人さん!?』
カイの悲鳴を聞いて、顔色を変えてディータは飛び出そうとする。
『待って、ディータ!動かないで!!』
事態の急展開にバーネットも表情を変えて、ディータを制した。
バーネットのこの時の判断はまさに正しかったといえよう。
数秒後、砂漠上に林立していた全ての人工物のありとあらゆる箇所よりレーザーが放たれた。
数百と言うべき数のレーザーは形を成して網を描き、空中を無数に乱舞する。
赤き光の檻。
その名に相応しい数百条のレーザーは、地表面にバーネット達をあっという間に閉じ込めてしまった。
状況をいち早く察したバーネットは緊張感を漂わせて言った。
『どうやらはめられたみたいね、私達・・・・』
心配は、現実へと繋がる―――
<続く>
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