VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action7 −調味料−




---------------------------------------------------------------------------------------------


 食材として新鮮な菜の花の辛子あえ。

バーネットとの奪い合いの末に獲得した栄養価の高い牛肉は、ごぼうとの煮物として調理を完璧にしていた。

キッチンスタッフに提供してもらったタラはピカタとなり、糸青のり入りチーズ味となっている。

調理人ディータ=リーベライのお得意であった。

コロッケにはじゃが芋・にんじん・合びきミンチが内包されており、見た目も美味しそうである。

カロリー計算もまたされており、にんじんとピーマン・ちりめんじゃこのみそ炒めが入れられていた。

香りの強いくぎ煮が少々なのは、ディータなりの茶目っ気であった。

カイが前回美味しそうに食べていたご飯には、梅干し・黒ごまがのせられている。

マグノ達との通信中に横から口を入れられたカイの不機嫌さを吹っ飛ばすには、十分な弁当の献立だった。


「これ、本当にお前が作ったのか?」

「うん!いっぱい食べてね、宇宙人さん」


 うきうき気分のディータにカイが連れられてやって来たのは、艦内庭園だった。

ここは元々機械構造のみの宇宙船では殺風景だと、クルー達の手で海賊母船内に設立された人口公園である。

その後ペークシス暴走の経緯があって、公園の上方にブリッジが一部せり出した形になっている。

すっかり安定したペークシスの結晶柱は、公園内の照明の役割を果たすかのように光を称えていた。

樹木は葉を茂らせて、青々とした芝生が公園内に敷き詰められていた。

ディータは持ってきた妙な宇宙人のデザインが刺繍されたゴザをひいて、カイと二人座る。

怪訝な顔をしたままも、なし崩しにディータのペースのままにされているカイに弁当を差し出されたのだ。

さすがのカイも、女の食べ物の美味さを知っているがゆえに表情が緩んだ。


「じゃあ遠慮なくいただくぜ。頭使って腹も減っているから、全部食っちまうぞ」

「えへへ、宇宙人さんの為に作ったんだもん。
全部食べてくれたら嬉しいな」


 本気でそう思っているらしく、ディータは始終ニコニコだった。

カイはディータの笑顔に押されながらも、箸を手に弁当を制圧しにかかった。

オカズのごぼうと牛肉の煮物に箸をつけ、牛肉を口にした途端うっと顔を詰まらせて叫んだ。


「うめえ!女の料理って、まじうめえな。
たくよ、男が今まで勝てなかったのも無理はねえよな。こんな美味いの食ってたんだからよ」


 タラークとメジェールではそもそも食生活がまるで違った。

国家主体の労働階級が敷かれていたタラークでは、国民は常に国に支配されている。

生活環境は言うに及ばず、食事さえも統一化されていたのだ。

逆にメジェールはそもそも国家の方針として国民全てに平等な平和を求めていたので、

国民は階級制や差別化も無く、ある程度は自由な生活が出来ていた。

その裏にはメイア達のような高圧な政策による犠牲者もあったのは事実なのだが・・・・


「宇宙人さんってあの黒っぽい変な物を食べていたんだよね。可哀想」


 聞きようによっては嫌味に取れるが、ディータの顔は憐憫に満ちていた。

ディータは子供のように思いやりの高い娘であり、カイも最近理解し始めている。

手間のかかる妹を見る兄の顔で、カイは口元を緩めて答えた。


「ペレットは栄養のみだからな。味なんて二の次なんだよ。
俺達下層階級の噂じゃ、お偉いさんは何か美味い物を食べているんじゃないかって言ってたぜ」

「どうして?皆一緒じゃなかったの?」


 ディータがきょとんとすると、カイはにやっと笑って弁当を置く。

そしておもむろに眉を手で引き寄せて、極端に怒らせた表情へ変貌させた。


「青髪みたいにこ〜んな顔して、いつも元気に俺達に威張り散らしてたんだよ。
絶対あの無意味な元気さは栄養蓄えているのに決まってるぜ」

「あははは、ひどいよ宇宙人さん。リーダーが聞いたら怒るよ」

「あいつはいつだって俺の顔見たら怒るじゃねえか」

「う、う〜ん・・・・」

「いやここはフォローしてやるところだろう、お前」


 箸でディータのおでこをこつんとすると、ディータはちょっと悪戯っぽく笑った。


「そうだね、あははは」

「へ・・・・・」


 艦内庭園内に、男と女の笑い声が広がっていく。

木々に流れる脈に、庭園最前方を流れる小川のせせらぎに染み入るようであった。

傍目から見ると健全な男女のカップルであり、タラーク・メジェール双方の価値観的には異常極まっていた。

だが、その目で見ている者がいるのなら微笑ましいとも取れる光景でもある。

少なくともカイ達に見えない位置で木に器用にぶら下がり、目にしている者からすれば見所なシーンだった。


「むふふふふ、パイちぇーく!」


 ドゥエロのいない医療室の留守を任されているはずのパイウェイが、にやりと笑ってシャッターを切った。

カイとディータはまるで気が付く事もなく、ささやかな食事の一時を味わっている。

本人達からすれば、見ている方も見られている方も幸せなのかもしれない。





















 敵側であるタラークの捕虜カイと仲間である筈のディータの密会。

こんな貴重な情報を十代前半の幼いパイウェイの心一つに留めておける筈もなく、彼女は早速噂を広めた。

その第一人者として選ばれたのが、ジュラだった。

ジュラは古株でマグノ海賊団随一の美貌とスタイルを持っており、本人の性格もあって目立つ存在だからだ。

本人はシミュレーション終了とこれからの蛮型搭乗のためとあってか、現在シャワーを浴びている。

設置されたノズルより流れるお湯が肌を滑り、官能的な肢体に流れ落ちている。


「でねでね、あの男ったらディータのお弁当ですっかり気を緩めちゃってるのよ。
いつも威張ってばかりの癖にだっらしないのよ。
写真もあるから、ジュラにも後で見せてあげるね」


 優美なジュラとは対照的に、パイウェイはナース服がかなり薄汚れていた。

と言うのもあれからずっと観察を続けていたのはいいが、パイウェイはまだまだ子供の体力しかない。

木にぶら下がり続けるには、あまりに筋力が足りなさ過ぎたのだろう。

パイウェイは頑張り続けたものの、ぶら下がっていた枝から足が外れて茂みに頭から突っ込んでしまった。

カイやディータに気がつかれなかったのは良かったのだが、本人は散々だった。

茂みに落ちたせいで葉が服にまとわりつき、その場から逃げる際に地面に擦れて汚れてしまったのである。

貴重なシーンを収めた功績の裏で、パイウェイなりに大変だったのだ。

シャワー室の向こうで聞いていたジュラは、そんなパイウェイの努力の結晶に優美な口元を緩ませる。


「ふ〜ん、なるほどね。ありがとう、パイ」

「えへへ、任せてよ。他の皆にも広めてくるね」


 誉められた事もあってか、そのまま元気良く駆け出そうとしたパイウェイをジュラが止めた。


「ちょっと待って、パイ。その情報、秘密にしておいてくれない?」

「ええっ!?ど、どうしてよ」


 怪訝な顔をするパイウェイは、曇りガラスの向こうのジュラを見てはっとする。

ジュラの表情には何か悪巧みを考え付いた魔性の色が浮かんでいた。


「ジュラにいい考えがあるのよ。あの男を陥落させる、ね。
うふふふふ・・・・・」

「そ、そう・・・・・」


 流石の悪戯好きのパイウェイも、目の前の姦計に瞳を輝かせる女性には敵わない。

幼き少女がもたらしたカイ達の楽しげな場面も、ジュラにかかれば企みの一つにしかならないのだろう。





















 うって変わって、フ−ドキッチン。

トラペザの隣に位置するこのキッチンは、基本的にクルー達は誰でも使用可能だった。

料理とは誰にしも食事を行うのに必要であり、女性にとっては趣味の一つでもなり得る。

よって食材そのものは持ち込みしなければいけないが、基本的な調理器具の全てはクルー達全員の物だった。

キッチンの管理・責任はキッチンスタッフに依存しているが、キッチンには常時色々なクルー達がいる。

お弁当を作ったディータもその一人で、キッチンは料理好きな女性達には好かれていた。

が、現在調理を行っている一人の女性は不機嫌極まりなかった。


「何で私があいつのために料理しなければいけないのよ」


 フライパンが加熱して、載せられたステーキが香ばしい音を立てる。

頃合と見てか、調味料の一つであるワインを数滴垂らす。

こうする事によって、素材を引き立てるのだ。

不平不満を零しつつも、その料理人バーネットの腕前は見事なものだった。

元々バーネットは戦闘的な性格に不釣合いではあるが、料理は嫌いではなかった。

何事も自分でこなさなければ気が済まない彼女が料理を始めたのは幼い頃からで、

生まれつき器用であったがためにメキメキ料理の腕を上げていった。

前線を担うパイロットの激務の間には、新しい料理の研究をする事も珍しくない。

腕はディータより優れており、レパートリー・献立は西洋・中華・和風・お菓子類にまで及ぶ。

容姿も端麗で、昔からバーネットの人気は高かった。

現在海賊団の間でも、オーマ・ファーマ候補として隠れファンは多い。

しかしその人気が表面化されていないのは、現在キッチン内で彼女を見守るもう一人の存在のせいだった。


「そう言わないでよ、バーネット。
バーネットだって美しく合体したジュラが見たいでしょう」


 シャワー室から出て爪の手入れをしているジュラが、料理に勤しむバーネットにそう声をかける。

合体、それが控え室でのジュラのカイに求めていた相談の内容だった。

前回の戦いと前々回の救出劇で、ディータ・メイア機の合体をジュラは見ていた。

人型兵器となったディータ機の攻撃的フォルム、鳥形兵器へとなったメイア機の流線的フォルム。 

そして合体の起因となったカイ機の鮮烈な発動の瞬間。

その全てがジュラの瞳に焼きつき、心を熱く燃え盛らせた。

だからこそ、ジュラは夢見ていた。

メイアやディータが合体できたのであれば、ジュラにも可能なのではないかと。

可能性としては十分あった。

何故ならジュラもまた、カイ達同様にペークシス暴走に巻き込まれたのだから。

ジュラ機も防御主体に特化されて、外見もヴァージョンアップされてより顕著となっている。

パイウェイからカイが料理に目がないと知ったジュラは、美味しい料理でカイを味方にするつもりだった。

何しろカイとジュラは面識も薄く、ジュラは日頃はカイに冷たくしている。

当然といえば当然で、カイは男でありジュラは女であったからだ。

ジュラとて、いつもなら問題児のカイと仲良くするつもりは毛頭ないのだが、

合体にはジュラだけでなく、カイの積極的な意思が必要なのだ。

そこで料理は一度も行った事がないジュラは、親友のバーネットに協力を求めたのである。

ジュラの試みそのものは悪くないのだが、問題は巻き込まれたバーネットであった。

身勝手なジュラの我侭に付き合わされる形で、料理を作らされているのだ。

他人に料理を作るのは、バーネットとて嫌いではない。

イベント時ではクルーに請われれば腕は振るうし、手を抜くような真似はしない。

だが強制的に作らされるのはご免であり、相手はカイとなれば戸惑いもある。

未知的な価値観を持っている他人というべきか。

嫌っていいのか、知り合うべきなのか、判断のつき辛い相手なのだ。

これがもしドゥエロやバートに作る料理であるのならば、バーネットは親友の頼みであれ断っていただろう。


二人は男であり、捕虜だからだ。

レジでの一件以来評価はかわりつつはあるのだが、バーネットにとってカイは謎の存在だった。


「はあ・・・・ま、いっか。借りもあるしね」


 カイには前回の戦いでリーダーであるメイアを、そしてドレッド達の危機を救ってもらったのだ。

バーネットは知らず知らずの内に諦めの笑みを浮かべて、ステーキの仕上げに取り掛かった。

と、その時常日頃鍛えているバーネットの感覚に何かが走る。

瞬間キッチン出入り口に目を走らせると、さっと物陰に隠れた人影があった。

一瞬警戒にエプロンに包まれた身体を強張らせるが、漂う気配で誰だか一瞬で看破する。

そして人影の目的が何かを悟ると、舌打ちをしてフライパンの火を再加熱する。

ジュっと肉の弾ける音が立って、手早くバーネットはコンロの火を消した。


「出来たわよ、ジュラ。これならあいつも喜ぶでしょう」

「ありがとう!大好きよ、バーネット!」


 喜色満面で喜ぶジュラに微笑みを浮かべつつ、バーネットは出来上がったステーキを切り分けた。

4:1の配分で切り取った内の大半は皿に持って、手製のソースを垂らす。

見栄えも香りも完璧で、申し分のないステーキ料理である。

そして残されたフライパンの肉を置き、出入り口の影を見てバーネットは険悪な表情を浮かべた。

表情には明らかに侮蔑と嫌悪が込められている。

素早く手元の調味料の一つを持って、フライパンに残った肉に盛大にぶちまけた。

手に握られたその調味料には、表面のラベルにこう書かれていた。

『TABASUKO』と・・・・・・・・・





















 バートがキッチンへと訪れたのは、実を言うと匂いに釣られてだった。

男の世界ではあり得なかった手料理から漂う匂いは、通路を歩いていたバートの食欲を刺激した。

以前戦闘終了時ディータがカイに持ってきた弁当を見て以来、女の料理には好奇心はあった。

カイが美味そうに舌包みを打って食べているのを見て、欲しいと懇願した程だ。

結局申し出を却下されたカイに、その時は全部食べられてしまったのだが。

匂いに引き寄せられるようにキッチンへやってきたバートは、ジュラ達二人の姿を見て咄嗟に隠れる。

調理をしているバーネットに笑みを浮かべて、バートは出来上がりを待った。

ここは一つこっそり忍び寄って一口摘んでやろうという、上流階級出は似つかわしくないアイデアだった。

物陰より視線を向けるバートは、バーネットの白エプロンと簡易的なシャツという色気のある姿によろめく。

が、気を取り直して隙を伺うバートの耳元に、出来上がったと喜ぶ二人の声が飛び込んできた。

聞いていたバートはほくそ笑んで中の様子を見ると、二人がキッチンを離れて料理を運ぶ用意をしている。

出入り口には無防備に背中を向けており、バートの様子に気がついている気配はない。

瞬間いつもに似合わない速度で中へ入り、キッチンの洗い場に影に隠れるバート。

バーネット達は一向に気がつかない様子で、キッチン・ワゴンに皿とフォーク類を並べる。


「あいつって今どこにいるか分かるの、ジュラ」

「勿論。
パイウェイの情報によると、ディータのお弁当食べ終わった後も艦内庭園に一人でいるそうよ。
寛いでいるみたい。呑気よね」

「分かっているならいいけど、早くしましょう。そろそろ降下の時間に指しかかるわ」


 ブリッジクルー達による惑星への探査良好と判断された場合、ブザムによる出撃命令が出されるのだ。

言ってみれば、カイも含めてバーネット達は待機状態にあるのである。

ジュラはバーネットの言葉に慌てて準備を済ませて、キッチンより飛び出した。

バーネットは慌てふためくジュラに苦笑して、ちらりと洗い場の影に視線を向ける。

一瞬後何事もなかったかのように、キッチン・ワゴンを押してバーネットも出て行った。

キッチンは二人がいなくなり、静けさが生まれ出でる。

途端洗い場の影よりバートがにょっこり出て来て、先程までバーネットの立っていたコンロへと向かう。

万が一二人が戻ってきた場合のため床に這いつくばっての行動なのだが、あまりかっこいいとは言えない。

そのまま辺りを見渡して誰もいない事を確認して、バートはにやりと笑った。

行動開始は今が最適と判断したのだ。

立ち上がると、バートはコンロに置きっ放しとなったフライパンを見る。

フライパンにはバーネットが残して行ったステーキの残り分がそのままとされていた。

バートは再度キョロキョロと周りを見て、そのステーキの一欠けらをこっそり手にする。


「これが女の食べ物か。油断大敵だな、女どもめ。
ふふふ・・・・では早速いただこうかな」


 目の上に掲げてひどく嬉しそうに笑った後に、その場に座ってバートはおもむろに口にする。

口内に溶け合った肉片は特有の香ばしさと、激烈な辛さが急激に広がっていく。

辛さ?

バートの脳と舌が判断したその後、目は見開かれ、思わず火を噴いてしまいそうな程の辛さが襲い掛かる。

その場に転倒してのた打ち回り、バートはあまりの辛さに涙がこぼれて止まらなかった。


「きょわかかかうあmらhfんぱうんfぱうysんぱうっ!?」


 言葉にならない女の料理への罵声と辛さを訴える悲鳴が、キッチン内に響き渡った。

これはバートの侵入と目的にいち早く気がついたバーネットのトラップだったのである。

残されたステーキに瓶いっぱいのタバスコを放り込まれたのだ。

辛いなんてものではなく、バートの唇は真っ赤に腫れ上がる始末であった。

辛さと痛みで口元を抑えつつ、バートは急いで洗い場の蛇口に走っていく。

そのまま口元を持っていかずに、傍のコップに水を注いで飲むところがバートなりの教育された礼儀だった。

辛味で熱がこもっている口内に、冷たい水が透き通るように染み渡った。

痛みに顔を歪めつつも飲み干して新しく注いでいると、運悪くディータが訪れる。


「ふんふんふ〜ん、宇宙人さんのデザート〜♪
あれ、運転手さん。いたの?」


 ディータは両手にアイスクリームを持っており、二色にトッピングされたクリームが甘さを誘っている。

全部弁当を食べてくれたカイに更に喜んでもらおうと、カフェテリアより持ってきた代物であった。

きょとんとした顔でディータはバートを邪心のない瞳で見るのだが、バートはというとそうはいかない。

何しろバートはキッチンにこっそり忍び込んだ上、黙ってバーネットの料理を食べたのだ。


「ひゃはあはやはyは!うはやはyはっじゃ!」


 タバスコの刺激で呂律が回らない舌を抑えつつ、バートは後ずさりする。

必死で言い訳を口にはしているが、言葉は意味を為してはいなかった。

ディータは疑問符を浮かべて近づこうとするが、その時利き腕に持っていたクリームが若干ずれた。

カフェテリアから勇んで持ってきたために溶け出して来ているのだ。

冷やす氷を求めてキッチンに来たディータだったが、どうやら無駄足で終わってしまったようだ。

ひどくがっかりした様子で、ディータは渋々バ−トにアイスを差し出した。


「これ、運転手さん食べていいよ。
宇宙人さん、庭園にいるから溶けちゃうし」

「ひゃっっく!?ひゃはyはやはっやひゃあ!!!!」


 ディータにとっては半分諦めの好意だった。

正直ディータにとってバートはあまり興味の向ける対象ではなく、認識は宇宙人であるに終わっている。

彼女にとってカイこそが本当の興味の対象であり、憧れの人物に他ならないのだ。

一方、バートにとってはディータは女であり魔物だった。

差し出されたアイスクリームがいかに美味しそうに見えても、バートにはバーネットの料理と大差はない。

つまり現状のバートの認識は「女の料理=凶悪な辛さ」となってしまっているのだ。

バートは腫れ上がった口元を抑えて嫌々と首を振るが、ディータにとって逆効果となる。

抑えている口元が真っ赤になっているのに、興味を持ってしまったのだ。


「あれれ?運転手さんのお口、真っ赤になっているよ」

「うひゃはあっ!?ひゃはやくあはやくあはーーー!!!」


 こっそり食べていた事を追求されるのかと、バートは勝手に危機感を持ってコップを放り出す。

そのままディータに背中を向けると、逃げるように走り去ってしまった。

取り残されたディータが呆然として佇んでいると、キッチンの奥の扉が開く。


「あの人、変わっているわよね。
突然キッチンに入ってきたかと思ったら、バーネットちゃんの料理を食べて、急に暴れ出したのよ」

「あれれ、エズラ?」


 どうやら元々キッチンには三人いた。

先程まで調理を行っていたバーネットに頼み込んだジュラ、そしてもう一人エズラである。

調理場の奥の冷蔵庫に用があったのか、大量のレモンを抱えていた。 

冷蔵庫は出入り口からは死角となっているので、バートが誰もいないと判断したのは無理もなかった。

ディータはエズラの抱えているレモンを見て、可愛く首を傾げる。


「どうしたの、そんなにいっぱいのレモン?」

「うん・・・・ちょっと酸っぱい物が欲しくなっちゃって」


 エズラは二十代で十代の可愛らしさを持っているが、妊娠中の身だった。

妊娠にはそれぞれの時期に、身体的に変調が訪れる。

第一段階として胃が酸っぱい物を急速に欲してしまうのだ。

これは別に妊娠が不安定だからではなく、むしろ安定している証拠でもあった。

だからこそ現在ブリッジは激務に忙しない状態であれ、休暇を優先して取れる権限がある。


「大変だね・・・・」


 妊娠の知識は人並みにはあるディータは同じく酸っぱくなった様に、口をすぼめて唾を飲む。

ディータにとってエズラは大の仲良しであり、心から無事の出産を祈っていた。

二人の間には暖かい空気がよぎり、二人の記憶から今も苦しんでいるであろうバートの事は消え失せていた。





















 ディータ達が朗らかな一時を過ごしている頃、アマローネは作業を続行していた。

カイとの会話で気分も解れた事もあり、コンソールを操作する手つきも淀みがない。

惑星地表面のデータが次々とコンソール画面に表示されては、消えていく。

一つ一つを細かくチェックしていき、ふとアマローネは表情を変えた。

それまで荒れていた砂嵐が徐々に収まって、惑星の画面がクリアーとなっていっているのだ。

どうやら安定期に突入したようで、その後の観測データも良好の状態を示していた。

コンソールデータ画面中央にサインされているのは『SIGHT IS GOOD』の文字。

アマローネは隣のベルヴェデールを見ると、彼女も自信ありげに頷いた。

全ての情報より結論を導き出したアマローネは背後を振り返り、ブザムに報告する。


「惑星表面、安定しています。探索には頃合だと思われます」


 能力的に優れたスタッフの言葉を聞いて、ブザムは大きく頷いた。

いよいよブザムが待ち望んでいたこの時がやってきたのだ。


「降下は今しかない。調査班、降下スタンバイ!」


 威厳を持って発せられた命令に、ベルヴェデールは艦内に出撃命令を流す。

いよいよ惑星探索の任が行われようとしていた・・・・・・・・・

























<続く>

--------------------------------------------------------------------------------




小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










戻る