VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action6 −戸惑い−




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 物音一つ立てずにカイが出て行った後、メイアもまた落ち着いて呼吸音すら立てていなかった。

蛮型のシュミレーション装置はバーネットを除いて稼動しておらず、静まり返っている。

控え室では一部始終を見ていたドゥエロ達が、二人の様子について語り合っていた。


「カイとメイアは常にあのような状態なのか?」

「ジュラに聞かないでよ!
でも、ま、別にあいつに限った事じゃないわ。メイアはいつもあんな感じよ」


 難しい顔をして問いかけるドゥエロに、ジュラは憤然とした様子で答える。

ジュラにしてみれば、カイに大切な話があったというのに本人に半ば無視された状態なのだ。

文句の一つも言ってやりたかったが、今のメイアとのやり合いを見ては横槍を入れる隙もなかった。

ドゥエロにしてもそれは同じだった。

医療的関係上ドゥエロにしても、メイアの今回の出撃は好ましい判断とはとても言えないのだ。

もう少し突き詰めて本人と話し合いたかったのだが、結局カイの揉め合いで話を入れる事が出来なかった。

つまりそれほどまでに、メイアとカイの間は入りづらい状態だったと言える。


「メイア、随分無理をしているようだぴょろ。心配ぴょろ〜」


 デジタル化された小型モニターの表情に不安の色を浮かべて、ピョロは小さく呟いた。

カイと出会い、知り合って、人間に深い興味を寄せる毎に、ピョロもまた変化を見せてきている。

人の心の内面を知る事で、ピョロも変化を遂げて来ているのかもしれない。


「他人の助けなんて一切かりようとはしないわよ。
メイアはいつだって一人で何でもこなして来たのよ。きっと平気よ」


 ジュラは比較的楽観的な物の見方で、メイアの今の状態を図っていた。

マグノ海賊団に入団して以来、今までドレッドチームナンバー2としてメイアの手腕を見てきた彼女である。

メイアの有能さ、物事を推し量る冷静さには常に一番でないと気が済まないジュラでさえ一目置いていた。

しかしドゥエロは敵である事も忘れ、ドクターという立場からメイアには危機的な見解をしているようだ。


「彼女の心拍数の急激な変化は心因性によるものだろう。
暗闇による何らかの恐怖症を誘発している可能性もある。何か心当たりはないか?」

「メイアが怖がっている?そんな訳ないじゃない。
あんたの誤診か何かじゃないの?」


 あからさまに馬鹿にした目で、ジュラはドゥエロを見やる。

ジュラは可能性の低そうなメイアの精神的外傷より、あくまで敵側のドクターの診断を疑っているようだ。

ドゥエロはジュラの疑いの視線を正面から受け止めて、先程の言葉を重ねた。


「戦闘シュミレーションを何度行っても、彼女の結果は最悪といっていい。
比べて同様の技術を持つバーネットは、ほぼ蛮型を使いこなしている。
メイアの容態はかなり重症だ。止めるなら今の内だぞ」


 そう言ってドゥエロは視線をずらすと、装置から降りてふらついた足取りで出て行くメイアの姿がある。

呼吸は安定した様子だが、顔色はいまだ悪く死人のような気力のない瞳だった。

立っているのが精一杯といった状態で、見ている方が痛々しい。

ドゥエロの言葉が正しいなら、メイアは心に何か大きな傷を抱えているのだろう。

今のメイアの状態が何よりそれを証明しており、見たジュラもそれ以上文句のつけようもなかった。

メイアの去り行く後姿を見つめ、ピョロは耐え切れなくなったように言葉を搾り出す。


「メイアもカイもおかしいぴょろ。
心配だったら、ちゃんと最後まで面倒を見てあげればいいぴょろ。
体調が悪いのなら、治るまで面倒を見てもらえばいいぴょろよ。
それなのに、それなのに・・・・・どうして二人とも無理ばかりするんだぴょろよ〜」


 人間という未開拓なプログラムを内包している種族と出会って日が浅いピョロには、理解し難いのだろう。

ピョロの言葉は何より平和で、何より分かりやすい二人の間柄を示している。

どちらかが素直になれば、どちらかが譲れば、仲違いはなくなるのだ。

無論人間関係を円滑に進めるのであれば、両者の心の在り方は必然となる。

しかしながらその第一歩すら踏めない状態にあるのは、互いが互いを否定しているからだ。

ピョロには不可解といえるこの間柄を、ジュラは生粋のメジェール人としてこうコメントする。


「あいつは男で、メイアは女よ。理解し合える訳がないじゃない。
今の所お頭の命令で一応クルー扱いはされているけど、この旅は終わったらあいつは捕虜に逆戻りよ。
明るい人間関係なんてありえないわね」


 恐らくタラーク・メジェール双方の国民に同じ問いをすれば、ジュラと同じ答えが返ってくるだろう。

両星にしてみれば、男と女という関係は犬猿しあうのが常識なのである。

分かり合えない事に危惧するピョロが言ってみれば故障していると捉われてしまうだろう。

ピョロとジュラ、二人のそれぞれの言葉を聞いてドゥエロは面白そうに口元を歪める。


「この世に生きる動物の中で、人間だけが一番理解しがたい行動を取ってしまう。
本能に逆らったり、己の欲望を押さえ付けたり、同じ人間に危害や利益をこうむる。
だからこそ、興味深いと言える」


 医者と言う男女を越えた第三者の意見で、ドゥエロはそう話を締めくくった。

メイアもカイも人間であるがゆえに抱える思いは違い、持っている個性もまた違ってくる。

結局のところ分かり合えるようになるには、生半可にはいかないという事なのだろう。

重々しい雰囲気が立ち込める中で控え室の自動扉が開き、場に似つかわしくない軽薄な声が飛び込んでくる。


「え〜と、十得刀剣型盾の使用法は操縦者の意思に従って・・・・ほうほう、なるほど。
やあ、皆さん。このバート・ガルサス、蛮型操縦の監督を努めさせて頂こうと改めて参上いたしました!
って、あれ・・・・・?」


 既に全てが終わった後の場違いな登場に、三人の瞳は冷ややかであったという。















 惑星降下による本格的な調査が決定され、マグノとブザムはブリッジにて密談を交わしていた。

ブザム達クルーによる事前調査から導かれたデータにより、対策案を練っているのだ。

何しろこの旅が始まって以来の初めての惑星降下である。

ましてや安全性が確保できない状況にある以上、慎重に慎重を期す必要があった。

少しずつ話し合いに熱がこもり始めた時、ブリッジのメインモニターに通信が入る。

惑星が映し出されていた画面にノイズが一瞬走り、後に少々表情が険しいカイがモニタリング化された。


『おーい!ばあさん、いるか』


 カイの青少年らしい通った声はブリッジ内に木霊して、作業に専念していたアマローネが顔を上げる。


「相変わらず騒がしい奴ね。ちょっとは大人しく通信できないの?」

『おお、アマローネか。そっちこそ変わらず仕事に専念しているみたいだな。
ベルヴェデールやクマちゃんは元気にしてるか?』


 指名された当人達はというと、ベルヴェデールはやや嬉しそうに、セルティックは困惑気味であった。

男であるカイに友好的に接してこられての二人の差に仲の違いが見受けられた。

ベルヴェデールは手元のコンソールを一時停止させて、モニターのカイを見上げる。


「暇そうでいいわね、あんたは。手が空いているなら手伝いに来なさいよ」

『冗談言うな。こっちはこれからが本番なんだぞ。
手伝いに行ったら行ったで、お前やアマローネやこき使われそうだからやだ』


 ベルヴェデール達が今の仕事に懸命なのは、探索へ突入するカイ達を最大限バックアップするためである。

互いの仕事は持ちつ持たれつであり、どちらも切り離せない大切な仕事なのだ。

カイは前回のウニ型事件で沢山の体験を行い、実感としてきちんと胸の奥に刻んでいる。

だからこそこうした軽口も叩け、ベルヴェデール達もまた心得た様子で言い返す事が出来るのだ。


「何よ、人一倍元気は有り余っているくせに」

「言えてるわね。カイって出撃なかったら、いつも暇でしょう。
あたし達は毎日仕事多いから、今度から雑用係って事でどう?」


 にこやかな笑顔で酷な発言をする二人に、カイはこめかみに青筋を立てる。


『何が悲しくて、宇宙一のヒーローになる俺がお前らのお手伝いさんやらなきゃならねえんだ!
バート辺りに頼めや。あいつ、さっきから暇そうにしてたぞ』


 格納庫へ来て得意げに蛮型についてを語っていたバートの事を持ち出して、カイは二人に怒鳴り付けた。

すると、ベルヴェデールもアマローネも露骨に嫌そうな顔をする。


「あいつにぃ〜?嫌よ。
いっつもへらへらしているし、やる事も不真面目だもん」

「お頭が見てなかったら、直ぐにサボろうとするしね。
と思ったら、突然あたし達の顔色を伺ったりしようとするから気持ち悪くて仕方がないわ」


 バートへの非難の嵐に、モニターの向こうのカイは目を見開いた。


『確かに男としては軟弱なタイプだけど、悪い奴じゃないだろう』

「男って言うだけで、私は嫌なの。気持ち悪いじゃない」


 子供のように頬を膨らませて頬杖をつくベルヴェデールに、カイは怪訝な視線を向ける。


『おい、こら。男の手伝いが駄目って言うなら、何で俺はオッケーなんだよ』

「え・・・・・・?」


 初めて思い当たったのか、ベルヴェデールは表情を固まらせる。

やがてカイの言葉の意味が浸透したのか、やや顔を紅潮させて視線を横に逸らした。


「何であいつだったらいいの、アマロ」

「えっ!?ちょ、ちょっと!
どうしてこっちに振るのよ、ベル!!」


 無責任な転換を行うベルヴェデールに、同じく頬を染めてアマローネは狼狽した声を上げる。

滅多に見られない二人の動揺した仕草にカイがきょとんとしていると、後方よりクスクスと笑いが起きる。


「カイちゃん、あんまり二人をいじめちゃ駄目よ」


 カイとアマローネ達の話を一部始終聞いていたのか、オペレーター席よりエズラがおっとりと諭す。

やんわりとした表情には無邪気な瞳があり、カイを自分の子供のように愛情を宿して見つめていた。


『俺!?俺が悪いのか、おふくろさん!?』


 事実無根とばかりにカイは自分を指差しつつ、驚愕した声を出す。


「そう!そもそもカイが悪いのよ。私に変な事聞くから」

『別におかしい事聞いてないだろうが!?』

「まあまあ、ベル。カイが悪いって事で許してあげましょう」


 何やらしたり顔で、アマローネはベルヴェデールにひらひら手を上下に振った。

アマローネの言葉にピンと来て、やれやれとばかりにベルヴェデールは肩を竦める。


「しょうがないわね。
私だって鬼じゃないんだし、今回限りは許してあげるわよ」

『待った待った!その話のまとめ方はおかしいだろう!』

「まあ、良かったわ。これで皆仲良しさんね」

『おふくろさぁぁぁぁぁぁんっ!
あなたまで何浸ってるんですか!!!』


 それぞれに本当に楽しそうな笑顔を浮かべて、カイを中心に団欒の一時を送っていた。

微笑ましく様子を見守っていたブザムは頃合と見てか、こほんと咳払いをした。


「それで、カイ。通信を繋げて来た用件は何だ?」


 ブザムの冷静な指摘にはっと我に帰ったカイは、慌てて身を乗り出してくる。


『そうそう!馬鹿どもにかまってて忘れてた。ばーさん、いるか!』


 モニターいっぱいにグラフィック化されたカイの顔面に、艦長席にじっと座っていたマグノが目を向ける。


「ここに一人いるよ。随分うちのクルーと仲良くなったようじゃないか」


 マグノの言葉には皮肉の色はなく、まるで歓迎しているかのような口ぶりだった。

言葉を聞いたカイはやや照れくさそうに、ふんと息を吐いた。


『べ、別にそういう間柄じゃねえ。
ベルヴェデール達やおふくろさんには以前お世話になったからな』

「『おふくろさん』ってのは、ひょっとしてエズラの事かい?」


 先程から何度かカイが口にしている単語を聞き入れて、怪訝な顔で尋ねるマグノ。

まあ、と頬に手を当てるエズラに答えるように、カイは口を開いた。


『もうすぐガキが生まれるんだろう?
だから、おふくろさんだ』

「お前さんはネーミングセンスがあるね。
エズラをそう呼んだのは、お前さんが初めてだよ」


 皺を寄せて優しく言うマグノに同調するように、エズラも満面の笑みでカイに言葉を伝える。


「カイちゃん、ありがとう」

『お、俺が呼びやすいからそう呼んでいるだけだって。
感謝されるいわれはねーから』


 悪態はついているものの悪い気はしないのか、カイの声は弾んでいる。

和やかな会話が続いていく中、マグノは本題に入っていった。


「それで、アタシに話があるんだろう。言ってみな」

『お、おう。その、よ・・・・・・・・』


 マグノが本題を促すと、カイは途端に難しい顔をして黙りこくった。

その表情には言いたい事はあるものの、言ってもいいかどうかを迷っているような感情が出ていた。

これにはベルヴェデール達はおろか、マグノも表情に真剣味を帯びざるをえない。

常日頃カイは言いたい事はハッキリ言う気質で、何より嘘や虚言を吐くような男ではないからだ。

そんなカイが話しづらい話題というからには、よほど大切な事なのだろう。

マグノの傍らに立っていたブザムも副長の威厳を持って、カイに追及する。


「かまわない。はっきり言ってくれ、カイ」

『・・・分かった。実を言うと、青髪の事なんだ』


 青髪という言葉にブザムは一瞬怪訝な顔をするが、マグノは心得た顔で、


「メイアの事だね。あの子と何かしでかしたのかい?」

『違う。あいつと俺は嫌いあっているからな。
喧嘩とかそんなのにはもうならねえよ』


 それ以前の関係だとやや自嘲気味に笑うカイに、マグノは瞳に哀しそうな色を浮かべる。

マグノにしても、カイとメイアの現在の関係を知らないわけではない。

むしろマグノにとっては、カイもメイアも気にしている子供達なのだ。

その将来性ゆえに、その過去ゆえに。

だからこそ、二人の冷え切った関係はマグノの心配の種の一つでもある。


「ふむ、お前さんとメイアはぶつかり合ってばかりだからね。
うまくいきそうにはないかい?」

『ありえないな。
あいつは俺の事嫌いみたいだし、俺もあいつの事好きじゃねえ。
俺の言葉なんぞ歯牙にもかけやしねえしよ。
で、だ。
何言っても聞きやしねえから、あんたに頼みに来たんだ』

「ほう・・・・・・?」


 これからが本題なのだろう。

モニターに映し出されているカイの表情は真剣そのものだった。

マグノは手元の杖を握り、じっと聞く体勢に入っている。

カイは一度目を閉じて、そして見開くと同時にこう申告した。


『今回の探索、あいつをメンバーから外してくれ』

「何だってっ!?」


 まさかそう言われるとは思っていなかったのか、マグノは驚きに表情を染める。

それは聞いていた周りの面々も同じで、皆一様に目を丸くしてカイを見ていた。

カイはそのままモニターに噛り付くように言葉を重ねる。


『何もパイロットを首にしてくれって言っている訳じゃねえ!
今回だけだ。
ぶっちゃけて言えば、蛮型にあいつを乗せないでほしいんだ』

「突然そう言われてもね・・・・・・」


 頼み事の内容は理解できたものの、さすがに困惑を隠せないマグノだった。

当然であった。

メイアは女性パイロット陣のリーダーを務めており、常日頃より最前線の先頭に立っている。

リーダーシップに自身の腕前、知性の高さに運動神経抜群とありとあらゆる才能を持ち合わせていた。

だからこそマグノ達は信頼を置いており、重要な仕事を任せているのだ。

今回の探索でも危険性は重々承知の上で、メイアにリーダーの任をおってもらう手筈となっていた。

カイの申し出はそれを突然やめろと難癖つけているに等しい。


『頼むよ、ばあさん!今回は止めさせてくれ。
あいつ、やばいんだよ!』

「やばい?どういうことだ、カイ」


 ブザムが説明を促すと、カイは渋々シュミレーション装置での出来事を説明した。

何度行っても結果は常に最悪な事。何故かモニター画面すら真っ直ぐに見てもいない事。

視界が狭まったされただけで眩暈・圧迫感・精神的不安定を引き越した事。

自分やドゥエロは止めようとしたが頑なに拒否された事等、その全てを話した。

初めは半信半疑だったブリッジクルー達だったが、全てを聞き終えて曇り顔になった。

その並ぶ表情には、大小なりとメイアについてを知っているような感じがある。

唯一難しい表情を崩さないブザムは、考え込むように言った。


「お前の申し出はよく分かった。しかし、メイアは・・・・」


 チームリーダーであり本人の希望を第一とすると述べようとしたブザムに、マグノが遮る。


「約束は出来ない。だが、メイアにはアタシからよく言っておこう。
それじゃあ駄目かい?」

「お頭っ!?」


 驚いたようにマグノを見るブザムを尻目に、カイは少し納得がいかないようだったが頷いた。

元々願い出たのはカイ自身である以上、あまり我が侭は言えない。


『あいつにはよく言っておいてくれよ。出ないと、絶対出撃しようとするからな』


 メイアの性格は知り尽しているかのようなカイの発言に、マグノは苦笑気味だった。


「随分あの子の事を気にかけるじゃないか。珍しい事もあるもんだ」

『ば、馬鹿野郎!死にかけの年寄りが何邪推してやがる。
いいか!勘違いしないように言っておくが、あいつにはこちとら散々迷惑被ってんだ。
ウニ型の時だって、人の事シカトして勝手に飛び出してきやがってよ。
こっちはもうこれ以上足引っ張られるのはご免なんだよ。
それだけだよ、そ・れ・だ・・・・・・・』

『あ、いたいた。宇宙人さん!ディータ、お弁当作ったんだ!』

『お、お前!?今、通信中だっての!?』


 突然飛び込んできたディータの明るい声に、聞いていたベルヴェデールが眉をぴくりとさせる。


「ちょっと、カイ。お弁当って何よ」

『いや、その・・・・と、とにかく頼んだぞ!』

「あ、こら、待ちなさい!
通信切ったわね、もう・・・・・・」


 カイの慌てた顔を最後に画面がブラックアウトしたのを見て、ベルヴェデールは悔しそうにしている。

隣のアマローネもあまり面白くなさそうな顔をしているが、あえて口には出さなかった。

エズラはそんな二人と真っ黒い画面を見て、あらあらと楽しそうに微笑んでいた。


「ふふ、あいつが来てからうちの子達が随分明るくなったじゃないか」


 少女達の変化を喜ぶかのように、マグノは笑みを深くする。

確かにディータを筆頭に主だったクルー達、そしてメイアですら変化が生じている。

男達の共存がきっかけか、カイとのふれ合いによるものかは分からないが、変わりつつあるのは確かだった。


「お頭、カイの言っていたメイアの件ですが・・・・」


 慎重に言葉を選ぶブザムに、分かっているとばかりにマグノは頷いた。


「カイの言う事に関しては心当たりはある。むしろ、原因はあの事だろうね」

「メイアの過去、ですか」


 マグノは目を細くして、宙を見やった。


「あの子はまだ背負っているのさ。自分の犯した過ちにね・・・・
皮肉なもんじゃないか。
今あの子が一番嫌っているカイが、一番メイアを案じている。
自分では気づきさえしていないだろうけど優しい子だよ、あの坊やは・・・」

「お頭・・・・・」


 既に通信が途切れている中央モニターへ、マグノはぼそりと独白した。


「メイアをしっかり守ってやっておくれ、カイ」


 それは願いか、祈りか。

マグノの残した言葉は儚く、尊く、残滓を纏いて消えていった。

























<続く>

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