VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 5 -A shout of the heart-
Action5 −傷−
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正体不明の惑星についてはブリッジクルー達の働きにより、徐々にベールが剥がされつつある。
惑星地表面のサーモグラフィック、音質反響調査、自然源観測等などの一つ一つの探索が実を結んでいた。
ブリッジクルー最年長者アマローネが、惑星のデータにより独自の推論を組み立てる。
「熱源反応は各所に見られるけど、生体反応は全然ないわ。
この惑星には人類がいないと断定していいと思う」
その後の調べで人類の手がかかった建物類の残骸に、枯れ落ちつつある自然類は発見できた。
しかし、肝心の惑星に住んでいる筈の人類の反応がまったくもって感じられないのだ。
決してアマローネ達が手を抜いている訳ではない。
死の匂いが濃厚な目の前の星への調査が難航している訳でもない。
持てる技術を精一杯注ぎ、努力を行った末の結論なのだ。
アマローネの言葉に、傍らのベルヴェデールも同意の声を上げる。
「まだ砂嵐がひどいからモニター観測は厳しいけど、私もそう思うわ。
厳しい自然環境に故郷を離れてしまったのかしら?」
似たような環境である郷里に思いを馳せたのか、ベルヴェデールは表情を曇りがちに言った。
隣のアマローネも痛々しい気持ちで返答をする。
「考えられなくはないわね。地表面の大半は砂に覆われているみたい。
これじゃ生活区域を維持するのは難しいし、再生を起こすのも困難だわ。
だけど、こうも考えられないかしら?」
「え、何よ?」
神妙に言葉を区切るアマローネに、ベルヴェデールは怪訝そうに続きを促した。
やや躊躇う素振りを魅力的な容貌に見せるアマローネだったが、思い切って言った。
「・・・『刈り取り』にやられたのかもしれない」
「あの敵が!?で、でも・・・・」
「考えられなくはないと思わない?実際、あたし達は狙われている。
この星にしたって敵の侵略圏に位置しているのよ」
「そうね・・・・可能性は十分にあるわね・・・・」
アマローネの言葉の重みに押されてか、ベルヴェデールも普段の明るい表情を暗く落とした。
後方で話を聞いていたセルティックもぬいぐるみ越しに肩を落としている。
もしアマローネの考えが真実だとすれば、目の前の惑星は決して他人事では片付けられない。
何故なら同様に自分達の故郷を、同じ敵に狙われているのだ。
死んでしまった惑星は未来のメジェールにならないと断言できるだろうか?
被害妄想だと一笑するには、あまりにも過酷なリアルさが圧し掛かってくる。
アマローネ達二人の部下の話を耳にして、オペレーター席のエズラは顔を伏せる。
過酷な事実に心が蝕まれたのもあるが、思い悩むアマローネ達を元気付けられない自分が不甲斐なかった。
そんなエズラを気遣うかのように、ポンと軽く肩を置く者がいた。
ハッとしたエズラが顔を上げると、そこには厳しい表情に力強い瞳を宿すブザムの姿があった。
視線が互いにふれ合い、ブザムは一つ頷いた。
今は何も考えずに調査に専念すればいい、と言うブザムなりの励ましなのだろう。
上司の心遣いを感謝して、エズラは表情を引き締めて自分の仕事に取り掛かった。
エズラの様子に口元を緩めて、ブザムはブリッジクルー達に激励を飛ばした。
「砂嵐がやみ次第、降下に取り掛かる。
現状を打開する上で必要な情報が得られるかもしれない機会だ。観測を怠るな」
ブザムの言葉を耳にして、ベルヴェデールやアマローネは思い出す。
この調査が一体何のために行われるのか、を。
故郷を救うために、日増しに苛烈さを増してくる敵への対抗策を練るために。
そして自分たちの未来の光明を掴む為に。
『了解!引き続き開始します』
顔に晴れやかさを取り戻して、二人はコンソールを立ち上げて観測の続行を再開した。
深遠なる宇宙において、四体の蛮型が近距離戦を繰り広げている。
それぞれの蛮形のタイプは同一で、タラークの技術力の結晶蛮型九十九式であった。
現戦況としては、一体の蛮型に対して三体が周囲を完全に取り囲んでいる状態である。
三体が一斉に総攻撃を行えば、中央の蛮型は余程の腕がない限り殲滅されるだろう。
この状況に対して中央の蛮型が行った行動は実にシンプルで、単純であった。
中央突破。
三機の内の一機に突撃をかけて包囲網を突破し、体勢を立て直す。
不利なこの状況を打開する為の行動としては、なかなか前向きだろう。
じっとしていても三機に殲滅されるのが落ちであり、仲間がいない状態では突破口を見つけられる。
しかし、このやり方にはある条件が必須となる。
それすなわち、パイロットの高レベルの腕前。
例え一機のみに集中攻撃を掛けて包囲網を掻い潜るにしても、残る二機の攻撃をかわさなければいけない。
かといって周りに目がいけば、肝心の一機にやられてしまう。
一気に焦点を向けて攻撃を行いながら、残る二機の攻撃を回避する。
一定以上の操縦センスと蛮型による戦闘経験がなければできない芸当だ。
現段階で行ったその中央の一機は、どうやら条件に見合わないパイロットであったようだ。
突撃をかけて十得ナイフを装備したまではいいものの、要となる操縦が非常にぎこちない。
結果として三機の内の一機にナイフを一閃した瞬間回避され、自身の態勢を崩してしまった。
機体が傾いて完全に混乱して右往左往してしまい、そのまま三機の集中攻撃を受けてしまう。
攻撃を食らった機体は完全に大破し、宇宙の暗闇に塵となって消えていった。
三機は目標を殲滅すると、まるで電池が無くなったかのように急停止した。
同時に戦闘領域中央に煌く文字が浮かび、こう表示された。
『擬斗、終了』、タラーク文字で意味は「ゲームオーバー」である。
「あー、もう!どうしてこの子ったらジュラの言う事を素直に聞かないのよ!
もう止めた、馬鹿馬鹿しい」
ジュラは一方的にそう叫んで、手元の停止ボタンを押した。
するとコックピット上部がせり上がって、ジュラはそのまま憤懣やるせない態度で飛び出して来た。
ジュラが先程まで行っていたのは、蛮型操縦のシュミレーションである。
本日行われる惑星探査に備えて、ドレッド操縦しか出来ない女性パイロット達が蛮型訓練を行っているのだ。
訓練が行われている場所は、イカヅチ旧艦区に設置されていた蛮型トレーニングルーム。
上陸班として選出されたメイア・ジュラ・バーネット三名がシュミレーション装置に乗り出しているのだが、
いかんせん仮想戦闘による成績は芳しくないようであった。
元来器用貧乏のバーネットは開始早々からある程度の操縦は可能とまで上達している。
問題なのはジュラで、見た目の優雅さを重視するあまりに、操縦そのものが疎かになってしまうのだ。
元々蛮型は操縦そのものさえ初心者にはなかなか乗りこなせない難物。
機能性や有機性を重視している外見の無骨さもあってか、ジュラは蛮型に対して敬遠傾向にあった。
「もう、ジュラは勝手ぴょろね。まだ終わってないのに出て行ったぴょろよ」
三人の様子をトレーニングルーム控え室でモニターしていたピョロが、そうコメントする。
あまり豊かな表情は出来ないピョロだが、その瞳には呆れの色があった。
「どうやら私もブリッジに上がる必要があるようだな」
同じく三人の様子を監督していたドゥエロが、ジュラの様子を見て嘆息混じりにそう言った。
医療室のドクターであるドゥエロが、この場に居合わせたのには理由がある。
ドゥエロ自身好奇心は旺盛な方なのだが、今回はブザムに命令されての事であった。
今回調査で陸上行動に最適な蛮型が斡旋されたのにあたって、操縦訓練の監督を任されたのである。
海賊達はドレッドしか操縦できない上に、蛮型に対しては知識すら満足にないからだ。
そういう意味では、戦闘において操縦をこなしているカイや士官候補生であるバートも候補者である。
しかしカイはクルー達の間で揉め事を起こしたばかりであり、いまだメイア達との間にひずみを抱えている。
バートはそもそも女性達には相手にすらされておらず、露骨に嫌われている状態だ。
本人は女性達に好かれようと躍起になっているバートだが、現状は逆効果にしかなってはいなかった。
よって、ドクターとしての信頼が置かれているドゥエロに旗が上がったのである。
「ブリッジに上がる?お前、そんな事出来るのかよ」
ディータと別れて一目散にやって来たカイは、現在控えにて大人しく待機していた。
理由は至って簡単で、シュミレーション装置が三機全台先に使われていたからだ。
暇に任せてドゥエロに話し掛けると、ドゥエロは平然と答えた。
「私はドクターとして、ブリッジの一席を着任する権限がある」
ドゥエロは通常戦闘体制においては医療室に控えているが、ブリッジクルーして職務に就く事も出来る。
以前見習いでのアマローネの説明を思い出して、カイはげんなりした。
「お前って女に優遇されているよな、たくよ」
今までどれほどの女絡みのトラブルがあったかを思い出して、カイは舌打ちする。
ドゥエロが何にもしないで信頼を得ているとは思ってはいないが、微妙な不条理さを感じていた。
だが一方で、ドゥエロが女に信頼を得ている理由がカイは何となく分かる気もしてはいる。
ドゥエロは頭脳明晰で常に落ち着いており、いかなる状況でも冷静さを失わない男。
体格に関係ない器の広さが感じられるのだ。
問題発生や悪戦苦闘ばかりしている自分と比べると、信頼を寄せられるのも頷ける話だった。
そう思っていたカイだったが、当の本人は意外そうにカイを見つめていた。
「私が?
言っておくが、私に権限が与えられているのはあくまでドクターを任されているからだ。
私自身に信頼や人望がある訳ではない。
むしろ、君にこそ女達は関心を寄せているように見える」
「俺?どこがよ」
これまでを振り返って、カイは思い当たる件が一つもなかった。
赤髪は日々積極的に自分に寄って来ているが、そもそも赤髪自身が変わった個性を持っているにすぎない。
そうカイは思い悩んでいるが、ドゥエロはふっと笑ったまま何も言わなかった。
本人は気がついていないようだが、カイを気にしている面々は意外に多い。
クルー達もそうだが、マグノやガスコーニュといった海賊の重鎮も目を向けているのだ。
「・・・・ん?」
ドゥエロは何気にシュミレーション装置より伝達されるデータグラフ表示を見て、眉をひそめる。
「はあ・・・はあ・・・・・はあ・・・・・くう・・・」
シミュレーション装置2と名づけられている表示には、メイアの顔と心拍数がデータ化されていた。
控え室にこのようなデータが表示されるのは、装置に異常が発生した場合に首尾良い対応を行うためである。
現在三台ある装置の2を利用しているのはメイアだったが、どこか様子がおかしい。
普段の冷静さは微塵もなく、装置内のカメラより映し出されているメイアの顔色が真っ青だった。
「これ、青髪じゃねーか。なんか顔色悪いぜ」
「カイ、心配なんだぴょろか?」
「なっ!?冗談言うな、誰がこんな奴」
横から聞いてくるピョロに、ぶっきらぼうにカイは答えた。
だが口ではそう言いながらも、視線はモニター内の汗をかいているメイアの表情に向いている。
普段の冷淡な表情にはない苦悩が感じられたからだ。
ドゥエロは腕を組んで熟考し、手元のモニター表示を操作する。
すると映し出されていたメイアが消えうせて、代わりにグラフィック化されたのは戦闘風景だった。
ドゥエロの操作により、メイアがシュミレーションしている状況が映し出されているのだ。
メイアの状況を把握して、不調の原因を探ろうというのだろう。
現在の内容はタラーク軍最終兵器である宙航魚雷「村正」が、メイアの蛮型に向けて発射された瞬間だった。
急速に接近する魚雷にメイアは慣れない手つきで回避を試みようとするのだが、
何故かメイアはまったく目の前のスクリーンを見てはいなかった。
必死で下を向いたまま操縦しようとするが、そんな簡単にうまくはいく筈がない。
宙航魚雷「村正」は母船クラスを一撃で破壊するほどの威力を持つ。
避ける事はできないままに魚雷と正面衝突を起こしてしまい、蛮型は四散した。
モニター表示に『擬斗、終了』と出て、メイアも訓練は失敗に終わる。
「はあ・・・はあ・・・・くっ!!」
己の不甲斐なさを悔やんでか、メイアは荒げる息をそのままに拳でマシーンを殴りつける。
激しい炸裂音がピット内に鳴り響き、メイアは拳の痛みすら無視して肩を落とした。
もし日頃のメイアならば運転がドレッドとは違うとはいえ、巧みに操れる筈である。
容姿端麗・運動神経抜群と才能を余りあるメイアにしてみれば、規格の違いは些細な事であった。
なのに、現状のメイアはまるで何かを怖がっているかのように全身を震わせている。
そこへ通信回線が開かれて、ピット内のスクリーンにドゥエロの上半身が映し出された。
「メジェールには、ドクターに医療特権は認められるか?」
「はあ・・・はあ・・・何を言っている」
「タラークでは心身共に戦闘に不向きと断定された場合、ドクターの意思で出撃を差し止める事が可能だ。
君の今の状態では戦場へは出向けまい。同意するか?」
ドゥエロの診断の結果、メイアは今回の戦闘に不適格と認定されたようだ。
男と女という領域を越えて、ドゥエロはドゥエロなりにメイアを心配していた。
普段の様子とはかけ離れている今のメイアを見れば、例え医療関係者じゃなくても見合わせるだろう。
が、メイアは断固としてドゥエロの意見を突っぱねた。
「断る。私はきちんと戦える」
今だ顔色が悪いのにも関わらず、メイアは何の問題もないかのようにそう言った。
ドゥエロは厳しい姿勢を崩さないまま、メイアの頑なさに黙り込む。
その時モニターの端からカイが飛び出して、怒ったように口を開いた。
「何言ってるんだ!戦える状態じゃないだろう、お前」
「私は戦える。お前よりずっとな」
いつも通りではあった。
カイの言う事にメイアが反発し、メイアの言う事にカイが反発する。
二人の関係はいつも平行線であり、互いに触れ合った事は一度としてない。
いつものカイなら、メイアの強硬な姿勢に悪態をついてそのままほっておいたであろう。
が、現状ではそうはいかなかった。
「シミュレーションで惨敗した奴が、か?
どっか調子が悪いんだろう。無理してないで休め」
「なぜお前に口出しされなければならない。私は私の勝手で動く」
「そんなフラフラしててか!何でそこまでしていつも戦おうとするんだ、お前は!!」
力任せに、カイはモニターの向こうでコンソールを殴りつけた。
叩かれた箇所は部品がショートし、カイの拳から血が流れる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
メイアはそのまま黙り込んで、青ざめた表情のままカイを見つめる。
「あの時だって、お前が勝手な行動に出たからやられそうになったんだろう!」
ウニ型襲撃時、カイは遅れて出撃して敵殲滅の作戦を立てた。
しかしカイの出撃を良しとしないメイアが独立して攻撃に出て、危うく命を落としかけたのだ。
その時はカイが咄嗟に庇ったので、何とか事無きを得ずにすんだ。
メイアは口元を吊り上げて、カイに挑発的な視線をぶつける。
「恩でも売っているつもりか?私は頼んでいない」
「てめえは・・・・」
全身を怒りに震わせて尚文句を言い募ろうと、身を乗り出すカイ。
そこへドゥエロが機転をきかせて割り込み、冷静な口調で進言する。
「君の感じている圧迫感は視界によるものだ。
蛮型はスクリーンを全方位に切り替える事が可能だ。
精神的な不安定はそれで何とか解消される筈だ」
蛮型は人型であるために、人間の視界としての範囲しか見渡せない
。
対してドレッドは船であるために、コックピット内から全角度を見渡す事ができる。
メイアの心身状態を観察してのドゥエロの現状で出来る対応がそれだった。
ドゥエロは冷静に状態を見極めて、メイアが一度も外部モニターを見ていない事を突き止めた。
そして蛮型の狭い視界がメイアの不調を促していると察したのである。
怒りに煮えたぎっていたカイだったが、ドゥエロの進言を聞いて何とか怒鳴るのを思い止まった。
ドゥエロの意見は、メイアの希望に基づいた一番の対策だと気がついたからだ。
ところがメイアからの返答に、カイは急速に頭に血を上らせた。
「私は誰の力も借りない。危機は自分の力で乗り越える。
私の事はほっておいてもらおうか」
ドゥエロの忠告も、メイアは耳に入れようとはしなかった。
ここまで頑固だと、もう男がどうとか言う話ではない。
メイアは完全に他人の助けを拒み、あくまで自分一人で戦う気なのであった。
ドゥエロはそんなメイアに危機感を感じさえしたものの、それ以上は何も言えなかった。
彼は医者であり、それ以上でもそれ以下はない。
患者の意思が第一優先であり、重病人とは断言できない今では押さえつけるのが無理なのだ。
メイアの現在の不調はあくまで精神的なものであり、表面上では診察できない類である。
怪我や病気ならばここが悪いから駄目だと言えるのだが、精神は決して見えない。
ゆえに、ドゥエロにはメイアを止める権利はなかった。
道徳観を差し引けば、自分を通すメイアの主張は誰にも否定はできない。
自分の人生は自分のものであり、誰かが動かすものではないのだから。
が、それでもあくまで納得できない男が一人いた。
「戦えば、お前の命がやべえって言ってるんだぞ。
ドゥエロはな、お前を心配して言っているんだ!何でそれが分からねえ!!」
「それが余計な事だと言っている!」
「そうかい、だったら・・・・力づくで止めてやる!」
カイは完全に頭に来ていた。
自分を大切にしないメイアに、他人を拒否し続けるメイアに。
今までのように、自分の意見が否定されたから怒っているのではない。
心のどこかでメイアを心配する気持ちがあるが故の感情の高ぶりだった。
カイ自身、それがどういった気持ちの表れか気がついてはいない・・・・・・・
「カイ、何するぴょろ!?」
「うるせえ、あいつ止めるんだよ!無理やり医療室に運んでやる!」
カイはそのまま控え室を出ようとして、同時に控え室に入ってきた人間とまともに衝突した。
カイともう一人は転がり合い、床に相手がカイを押し倒す体勢になった。
「いたたた・・・・ちょっと何よ!?」
トリートメントの利いた長いブロンドの髪を揺らして、対面者であるジュラは頭を振った。
「ぐるじいっ!ぐるじいっ!!」
カイはというと、ジュラの豊かな胸の谷間に顔ごと挟まれてもがいている。
感触の気持ち良さもあったが、それ以上に息苦しさに耐え切れそうになかった。
カイのもがく様にジュラが渋々起き上がると、ようやく一息ついたように深呼吸する。
「ぜえ、ぜえ・・・殺す気か、てめえ!」
「あんたが突っ込んで来たんでしょう。何をそんなに慌ててるのよ」
ジュラの非難のこもった言葉に、カイは自分が今何をしようとしていたか思い出す。
表情を一瞬で剣呑とさせると、カイはジュラの横を通り過ぎる。
「悪い、どいてくれ!」
「ちょ、ちょっと!ジュラはあんたに話が・・・・・・・」
「後で聞くよ!その前にあの馬鹿を!!」
カイは二部屋が繋がる出入り口の自動ドアを開閉させて、トーレニングルームへ足取り荒く入った。
ちょうどメイアがシュミレーションを終えて上部がせり上がったところを、カイは急接近する。
メイアは操縦桿にもたれかかり、今も荒い息を吐いていた。
いつもの強気なメイアには見られない弱々しい態度にカイは目を見開いた。
やはり現状のメイアはおかしい・・・・・・
「お前よ・・・・自分をそんなに大事にできねえのか?」
痛々しい響きをこめて、カイは静かに言った。
メイアはもたれ掛かりながらも、横目でそっとカイを見やる。
「お前こそ、なぜそんなに私を気にかける?
ほっておけばいいだろう、いつものように・・・・」
メイアはか細い声で、カイにそっと語りかけた。
普段の二人は決して分かり合えない関係であり、視線を交えようともしない。
それは両者共に同一の任意であり、二人ともに意識して避けていた。
おかしい事ではない。それが当たり前の関係なのだ。
カイとメイアは決して理解し合えない男と女なのだから。
二人ともそう思っているのだから。
だから――
「・・・・・そうだな。俺、ちょっとおかしかったな」
「・・・・・・・・・・・」
カイはそのままメイアに背を向けた。
弱っているメイアに手を貸す事も、頑ななメイアを罵倒もしない。
踏み越えない、近づけない。
それが二人の唯一の共有した思いだった。
「てめえの人生だ。俺の知った事じゃない。
好きにしろよ」
カイはそのままトレーニングルームを出て行った。
二度と、メイアを振り向きはしなかった。
そしてメイアもまた、二度と出て行くカイを見る事もなかった。
<続く>
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