ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action20 -追尾-
リーダー候補であるディータ・リーベライが取った戦術とは、弾幕であった。姿を消す新型に対し、彼女は必死で考えて戦術を編み出して実行に移した。
この作戦、よく見かける戦術なのだがマグノ海賊団では余り採用されない。理由は単純で、弾幕に使用する弾薬類には限りがあるからだ。
アジトがあるメジェール領海内での戦闘であれば問題はないが、限りある資源に基いた作戦では有用ではない。一機倒すのに弾薬を浪費しては先が続かない。
この前提を、ディータはメイアがいないという前提をもって採用とした。頼りになるリーダーがいないのであれば、弾数で補う。
「ディ、ディータが攻撃に出ます。だ、だから皆はディータの援護をお願いしますね!」
『もっと堂々としなさいよ。作戦は悪くないんだから、しっかり命令すればいいのよ』
「分かった。ありがとう、ジュラ!」
勉強中の新米にしては、よく捻り出せた戦術だと思える。常識に振り回されずに、自分の力量と照らし合わせて最善の解答を出したのだ。
リーダー不在を埋める事が後釜の務めではあるが、何もかもシャカリキに一人でこなせとは言わない。問題は自分がリーダーであるならどうするのか、である。
力量不足を痛感しているのであれば、何らかの形で穴埋めすればいい。弾薬は確かに消費してしまうが、犠牲を出してしまうよりはマシだ。
感心するほどの戦術ではないにしろ、サブリーダーのジュラとしては頷けるものであった。ハッパをかけて、攻撃を促した。
「いけー!」
カイの出撃合図を真似た気合いで、ディータは最前線を走って新型へと向かう。目標を補足して発射、ドレッドのミサイルやレーザーをお見舞いする。
新型の基本性能も大したもので、ドレッドの素早い攻撃を次から次へと華麗に回避。見事な回避能力で、ディータの攻撃を躱していく。
敵の見事な動きに暗澹とせず、ディータは攻撃を続ける。一発勝負なぞ、欠片も望んでいない。何発撃とうと、当たってしまえばそれでいい。
それに、敵の動きを見て確信したこともあった。
(よかった、多分ディータのドレッドでも新型さんは倒せる!)
ドレッドによる、ミサイルやレーザー攻撃。確かに主武装ではあるのだが、ヴァンドレッドシリーズに比べれば格段に威力が落ちる。
だからこそせめて過剰な弾薬で火力を補っているのだが、そんなドレッドの通常攻撃を敵新型は一発一発わざわざ丁寧に回避を試みている。
もしも耐久力や再生力に優れているのであれば、被弾を恐れずに突撃してくるはずだ。隠密に優れているのであれば尚の事、攻撃を仕掛けるべきである。
敵の動きから耐久力を察したディータは勇気付けられて、敵への接近を果敢に行って弾幕を張り巡らせた。
正直に言えば、自信はない。もしかすると無人兵器であるからこそ、回避はプログラミングされているだけにすぎないのかもしれない。
ディータが今縋り付いているのは、実にか細い理だ。反論材料は山程あり、ほんの少し検証すれば粗が見えてくるだろう。
だが、ディータは敵へと接近する。自分の直感を信じられるほど器は成熟していないが、仲間達のことは信頼している。
自信を持って挑めとジュラが言ってくれたのだ、不安を心の奥底に押し込めて立ち向かわなければならない。
「これで……どうだーーー!!」
メイアより叩き込まれた戦術を駆使して、遂に新型の隙を見出してミサイルを発射。敵が動いた直後を狙っているだけに、回避する間もない。
発射ボタンにも力が入り、ミサイルは見事な軌跡を描いて敵に向かって着弾。急所へと突き刺さって、綺麗な爆発を起こした。
愕然とする。着弾したのは無人兵器――尖兵の一機であり、新型ではない。
「兵器さんが、仲間を庇った!?」
盾にしたのではない、自ら飛び込んで新型の危機を救った。庇われた新型は役目に殉じるかのように、姿を消してしまった。
どういう事だ。兵器同士でかばい合うことは、今までなかった。盾にすることはあっても、盾になろうとしたことは一度もない。
彼らはプログラミングされた機械兵器であり、それぞれに役目がある。自分の役割を果たすべく、一機一機が自ら破壊されるまで戦う。誰に顧みない。
地球の刈り取り兵器は、学習能力がある。まさか、彼らは人間の情を理解したのではないのだろうか?
『騙されないで!』
「ジュ、ジュラ……」
『あいつらは機械よ、人間の情なんて理解できない。敵を刈り取る兵器に対して、情けは無用よ。
新型だから守られたというだけ、尖兵一機落とされたくらい物の数にも入らない。リーダーなんだから、情に絆されるんじゃないの!』
「わ、分かった。ゴメンね、ジュラ!」
分かったのか――分かっている、でも本当は分かりたくはない。
ジュラの言っていることは、圧倒的に正しい。兵器に情けなんてない。彼らは無慈悲で人を殺すのだ、仲間同士という概念なんて持っていない。
彼女の言う通り、無人兵器には優先順位があるだけだ。新型を守ったのは、新機能が搭載されているからだ。新しい機能を持って、人間達を殺すことを最善とする。
その理屈は分かるし、納得も出来る。ディータは単に、辛かっただけだ。皆を守るためには、希望なんて追ってはいけない。
ドレッドチームのリーダーはいつだって、引き金を引けと命じなければいけない。理想や空想を求めて、破壊を躊躇ってはならないのだ。
『バーカ』
「ユ、ユメ、ちゃん……?」
『機械に、情なんて湧くわけ無いでしょう。人間を刈ることを、ポンコツ共は至上とする』
「分かってる、分かってるけど!」
『頭のおばかなリーダーちゃん、もしかしてのもしかして――ユメは、こいつらと違うと思ってる?』
「えっ……」
『ユメだって、誰が死のうがどーでもいいよ。人間なんて、誰だろうと死ねばいいんだ』
突然介入してきたユメの指摘は、的を射ていた。ディータが躊躇ってしまったのは、ユメやソラという幻影の少女の存在があったからだ。
ピョロだって機械だが、自分達と仲良くやっている。ユメやソラも身元は不確かにしても、カイを主として人間らしい生活を過ごしている。
前例があるからこそ、ディータも信じたくなる。仲良く出来ないのか、彼らにも情を与えてやることは出来ないのか。分かり合えないのか。
答えは、否だった――前例であるはずの本人、ユメが冷酷に否定していた。ディータは、項垂れてしまう。
――それがどうしても、我慢ならなかった。ディータの友人である、セルティックには。
『ねえねえ、人でなしのユメちゃん』
『ハア? 気軽に話しかけないでくれるかな〜、クマちゃん』
『艦内から、カイの反応が消えたよ』
『……、……え?』
『カイと一緒にいたカルーアの反応も消失した』
『――!?』
『誰が死のうとどうでもいいんだよね、アンタは』
<to be continued>
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