VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action3 −料理−




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 ディータ=リーベライは悩んでいた。

童顔のやや大きな瞳は左右に揺れ動き、可愛いその表情を悩ましげに見せている。

傍目からするとなかなかに微笑ましい様子ではあるが、本人はいたって真剣だった。


「う〜ん、どの料理がいいかなぁ〜」


 呟く声に答える者は付近には誰もいない。

戦艦内午前時において、ここカフェテリア「トラベザ」今日の客数は少なかった。

平常時ここトラベザは、時間帯においてそれぞれに訪れるクルー達はいる。

と言うのもクルー達の仕事の役割分担がきちんと決められており、スケジュール管理がなされているからだ。

当然休憩時間や交代時間も職種によって定められており、入れ替わり立ち代りで食事や休憩に訪れている。

トラベザはクルー達の憩いの場の一つであり、海賊達専用の食堂でもあった。

当然カイ達三人は立ち入る事は許されてはおらず、もし入室すれば即座に海賊達に追い出されるであろう。

男女共同を行うと海賊団お頭マグノ=ビバンが宣言してはいるものの、実質まだまだ男達は冷遇されていた。


「宇宙人さん、何が好きだろう・・・」


 珍しくため息を吐いて、目の前を流れる料理の数々を自分の目で見比べていく。

トラベザはバイキング形式となっており、キッチンスタッフ達により多くの手料理が作られる。

作られた料理は皿に盛り付けられ、計算されたカロリーの表示された札が付けられて、

一本のコンベア上に一つ一つ流されるのである。

そんなキッチンカウンターの前に屈んでのディータの様子は熱心さは大したものではあるが、

年頃の乙女としては少々恥ずかしい姿だった。

だが本人は一向に気にした様子はなく、コンベア上を流れる料理を見つめている。


「あら?何やってるのよ、ディータ」


 コツコツと固いブーツ音を立てて、背後からトレーを手にしたバーネットが近づいてくる。

きょろりと首を軽く曲げて、ディータは下からバーネットを見上げて言った。


「お料理を見ているの。美味しそうなのはないかなって」

「ここの料理は同じようなメニューばっかりでしょう。今更期待しても同じよ」


 バーネットの言葉は、トラベザを利用するクルー達共通の認識でもある。

トラベザは確かにカロリー計算もされて、内容も栄養価の高い食材を使った献立なのだが、

いかんせん決められたメニューにすぎないので、長旅を続けるクルー達には飽きてしまうのだ。

ローテーションを繰り返して違う料理を食べていっても、数ヶ月もすれば当然不満が出てくる。

ましてや故郷へ目指してのこの旅は一年は優にかかるので、クルー達も辟易しつつあった。

だが、ディータはすました顔で答える。


「ううん、平気。宇宙人さんは今まで食べた事がないだろうから」


 ここまで熱心にディータが料理メニューを選んでいるのは、ひとえにカイの為であった。

格納庫でカイに料理を作るとディータが申し出た時、カイは邪険な態度を一変させた。

嬉しそうに後で会おうと言ってくれた時のカイの表情が、今でもディータの瞼に焼き付いている。

ここで美味しい料理を作ればカイはもっと喜んでくれるだろう。

今から想像して、ディータは口元が綻ぶのを抑えられない。


「宇宙人?あんた、あいつにここの料理を食べさせるつもりなの?
まだ懲りてなかったのね・・・・」


 ディータの熱心さの真意が分かり、バーネットは呆れたとばかりに肩を竦める。

男に料理を食べさせるという、ディータの発想が理解しがたいのだ。

メジェールの女性達の感覚にしてみれば、えも知れない獣を餌付けする感覚に近い。

バーネットの表情を見たディータは逆に不思議そうな顔をする。


「どうして?宇宙人さん、ディータのお弁当も美味しそうに食べてくれたよぉ」

「らしいわね。噂は聞いているわ」


 男に手作りのお弁当を食べさせた。

この噂は瞬く間にクルー達全員に広がり、困惑と動揺を盛大に広める結果となった。

しかも対象者がカイと分かった時の反応は、見ていて面白い程に真っ二つに分かれたのだ。

「なるほど、あいつか」という納得と「まさかあいつに!?」という反発である。

カイを認めつつある者と嫌悪するものの差は果てしないほどに分かれていた。

これ以上ディータに言っても無駄と悟ったバーネットはそれ以上口を出さず、コンテナ上の料理を見つめる。

現在の時間は出撃のないパイロットは暇を持て余しており、

訓練と自機の整備以外はこうした休暇を独自にとる事を許されていた。

戦闘と言う職場では、誰より一番命を賭けているのがパイロット達だからだ。

座り込んで観察するディータと同じく、バーネットもそのままに真剣に料理を見比べている。


「最近運動してないからな・・・
お腹はすいているけど、食べすぎもスタイル悪くするし・・・」


 常日頃ジュラと共にいる事もあってあまり目立たないバーネットだが、

マグノ海賊団の中ではトップクラスの運動神経と端麗な容姿を持っている。

ぴんと通った鼻筋に。薄い唇、整いすぎた顔立ち。

日頃目立っているジュラと行動を共にしなければ、十分な人を惹きつける魅力があった。

自身のスタイルの良さは意識しているのか、カロリーを気にしているようだ。

バーネットは食欲の誘惑とプロポーションを維持する事への欲求を天秤にかけて悩むこと短時間、

結局誘惑が勝ったのか、エネルギー値の高いステーキセットに手を伸ばす。

焼け具合が絶妙な香ばしいソースがかけられたその料理を手に取ろうとしたその瞬間、


「やっぱりこれかな♪っと」

「あっ!?ちょっと、ディータ!!」


 屈んだまま素早く横からステーキセットの皿を掴んだディータに、バーネットは勢いよく詰め寄った。

内心の葛藤を乗り越えた直後とあって、バーネットの悔しさはより一層のものとなっている。

怒りを露にしているバーネットに、ディータは微笑んで言った。


「宇宙人さんはこれくらいならぺろりと食べそうだよね、あはは」

「いいから、それ私に譲りなさい。
あいつなら何やってもガツガツ食べるに決まってるわよ」


 好き嫌いはなさそうなカイではあるが、バーネットの言葉はどこか投げやりだった。

むしろ目の前のボリュームのあるステーキに未練があるのか、視線はそちらへと釘付けになっている。

ディータはバーネットにむっとした顔で、ピンと人差し指を立てる。


「駄目だよ、バーネット!バーネットは近頃ご飯食べ過ぎているよ。
バーネットはせっかく胸とか大きくて綺麗なのに、お腹まで出たらみっともないよ」


 邪気のない善意の言葉であっただろうが、バーネットはまともに硬直する。

よほど指摘されたのだがショックだったのだろう。

それにひきかえディータはそのままその場から立ち上がって、勝ち取った料理を嬉しそうに見やる。


「宇宙人さんにいっぱい喜んでもらうんだ♪
バーネット、お仕事頑張ってね!」


 るんるんっと鼻歌を歌いながら、ディータは軽い足取りでカフェテリアを出て行く。

幸か不幸かその場には他のクルーはおらず、必然的にバーネット一人が取り残された。

静寂が残ったトラベザで呆然としていたバーネットだったが、やがて自分の胸や腰を恐る恐る触る。


「ふ、太ってないわよね?別に変わってないわよね・・・・・?」


 誰に聞くともなく、バーネットは小さく呟き続ける。

その後悩みに悩みぬいて、バーネットが取った本日の昼食はサラダのみだったという。















 マグノ=ビバンは悩んでいた。

人の手がかかっていると見られる惑星に「刈り取り」に関する情報を求めて立ち入るか。

万が一に備えて危険を避けて通るか。

どちらが正しいか、どちらが間違えているか、不確かであるが重要な二者択一。

自分の決断で、我が子同然であるクルー達の命運が掛かっていると言っても過言ではないからだ。

ブリーフィングルームからここメインブリッジへと戻った今でも、マグノは決断できずにいた。


「地表調査、完了。自然環境把握に困難。恐らくは大部分が死滅していると思われます」


 コンソールからのデータを探査モニターへとグラフィック表示させ、アマローネは報告する。

元々長距離センサー担当の彼女は、大気に覆われた目の前の死の星の探索を行うのは簡単であった。

ブリッジクルーとして活躍しているアマローネの手腕は伊達ではない。


「惑星全域に渡って、微弱ですが広範囲の熱源反応があります」


 傍らで同じく惑星の探査に勤めていたベルヴェデールが報告を述べる。

マグノ海賊団は故郷で帰りを待つ他のクルー達を含めて、数百人単位で専門技術を持つメンバーがいる。

その中でマグノやブザムと言った重鎮達の搭乗する母船のクルーに選ばれるのは当然エリート達であり、

アマローネ・ベルヴェデール・セルティックは選ばれた女性達である。

ディータのような新人達に母船の搭乗を許されるのは、極めて稀であると断言してもいい。

もしもこのような異常な事態を予想できていれば、ディータ達の搭乗は許されなかったであろう。

今回ではアマローネが主体として、ベルヴェデールは調査の補助を担当している。

後方のセルティックは全体的なバックアップに準じており、理想的なポジションを三人は保っていた。


「砂嵐がひどいので不確かではありますが、人工物らしき建物があります」


 判断に困っている様子ながらに、アマローネ達の報告を信憑付ける証拠をエズラは申し出た。

手元のモニターには激しいノイズが走っており、地表画面の表示すら困難な状態のようだ。

日頃おっとりとしているエズラだが、仕事に関しては常に正確な働きをしている。

各報告を受けたブザムは惑星の情報を吟味して、マグノへと視線を向ける。


「お頭。先程ではありますが、やはり降りた方が懸命だと思われます。
後手に回ってばかりでは、我々はいつか足元をすくわれるか知れません。
危険の可能性はありますが、積極的な行動に出る事で道が示される可能性もあります」


 ブザムの言葉はもっともである。

現在故郷へと全速前進で向かっているとはいえ、肝心の敵の情報が全く掴めていないのだ。

このまま帰参しても、故郷の人間が信じるかどうかは怪しい。

まして敵の情報が少なければ少ない程に、いざ戦いとなると不利になる可能性は大きいのだ。

何しろ敵は無限の如く新型兵器を投入しているのに対して、こちらは手元の兵器で戦ってばかりいる。

現状が続くと自分達の情報が次から次へと渡って行き、随時不安定な立場に立たされるのだ。

前向きな考えを講じるブザムに、マグノは瞳を閉じて瞑想に耽った。

現状維持を保つか、思い切った手をうつか。

マグノがこうした熟考に入った際は、ブザムは決して口出しはしない。

これまでマグノが誤った決断を犯した事は一度たりともなかったからだ。

人格や年齢で曲者ばかりの海賊達を束ねる事はできない。

ブリッジクルー達が答えを待っている中、マグノは考えに考えてついに結論を出した。


「前回の戦いで大分敵さんにはお世話になっちまったからね・・・・・
うちはすっかり火の車だよ。
ここは一つ海賊本来のやり方で丁寧にお返ししないとね」


 突然のペークシス暴走からウニ型の苦戦で、マグノ達は苦しまされてばかりいる。

その事実を皮肉っての発言に、ブザムは苦笑しつつ頭を下げた。

危険の可能性も考慮して、尚自分の提案が正式に受理されたのだ。


「ありがとうございます。出来得る限りの仕事をこなしてみせますので」

「よろしく頼むよ、BC。何があるか分からないからね」


 マグノの信頼のこもった言葉にしっかりと頷いて、ブザムは真剣な表情で命令を飛ばした。


「気象観測、開始。降下するタイミングを割り出してくれ。
パイロット達の安全を第一にするように」

『了解!』


 ブザムの言葉に同じく真剣な表情で受け、アマローネ達は再びコンソールを再操作し始める。

本格的な惑星の調査が決定されたのだ。

実際に惑星内を突入する者達の安全は、ブリッジクルー達の仕事ぶりで変化するといっても過言ではない。

一時たりとも手を抜かずに、安全性を確認に確認を重ねる必要があった。

厳しい眼差しで調査を行うアマローネ達を、艦長席よりマグノは信頼の込められた眼差しで見つめる。

いよいよ本格的な惑星への突入が始まろうとしていた。















 カイ=ピュアウインドは悩んでいた。

ドゥエロの親切な説明と分かり易い解説をしてもらい、医療室を後にしてからも悩みは尽きない。

近距離戦を得意とする蛮型に遠距離攻撃を可能とする方法。

積みやすいライフルを肩に背負う、特化した形状の近距離武器を改造化させて遠距離範囲を広げる。

アイデアこそたくさん出るのだが、これだ!という発想が思い浮かばないのだ。

遠距離攻撃を行うための銃器類は重量のために肩に背負うしか出来ない。

改造化するには、そもそも根本的な設計から行わなければいけない。

全ての弱点を克服する案が見当たらないのであれば、カイには意味がなかった。


「思い切って相棒そのものをフル改造するか?
いや、でも相棒の身体を弄り回す真似はしたくないからな」


 仮にも夢を実現する上で共に歩む相棒である。

浅はかな真似はしたくなかったし、知識もろくにない自分が改造を行えばどうなるかも予想できない。

カイは普段はあまり使わない脳細胞をフル活動させながら、通路内を重い足取りで歩いていた。

目的がある訳ではないが、どこか静かな場所でゆっくり考えたかった。


「ああ、もう!!何かいい考えがないのかよ!!
ただ単に近場の攻撃を遠くに出来る様にするだけじゃねーか!!
何故に出来ない、どうして出来ない、何で出来ないんだぁーーー!!」


 理不尽な叫びは通路内を木霊し、カイはその場で地団太を踏む。

そもそもカイのやろうとしている事は根本的に無茶であった。

例えばドレッドは持ち前の加速度とビーム等の遠距離攻撃を可能としているが、

近距離で攻撃をされると脆いという欠点がある。

以前カイとメイアが戦った時も素人であるカイが善戦できたのは、近距離戦に持ち込めたからだ。

あの時遠距離射程で対立した時、メイアがカイを本気で殲滅しようとしたなら今頃カイは死んでいる。

人間が作った兵器である以上、長所があれば短所もまた存在するのだ。

完全無敵の兵器が出来るというのであれば、今日の科学の発展はそこで止まってしまう。

短所を補おうとするのは立派だが、何の欠点もなしに克服しようとするのは困難である。

そう言った意味でドゥエロが医療室で、カイに忠告した内容は至極もっともだった。


「ドゥエロに教えてもらった事をまとめると、だ。
蛮型は陸上強襲型として設計されて、武器を持たせる事で近距離戦を最有効的攻撃としている。
操縦の扱いやすさと武器の手軽さで九十九型は絶賛されて、海賊団壊滅の切り札とまで言われていた」


 手元のメモ書きと取り扱い書を元に、カイはおさらいする。

これまでに得られた情報を整理して、そこから導き出せば何か答えが見つかるかもしれないからだ。

「俺の相棒はその中で不慮の事故で改良されて、全体的にバージョンアップされている。
と言う事はだ、従来に既存しない新しいやり方が可能かもしれない」


 カイの相棒は宇宙の何処にもない、タラークにも今だ開発されていない新しいタイプへとなっていた。

基本的構造は無論九十九型だが、全体的に改良されている今では近距離戦用武器すら応用化が可能である。

新型であるがゆえに、新しい可能性もまた存在するかもしれない。

展望が広がっている以上、追求してより大きな発展もまた目指せるのだ。

カイはそう考えて、マイナスな思考を吹き飛ばした。

そもそもカイ自身が誰もがあり得ないと思っている、途方もない夢へまっすぐに向かっているのだから。


「俺は宇宙一のヒーローになる男だからな。これくらい思いつけないと話にならないぜ」


 常にプラス思考なのが、カイの長所なのかもしれない。

改めてすっきりした気分で考え直すべく、カイはてくてくと通路内を歩いていく。

そこへ突如艦内放送の回線が開かれて、冷静沈着な女性の声がカイの耳元へ飛び込んでくる。


『パイロット並び各クルーに告ぐ』

「ん?この声、ブザムか。敵でも現れたのか」


 自分の事に精一杯で現状を知らないカイは、緊張感に表情を引き締める。

が、その後に続く内容で度肝を抜かれる結果となった。


『これより惑星降下による探索を開始する。各自ヴァンガードのシュミレーションを行うように』

「はあっ!?各自って、まさかあいつらもか!?」


 惑星探索にあたっては、当然戦艦そのものを降下させるわけにはいかない。

何しろ何が起こるかまったく予想も出来ない星へと舞い降りるのだ。

全長にて約3キロを超える融合戦艦ニル・ヴァーナを降下すればトラブルが起きた場合、尋常な被害が出る。

かと言って、小型船を着陸させるのは論外である。

砂嵐がひどい状態でまともな着陸すらできるかも怪しい。

ドレッドでの着陸も出来ない以上、残された安全策は陸上に最適な蛮型しかなかった。

皮肉にも、今回の探索はカイが調べていた蛮型の有効性を発揮する最適な舞台になるかもしれない。


「ドレッドしか操縦した事がないあいつらに出来るのかよ。
ま、赤髪は案外喜びそうだけどな。
『宇宙人さんの乗り物に乗れる〜』とか言っ・・・・・・・・!?」


 ディータの天真爛漫な笑みを思い浮かべて、ふと悪い悪寒に全身を襲われるカイ。

確かにディータは蛮型搭乗を大いに喜ぶかもしれない。

何しろ出会ってからまだ短期間だが、驚くほどに自分に興味を示す女である。

もし自分の乗る機体に大っぴらに乗れるとあれば、彼女はどういう行動に出るだろう?

何しろ余計なお節介レベルは最高に属する女である。

もしかして親切だと勝手に勘違いして、自分の相棒を・・・・・・


「いかーーーーん!あいつなら絶対にやる!!
待て待て待てーーーーー!!!」


 顔色を青ざめたカイは今まで自分が歩いてきた通路をUターンして、一気に走る。

普段暇に任せて船内を歩いているだけあって、近頃は案内表示なしでも各フロアを把握しつつあった。

全速力で駆け抜けて、通路を右に左に曲がって、ようやく目的地へと辿り着く。

多数の新型九十九式が収められたままになっている格納庫である。


「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・」


 全速力で休みぬきで走り続けた身体を整えつつ、カイは内部へと足を踏み入れた。

格納庫内は放送を受けたパイロット達やクルーが集まって、それぞれの保管庫のシャッターを開けていた。

詰まれたまま、結局活躍しなかった蛮型の数々を出しているのである。

思えばタラークを出立してから、一度も使われていなかった哀れな兵器達である。

整備も何もほったらかしだった為、急遽メンテナンス作業が必要であった。

カイが作業人員が行き来する中、呼吸を荒げて周りを見やる。


「え〜と、あの馬鹿はどこだ・・・・ん?」


 格納庫全域を見渡していると、いつものパイロットスーツを着こなしたメイアと目が合った。

どうやら放送を聞きつけて、チームリーダーとしての責任感ゆえに一早く来たのだろう。

カイに気がついたメイアはブルーの瞳をやや揺らす。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 両者互いに無言のまま、何も言わずに見つめ合った。

ウニ型の戦闘以降、二人は一度も顔を合わしていない。

どちらかが避けているのではなく、両方共に避けているのだ。

ここで会ったのは、あくまで偶然に過ぎない。

ゆえに―――


「さてあの馬鹿、あの馬鹿はっと・・・・・」

「すまないが、塗装は後にして整備を優先してくれ。降下時間が迫っている」


 二人はどちらともなく視線を避けて、己のするべき事に戻った。

明らかに意識してはいるが、分かり合えない関係。

二人の現状の関係は男と女以上に、触れ合う事も許されない溝の深さが間にあった。

カイはそのままメイアに向き合う事もないまま、ディータを探して格納庫内をうろついた。

作業に没頭するクルー達を一人一人チェックし、歩いていって、カイは自分の相棒の元へ辿り着く。

そのまま上部のハッチへ視線を移して、カイはギョッとした顔をする。


「宇宙人さんの相棒さん、綺麗綺麗にしないとね〜♪」


 そう言いながら、ディータは手に持っている大型ペイント銃を構える。

狙いは――――カイの相棒。


「こらぁーーー!!ちょっと待て、てめえっ!!」


 そのまま梯子を慌てて登って、カイは咄嗟に自分の身体を相棒の前へさらけ出す。

ほぼ同時にトリガーに指をかけていたディータが、カイの怒鳴り声に反応して引き金を絞ってしまった。


「にょわああああああああっ!!!!!!」 


 凄まじい勢いで発射されたピンク色のペイントが、まともにカイへと着弾する。

当然カイは全身をピンク色で染められて、髪の毛から服まで染め上げられてしまった。

不幸中の幸いか、体を投げ出した事もあって相棒は無事に金色のまま輝いている。


「わあ〜、ピンクの宇宙人さん可愛い♪」


 不慮の事故なのだが、ディータは大喜びでカイをキラキラ瞳で見つめる。

が、直後に表情を恐怖で染め上げた。


「うふふふふふふふ・・・・・・・
あ〜か〜か〜み〜〜〜〜〜、人生をここで終焉させてやろうかぁぁ〜〜」


 指をポキポキ鳴らして、カイは怒りに引きつった笑みでじりじり迫る。


「う、宇宙人さん、お、落ち着いて!」

「これが落ち着いら・・・・・・って・・・?」

 詰め寄ってお仕置きしようとしたその時、カイはふと目が止まったものがあった。

ピンク色に染め上げながらも数秒間ぼんやりと考え込んで、にやりと笑った。


「それだ!でかした、赤髪!!」

「え?え?」


 ペイント銃を担いだまま、ディータはカイの言葉の意味が分からずに目を白黒させた。




















<続く>

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