ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action8 -祝杯-








 副長のブザムとエズラと共にカイやメイアがミーティングルームへ入っていたことを確認すると、ブリッジクルー三名は即座にニル・ヴァーナ艦内に通達した。

極秘回線を使っているので、上司といえど発覚する事はありえない。情報管理担当のセルティック本人が情報封鎖しているのだ、万事抜かりはなかった。

事の張本人が長時間の会議に篭ったと知るやいなや、全クルーが総動員して派手かつ極秘に活動を開始する。今ならば堂々と行動してもバレることはない。


サプライズパーティ会場の準備と品出し、何より目立ってしまう行動フェーズも今ならば行える。


「今の内にパーティの料理を仕込んでおくわよ。カフェテリアには来ないようにカイと連携しているけど、メイアの事だから油断ならないわ。
私も今日はレジを休んで、丸一日協力するわ。キッチンチーフのミカさんと連携して誕生日ケーキを作るから、料理をお願いね」

『ラジャー!』


 肌の見える作業着に白いエプロン姿のバーネットが、カフェテリアに飛び入りして協力を申し出る。一も二もなく、キッチンクルーは承諾して事に当たる。

器用貧乏なバーネットは特筆すべき才能はない分、一通りの作業はこなせる。料理もその一環であり、人並み以上の料理センスや経験を持っている。

ジュラの為にお菓子を作った事もあり、ケーキもデコレーションを飾る技術を持っている。あまり周知していないのだが、本人も甘いもの好きだった。


パーティ料理は味と同様に見た目の華やかさも大切で、その分手間がかかる。美味しい料理を作れば、当然食欲を誘う香りも漂わせる。


料理における必要なエッセンスは人目を引く華がある以上、どうしても人の目を引いてしまう。隠し事をするのに、料理ほどむいていない分野はない。

メイアは職務において休息はさほど取らないが、休息の重要性も理解はしている。一人コーヒーを飲む時間を自分で設けており、その時間を自分で決めるので部下達に把握出来ない。

いつ来るか分からないのでパーティ料理の準備が行えなかったのだが、カイの誘導のおかげでメイア本人はミーティングルームに篭っている。今が最大のチャンスだった。


肉体作業に駆り出されているバートやその子供達も、お手伝いに材料を持ってやって来た。


「料理ってのはホント、手間がかかるもんだね。うちの企業が作っているペレットなら手間要らずで美味しいのに」

「シャーリーも、おにーちゃんのペレットは好きだよ!」

「そうかそうか、うんうん。そうだよね、美味しいものが食べられるというのは幸せだ」


 元気よく微笑ってくれるシャーリーを見ていると、バートまで元気付けられるようだった。本人の前で堪えているが、涙を滲ませている。

病の星で重病に苦しんでいたシャーリーは、食欲なんて無かった。点滴による栄養補給が精一杯で痩せ細り、明日をも知れぬ命だったのだ。

生まれ持った理不尽な不幸に対して一時は神様を呪ったものだが、今はこうして少しずつでも食事を自分で取れるようになっている。本当に、感慨深い。


ペレットも自分の好みを押し付けているのではない。栄養素のある簡易食は消化も良く、病み上がりのシャーリーには食べやすいのだ。


「お菓子代わりとしては悪くないけどよ、折角のパーティならアタシはたらふく美味いものが食いたいな」

「ツバサちゃんはどういう物が好きなの?」


「アタシ? アタシは……何でも食うぞ」


「適当だな――痛っ!?」

「好き嫌いがないと言え!」


 ミッション育ちのツバサは病気に縁のない元気な少女ではあったが、生まれ育った環境は病ではなく貧困に苦しめられていた。

地球が建設したミッションは構造が古く、食料生産ユニットも旧式で物資には常に悩まされる環境下にあったのだ。

あそこでは弱肉強食が横行しており、弱い人間から順に淘汰されていった。子供だったツバサは狡猾に生きてはいたが、無力な子供なので食べ物には恵まれなかった。


カイに引っ付いて来てからは食事には困らなくなった分、何でも食べるようにはなっている。


「……ムフフ〜」

「……何よ、おんぼろロボット」

「羨ましいピョロ?」

「は?」

「誕生日パーティーの食事、美味しいものがいっぱい並ぶピョロ。でもお前は食べられないピョロー、ムフフフ」

「アンタだって食べられないじゃない、ポンコツロボット!」


「ピョロはピョロUの笑顔があればお腹いっぱいだピョロ!」

「ユメだって、ますたぁーと妹ちゃんが居れば後は何にもいらないもん!」


 ――そして、人外コンビは食そのものを不要としている。ナビゲーションロボットと立体映像は、不毛な口喧嘩を繰り広げていた。

人間が生きるのに栄養が必要だが、ピョロやユメは栄養素は不要である。食事の概念は、食事をしなければ身につかない。全く縁がなかった。

それはすなわち、美味しいという感覚を知らないということだ。病気や貧困で食べられなかった少女達よりもある意味、不幸なのかもしれない。


その気持ちを決して表に出さず、不平不満を当人同士で吐き出している。


「あらあら、いつものおチャラカチームがやって来たのね。相変わらず賑やかね、アンタ達は」

「手伝いに来たんだから、文句を言わないでくれよ。頼まれていた材料も全部持ってきたよ」

「はいはい、ご苦労様。それじゃあお礼代わりに、アンタ達の要望も聞いておきましょうか」

「要望?」


「ケーキとかに何か仕込みたいものがあったら、今の内に言ってね。後から言われても追加で作れないから聞いておくわ。
今まではメジェールの料理だけで十分だったけど、今年はアンタ達みたいなのがいるからね」


 要望を聞くバーネットの顔はいささか苦笑い気味だ。改めて思うと、本当によくこれほど変わった人種が集まったものだと思う。

タラークの男達に異星の少女、地球の基地に住んでいた子供にロボットや立体映像のおまけ付きだ。今年の誕生日パーティに、こんな変わり種が参加するとは夢にも思わなかった。

そして今、彼らの協力があってサプライズが成立しつつある。長年の願望が叶うと思うと、協力者達の我儘くらいは聞いてやりたい。


バーネットのこうした申し出をありがたく思いつつも、不満顔が並んでしまう。


「気持ちは嬉しいけどさ、男の料理とか作れるの?」

「カイが普段がっついているもの。男が好みそうな食べ物くらいはもう分かるわよ」

「あのー、食べられそうなものとかあるでしょうか?」

「食べやすい食事も用意してあげるから安心しなさい」

「美味いものとか、ご馳走とかあるのか!?」

「ハンバーグとかカレーとかも作ってあげるわよ」

「ふふん、ピョロが喜ぶ料理を果たして作れるピョロ〜?」

「離乳食はちょっと早いかもしれないけど、カルーアの為に作ってあげる」

「ブーブー、何作ってもユメは食べられないもん!」

「馬鹿ね、料理ってのは口にするだけではなくて見た目も味わうものよ。アンタ一人の為に、彩り豊かなお菓子を作るわよ」


 全員揃ってお互いの顔を見つめ合って――その場で一斉に、バーネットに頭を下げてお願いした。


祝杯を上げるのに、人種は関係ない。人種は壁となってしまっているのならば、料理の可能性を持って乗り越えてしまえばいい。

それはかつて、そして今でもカイガ懸命にやって来たことである。まさか自分が料理を作って成し遂げることになるとは、夢にも思わなかった。

ドレッドの操縦桿を握り締めているだけならば、決して出来なかったことだろう。パイロットは若くして引退してしまったが、存外良かったのかもしれない。


色々な世界から来た子供達が喜んでくれるのを見て――バーネットは心から、充実した笑顔を浮かべられた。























<to be continued>







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