ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action5 -関与-
「……」
「……」
「……」
「な、何だよ、お前ら。来るなり、怖い顔を並べやがって」
メイアとカイ、二人は揃ってニル・ヴァーナのメインブリッジへ訪れていた。艦内改装と大掃除に関する指揮権を、パルフェに委託する承認を得るべくである。
上級幹部であるメイアであれば通信で求めれば済む話なのだが、カイが横槍を入れた。スーパーヴァンドレッドに関する戦術等の相談もしておきたかったのだ。
――という理由は、あくまでも表面上。ブリッジへメイアを招いた理由は機密性の高い会議室へ、メイアを長時間閉じ込める事である。物理的ではなく、仕事上の理由で。
こうして二人がブリッジへ訪れてみると、アマローネ達の剣呑とした目に出迎えられた――セルティックは着包みを着ているが、睨みは鋭い。
「カイ」
「だから何だよ」
「例えばこの三人の中で一日一緒に行動するとしたら、誰を選ぶ?」
「本当に何なんだ、突然!?」
突拍子もないアマローネの質問に、カイは仰け反った。聞かれる理由も、聞き出さなければいけない理由も、さっぱり分からない。
ただ隣で聞いていたメイアは、三人が固唾を呑んで返答を待っていることが伺えた。冗談や遊び半分での質問ではないらしい。
となれば、好悪に関する質問である事くらいは察せられる。誰が一番好かれているのか、気になっているのだろう。
以前なら仕事中の談話を咎めていただろうが、今一緒に行動しているメイアとしても質問の回答は気になっていた。カイは一体、誰を選ぶのだろうか?
カイは呆れた顔をしつつも三人を見渡して、言った。
「この中ならアマローネかな――グハッ!?」
「セルがいきなりの飛び蹴り!?」
特に躊躇いなく返答した瞬間、自分のシートから飛び上がったセルティックがカイの顎を蹴り上げた。突然の暴力行為に、他の二人が飛び上がっている。
完全に衝動的な攻撃だったのか、本人もそのまま転げ落ちている。セルティックはシステム屋であり、運動神経には恵まれていない。
ただ着包み効果は絶大でそれほどダメージもなくすんなり立ち上がって、倒れているカイをバキバキ蹴っている。見るに耐えない行動であった。
メイアもさすがに見咎めて、セルティックを制止。本人も衝動的なのは自覚しているのか、抵抗もせず攻撃を止めた。
「転んでいるところ申し訳ないけれど、理由を聞かせてもらえるかな?」
「……この行動を見れば、少なくともこのクマは選ばんだろう」
「これ以上ないほど納得できたけど、何でアタシを選ばないのよ」
「一緒の部屋で寝るのは嫌だという女より、寝泊まりオッケーな女を選ぶぞ普通」
「アマロ!?」
「ベルが嫌だというから部屋を貸してあげたのよ。カイだったら別に一緒の部屋でもかまわないから」
アマローネの一貫した姿勢に、ベルヴェデールは唇を噛んだ。本気だ、本気でアマローネはカイを夫であるオーマの候補に選んでいる。好意や友情より、信頼を重視して。
最初の母艦戦でニル・ヴァーナが半壊し、カイ達は部屋を失った。その後しばらくはあちこちで寝泊まりしており、女性の居住区をお邪魔した事もある。
パジャマパーティは毎夜のように開催されて、男達三人と女性陣で仲良く話して交流を深めた。男達三人は人畜無害の塊であり、いつしか抵抗も無くなっていった。
ただ雑魚寝をしたことはあっても、自室まで提供した女性は少ない。同じ性別であっても、部屋同士の交流は案外少ない。プライベートというものがあるからだ。
海賊社会では集団行動が常の為、プライベートな時間は尊重される。仲間であっても深い関与はせず、一人の時間を大切にするのだ。団体の中で個人は尊重される。
それでも部屋に招くということは、信頼を寄せている証だ。アマローネは何度もカイに助けられて、性別こそ違えど本能で強い人間を伴侶に選んだのだろう。
信頼を寄せる女性をカイは選ぶ、当たり前の話だった。
「むっ……だったらカイ、アタシの部屋にも来なさいよ」
「いや、もう寝床を見つけているしな」
「むむ……」
「むしろ折角だからお前が遊びに来いよ、ベルヴェデール」
「えっ!?」
「長い間世話になったからな、遊びに来てくれるなら歓迎するぜ」
「行く、絶対行く! 可愛いパジャマ、着ていくね!」
「広々としていて寒いけどな、母艦は」
アマローネの信頼を嬉しく思いつつも、何だかんだで気遣ってくれていたベルヴェデールにもカイは恩義を感じていた。
ベルヴェデールが部屋への入居を嫌がること自体も、別に嫌悪はしていない。むしろ自分の部屋に男を招く抵抗くらい、カイも分かっていたのだ。
カイは三等民の酒場暮らし、ニル・ヴァーナ乗船後も元監房を男達三人で生活していた。雑居暮らしが長いカイにプライベートは無かったが、女性の繊細さは感じていた。
喜び跳ねるベルヴェデールに苦笑していると、後ろから飛び跳ねてきたクマに背中からタックルされた。
「一体何なんだ、お前は!」
「……」
「えっ、お前も?」
「……!」
「あー、はいはい。常日頃の情報提供には感謝しておりますとも、どうぞ遊びにいらしてくださいな」
恩着せがましい物言いに皮肉で返したがセルティックは満足したのか、カイから離れてシートに座り直した。女性三人は早速お泊まりの日を決めている。
三人の一連の行動を目の当たりにして、メイアはカイの交流関係について深い感銘を受けていた。半年以上の同居生活で、着実な人間関係を築いている。
自分が長年苦労していた他社との交流を、これほどあっさり行えるカイに尊敬を抱かずにはいられない。
羨望と嫉妬を感じるが、自分の瑣末な人間性を悔やむ気持ちの方が大きかった。
「他者への関与、か……」
「不規則だと咎めるか、青髪」
「風紀が乱れていると指摘するべきなのだろうが、難しいな」
「お前でも、そういう面で悩んだりするのか」
「むしろ悩んでいなかった昔の自分に問題があると、お前を見ていると思ってしまうな。この度で、私も随分仲間達には救われている。
逆に、私が救えたケースは少ない。だから港仲睦まじいお前を見ていると、少し羨ましく思えてしまうよ。
他者への関与を否定する私ははたして、お前のように信頼を得られているのだろうか――」
和気藹々としていた三人娘は口を閉ざし、カイもきまりの悪そうな顔をする。メイアの心配は杞憂である、その事を伝えたくても伝えられない。
メイア・ギズボーンの誕生日パーティ、サプライズ企画。この企画はマグノ海賊団クルー全員で、行っている。全員だ、誰一人として非協力的な人間はいない。
これほど皆が祝ってくれる人間が、信頼を得られていない筈がない。むしろ皆から好かれている尊敬すべき人間だ、そう言いたかった。
けれど、言えない。口で言うのは容易いが、万が一でも企画が漏れてしまえば、サプライズではなくなる。一時の衝動に任せてはいけないのだ。
だからこそ、辛かった。大切にされていることを証明する絶好の企画なのだが、本人には事前に伝えてはいけないのだ。
悩み苦しむメイアの苦悩は全くの杞憂であるのに、伝えられない。伝えるわけには、いかない。
これははたして悲劇なのか、喜劇なのか――企画が成功するまでは、分からない。
「メイア、カイ。来ていたのかお前達、ちょうどよかった」
「お、おお、ブザム――と、おふくろさん?」
きまりの悪い雰囲気を破るかのようにブリッジへ来たブザムにカイはホッとしかけて、怪訝な顔に変わった。
入ってきたのはブザムと、深刻な表情を浮かべているエズラ。日頃のどかな微笑みを浮かべている女性が、悩んでいる顔を見るのは珍しい。
長年の付き合いであるメイアにとっても珍しいのか、自分の苦悩さえ忘れて不思議そうに見やっていた。
「お前達に、大切な相談がある。少しの間、時間を貰いたい」
<to be continued>
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