ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action2 -隠密-








 カイとメイアの打ち合わせが終わった直後のカフェテリア――食事が終わって二人が揃ってカフェを後にしたその瞬間、ここぞとばかりにあらゆる場所から女性陣が飛び出してきた。

キッチンからチーフのセレナを先頭に、バート率いるチビッコチーム。テーブルの下からディータ達ドレッドチーム、観葉植物の影からドゥエロ率いる分析チーム、ドリンクコーナーの脇からレジチーム。

本来なら気付いて然るべき不用心さだが、メイアはカイとの朝食タイムに余程気を許していたようだ。共に出て行くその瞬間まで、メイアは気付くことはなかった。


無論、カイはこの潜入メンバーには気付いている。彼もまた、この者達の仲間なのだから。


「――先手必勝とはよく言ったものだ。見事、メイアのスケジュール管理に成功した」

「先制攻撃はあいつの得意技だからね。何にしてもこれで一番厄介だった、メイアの行動制限と監視が行えるよ」


 カイがメイアを朝から待ち伏せていた事は、作戦の一環だった。作戦内容はサプライズパーティ、敵目標はメイア・ギズボーンその人。

地球の母艦奪取以降、刈り取り作戦は明確な遅延を見せており、大幅な足止めに成功した。同時に戦力拡大も兼ねて、現在マグノ海賊団は長期停泊を行っている。

刈り取りによる無人兵器さえ襲いかかってこない平和な時間だが、彼らは今ある種敵殲滅より難しいミッションを進行していたのである。


作戦概要は通常通り、メインブリッジクルーの三人が説明していた。


「作戦決行はメイアの誕生日。ターゲットには決して気付かれずに、任務を遂行しなければならない」

「誕生日は一年に一回。マグノ海賊団旗揚げより現在数年が経過しているけど、本作戦における成功率は0。一度も成功していないの」

「理由は唯一つ。ターゲットに作戦が漏れてしまい、任務決行当日に逃走を許してしまっている」


 この作戦において非情に厄介な点が、ターゲットにある。メイア・ギズボーン、このターゲットの恐ろしさは孤高な天才である事。

孤高であるがゆえに人を決して寄せ付けず、天才であるがゆえに人の動きを確実に読んでいく。サプライズの天敵というべき輩である。

自分の誕生日には無関心でも、誕生日であると周囲の動きで気付いて当日姿を消してしまう。これでは、サプライズパーティの意味がなかった。


今年もまた誕生日を迎えつつあるものの、今までと同じ作戦で行けば同じ失敗をするだろう。そこで――


「そこで、宇宙人さん達に頼ろうと決めたの」

「あんた達ももうジュラ達の仲間だしね、この際一緒に手伝ってもらった方が助かるわ」

「色んな意味で規格外だからね、あんた達は。メイアの裏をかけるんじゃないかと、期待しているのよ」


 メイアの同僚であるディータやジュラ、元同僚だったバーネットも揃って歓待の意を示した。同じテーブルに居ても抵抗はまるでない。

数カ月前に行われたクリスマスパーティとは、まるで違う歓迎ぶりだった。嫌々でも渋々でもなく、自然と女性陣が男性を誘っている。

男に完全な抵抗を無くしたのではない。故郷より教育された長年の価値観というのは、そう簡単に覆せたりはしない。どうしても警戒はしてしまう。


ただしカイやバート、ドゥエロの三人は別だった。少なくとも、この三人は無条件に信頼できる。


「聞いたかい、ドゥエロ君。僕達、彼女達から歓迎されているよ」

「涙を拭くんだ、バート。これは我々の努力の結果、笑って胸を張るべきだろう」


 男達とてそれは同じ、女性にはまだ深い理解には及んでいなくても、嫌われるよりは仲良くやった方がいい。

少なくともそう思えるほどには、ドゥエロやバートは健全であった。特にバートはお調子者で嫌われていた事もあり、涙が滲むほどの感激を覚えている。

バートの場合、特にシャーリーの存在が大きかった。純粋無垢かつ病弱だった孤児の少女を引き取った事実は、女性陣から美談として大きな評価を受けている。


シャーリーは皆に好かれる優しい女の子であるだけに、家族として受け入れたバートに対して日々声援まで送られていた。


「誕生日なんて祝われて嬉しいもんかね、アタシにはピンと来ねえんだけど」

「わたしはツバサちゃんのお誕生日も祝いたいな」

「そ、そうか……? ま、まあ、アタシも暇だったらお前の誕生日くらい祝ってやるよ」


「ちょっと、アンタ達。そこはまずリーダーであるユメの誕生日を祝うべきでしょう!」


「お前、誕生日ケーキとかっていうのが食えねえじゃねえか」

「ユ、ユメちゃん、ローソクの火、消せるのかな」

「むきー! 人間が差別してくるわよ、バカロボット!」

「ピョロに言われても困るピョロよ!?」


 会話こそ明るいが、内容はとても不憫な子供達。この中の誰もが皆、一度だって誕生日を祝われたことがなかった。

病院の中で生きてきたシャーリー、ミッションに閉じ籠っていたツバサ、宇宙の彼方から来たユメ、元植民船で眠っていたピョロ。

誕生日なんて縁がなかった。生まれて来た日より、死ぬ日が近い事を怯えていた。生きる意味も、生まれて来た価値も、まるでなかった。


そんな彼女達が誕生日を語れるのは、明確な未来があるからだ。この空気は喜ばしいと思うべきだろう。


「話は分かったけど、そもそも何で今まで成功しなかったのかな」

「説明したでしょう。メイアに気付かれて逃げられるのよ」

「だから何で気付かれたの? サプライズなんでしょう」

「ちょっと待った、バート。失敗した原因を追求しないで」

「どうして? 失敗の原因がわからないと、また同じ失敗をしてしまうじゃないか」


「喧嘩の原因になるのよ。その、何というか……皆揃って、コソコソやっていたから」

「ああ、なるほど。誰のせいではなく、誰もが皆隠密に動いていたことが原因なのか」


 バートの追求にパルフェが顔をしかめて説明すると、得心がいったようにドゥエロが頷いた。ようするに、全員悪いのである。

去年以前はワームホールで飛ばされていないので、サプライズパーティはマグノ海賊団のアジトで準備が進められていた。

海賊団のアジトという閉鎖的な空間で、誰もがこぞってコソコソ準備なんてしていたら、他人に関心がないメイアでも不審に思うだろう。


あえて原因を挙げるとすれば、"サプライズ"を意識しすぎた結果といえる。


「カイのおかげでメイアの監視はどうにかなりそうだけど、誕生日パーティは全員参加だから色々準備が必要なんだよね。
今年はアジトではなくニル・ヴァーナの中だから、どんなに注意してもメイアにはバレそうだケロー」


 昨年入団したパイウェイはサプライズパーティ初参加だっただけに、折角のパーティが中止になってショックを受けた記憶があった。

ナースとはいえまだ年端もいかない少女、他人であっても誕生日パーティは楽しみだったのだ。

今年も難しいと落ち込んでいる自分の部下を見つめ、ドゥエロは思考を張り巡らせる。

普段作戦の指揮を取っているカイは、メイアと行動を共にして動けない。ならばここは、友人である自分が考えるべきだろう。


「隠密に行動しても発覚してしまうのであれば――堂々と、準備すればいい」


「な、何を言っているのよ、ドクター!? 堂々とすれば絶対にバレるケロ!」

「発覚してはいけないのは、『誕生日パーティ』である事だ。行動するだけならば、何の問題もない」

「偽装するということね。悪くはないと思うけどどうやって偽装するのよ、ドクター。荷物とかも結構運ばないといけないし、人数も多く動くのよ」


 パイウェイの困り顔に、ドゥエロは普段通り上司の立場で指摘する。厳しくはあるが頼りになる上司に、パイウェイは期待の色を浮かべている。

動揺に高い信頼を寄せるパルフェも、ドゥエロの自信に興味深く耳を傾ける。ドゥエロは決して、間違えたことは言わない。


彼は、当然のように指摘する。



「ニル・ヴァーナは今、『全面改装中』だ。大掃除も含めて、代替的に人も荷物も動くだろう?」



 ――その場に居た女性陣全員が、顔を見合わせた。























<to be continued>







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