ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action34 −藍羅−
ドゥエロ達分析チームは母艦のシステム初期化と改竄、バート達道案内チームは母艦内部の施設関連の新設、カイ達調査チームは母艦深部の刈り取り調査。
数日間にも及ぶ彼らの努力により、母艦は正式にマグノ海賊団の簒奪品となった。地球の主力兵器は刈り取り打開の切り札となり、今後運営されることとなる。
ソラによるシステム掌握で地球側へ送られる情報送信は封鎖されてしまい、ユメによる兵器解析によって地球側が保有していた無人兵器の大群も掌握。
大規模戦力と広大な施設類、地球側の刈り取り情報の全てを奪取出来たのだ。
「システムの初期化は問題なく完了しました」
「システムの掌握は、滞り無く完了。現在ガスコーニュ店長及びバーネット見習いレジ員による、システムバトルを実施中です」
「システムバトル……?」
「初期化したシステムにメジェールのカードゲームを導入し、交代でプレイしている」
パルフェとユメの結果報告は完璧な成果であったが、ドゥエロの補足事項については完全な蛇足だった。よほど熱中しているらしく、本人達はいない。カイは呆れてしまった。
奪い取った無人兵器の大群については全て使用するのではなく、適時解体して不足していた武装や装甲類に割り当てる事となった。
その為見習いだったバーネットは格上げとなり、レジ出向員としてこの母艦に滞在して新レジシステムを運用する人事が決定された。
これで母艦の船員はカイ達男三人とミスティに加えて、バーネットも追加される。
「蛮型やドレッドの兵装関連を補えるようになったのは、大きいな」
「食料関係の物資もそうだが、連日連戦で兵装類への不足も出ていたからな。頭の痛い問題が解決して、私としてもホッとしている」
物資とは何も人間だけに使用するものではない。人間が生きていく上で食料は必要だが、機械類にだって物資は必要となる。
ペークシスプラグマは無限のエネルギーと結晶体による兵装の補充を行ってくれるが、それでも絶対的な供給量は保証してくれない。
旅の途中で人の住める惑星へも幾つか立ち寄っているが、食料はあっても兵装の補充まではなかなか行えなかった。
ここまで戦えてこれたのは、惑星メラナスの同盟が大きい。カイとセランの交流による同盟により、艦隊戦力を有していたメラナスから兵装の補充を受けられたのだ。
セランを助けて、母艦撃破の作戦を成功させたカイに対し、メラナスは大きな友誼と感謝の意を示している。タラーク・メジェールの防衛戦にも参戦を約束してくれた。
地球から母艦を奪ったことを知れば、彼らもきっと驚くだろう。カイが望んだ新しい絆は、大きな力となっている。カイの軽口にも、メイアは珍しく安堵の笑みを零している。
「不完全生体区画への調査も概ね完了した。メイアがデータ解析を行い、ミスティが撮影と分析作業を行ってくれている。
俺としては正直あの施設は閉鎖するなり、処分するなりすべきだと思うんだが――」
「包み隠さず話してくれた事には、礼を言う。その上で、私は医者としての立場から臓器の保管を要請したい」
「……本気で言っているのか、ドゥエロ? こんな事は言いたくないが、全滅している可能性も大きいぞ」
「我々の今の気持ちと同じだ、故郷へ返してやりたい。それに――」
「地球と同じ、今在る生命への使用――頭の痛い、矛盾だな」
刈り取りと一口に言っても、地球が望む臓器類は星々で異なる。例えばタラークやメジェールは生殖器だが、メラナスは皮膚だった。
臓器と言っても内臓系ばかりではなく、血液や毛髪といったあらゆる部品が人間の総合体なのである。
そして、カイ達も人間だ。戦って傷つけば血を流し、血液を失う場合もある。臓器も傷つく。それらは、容易く補充できるものではない。
完璧に保管された臓器があるのなら――私情を殺せば、医者として思い立つのは至極当然だった。カイとて、強く反対できない。
「私も到底賛同できないが、反対も述べられない。この命、一度はドクターに救われたのだからな」
「前に重傷を負ったあの時か。俺もドゥエロの治療には何度も助けられているしな」
「あたしは絶対反対――と言いたいんだけど、シャーリーちゃんを見ていると言えないわ」
生死を彷徨ったメイア、何度も重傷を負ったカイ、病の星の現状を取材したミスティ。彼らはドゥエロの非情ともいうべき医療の考え方に、救われた身だ。
シャーリーの故郷である病の星は医療品や医療機器は勿論だが、移植する臓器や血液にも大きく不自由していた。
もしも提供される臓器類があったのならば、救われていた命も多くあっただろう。過去の悲痛な経験が、いたずらに正義感へと走らせなかった。
無残に刈り取られた命と臓器――何より弔うべきと位置づけながらも、人の命を救うという正義の誘惑にかられてしまう。
「――すまない。私の個人的な問題と悩みに付き合わせてしまっている」
「気持ちは分かるさ、命に対する考え方は俺だって今も悩んでいる」
「あたしも今回の取材を通じて、考えさせられているわ。だからドクターのこと、非難はしないよ」
「命、か……」
命を救うこと、命を断つこと、命を扱うこと。ドゥエロ、カイ、ミスティ、彼らは結局明確な答えを出せずにいる。
刈り取りは地球の狂気であることに違いはないが、狂気とはそもそも人間の内から発するものである。その狂気は、生死に直結している。
海賊として命のやり取りを行っていたメイアも、この問題に直面している。今度どうするべきか、どうあるべきか――
悩めるカイの横顔を、見つめる。
(海賊を続ける限り、カイとはいずれ道を分かつこととなるだろう)
マグノ海賊団はメジェールとタラーク、双方の縄張りで海賊家業を行っている。ただ比率で言えば、男側のタラークの略奪行為が大きい。
メジェール人にとってタラーク人は敵であり、人間でさえなかった。『人の命』ではないので、奪う事さえ恐れなかった。
しかし、今はもう男を知っている。カイという人間を、知っている。彼の考え方に救われ、彼の生き方に共感さえ覚えつつある。
(私は、戦えるのだろうか?)
地球の秘密を知り、刈り取られた命を見せられて、思い悩む人達。真実を知ってしまった彼らの悩みは重く、答えは容易く導き出せない。
先にマグノより問われていたカイは比較的早く立ち直り、顔を上げる。どうするべきか分からないが、悩める時間の多さに脳が痛みを訴えている。
考えあぐねた挙句の頭痛にその場をそっと抜けて、気分転換とばかりに外へ出ると――
報告会議に参加していなった、バート達道案内チームが立ち塞がった。
「何だよ、お前ら。俺に何か用か?」
「君に相談があるんだ――メイアの事について」
<LastAction −極秘−>
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