ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action5 −原始−
壊れたものもあれば、産まれたものもある。タラーク・メジェールへ向かうこの旅は破壊と創造の繰り返しで、人間達は都度翻弄されながらもれっきとした当事者であった。
顕著なのは人間関係であり、男と女の関係。繋がり、切れて、結ばれ、綻び、紡がれる。目的は一致しても考え方は異なり、ぶつかり合っては分かり合ってきた。
目に見えて分りやすいのは、船であり艦。融合戦艦ニル・ヴァーナは半年以上の旅を経て傷付き、蛮型とドレッドは壊れては修繕して保たせて来た。
何一つ変わらないものは、この世にはない。無限のエネルギーを生み出す結晶体、ペークシス・プラグマとして例外ではない。
「――分析結果は、どう?」
「同じです。エネルギー安定率は90%を維持、振り幅はごく少数。脅威の安定率を保っています」
「ゴキゲンだね、ペークシス君は」
ペークシス・プラグマ保管室、機関クルーが管理するこの部屋でパルフェと副機関士が計測を行っている。分析と称しているが、実のところ実験に等しい。
これまで安定率は決して高くはなく、むしろ不安定さにこそ定評のあったエネルギー結晶体。人間の気分に等しい振れ幅でエネルギー率を上下させ、機関士を悩ませてきた。
ペークシス・プラグマは未知なる結晶、オリジナルともなれば人の領域を超える。未知を科学で分析するのは困難を極め、実験など到底行えなかった。
だが先の地球母艦戦以後、状況は目覚ましく改善されつつある。
「正直、心配してたんだけどね。カイの提唱した作戦で、長くガス星雲の磁場に晒したからさ」
「スタッフほぼ全員、ペークシスの前に張り付いてましたしね」
母艦戦では数と戦力で大幅に負ける為、カイは環境を最大限利用すべくガス星雲内での戦闘を提唱した。不利を、有利に変える為に。
無人兵器はプログラムで稼働している兵器、プログラムやシステムは磁場に弱い。まして星雲規模のガスともなれば、磁場は荒れ狂って性能面にまで悪影響を及ぼす。
作戦そのものは非常に効果的だったが、ガス星雲の磁場はコントロール出来るものではない。敵だけではなく味方まで磁場に襲われ、プログラムを起動できない状態だった。
前線のパイロット達はマニュアル操作で戦い、後方のクルーは各システムや施設を維持すべく監視体制を敷いていた。
「なのに蓋を開けてみれば、快調そのもの。ガス星雲の磁場による影響が、逆にプラスに働いたとしか思えないね」
「実際のところ、そういうこともあるのでしょうか?」
「影響が出るってのは、結局狂わせるってことだからね。本来、いいことじゃないんだよ」
保管室の中で、ペークシス・プラグマは太陽の光を放っている。人の心を明るく照らしだす大いなる光、見るだけで心まで安らぎそうだった。
とりわけ安定している今は、まるで朝の優しい陽を思い出させる。かつて失った陽の光を、まるで取り戻せたかのような錯覚を与えてくれる。
パルフェが表現した、ゴキゲンというのもあながち的を射ているのかもしれない。
仕事で疲れているはずの二人も、何だか微笑んでしまう。
「原因は、相変わらず不明。良いことも悪いことも原因不明なんて、いけない子だね」
「この安定率でしたら、稼働実験へと移行出来るんじゃないですか?」
「ゴキゲンだから突いてみると、機嫌を損ねないか悩みどころだけど」
半年以上続いた分析の日々にも、ようやく転換の時期が訪れる。稼働実験、高い安定率を利用してペークシス・プラグマの稼働率を高める実験に入る。
結晶体自体は既に稼働しているのだが、半年前に突如稼働して以来そのままエネルギーを放出しているだけなのが現状だ。
これまで管理に始終していたパルフェ達だったが、もしここで人の手を加えれば更に高いエネルギーを出力を得られる公算が大きい。
今まで不安定だった為に到底実験など危険で行えなかったが、これほど高い安定率であれば実験における暴走の危険も少ない。
もっともゼロではないのが、思案のしどころではある。
「やりましょうよ、主任。今しか実験を行える機会がありませんよ。母艦を倒した後で敵も沈静、ニル・ヴァーナも長期滞在中。
また船を動かす時が来れば敵だって妨害してきますし、ペークシスだって不安定になるかもしれませんよ」
「そうだよね……それにカイがミッションで取引した情報によると――
この先ガス星雲の磁場と同等の危険領域、『磁気嵐のエリア』があるらしいからね」
ミッションのボスであるリズとラバットの、情報交換。マグノ海賊団が物資の取引を行うがてら、カイはラバットと同盟を組んでリズより情報提供を受けていた。
今でこそ古き基地施設のミッションに追いやられている彼女達だが、彼女達はかつて修羅場を潜った猛者揃い。宇宙を暴れ回った荒くれ者達なのだ。
向こう見ずな連中ではあるが、伊達にリズもミッションのボスに収まっていない。危険に無防備で飛び込む馬鹿はやらず、石橋を叩く慎重さも持っていた。
その彼女より提供を受けた危険な場所の情報、タラーク・メジェール星域前に広がる磁気嵐の存在であった。
「ガス星雲での戦闘経験を生かせば攻略出来るとは思うけど――」
「――敵が同時に襲い掛かってくる可能性もある。カイが指摘していましたよね」
「何せ、ガス星雲での戦いを提案したのもあいつだからね。磁場の中での戦闘の怖さを、あいつが一番よく知っている」
母艦戦は磁場での戦いだったので通信網は基本的に遮断されており、敵側が情報を流した可能性は低い。本作戦が漏れているとも思えない。
ただ敵とてモノマネするだけのピエロではない。磁場嵐に突入した際、勝機とばかりに敵が襲い掛かってくる事も考えられるのだ。
制約を受ける戦場において、安定したエネルギーは必須であった。
「先の事も考えて、私達は行動するべきです。やりましょう」
「……何か最近前向きになったよね、副主任ちゃん」
「近頃良いことが多いですから、幸運にあやかりたいんです」
副主任の照れ笑いに、パルフェも誘われて口元が緩んでしまう。油断してはいけない家業だが、時に気を緩めるのも大切だった。
この前の母艦線は大変な幸運に恵まれて、大勝利を収めていた。言ってみればこの高い安定率も、幸運の賜物といえるかもしれない。
パルフェとてペークシスには多大な興味と深い愛情を持っている。この原始の光に、更なるスポットライトを当てたいのも事実だった。
彼女の弱々しい葛藤を、幻視の存在が後押しする。
『チーフ、よろしければ手伝います』
「おっ、ソラちゃん! その格好、久し振りだね」
管理室に入ってきたのは、1体の着包み。ソラの存在がまだ公にされていない頃、電子機器搭載の着包みを動かしてパルフェの手伝いをしていたのである。
パルフェはこの時の関係もあってソラを熱烈に機関士に薦め、ソラもなし崩し的に手伝うことが多くなった。
本業はあくまでカイの補佐であるが、今は長期休暇中。主の動向に気を配りつつも、主の環境改善の一環として手伝いを名乗り出た。
ソラの申し出に、機関クルー達も諸手を上げて歓迎する。
「ありがとう、手伝ってくれるんだ! 君がいてくれたら百人力だよ」
『恐縮です』
「見ての通り、ペークシス君の機嫌もいいから色々実験をしてみたいんだけど――この高い安定率について、君は何か知っているかな?」
『幸運です』
「えっ、何それ!?」
『人の機嫌がいいので、ペークシスの機嫌もいいということです』
――これ以上ない説得力に、パルフェも副主任も顔を見合わせる。根本的に何かおかしい気がするのだが、そんなものかとも思ってしまう。
幸運に恵まれた人間の運気は上昇し、精神も高揚した状態が維持される。まさか、ペークシスも同じ現象が起きているとでも言うのだろうか?
突拍子もない考え方に、パルフェはクスッとしてしまう。なるほど、これはたしかに面白い。
ペークシス・プラグマは磁場ではなく――人の影響を今、受けているらしい。
「よーし、この際ペークシス君に積極的に話しかけてみようか!」
「その意気です、主任。きっとペークシスにも、気持ちは伝わりますよ!」
『……マスターには、全く伝わりませんが』
冷静沈着な声に拗ねたような声色があったことに、気付いた人間もまたこの場にはいなかった。
人も機械も今は休み、そして変化に向けて備えている。
<to be continued>
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