ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action22 −底力−
カイは今まで、仲間の死を経験したことがない。けれど、体験したことは数知れずあった。
砂の星、地球に刈り取られた後の惑星。既に滅んでしまっていたが、滅ぶ前だったらどうなっていただろう。単純なタイミングの差でしかない。
水の星、アンパトスの住民。生贄を望む彼らに、希望を見せた。意図的ではない。幸運に救われていなければ、彼らはあのまま捧げられていた。
メラナスのセラン、彼女も母艦の攻撃を受けて死に掛けた。助かったのは偶然であり、奇跡にすぎない。ラバットが救援に来なければ、間違いなく死なせてしまっていただろう。
病気の星、一人では絶対に救えなかった典型。犠牲者を出していないのは、その場限りだけだ。来る前も、言った後も、きっと誰かは死んでいる。
死神を追っていたのか、それとも追われていたのか――前か、後か。結局はそれだけだったのかもしれない。だからこそ、常に生死は紙一重であった。
(何故――)
偽ヴァンドレッドに踏み潰された、ジュラ機。黒煙を上げる仲間の期待を目の当たりにしながらも、カイの胸に湧き上がるのは怒りではなく、疑問だった。
仲間の死への疑問ではない、敵の生への純真な疑問。何故仲間が死んだのか、ではなく、何故敵が生きているのか、カイには分からなかった。
母艦のシステムは、ウイルスの感染で停止している。あのウイルスはペークシス・プラグマを完全停止させるタイプ、ヴァンドレッドシリーズは真っ先に影響を受ける筈なのだ。
偽物は、本物を忠実に再現している。メカニズムも詳細は明らかではないが、酷似しているだろう。絶対に停止していなければおかしい。
(――何故――)
ウイルスを除去するためには、パスワードが必要だ。他のやり方ではその場のクリーニングは出来ても、感染を防げない。地球へメッセージを渡さない、最強の防衛ウイルス。
パスワードは赤ん坊の鳴き声、生まれた命の祝福が必要。人間を狩るしか出来ない者達に、人間の讃歌を唄うことは不可能だ。
ウイルスを仕込んだピョロのミスも、ありえない。本作戦の最重要フェーズ、彼も理解している。徹底もしている。急かしたが、焦らずに仕事をしてくれた。
ウイルスは、完璧だった。
(――何故!)
自分の立てた、仲間を守るための作戦。仲間とも何度も話しあった。絶対に仲間を死なせないために、絶対に敵を倒す為に、熟議をして熟考を重ねた。
完璧ではなかったが、幸運には恵まれた。予想外が起きてしまったが、予想以上に順調でもあった。敵の懐に飛び込んで、敵の脳を破壊出来たのだ。それなのに――
――脳……脳みそ?
「まさか、再利用したのか」
「カ、カイ……?」
「刈り取った人間の脳を、"プログラム"に組み込んだんだ!」
カイの怒声と同時に、中核の壁や天井が弾け飛ぶ。飛び込んで来たのも『ヴァンドレッド』、偽ヴァンドレッド・メイア、偽ヴァンドレッド・ジュラ。
ジュラ機を踏み潰したヴァンドレッド・ディータが、中核の中心へ舞い上がる。空を仰ぎ見るように、夢を見下ろすように、気高くも禍々しく君臨している。
その姿は歪そのもの、グロテスクに満ちている。完璧に描かれていた設計図を無視するかのような醜悪なフォルム、形を保てていない。
『どういう意味だ、一体何が起きている!』
「――生体兵器だけは、ウイルスの影響を受けない。俺達が潰した生体兵器の残骸が、この母艦にあった人間の脳を吸収したんだよ」
『馬鹿な!? 刈り取られた人間の脳で思考など出来る筈が……!』
「思考なんてしていないさ、『本能』で動いているだけだ。人間の生存本能と機械の使命が、"合体"しちまったのさ」
『それで、"ヴァンドレッド"――し、しかし、脳が仮に働いても、身体はウイルスで動けはしない!』
「"合体"したと言っただろう――唯一倒せなかった、あの新型と!」
偽ヴァンドレッド・ディータ、偽ヴァンドレッド・メイア、偽ヴァンドレッド・ジュラ。揃った三機が各部品に散らばって、再び再構成されていく。
一つ一つが脳細胞であるかのように痙攣し、組み込まれていく。吐き気をもよおす醜さ、嫌悪と憎悪しかない邪悪さ、人間の絶望が形となる。
その姿こそ、偽ニル・ヴァーナ――ジュラ・ベーシル・エルデンが命懸けで食い止めた巨大人型新型、あの器を使用して人の本能と機械の使命が合体する。
"人機合体"――『スーパーヴァンドレッド』。究極の、"刈り取り兵器"が誕生した。
『想定外の、出力――ユメ、貴方の力ですか』
『人を取り込んだ機体、人の優位を機体が認めた。あいつらは、分かってないだろうけど』
カイ達にとっては仲間であり、バーネットにとっては親友である、ジュラの死。絶望の事実と怒りの真実を目の当たりにしても、悲しみも何もなかった。
悲しめるのは、次があるからだ。仲間が死んでも自分は生きている、生き続けていく。先があるからこそ、今を思いやれる。
だけどすぐに自分も死ぬのだと悟ってしまえば、悲しむ必要すらありはしない。すぐに、後を追えるのだから。
「幸運が妙に続くから変だと思ったら、最後の最後にこんな結末が待っているとは、はは」
「こいつは……とんだカードを引いちまったね」
彼らは、すぐに理解した。そもそも、覚悟はしていたのだ。いずれこうなるのではないかと、諦め半分に思っていた。
高い学習能力を持つ敵だ。きっとそうなると、ある種の高を括っていた。来るべき未来が来て、馬鹿げているがホッとさえさせられる始末であった。
戦う力も、もう残っていない。作戦も、ない。救援も、来ない。何の助けが来ても、どうしようもない。
「一応銃に弾は残っているから、貸してはあげられるよ」
「引き金を引けば楽になれると思うと、好意に甘えたくなるな」
自決にはちょうどよいと、バーネットが笑って差し出してくる。敵に殺されるくらいなら自分で死ぬ、その潔さは悪魔の誘惑であった。
ありがたい申し出を、カイは笑って遠慮する。生憎と、潔ぎのいい性格ではない。汗水垂らして、血反吐吐いて、惨めに這いつくばって戦ってきたからだ。
戦力の差は、馬鹿らしかった。自分達の機体はもうスクラップ同然、相手の機体は最新鋭。どうしようもない。
分かっては、いたのだ――いずれはきっと、追い抜かれる。敵が、先に進化してしまうだろうと。
「……ごめんピョロ。結局力になれなかったピョロ」
「お前は、よくやった。見事な働きだったぞ、ピョロ」
メイアは滅多に他人を褒めたりはしないが、今この時だから心の底から賞賛した。お世辞ではない。正しい目で、彼を評価している。
最悪の結果になってしまったが、最高の仕事をしてくれた。こうなることは誰にも予想できなかった、事故であればどうしようもない。
少なくとも、母艦は完全に停止している。故郷への脅威だけは、取り除けたのだ。
ならば、何を批判する事がある。やるべき事をやったのなら、反省も後悔も必要ない。
「まさかとは思うけど、あたしの友達がここで諦めたりはしないよね」
「勿論だよ。だって」
いつものことだもん――その言葉に、全員が笑った。
「それにしても本当に救いようがない連中だな、こいつら」
「鏡を見ない連中だ、そう言ってやるな」
「ジュラったら、らしくもない熱血なんてするからこんな目に遭うのよ。いつもフォローする身にもなってほしいわ」
「まさか、これほど面白いギャンブルに参加できるとは……頑張って生きてきた甲斐があったよ」
「いよいよこの時が来たピョロよ、ユメ。ピョロは、長い間ずっと待っていたピョロ……!」
「はいはい、カッコイイカッコイイ。ユメも参加していいよね、ソラ!」
「勿論です。私もマスターの偉業に参加させて頂けるとは、光栄の極みです」
「ミスティ、掛け声は大切だよ。せーの、でいくよ!」
「はいはい、のってあげるわよ。」
地球は、最高の仕事をした。ついに人間を超える進化を成し遂げた。"スーパーヴァンドレッド"、最強の機体。完璧なる力を、今この時体現した。
敢えて言おう、完璧である。絶対である。勝てるものは、この世に居ない。見事な仕事であった。敵ながらあっぱれ、惚れ惚れする。
だから、敬意を払い――最大の賛辞を、贈ろう。
「俺らの目の前で"手本"を見せてどうするんだ、馬鹿」
"人機合体――スーパーヴァンドレッド!!"
人と人外、人外とロボット、ロボットと蛮型、蛮型とドレッド、ドレッドとデリ機、デリ機と――ペークシス・プラグマ。
『お手本通りに』全てを貪欲に取り込んで、究極が生まれた。
<to be continued>
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