ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action19 −争乱−
予想外の事故が起きた後での、予想以上の成果。作戦は最終フェーズへと移行したが、思わぬ形でボーナスステージとなった。今をもって、作戦を阻む敵は一機もいない。
母艦の中核に建つ巨大な柱の根元、メインシステムの根幹にピョロがウイルスを仕込んでいる。ミスティが持っていたメッセージカプセルを接続し、強力なウイルスを注入。
ピョロの背中をカイの蛮型が守り、周辺警戒をメイアのドレッドが引き受けている。広大な空間には人影どころか、機影の一つも見えない。
完全に沈黙したセキュリティを目の当たりにしながらも、カイ達は警戒を緩めなかった。
「ピョロ、後どれくらいかかりそうだ?」
「もうちょっとだピョロ」
「お前のもうちょっとの感覚が分からん。ロボットだったら計算して、もっと正確に言え」
「メインシステムが再起動中なので、直接入力すればすぐに済むピョロ」
「だったら――」
「システムエラーによる強制停止後の再起動で今、全システムのスキャンが行われているピョロ。もしシステムスキャンに引っかかると、弾かれるかもしれないんだピョロよ。
このウイルスは強力なので除去はされないと思うけど、少なくともシステムの介入はばれるのは間違いないピョロ」
「――そうなると、こっちに敵が押し寄せてくるか。分かった、焦らず急いでやってくれ」
「難しいことを言うピョロね、全く」
警戒しているからこそ、こうしてカイは作業を急がせる。予想を超える成果に浮かれて、足元を救われる真似はしたくない。このまま終わればそれでいいのだ。
この母艦内には自分達の他にも、ガスコーニュ達が潜んでいる。自分達の危難は、彼女達の危機に直結する。迂闊な真似はできない。
繰り返しになるが、何事も無く終わって欲しい。そう願わずにはいられなかった。
焦れるカイは自分を戒めながら、警戒するメイア機に呼び掛ける。
「そっちの状況はどうだ。連中は今も黙ったままか」
『セキュリティは変わらず停止中、無人兵器も来る様子はない。一番警戒している外からの援軍も、無いようだ』
「こっちの援軍は来たってのに、薄情な連中だな」
『そう言ってやるな。バートやチームの皆が善戦してくれている証拠だ』
メイアが警戒しているのは内ではなく、むしろ外。母艦内は停止しているが、外の無人兵器は完全沈黙していない。影響は受けているが、自律行動している兵器もある。
そもそも数が膨大な分、全ての把握を母艦側のシステムはしていない。全機をコントロールしていてはリソースを食う上に、効率も悪いからだ。
刈り取り作戦を行う上で、ある程度の自律行動は必要となる。効率よく人間の臓器を刈り取るために、彼らは高度な学習能力を備えて活動する。
そうした無人兵器達が母艦の異常に気付いて帰還しようとするのを、バート達が懸命に押さえ込んでいる。
事故を起こしたカイ達の生存を、彼らは確信している。生き残ったカイ達が自分達の救命より、作戦の継続を行うのも察している。
だからこそ、彼らは自らの本分を全うする。死に物狂いで無人兵器達を畳み掛け、押さえ込み、行動を妨害する。それこそが、一番の援軍になると信じて。
この無風時間は、そうした人間達の頑張りにより生まれた予定外なのである。人間の底力は、機械では計算出来ない。
『反省点は多々あるが、前回と比べて仲間達の成長が見られたのは好材料だな』
「珍しいな、お前が作戦終了前に評価を述べるなんて」
『褒めているんだ、素直に聞いておけ。前回と今回の決定的な違いはやはり、お前達が加わっている点だな。お前だけではなく、ドクターやバートも目覚ましい成長を遂げている。
頼もしい限りだ。これからも頼りにしているぞ』
「……本当に珍しいな、そこまで言ってくれるとは。本人にも聞かせてやってくれ、バートなんて泣いて喜ぶだろうよ」
『アレは褒めると駄目になるタイプだ。厳しく教育する』
地球母艦戦はこれで二度目、作戦は最終段階。母艦の心臓にまで達しており、システムの根幹にまで刃を突き刺している。勝利は目前だった。
辛勝ではあるが、報酬は大きい。システムさえウイルスで破壊できれば、この母艦が丸ごと手に入れられる。プログラムを書き換えれば、強力な戦力となるだろう。
もしかすると、無人兵器も手に入れられるかもしれない。刈り取りに使用する兵器なぞ欲しくはないが、感情で忌避しているようでは戦いには勝てない。
戦力面だけではなく、情報面でも非常に有意義だ。何しろ母艦本体が手に入る、弱点も含めて構造を調べたい放題だ。危険を犯した甲斐があった。
作戦終了前とはいえ、メイアが軽口を叩くのも無理は無い。
「母艦は残り三隻、この母艦を直接ぶつければ最低一隻は倒せるな」
『うむ、どのみち故郷のアジトにまで持ってはいけない。こんな巨大な建造物、我々には保有できないからな。
使い捨てる戦力となれば、出し惜しむ必要もないだろう。とはいえ使い捨てるにしても、使い道には気をつけなければならない』
「確かに出来る限り、有益に――待て」
通信は切らず会話を途中で切って、カイは蛮型のシステムを起動して操縦桿を握る。事故による損傷が激しいので、出来る限り動かさずにおいていたのだ。
サーベル化した十徳ナイフを引き抜いて、構える。カイの行動にメイアも周辺を警戒するが、相変わらず静かな状態。
それでも彼女は周辺の状況より、仲間の直感を信用する。
『何か気付いたのか、カイ』
「静かすぎる」
『何……?』
「再起動中であっても、最低限は起動しているはずだ。中核にいる俺達に気付いていないのはともかく、母艦に風穴を開けられているのに何の警戒もないのは変だ」
『! まさか――』
メイアが警戒していたのはセキュリティを含めたシステム、そして無人兵器。地球の主戦力とも言えるこれらを、彼女は異常なほどに神経を尖らせていた。
その分析自体は、正しい。それらが彼らの主戦力なのは間違いない。刈り取りを行う上で、必要不可欠な戦力なのだから。
だが――彼らの戦力は、それだけではない。
『しまった、この空間ごと取り囲まれている。こいつらなら機体反応も何もない、くっ――壁を突き抜けてくるぞ、カイ!』
「ちっ、そういえばこういうのもあるんだったな」
二人が気付くその時を待っていたかのように、壁をすり抜けて彼らが押し寄せてきた。臓器の確保ではなく、人間を殺す為だけに製造された兵器。
生体兵器――リズ達が住んでいたミッションを襲った、バイオ兵器。この物体には機体反応はない、生きているのだから。
システムが停止していても、彼らなら行動できる。プログラムではなく、生体による活動で彼らは人を殺せる。
「くそっ、機体さえ壊れてなければこの程度の敵なんぞ軽くぶっ飛ばせるのに!」
『まずいな、ヴァンドレッド・メイアは室内戦闘にはまるでむいていない。相性の悪い敵だ』
ヴァンドレッド・メイアは加速に特化した合体兵器、広い宇宙で使用するからこそ生かせるのであって、室内では速さなんて無意味に等しい。
この中核はかなり広大な空間ではあるが、それでも室内だ。天井があって、壁がある。速さで翻弄するのには、限界がある。
何より、これは籠城戦――ピョロが作業中で動けない今、立ち止まって戦わなければならない。ヴァンドレッド・メイアは、無価値に等しい。
「お前、エネルギーがないんだろう。戦えるか?」
『生体兵器が相手なら、ミサイルのような通常兵器でも十分倒せる。ただ数が多いのと、周囲を取り囲まれているのが厄介だ。
私が遠距離から攻撃するので、お前は接近してくる敵を薙ぎ払ってくれ』
『分かった。ピョロ、お前は何があってもそこから動くな、こっちも向くな、ビビんな。戦いはシカトして、耳をふさいでひたすら作業しろ』
「ひええええっ!? 信じるよ、信じるピョロよ!? 絶対の絶対に、ピョロにまで近付けては駄目ピョロよ!」
「うっせえ、わかってるよ。もう一度聞くが、後何分かかるんだ!」
『あ、後三分以内には終わるピョロ!』
強力な敵とばかり戦ってきたカイだが、ここにきて初めての戦いに挑む。不利なのはいつものことだが、こういう難局は彼自身に経験がない。
相性の悪さ――弱くても強いという、未知なる恐怖。目指す勝利は目の前にきて、絶望が押し寄せてきた。
<to be continued>
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