ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action17 −中心−
救命ポットに乗せられていたミスティの手に在った、メッセージカプセル。冥王星からの貴重なメッセージが届けられたカプセルの中には、ウイルスプログラムが仕込まれていた。
メッセージカプセル解錠のパスワードを入力しなければ発動する、ウイルスプログラム。性質はシンプルにして凶悪、ペークシス・プラグマ侵食タイプである。
ニル・ヴァーナはペークシス・プラグマ暴走により誕生した融合戦艦、隅々までペークシスの影響が及んでいる船はウイルスに感染して完全停止してしまう。
パスワード入力により何とかウイルスは除去されたが、もしウイルス感染が拡大していれば船は完全に沈黙していただろう。ペークシスを載せた船には、絶大な効果をもたらす。
事前の作戦会議にて、カイは切り札として高らかに掲げた。
『元々このウイルスは刈り取りの連中、地球人の手に渡ってしまった場合の保険だった。連中の手には渡すまいと、ミスティの故郷の人達が仕込んでいた罠だ。
だったら、本来の目的通りに罠を発動させてやろうじゃねえか!』
『なるほど、母艦側のシステムに直接取り付けてウイルスを発動させるのか。向こうは正規のパスワードを入力不可能なので、確実な効果を与えられる』
作戦の過程には幾つもの大きな問題があるが、作戦結果は文句のつけようがなかった。作戦を指揮するブザムを筆頭に、メイア達も諸手を上げて参戦した。
ウイルス除去のパスワードは『赤ん坊の鳴き声』、マグノ海賊団にはその日誕生したカルーアが居た。無人兵器である彼らには赤ん坊など居ない。
赤ん坊の鳴き声がパスワードだと気付いたところで、対処のしようがないのだ。機械音声では、赤子の泣き声を再現できない。それほど容易いシステムではない。
この作戦の肝を、カイはピョロに託す。ピョロも最初こそ恐怖の余り反対していたが、カルーアの平穏の為と切り替える。
『このウイルス、ピョロが持っていて大丈夫ピョロか。ピョロにも感染してしまうんじゃ……?』
『ありがとう、ピョロ。お前の犠牲は無駄にしない』
『相打ちさせるつもりピョロか!?』
カイの囃し立てにドレッドチームの女性陣まで、笑顔で拍手する。同じく参席していたバートに至っては、嘘泣きしてまでの別れの言葉。すっかりこのチームは仲良くなっていた。
冗談はさておいても、ピョロの指摘そのものは的を得ている。ピョロもロボットであり、ペークシスの影響で生まれ変わった機械。間違いなく、ウイルスの影響を受ける。
実際エレベーター停止事件では、カプセルを解析していたピョロからウイルスが広がったのだ。その時ピョロは、完全に沈黙させられていた。
さすがに、同じ恐怖を二度も味わうのは嫌だった。ピョロがカイにしがみついて、根負けさせる。
『分かった、分かった。あまりやりたくないけど、パルフェに頼んでお前にはプロテクトを仕込んでもらうよ』
『むっ、やりたくないとはどういう意味ピョロ!? ピョロが死んでもいいピョロか!』
『だってお前、敵のシステムに直接介入するんだぜ。そのプロテクトを解析されるとウイルスがばれるし、コピーされてウイルス防止させられるかもしれないじゃねえか』
『むむっ……で、でも、ピョロの命がかかってるんだピョロよ!』
『分かってるよ。だからやりたくないけど、仕方がないと言ってるんだ』
最悪ピョロが停止しても、敵さえ倒せば連れて帰ってウイルスの除去は行える。カルーアがいれば、除去は行えるのだ。ピョロ本人は回復出来る。
とはいえ、ピョロの気持ちもパイロットであるカイには分かる。後で生き返るから死んでくれと言われても、困る。死の恐怖は生き返る保証があっても、抵抗してしまう。
渋々受け入れたが、カイ本人の懸念もブザムには無視できない問題だった。万全を期しておくべきだ。
ブザムは機関士のパルフェに、作戦決行に向けて依頼する。
『ピョロにプロテクトを掛ける際、敵からのシステム干渉を防ぐようにピョロ本人のセキュリティを強化してくれ』
『了解です。ピョロ君ずっと稼働しっぱなしだし、この際一度メンテナンスしようか』
『ピョ、ピョロの隅々を弄くるつもりピョロか!? 優しくしてね♪』
『キモイ』
『何言ってんだ、こいつ』
性別的には同じであるバートとカイから、辛辣な評価を受ける。機械に性別があるのかどうかはともかくとして、コメントは辛かった。
確かにピョロは常日頃稼働中の状態で、感情も豊かとあって基本的に人間のように扱われている。人間は基本睡眠などで休息を取るが、ピョロは停止するだけなので状態は把握しづらい。
この作戦ではピョロが重要な役回りであるだけに、土壇場で故障でも発生すれば目も当てられない。パルフェの進言は即座に認められた。
作戦において切り札を提供してくれたミスティに、カイは感謝の意を告げる。
『お前の故郷冥王星から受け取ったメッセージ、俺達は引き継ぐと決めた。彼らの無念もまた、俺達がこのカプセルを使って直接刈り取りの連中にぶつけてやるよ。
思いっきり痛い目を見せてやるから、見ておけよ』
『……うん、ありがと。でも――』
『でも?』
『作戦提唱者があんたってのが、非常に不安だわ。エレベーターの時と同じく、またなんかトラブルを起こしそう』
『何だと、てめえ!』
『あんたのお仲間さん、全員頷いているわよ』
『お前ら、ひどすぎる!?』
意趣返しとばかりに、ピョロは率先して手を叩いて賛同する始末。作戦会議中の冗談は許さないブザムも、眉を顰めつつも叱責したりしなかった。
作戦そのものは効果的であり、細かい点で杜撰な部分は多いが急所は押さえられている。見事にはまれば、母艦の陥落も決して夢物語ではない。
問題があるとすれば、問題を起こしそうな作戦提案者の存在である。この男在る所に、騒動は起こるのだ。
皆から賛同を得られて、ミスティは愉快げに笑う。
『安心しなさい。困った時はまた、助けてあげるから』
『カルーアの時だって、俺のほうが一生懸命やってたわ!』
『取り上げたのはあたしでしょう。今度は、あんたの命も救ってあげるわよ』
――そして本当にそうなったという、笑い話である。
作戦決行の本舞台、母艦の中心。巨大な母艦のシステムを司る中核に到着したカイ達は、早速最終フェーズに移行した。
幸運にも程がある予想外、セキュリティ及び無人兵器の停止。この最高のチャンスを掴むべく、即座に行動に出る。到着したその時に、ヴァンドレッド・メイアを分離した。
中核は広大な空間ではあるものの、主戦場とするには流石に狭い。加速に特化したヴァンドレッド・メイアの長所は、此処では生きないのだ。
こうした内部の空間では、陸上戦向きである蛮型の方が動きやすい。二人の役割は、当人が違わず認識していた。
「私は周辺を警戒する。カイ、お前はピョロの護衛を頼む」
「分かった、お前も気をつけろよ。ピョロ、俺がついててやるから作業に取りかかれ」
「了解ピョロ!」
分離してカイのSP蛮型に移っていたピョロが、コックピットより搬出される。ロボであるピョロに酸素は必要ないが、この空間も空調が利いていた。
システム維持の為なのか、最低限ではあるが重力制御も働いている。完全な無重力空間だと動きが取れないが、重力制御が働いているなら活動はできる。
メッセージカプセルを持ったピョロは真っ直ぐに、メインシステムを司る中央の柱へと接近。大きな柱の根元へと足を下ろし、その手で柱の根本を掘り始めた。
そんなピョロの背後から、SP蛮型が見下ろしている。
「柱に直接取り付けるのは駄目なのか?」
「装甲と同じく、干渉妨害がされている可能性が高いピョロ。ウイルスに感染させるには、システムをむき出しにして直接接続する必要があるピョロ」
「なるほど、確かに確実にいくべきだな」
セキュリティがいつまでも停止しているとは思えない。都合の良い展開ではあるが、幸運というのは基本長続きはしないものだ。
システムであれば尚の事、故障していれば修復に取り掛かるだろう。母艦の再生能力は並外れている。修繕能力も恐らく、桁外れだろう。
そういう意味では万全を期して、破壊するのが一番いい。ウイルスに頼らずとも柱そのものを破壊する事こそが確実ではないかと、作戦会議でも話題には上がった。
だが、ある可能性から棄却された。
「実際問題、システム干渉による"自爆プログラム"ってのはあるもんかね」
「母艦も言わば、無人兵器の一種だ。そして刈り取りにとっては、切り札に等しい。何としても、敵に渡るのは避けたいに決まっている。
直接破壊工作に出ればシステムが自爆シークエンスを起こす危険もある。そうなれば、我々まで巻き込まれてしまう。
妙な言い方になるが――ウイルスを使って、安全に停止させるべきだ」
「停止さえさせれば、この母艦も回収できるからな」
そう――この作戦の最終目標は母艦の破壊、ではない。母艦は確かに陥落させる、それはきちんとした目標だ。ブレはない。
だが、忘れてはならない。彼女達は海賊、カイは別にして単純な人助けなんてしない。奪われたのなら、奪い返すのが本義。
地球よりこの母艦を、分捕る――この作戦は"抵抗"ではなく、"反撃"であった。
<to be continued>
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