VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 4 −Men-women relations−
Action16 −黒子−
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ウニ型襲来により意気揚々と出撃したメイア達ドレッドチームだったが、かなりの苦戦を強いられていた。
ドレッドの性能を上回る加速力に、通常兵器の散弾を軽く弾き飛ばす特殊形態。
数でこそ圧倒的に優位には立ってはいるが、現実追い込まれているのは海賊達であった。
執拗に母船への攻撃を繰り返すウニ型に、チームリーダであるメイアには何ら対抗策が立てられないのだ。
これはメイアが無能であるという事ではない。
あまりにも敵が常軌を逸脱したポテンシャルを秘めているからである。
事実、マグノ海賊団首脳陣であるブザムやマグノにも打開案を立案する事はできていない。
次々とブリッジクルーから報告される味方の被害に、歯噛みしかできなかった。
戦況はゆっくりと、だが確実に敵側に傾きつつあった。
そんな戦況を気が気でなく見つめているのは、海賊である女性達ばかりではない・・・・
「やる気あんのか、ボケ!カス!アホ!
ちんたら繰り返してたら、敵の思う壺だろうが!主力を一旦下がらせて、体勢を立て直せよ!」
外部モニターより映し出される熾烈な戦いを見て、カイは一層高くレジ内に声を張り上げていた。
初めこそだれた顔で大人しく戦いぶりを見ていたのだが、
融合戦艦のアームを破損させられた辺りから黙ってられなくなったのか、モニターに怒鳴り散らしている。
無論、レジでいくら檄を飛ばしてもメイア達に通じる訳はない。
だが彼女達の苦戦を見ている内に、カイはじっと出来なくなったのだ。
「ああああっ!?違う違う!
ビームやミサイルを連続して攻撃しても、敵はびくともしてないだろうが!
青髪の奴、何やってんだよ!!
人には言いたい事言っておいて、そのザマは何だ!!」
言葉こそ乱暴だが、カイのモニターを見つめる表情は焦燥に揺れていた。
もしこのままでいたら、今にも戦場へ飛び出して行きそうな程に落ち着かない様である。
カイのそんな様子にレジクルー達は仕事がてら、心底不思議そうに横目で見つめていた。
あれほどメイアを嫌い、戦うドレッドチーム達を見捨てていた筈のカイが、
我知らずであるが、必死になってメイア達を応援しているのだ。
男である筈のカイが敵側である筈の自分達の仲間を心配する。
おかしな話であり、奇妙な話である。
だけど、レジクルー達はそんなカイにますますの親近感を覚えていた。
「ほ〜ら、ちょっと落ち着いて。はい、水」
「これが落ち着いてられるかってんだ、まったく。あいつら、やる気ねーよ」
茶髪のレジクルーの女の子が差し出してくれたコップの水を受け取って、カイは一気にゴクゴクと飲んだ。
女の子は憤然と椅子に座り直すカイを見つめ、悪戯っぽく微笑んだ。
「そんなに心配なら助けに行けばいいと思うけど?」
「たっ・・・!?ば、馬鹿野郎!!俺はレジクルー見習いだ。
戦いになんて出る気はねえ。好きにやってろってんだ」
腕を組んで悪態をつくカイに、女の子は素直じゃないんだから、とため息を吐いた。
そこへ大柄な身体を揺らして、ガスコーニュがカイの隣に立った。
「どうだい、メイアの戦い方は?」
カイに尋ねながらも、ガスコーニュは外部モニターへ視線を向けている。
同様にモニターを見つめたまま、カイはけっと舌打ちをする。
「なってねえな。味方を最優先にして、敵への攻撃は慎重に慎重を喫している。
あれじゃあ有効打は永遠に与えられねーよ」
次々と的確に策を講じて戦いを続けるメイアを見続け、カイはそう総評した。
メイアの戦いは確かに常に仲間の心理状態やチームワークを管理し、その上で攻撃を行っている。
一巡一巡を取れば、メイアの作戦展開ぶりは思い切りに欠けているのは事実だった。
カイの指摘に、ガスコーニュは楊枝を揺らして口を開いた。
「チームってのはそう言うもんさ。仲間あってこそ、団体行動は成立する。
特にドレッドチームは一機一機は高性能ではあるが、戦力的には低い。
チームワークがあってこそ、本来の力を発揮するんだよ」
慎重に慎重を重ねているからこそ、味方の被害は最小で済む。
メイアとて大胆な行動に移せない事はないのだ。
しかし被害を第一と考えると、危うい博打は究極避けるべき事である。
リーダーと言う立場は、部下たちの命と言う重い荷物を背負っているのだ。
「見てみな、メイアはちゃんと有効な手を論じているよ。
敵さんの能力はほぼ把握できているじゃないか」
ガスコーニュの言葉に、カイは黙って言葉を返さなかった。
リアルタイムで戦況を見つめているしかないカイやレジクルー達、ブリッジの重鎮達が、
ウニ型の能力を半ば把握できているのは、失敗と言える攻撃が行われたからこそだ。
ミサイルは効かない、ビームは役に立たない。
敵の加速力はドレッドの最大加速力を超えている。
ウニ型攻略の貴重な情報を手に入れる事ができたのは、メイアの指揮と作戦のお陰であった。
カイも理屈では分かっているのだが、目の前の事態を見ていると納得が出来ない。
「だけど、倒せなきゃ意味がねえだろう」
メイアが見ているのは現状の過程であり、カイは結果であった。
お互いがお互いを反論しあうには、価値観以外にもこのような差分がある。
その事に気がついたガスコーニュは、カイを見下ろす。
「ん〜、どうもあんたは視野が狭いね・・・」
「お前、さっきからそう言って俺を馬鹿にしまくりやがって!
俺のどこが視野が狭いってんだ!!」
自分を見下している様なガスコーニュの物言いが気に入らず、カイがついに爆発する。
逆にガスコーニュはますます面白そうに笑う。
どうやらカイのその言葉を待っていたようだ。
それまで傍らでじっとしていたガスコーニュは移動して、カイの正面に立った。
「証明してみせようか?」
「あ?何言ってんだ、お前」
「あんたの視野が狭いって事をさ。
どうだい、これからアタシと簡単な勝負をしてみる気はないかい?」
「勝負だぁ〜?てめえ、何企んでやがる」
突然勝負事を申し出るガスコーニュに、カイは訝しげに尋ね返す。
ガスコーニュは右足を一歩下げて、拳を固め右腕を懐に下げる。
「勝負内容は簡単。いまからあんたに、アタシが軽くパンチをする。
当たったらあんたが負け、防ぐなり避けるなりできたらアタシが負けだ」
ガスコーニュはそう言って、軽いファイティングボーズを取った。
攻撃体勢からの懐の右腕に注意を払いつつ、カイは剣呑とした目つきで言葉を口にする。
「こっちからの反撃はなしかよ」
「アタシはか弱い女だよ。そんな女性に攻撃するってのかい」
「け、よく言うぜ。要するに攻撃を食らわなかったら、俺の勝ちなんだな?」
「そういう事。
せっかくだから、勝負に賭けをプラスしようか。
アタシが勝ったら、あんたはアタシの言う事を一つだけ聞く。
あんたが勝ったら、アタシはあんたの言う事を何でも聞こうじゃないか」
ガスコ−ニュの提案に、カイは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そんな約束をしていいのか〜?
俺が勝って、レジの店長を代われって言うかも知れねえぞ」
「その時は大人しく従うさ。裸になれって言ってもなるよ」
「上等だ!さあ、きやがれ!!」
ガスコーニュに合わせて、カイは席に座りつつも真剣な表情になる。
ガスコーニュもまた瞳を鋭くして、カイに鋭利な攻撃の気配をぶつけた。
周りで見ているクルー達は突然の緊張感とガスコーニュのいきなりな勝負の申し出に、
戸惑いを隠せない様子でハラハラと見ていた。
カイは両腕を前へ構えながら、ガスコ−ニュの下げた右腕に注目していた。
(攻撃はあの右腕から来る。こいつは女ながら、かなりのガタイだ。
思いっきり殴ってきやがったら、かなりの衝撃を食らう。
それを防げたら、俺が勝ちだ!)
勝負内容としては、カイが一歩有利だった。
ガスコーニュはマグノ海賊団の中でも群を抜く大柄な女性である。
喧嘩も昔訓練を受けており、毎日の鍛錬も欠かしてはいない。
しかしながらカイは年齢こそ不明であるが、体格は一般的な青年としての大きさを有している。
タラークにいた頃酒場で肉体労働を行っていた事もあり、健康的な筋肉はついていた。
攻撃が正面から来ると分かってさえいれば、カイとて防げない事はなかった。
緊張が満ちる事数分。
レジ内にしばしの静寂が訪れ、モニターより伝わってくる戦いの音色のみが聞こえてくるのみであった。
いい加減カイが焦れていたその時、ガスコーニュが行動に出た。
(なっ!?こ、こいつ・・・・・)
「えっ!?」
ガスコーニュの移した行動に、カイのみならずレジクルー全員が驚愕の声を上げる。
一言で言えば、ゆっくりであった。
まるでスローモーションのようにコンマ刻みで、ガスコーニュは右の拳をカイにぶつけようとしている。
速度は肉眼ではっきり確認する事ができ、はっきり言って子供でも避けられる程であった。
「てめえ・・・・やる気あんのか、こら!」
「・・・・・・・・・」
無理もない言葉である。
勝負を申し出てきた張本人が、明らかにやる気がないような素振りを見せているのだ。
だがカイの怒鳴り声にも眉一つ動かさず、ガスコーニュは静かに拳をぶつけて来る。
カイはこめかみを引き攣らせつつ、間近に迫った拳を軽く片手で止めた。
「ほれ、止めたぞ。俺の勝ちだな」
「・・・・・・・・・・・・」
握った手を一瞬見つめ、ガスコーニュは明後日の方向へ視線を向ける。
彼女の真意が読めず戸惑いを隠せない様子で、カイは言葉を重ねた。
「どこ見てやがんだ!いくら途中でやる気なくしても、勝ちは勝ちだ。
約束どおり、俺の言う事を聞いてもら・・・」
「!?メイアっ!?」
言葉の途中ながらも、ガスコーニュは視線を明後日の方向に固定させたまま驚愕に満ちた表情をする。
ガスコ−ニュの突然の変貌に、カイははっと彼女と同じ方向へ視線を向けた。
そこには一つの外部モニターがあり、メイア達ドレッドがモニターに表示されている。
戦況は先程と同じく、果敢に攻撃を加えながらもなす術がないメイア達の様子が映し出されていた。
そう、先程と同じく・・・・・・・
カイが眉を潜めたその時、右こめかみに鋭い痛みが走った。
「ぶっ!?な、な・・・・・」
「はい、アタシの勝ち」
ズキズキと痛むこめかみに手を抑えながらも、カイははっと上を見上げる。
視線の先に嬉しそうに右の拳を振っているガスコーニュを見た瞬間、全ての事態を把握する。
「きたねーぞ、てめえ!?あんなんありか!!」
全てフェイントだった。
殴る速度をわざとゆっくりにしたのも、明後日の方向に視線を移したのも、
そしてメイアの名前を出して、驚いた顔をしたのもである。
カイを油断させ、気が緩んだ瞬間をガスコーニュは的確についたのである。
「おや〜?ルールは設けていない筈だよ。
どんなやり方にせよ、当たればアタシの勝ちだ。違うかい?」
「う・・・・・
だ、だけど、こんなやり方で勝つなんて・・・・」
「戦いや勝負に卑怯もくそもないよ。負ければ終わりさ。
あんた、敵に負けたら言い訳をするのかい」
「ぐ・・・・・・・・・・・」
怒りに身体を震わせながらも、カイは言い返す事ができなかった。
これまで短期間とはいえ戦場に出ていたカイが、何より戦いの過酷さを知っているからだ。
言葉に詰まったカイに、ガスコーニュは身を屈めて同じ視線の位置に立った。
「これで分かっただろう?
自分がどれだけ主観的にしか物事を捉えてないかが、さ」
「うぬぬ・・・・」
悔しそうにしているカイを睥睨して、ガスコーニュは自分の拳をぽんぽん叩く。
「あんたは勝負が始まった時から、ずっとこの拳を注目していた。
攻撃対象であり、防御しなければならないからこそ、集中して見つめていた筈だ。
事実、攻撃を防ぐ事はできた。
だけど、あんたはそれで勝ったと思い込んでしまった。
まだ拳は生きているのに。アタシが目の前に立っているのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
指摘されて、カイは気がついた。
防いだと思った瞬間、自分は確かに勝利を確信した。
まだ勝負が終わったと決まった訳ではないのに、勝手にそう思い込んでしまったのだ。
自分が、そう決め付けてしまった・・・・・・・
「アタシがモニターに注意を逸らしたら、あんたは飛びつく様にモニターへ目を向けた。
そして、対象は対象でなくなった。
自由になった拳は簡単にあんたにヒットしたんだ。
これを今の戦況に当てはめると、拳があの敵さん、構えるあんたは自分、モニターが仲間という構成になる。
あんたは味方に気を取られて、敵から目を逸らしたんだよ。
これが戦いだったら、あんたは死んでるね」
「く・・・・・・・・・・」
言い分は至極ごもっともであり、カイは自分の不甲斐なさを知った。
敵から目をそらす事は、戦いを放棄したも同然である。
戦場で戦いを一瞬でも止めた者に慈悲はない。
「メイアは違う。あの娘はちゃんと自分も、周りに対しても客観的に見ている。
その上で最善の方法を尽くしているんだ。
メイアは若くして大勢の信望を集め、リーダーに抜擢された理由の一つがそれさ。
主観的にしか見れない今のあんたじゃ、メイアには勝てないよ」
「俺が主観的・・・・・」
これまでの戦い方を、カイは思い返してみる。
初めての戦闘は勢いで出撃し、蛮型の操縦も満足にこなせず成果は上げられなかった。
ピロシキ型との戦いは無謀にも直接突っ込み、敵に捕まって絶体絶命の危機になった。
今日のキューブ型との戦闘は周りの人間の事を考慮せず、飛び火をばら撒いてしまった・・・・・・
意気消沈するカイに、ガスコーニュは一転して優しい声色で話を連ねる。
「いいかい?どんな人間でも、広い舞台に立てば一人の役者に過ぎないんだ。
物語を作っているのは役者全員であり、裏方の黒子なんだよ」
「でも役割が違ったら、それぞれ違う筈だろう!・・・あ・・・」
自分の言葉で気がついたのかはっと顔を上げると、ガスコーニュは深く頷いた。
「そ。だから周りを見て、自分の役割をきっちり果たす必要があるのさ。
例えば、舞台一番で一番輝いているのは主人公だ。
でも主人公を引き立てているのは脇役であり、見ている観客であり、黒子達だ。
皆それぞれに役割をちゃんと持っているんだよ。
戦いでも、物事においても同じ。
正しい事も、間違っている事も、決して一つじゃない。
個に囚われていては、全を見失うよ」
「個のみではなく、全を・・・・」
カイはブリッジへ苦情を言いに行った時の、マグノの言葉を思い出す。
『心が縛り付けられてしまえば、自分を見失う。
自分を見失えば、当然他人なんか分かりはしない。
他人が分からなければ、周りの世界そのものすら理解できなくなる』
自分を見つめ、周りを見つめる。
自分が全体の中では一つでしかない、だからこそ広い周りを認識しなければいけない。
含蓄のあるガスコーニュの言葉に、考えさせられるカイであった。
そんなカイを複雑そうに、そしてどこか悲しげに見つめるガスコーニュ。
「悪いね、説教くさい話をしちまった。
ま、人間そう単純に切り替えられるもんじゃないよ。
さっきはああ言ったけど、メイアだって完璧じゃない。
あの娘だって囚われているんだよ・・・・・・」
「あいつが?」
カイは意外そうにガスコーニュを見つめるが、本人は自嘲気味に微笑むのみだった・・・・・・
三度目の特攻が行われ、成す術もなく戦艦上部の装甲が打撃を受ける。
猛りきった刺が閃光を放ち、突き刺すのみならず削られただけでもダメージは大きい。
船の警護すらままならないメイア達だったが、それでも諦める事はなかった。
「フォーメーションアタック α−2。有効射程距離で連続砲火!」
『ラジャー!!』
命令を飛ばして、メイアもまた先頭を駆ってウニ型へ接近する。
元々メイアの機体は加速を重視としており、攻撃力は単体としては標準以下である。
独自の才能と能力で本来以上の力を発揮しているメイアであるが、限界はあった。
敵目標を射程に納めての攻撃に繰り出そうとしたその時、ウニ型は急な反転をかけた。
「なっ!?」
慌てて回避行動に移るメイアだったが間に合わず、刺の幾つかをまともに食らってしまった。
左翼が深刻なダメージを受け、加速力を制限されてしまう。
コックピット内にて表示されるダメージの深刻さと自ら負った怪我に、メイアは表情を苦痛に染める。
「くう・・・・」
『メイア、大丈夫!?』
通信回線が開かれて、メインモニターにジュラの心配そうな顔が映し出される。
メイアは痛みをこらえて、毅然とした表情に努める。
若干汗がにじみ出るのはどうしようもないが、彼女なりの必死な表向きであった。
「私は大丈夫だ。ジュラは攻撃を続けろ」
『で、でも・・・・』
「大丈夫だと言っている。自分の任務を全うするんだ!」
そのまま強制的に回線をカットし、メイアは力なくシートにもたれかかった。
荒げる呼吸はダメージの大きさを如実に示しているが、二、三度首を振って操縦ポールを握る。
「男の・・・あいつなんかの力は借りない。私は自分の力でやり遂げる!
何にも負けないほど強くなるために!!」
コックピット内に広がる慟哭にも似た叫び声は、強い響きがあった。
だが日頃は常に冷静な筈のメイアの今の声はどこか寂しく、切なさが込められている様だった。
周りの心配も、己の感傷も、全てを拒絶する孤独な力。
メイアの心に深く巣くっているその強さを持って、メイアは全霊を振り絞り再出撃を行った。
その後ウニ型の猛攻が続き、ドレッドチームも半数近くが行動不能とされる。
母艦への攻撃も重ねて行われ、ドレッドの現存兵力までもが乏しい。
さらにはチームをまとめているメイアもダメージを負っている。
深刻な状況を看破したバーネットは悔しそうな顔をしながらも、緊急通信回線を開いた。
「ガスコさん、デリお願い!急いで!」
緊急通信回線の展開、それはレジシステムへ緊急救助要請を行う事を意味する。
負けん気の強いバーネットにしてみれば、ウニ型の戦いは己の手におえないと認める事に繋がり、
屈辱的と敗北感に襲われるのだが致し方なかった。
それだけ状況は芳しくなく、味方全体が既に限界へと来ているのだ・・・・・・・・
「デリオーダー入りました。アサルトミサイルタイプB、50!」
「ホーミングミサイル30、ホーミングレーザーお願いします!」
バーネットの通信をきっかけに次々とパイロットからオーダーが入り、レジ内はにわかに騒がしくなった。
使い切った弾薬や攻撃をうけて破損したパーツ類の数々。
最前線のパイロットからの補給要請に、カイはカウンターに戻って作業をこなしていた。
「ホーミングミサイルね、はいはい・・・・」
投げやりにそう言いながらも、レジを打つ手は素早い。
慣れもあるのだが、あまりの注文の数の多さにフル活動しなければ追いつかないのだ。
それすなわち、そこまで補給を受けなければならない程に戦いは急を瀕している証拠だった。
戦いが気になって仕方がないカイなのだが、モニターを見る余裕もない。
歯噛みするしかないカイだったが、仕事に励む彼に大きな影が覆う。
「ん?なんだ、お前か。今俺は非常に忙しいんだ。話は後で聞くよ」
「そうつれなくする事はないだろう。レジの仕事はここまででいい。
一緒においで」
「一緒?どこかに行くのか、お前」
「何寝ぼけてんだい。デリの要請が入ったんだ。
直接戦場へ行って、あの子達を助けに行かないとね」
助けに行くと言う言葉を聞いたカイは、顔を強張らせてそっぽを向いた。
「嫌だね、お前一人で行って来いよ。俺はごめんだ」
メイアの力になる、カイは死んでも御免だった。
ここで助けに行く事はメイアに負けを認めた事になり、自分の言葉を曲げてしまう事になりかねないからだ。
冷静に考えると些細な事に過ぎないのだが、その些細さがカイを足踏みさせている。
あくまで意固地なカイに、ガスコーニュは呆れた様子で言葉を続ける。
「あんたは今レジクルーの見習いだろう?店長の言う事が聞けないのかい」
「んぐ・・・・権力を盾にするなんざみっともないぞ」
「いつまでも意地張っているあんたも似たようなもんだろう。
メイアがこのまま死んでもいいってのかい?」
死んでもいいのか?
簡素であるが重大な意味を持つその質問に、カイは目を見開いた。
「・・・・・・・・・ふん・・・」
そっけない態度ではあるが、肯定している訳でもない。
明確に死んでもいいと言い切れないカイを見て、ガスコーニュは微笑んだ。
「やっぱり似ているよ、あんたとメイアは・・・・」
「え?」
「ほら、来るんだ。忙しい時に世話を焼かすんじゃないよ」
そのままカイの襟首を掴んで、ガスコーニュは奥の扉へと歩く。
「こら、離せ!離せ、てめえぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」
カイは力任せに足掻くが、ガスコーニュは意に介さずに鼻歌交じりにカイを引きずる。
抵抗も虚しく、カイはそのままレジから連れ出されて行った。
<続く>
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