VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 4 −Men-women relations−
Action15 −主観−
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「全チーム、セットアップ完了!待機モードに入ります」
融合戦艦の代表のような配列で、十数機のドレッドが規律よく並ぶ。
先頭にはメイア機、後列に二機バーネット・ジュラ機が待機している。
ジュラとバーネットはAチーム・Bチームと編成されたドレッドメンバーのリーダーであり、
ドレッド全てを率いるメイアのサポートとしての役割もあった。
足並みのいい準備から乱れのないチーム編成まで行き届いており、マグノ海賊団の力量が伺える。
チームメンバーそれぞれの個々の能力の高さのみならず、
指揮官の有能さや統率の高さがタラーク軍すら翻弄するレベルにまで押し上げているのだ。
メイアの報告の元、司令塔の役割を担うブリッジからブザムの指示が飛ぶ。
「全軍、警戒態勢。敵が動きを見せれば攻撃を開始せよ」
『ラジャー』
未だ動きを見せない全身に穴を空けた球体に、メイア達の目が集中する。
少しでも動きを見せれば、即座に全ドレッドが一斉にその牙を向けられるだろう。
融合戦艦操舵手のバートに船のセンサーを担当するアマローネ・ベルヴェデール・セルティック、
海賊クルー全員の命運を背負っているマグノにブザム、
宇宙空間において戦闘体勢に移行しているドレッドチーム、
そして、レジにおいてクルー見習いとして職務を全うしているカイも敵の様子に警戒していた。
「何で仕掛けてこねえんだ?こっちはあからさまに警戒してるってのに」
レジの仕事は主に戦闘へと出るパイロット達の全面的な補助が主である。
それは出撃前に限らず、戦闘中であっても補給が必要とされる場合があるのだ。
ゆえに、こうして常に戦闘の様子を把握しておかなければいけなかった。
レジに設置されている外部モニターを見やりながら疑問符を浮かべるカイに、ガスコーニュは横から言った。
「向こうさんも同じって事だろう」
「?どういう事だよ」
カイはカウンター内の席に座りながらガスコーニュを見上げると、皮肉げに彼女は笑う。
「こっちは敵さんの情報がまるで分からない。だから迂闊に手出しが出来ない。
向こうさんにしたってそうさ。
アタシらの戦力を完全に把握できてはいない。ゆえに動かずに観察している」
ガスコーニュの的確な状況判断に、カイは舌を巻いた。
一介の裏方にはできない観察眼と状況把握力が、ガスコーニュにはあったからだ。
ガスコーニュの分析を聞き、カイは負けじと腕を組んで声を張り上げる。
「へっ、どっちも弱気じゃねーか。警戒ばっかりしてよ」
「ふ〜ん、だったらあんたならどうするんだい?この状況を」
面白そうに目を細めて尋ねるガスコーニュに、得意げにカイは立ち上がった。
傍目で見ていたレジクルー達も、カイの様子を期待げに見つめている。
カイはそのままズカズカ外部モニター下へと歩き、ビシっとモニター内の敵を指差した。
「そのまま相棒で突っ込んでぶっ潰す!」
単純明快なカイの戦法に、聞いていたレジクルー全員が疲れたように突っ伏した。
周りのリアクションが不服だったのか、カイは戸惑ったような声をあげる。
「何だ、何だその反応は!特攻あるのみだろう」
「今のカイの意見を単純だと思う人〜!」
茶色の髪のレジクルーがそう言うと、申し合わせた様に一斉に全員が手を上げた。
無論ガスコーニュも例外ではなく、しっかりと手を上げている。
「てめえらなあ!あんな球っころ一匹にうじうじしてどうすんだよ!
これだから女ってのは・・・・・・
青髪だってこんな戦い方してたら、出遅れて当然だよ」
今までの戦歴からメイアの戦い振りをそう結論付けるカイ。
そんなカイの言葉に、ガスコーニュは露骨にため息をついて言った。
「あんた、今までよく生きのびられたね・・・・・・・
よっぽど相方の機体に助けられたと見える」
「俺が相棒に助けられてたってのか!」
心当たりがあるだけに、カイは余計に腹を立てる。
人間、図星を突かれると反論したくなるものである。
じっと睨むカイに、ガスコーニュは己のスタンスを崩さずにモニターを見やる。
「あんたは主観的に物事を見すぎだよ。
そんな事じゃいつか足元をすくわれるよ」
「こ、この・・・・!?」
「いい機会だ、よく落ち着いて見てみな。あの娘達の戦いぶりを・・・・
そしてメイアの戦い方をね」
そのまま店長席へどっしり腰を降ろすガスコーニュに、カイは勢いを無くす。
このレジへ来てからずっとだが、カイはペースを狂わされっぱなしだった。
文句を言いたいのは山々なのだが、正論なので反撃がしにくいのだ。
仕方なく、カイはぶっきらぼうにカウンターの席に座りなおした。
「ま、今は仕事がなくて暇だからよ。仕方ねえから見ててやるかぁー!
せいぜい駄目っぷりを晒さなきゃいいんだけどな」
それがカイなりの精一杯の負け惜しみだと分かり、周りのレジクルー達はクスクス笑い声を立てる。
逆にカイは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「わ、笑ってんじゃねーぞお前ら!」
「だってぇ〜、カイったら・・・ね〜?」
「くっそぉ・・・・こいつら、いつか泣かす!」
すっかり意気投合し、カイとレジクルー達の間に温かな雰囲気が生まれている。
客観的にそんな彼らを見合って、ガスコーニュもまた優しい微笑みを浮かべた。
男と女のありえない筈の共同的空間。
だが、クルーの一人の張り上げた声が場に緊張感を生む。
「あっ!!何、あれ!!」
「!?何だ、ありゃあ!?」
モニターに映し出された映像に、カイは目を見開いてカウンター席から腰を浮かせた。
融合戦艦、そしてドレッドチームと静かに対峙していた球体が異様な変化を見せる。
突然全身を発光させたかと思いきや、球体全土を覆い尽くす無数の穴から触手を生み出したのだ。
形態としては以前カイが戦ったピロシキ型と同様だが、動作が微妙な揺れを見せている。
全体の穴から飛び出した事により、球体そのものが触手で覆われた形になった。
「うええぇ〜、何あれ!?」
普段なら珍しい物には何でも興味を持つディータも、あまりに異様な形態には悲鳴しか出なかった。
それは他のパイロット達も同様で、メイアを除いて皆表情を歪めている。
「球体より触手形態が発生。全身を覆い尽くしています」
「いよいよ動き始めたようだね・・・・・・」
声に緊張を混ざったベルヴェデールの報告に、マグノは厳しい表情を中央モニターに向けている。
そこへ球体がさらなる変化を見せた。
ユラリと全身の触手を揺らしたかと思うと、突然硬質化する。
先端を尖らせた触手は流麗な光を発して、触手全体が一定の角度をもって無数の刺へと進化。
刺全身から発散されるエネルギー電光が火花を散らし、球体が変貌を完成させた。
完全に形状変化した敵を、ジュラは悲鳴を持ってこう名称した。
「ウ、ウニィ〜!?」
海洋生物の一種であるウニに似せた球体は、そのままメイア達に対峙する形で停止する。
どうやらこのままメイア達を待ち受けるつもりのようだ。
全ての様子を見つめていたバーネットもまた、動揺を露にメイアに通信を繋いだ。
『あ、あんなのと戦うの!?どう攻撃するのよ!』
『落ち着けバーネット、ジュラ』
さすがにこれまで数々の修羅場を乗り越え、ドレッドを指揮して来たメイアは比較的冷静であった。
メイア自身心に動揺がないと言えば嘘になるが、冷静さを制御出来る程の小さな波紋にしか過ぎなかった。
目の前のスクリーンに映し出されている『ウニ型』を見て、メイアは頭の中で素早い状況対応を行う。
偵察しても埒が明かない上に、味方に動揺が出ている。
手元の操縦グリップを握り締め、美貌にチームリーダーとしての威厳を上乗せして叫んだ。
「ジュラ、バーネット。フォーメーションを維持し、瞬時に編成。
全チーム、攻撃開始!」
『ラジャー!!』
グリップより命令データを入力して、メイアは機体を発進させる。
戦闘のメイア機の軌跡を縫うように、それぞれの後方のドレッドも攻撃を開始する。
ドレッド特有の速さを持って一瞬で射程距離へと詰めたメイアは、数発のミサイルを連射した。
メイアのミサイルが迫るのを認識したウニ型もまた、無数の刺を回転させて急加速を試みる。
同時にフォーメーションを持って、タイミング良く次々にドレッドチームよりミサイルが発射された。
メイアの指揮に、ジュラ・バーネットの補佐の賜物である。
全ての攻撃が着弾すればかなりのダメージを食らうであろうその攻撃だが、ウニ型はものともせず肉薄する。
ドレッドチームの中央に接近するウニ型だったが、全身の刺に無数のミサイルが突き刺さった。
「えっ!?そ、そんな・・・・・・」
さらなる攻撃を行おうとしたディータは、ウニ型の様子に驚愕の声を上げる。
なんと全弾着弾した筈のウニ型はダメージ一つ負ってはいなかった。
ミサイルを受けた刺もまったく傷もついておらず、電光を走らせている。
そのまま加速を緩めないウニ型はまともにドレッドチームにクラッシュを仕掛け、突撃を試みる。
先頭にいたメイアは予想外の敵の防御力に目を見開きながらも、何とか機体を傾けるのに成功する。
刺と刺の間隙を独自のポテンシャルと機体の高速さで逃れたメイアは、ウニ型を潜り抜けて反転。
ジュラ・バーネット機は機体を揺さぶられはしたが、直撃は避けられた。
コックピット内で豊かな胸を呼吸荒く揺らして、ジュラはメイアに通信を送る。
『駄目よ、メイア。攻撃が通じないわ』
『あの針だ。先端より発しているエネルギーがコーティングして、我々の攻撃を遮断している』
一瞬の攻防で敵を把握し、そう結論付けるメイア。
メイアの言葉が本当ならば、ウニ型の刺が稼動し続ける限り生半可な攻撃が通じない事になる。
顔色を変えたジュラが焦りのこもった声で言葉を口にする。
『どうするの!?攻撃が通じないんじゃ・・・・』
『落ち着け、ジュラ。チームを再編成してビームで弾幕を張る。
隙を見計らって、我々が至近距離より刺を集中的に攻撃すればいい』
敵を翻弄し、敵の防御力を上回る攻撃を仕掛けて撃破。
単純ながらに的確な戦法を練ったメイアは機体を再発進させて、そのまま球体を追う。
一方ドレッドチームにクラッシュを決行した球体は見る見る加速を強め、何機かに損傷を負わせた。
勢いに乗った球体に追撃をかけるドレッド隊であったが効果はなく、球体はそのままチームを通り過ぎる。
ドレッドチームを蹴散らした球体はそのままのベクトルで突き進んでいく。
球体の進路を悟ったメイアは表情を豹変させて、全回線をオンにする。
『敵は母船を狙っている!全チーム、一斉射撃!!』
球体は全身の刺を緩やかに回転させながら、鎮座している融合戦艦へと向かう。
無論、敵の行動をそのまま黙って見ているブリッジクルー達ではない。
『大変!球体が急加速で接近していますぅ!』
職場へと再復帰したエズラが、手元のコンソールを操作しながら叫んだ。
モニターより、そしてエズラの報告を受けたマグノは声を張り上げる。
「兄ちゃん、緊急回避!」
『わ、分かってますよ!!』
クリスタル空間内では、操舵手であるバートは完璧に船と一体化している。
バートにしてみれば、巨大なウニが自分に対して恐ろしい程の速さでぶつかろうとしている状態なのだ。
慌てて手元を操作して、バートは船を傾ける。
左方側部のブースターを噴射させ、急激なGを耐えながらの努力も、あと一歩及ばなかった。
球体の速度が認識を超えて船に迫り、融合戦艦の右舷を接触して刺が突き刺さった。
「いってぇぇぇ!!いててて・・・・・」
船とリンクしている反動で、バートの左腕が内出血で赤黒く染まる。
明らかに刺が刺さったと思われる斑点が、バートの腕に痕跡として残っていた。
無論、船自身も無事では済まない。
削り取ってそのまま船の後方へと走り去った球体は、ようやく動きを止める。
「左舷アーム、被弾!隔壁を閉鎖します!」
事態を重んじて、副長席へ座ったブザムが船の状態をそう判別する。
マグノは歯噛みをしてモニターを見やるが、状況は一向に回復はしなかった。
戦列を乱されたメイアにも、攻撃を避け切れなかったバートにも責任があるわけではない。
敵の能力がそれだけ段違いなのだ。
手元のコンソールで敵についての分析を行ったブザムが、調査の結果に戦慄する。
「どうやら敵は今までの我々の行動を監視し、戦いによってデータを得たようです」
「何だって!?」
目を見開いて続きを促すマグノに、ブザムは額に汗を浮かべて続きを述べる。
「並みいるドレッドを潜り抜けて本艦へ突進を試みて、ダメージを負わせる。
この球体の戦い方は、明らかに以前のカイとの戦いを元にしています」
「く、何てこったい・・・・・・・」
敵はポテンシャルの高さのみを武器にしている訳ではない。
一つ一つの戦いに目を配り、独自の開発力と分析力でカイ達に攻撃を仕掛けている事になる。
即ち、戦えば戦うほどに敵は強くなっていくのだ。
無限にも似た悪循環に、マグノは悔しさに憤りを感じるしかなかった。
「球体が反転してこちらへと向かっています!」
外部をモニタリングしていたエズラが、切迫した声で状況を伝える。
はっと中央モニターを見上げるマグノの目に、再び接近する敵と立ち向かうドレッド達の姿があった。
今度こそ母船には近づけまいと、編成を組みなおしてメイア達が突撃をかける。
メイアの作戦に従って後方からのサポートに、レーザービームが数条宇宙を駆けめぐる。
合わせて追撃するように戦闘力重視のディータ機のホーミングミサイルや、
機動性を生かしたメイアの多弾頭ミサイルが数を効して、次々と球体に着弾した。
バーネットは敵に肉薄して一瞬の攻撃後退避という華麗なパターンを駆使して、攻撃を続ける。
それぞれが己の役割を徹底して果たし、攻撃を行った事になる。
だが全力を以ってした彼女達の攻撃をもってしても、ウニ型を揺るがす事すらできない。
驚異的な防御力でメイア達の攻撃を阻止したウニ型は、再びドレッドチームに強烈な体当たりをかける。
結果、肉薄していたドレッド隊の数機が無残に戦闘不能となった。
幸い乗り手は軽傷だったが、それでも戦列からはリタイアである。
ウニ型はチームに大打撃を与えて、再び融合戦艦へと進路を向ける。
「メイア!あいつ、速すぎるわ!このままじゃ船がやられる!」
「く・・・・作戦が仇となったか」
肉薄して撃破すると提唱したメイアだったが、逆にチームそのものに打撃を与えてしまった。
悔やんでも悔やみきれないが、何時までも落ち込んでいる訳にもいかなかった。
こうしている間にも敵は母船の消滅を目論んでおり、攻撃を迅速に行っているからだ。
「どうするのよ、メイア。チームにも乱れが出ているわよ」
「分かっている!分かっているが・・・・・」
苛々が心に芽生え、メイアに苦悩の表情が生まれる。
ウニ型の驚異的な防御力と加速力。
倒すには撃ち破れる程の攻撃力か、敵を圧倒する加速力でしか対策がない。
数で翻弄しようとしても敵はものともせずに、一直線に母船へと向かっているのだ。
壁の役割すら果たせない自分達は一体なんだろうか?
責任感の強さから自分を苛むメイアに、ディータからの明るい声が通信として届いた。
『リーダー、宇宙人さんを呼びましょう!宇宙人さんならきっと助けてくれますよ!』
通信モニターに映し出されるディータの笑顔は、きらきらと輝いていた。
その笑顔にはカイへの信頼が浮き出ている。
『ちょっと、冗談でしょう!どうしてあんな奴呼ばないといけないのよ!』
通信を受信していたジュラが、嫌悪感と怒りを露見して叫んだ。
ジュラはカイの一連の騒動を全て見てきた目撃者なのだ。
叱責するメイアを邪険に突き飛ばしたカイを許すつもりはなかった。
メイアも同意見なのか、表情を厳しくしてディータを咎めた。
『奴はもう我々とは関係ない。戦いからは遠のいた筈だ』
『でも、でもきっと助けを呼んだら来てくれますよ!』
レジへ謝りに言った時初めこそ邪険にされたものの、カイは最後の最後でディータを気遣った。
あの時のぶっきらぼうながらの優しさが込められた言葉に、ディータは感動すら覚えたのだ。
ディータの今の脳裏にはカイの燦々たる姿が映し出されていた。
だが最悪な状態で喧嘩別れをしてしまったメイアには、カイという存在は怒りすら沸く存在でしかなかった。
『あの男に頼るなと言っているんだ!奴は敵だぞ!』
『でも、いい宇宙人さんです!どうしてそんな言い方するんですか!』
『男は敵だ!メジェールでは常識の範疇だ』
『宇宙人さんは悪くありません!
ディータ達をいつも助けてくれたじゃないですか!!!』
『ちょ、ちょっと・・・・
どうしたのよ、ディータ?格納庫からあんた、変よ』
普段ならリーダーであるメイアの命令は、ほぼ絶対だった。
メイアの言葉にいつも間違いはなく、的確な指示や叱責にしても当然であったからだ。
ディータのような新入りにとっては、メイアは雲の上の人に他ならない。
ゆえに、いつもなら恐縮して謝っている筈なのだ。
これ程までに強く何度もメイアに反論しているディータは、ジュラには初めてだった。
身内同士で険悪になりつつある雰囲気に、聞いていたバーネットが口利きする。
『メイア、この際ディータの言うとおり、あいつを呼んでもいいんじゃない?』
『な・・・!?』
『バーネット!』
信じられないという顔をするメイアに、喜びを表情に表すディータ。
親友のジュラでさえも唖然としながら、バーネットに通信を入れる。
『どういう事よ、バーネット!あいつのやった事、ちゃんと話したでしょう!』
『別に味方しているわけじゃないわ。あいつとディータ、以前合体したんでしょう?
その力で倒せないかって言っているのよ』
以前船が暴走した時、間一髪の所をディータとカイ機の合体型が巨大な氷塊を破壊している。
人型を模した合体機は背中に強力な主砲を二対装備していた。
バーネットはその主力武器をプランとしてあげたのだ。
今現状での打開策がない以上、バーネットの意見はもっともだと言える。
だがバーネット自身、カイがそれほどの悪人には見えないからと言う理由もあったのも事実だった。
レジ内でのディータへのカイの言葉。
黙って聞いていたバーネットのカイへの悪意を吹き飛ばすには、十分な力があった。
特に仲間と思っている訳でも、特別な目で見ている訳でもない。
カイは所詮捕虜に過ぎないし、何より男という敵側の人間だからだ。
しかしカイ本人の人間性だけを捉えて見れば、悪人と断ずるには抵抗があった・・・・・・
ジュラは説明を聞いて納得し、ディータは元より賛成派だったので話がまとまりそうだった。
『・・・・・・・・・・・・・・』
三人の意見が一致し、残るはメイアのみである。
ディータの言い分は考慮外にしても、バーネットの意見は確かに説得力があった。
男云々を抜きにすれば、カイの参戦を認め、戦況を覆せる事も不可能ではない。
そんな事はメイアには分かっていた。
だが・・・・・・・・・・・・・・
どうしても、メイアはカイを受け入れる事はできなかった。
受け入れる訳にはいかなかった――――
『メイア、人は・・・があるから強くなれるのよ・・・』
心に飛来する思いが過ぎり、メイアは懸命に振り払った。
震える瞼を閉じて、小さな声で断言する。
『駄目だ、あの男はもう二度と戦いには参戦を許さない』
『メイア!』
『バーネット、ディータ、ジュラ。誰かに頼っていては強くはなれない。
危機は自分で乗り越えるんだ!』
話は終わりだとばかりに通信を切り、メイアは自機を発進させる。
追撃をかわす融合戦艦を死守するべく、ウニ型への攻撃を再開したのだ。
「リーダー・・・・・・・・」
どうしてそこまで頑なにカイを拒むのだろうか?
怒りよりむしろ悲しみに満ちた目で、ディータは加速するメイア機を見つめていた・・・・・・
<続く>
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