ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 18 "Death"
Action8 −助言−
地球母艦との死闘、ガス星雲内での大規模な戦闘は局地戦に変貌しつつあった。刈り取り部隊と海賊、双方共に全戦力を惜しみなく投入しながらも陣容は戦局に合わせて変化してきている。
一番数の多い部隊、無人兵器の大群とドレッドチーム。数のぶつかり合いは消耗戦となりがちだが、そのまま長期戦に発展すれば資材に限りある海賊側が不利となる。
事前に想定可能な愚は当然避けるべき、と消耗戦に乱入しているのが海賊本陣であるニル・ヴァーナ本船。ホーミング・レーザーとペークシス・アームが数多き兵器を蹴散らし、母艦を足止めする。
主力戦となる偽ヴァンドレッド部隊、ディータ率いる混合部隊。本物のヴァンドレッドを取り扱うディータをリーダーに、ジュラをサブリーダーとして主戦力を投入した部隊である。
戦力そのものは敵が上だが、環境における優位をマグノ海賊団は確保している。磁場の強力なガス星雲内ではヴァンドレッドであれ性能を完全に発揮できず、互角に戦えていた。
そして、勝敗を分ける決戦――偽ニル・ヴァーナと、ヴァンドレッド・メイアとの激戦。
「瞬間的加速が、増している。やっぱりお前も乗せると性能が上がるようだな」
「マジっすか!? うひょうひょひょ、ついにピョロもヒーローとなる時が来たピョロ!」
「気持ち悪い喋り方ではしゃぐんじゃねえ! というか目の前を飛び回るな、見えねえだろうが!?」
「ピョロも言うならば、『機体』ではあるからな。合体の要素となるパーツの一つだったようだ」
白亜の機体ヴァンドレッド・メイアが、眩い光を放っている。戦場に美しき白の軌跡を描くように華麗に飛び回り、麗しき残像を描いて敵を翻弄していた。
基本的な性能は勿論のこと、特化された加速力も抜群の初速度を見せている。偽ニル・ヴァーナも広き宇宙を飛び回る翼を持っているが、加速では負けてしまっている。
結局実験も出来ていなかったのだが、ピョロをコックピットに載せた新しい合体は実戦での試験運用に成功していた。
予想外の朗報ではあるのだが、残念ながら大局を覆すほどの要素とはなってくれない。
「いけいけ、ピョロ三号! 悪のニル・ヴァーナをやっつけるんだピョロー!」
「……三号?」
「……エズラさんの子供が二号なんだとよ。ピョロUとか呼んでいるだろう」
ヴァンドレッド・メイアを操縦しているのはカイとメイアなのだが、ピョロはパイロット気取りでシャドーボクシング。見ているだけで、怒る気力も無くした。
実際、戦いの流れとしては悪くない。敵の切り札とも言える偽ニルヴァーナは登場こそ度肝を抜かれたが、そもそも最悪を想定してカイ達も作戦を立てていたのだ。
ヴァンドレッドが模倣されたとあっては、ニル・ヴァーナまで持ち込まれても不思議ではない。大いに驚嘆すべき科学力なのだが、その辺を追求しても仕方がない。
戦えては、いる。だがどれほど華麗に戦っても、倒せなければ何の意味もない。
「お前ね……やっつけろと気軽に言うけど、具体的にどうしろってんだ」
「ピョロ三号の力を見せてやるんだピョロ!」
「どんな力を期待しているのか知らないが、このヴァンドレッドは加速に特化した機体だ。火力には、優れてはいない」
「……つまり?」
「今まで助けられてきたニル・ヴァーナの装甲の厚さに今難儀させられているんだよ、この馬鹿」
ヴァンドレッド・メイアは加速に特化しているというだけで、別に火力不足ではない。少なくとも通常のドレッドや蛮型よりは、秀でた火力を秘めてはいる。
その加速で敵を翻弄して隙を作り、火力を叩き込む。ヒット・アンド・アウェイを繰り返してはいるのだが、なかなか敵が崩れてくれないのだ。
火力を叩き込む度に、カイ達は苦々しい思いをさせられている。この装甲の厚さに、今まで助けられてきたのだ。まさか、装甲に困らされる日が来るとは夢にも思わなかった。
苦戦させられる実感は、登場時からあった。簡単に倒せるとも思っていないし、カイもメイアも戦闘時大胆な戦い方をするが、姿勢としてはむしろ慎重に対処する。
じっくり堅実に戦うことに、不満はない。自分達が、作戦の要でなければ。
「!? 来るぞ、回避しろ!」
「ピョロ、伏せろ!」
「ひいいい、来たピョロ〜!?」
そして敵から放たれる一撃必殺、偽ニルヴァーナの主砲とも言うべき赤い光。どういう原理なのか不明だが、一撃食らっただけでヴァンドレッドそのものが強制的に解除させられる。
敵の謎の主力兵器である赤い光は通常兵器よりも格段にダメージが浸透し、パイロットの精神にまで食い込む。カイ達が攻撃を受けないように、常に全力で回避しなければならない。
この回避も相当、痛い。どれほど有利に戦えても赤い光が来る度に体勢が崩され、敵はその度に体勢を立て直すのだ。この繰り返しには赤い光を受けずとも、気力を失わされる。
直撃を喰らえば、機体もタダでは済まない。当然、ピョロも大ダメージを食らう。本人も気が気でなかった。
「も、もし、分離させられたら、ピョロがガス星雲に放り込まれるピョロ!? 死にたくないピョロよ!」
「おっ、それいいかもな。敢えて分離して、お前を母艦に先行させるとか」
「磁場が荒れ狂っている中で泳いでいけるわけないピョロ!?」
「喧嘩はやめろ、二人共。とにかく、何とかここを突破しなければ」
二人の目標はあくまで、敵母艦の中枢。母艦を動かしているメインシステムに侵入するべく、内部へ突入して破壊工作を行う。その為の人員が、ピョロだ。
そういう意味では、ピョロは切り札を持ってはいる。偽ニルヴァーナにも有効な手札ではあるのだが、一度しか使えない回数指定付き。目先に振り回されては、大局を見失う。
とはいえ、このままでは埒が明かない。
「――いっそのこと、仕掛けるか」
「ダメージを覚悟で、狙うつもりか? 分の悪い賭けになる、私は賛成出来ない」
「でもこのままでは、いたずらに時間を費やすだけだ」
「私はそうは思わない。焦っているのはむしろ、あちらだ。ガス星雲内で機能が発揮できず、我々を相手に不利な戦いを強いられている」
「敵に焦りとかあるのか。プログラムなんだぞ」
「学習機能を持った、プログラムだ。長期戦を強いられているように見えるが、むしろ敵側の方が長期戦には不慣れではないのか。
奴らは常に圧倒的な戦力で人々を虐げて、刈り取っている。殲滅戦というのは、短期で行ってこそ成果が上がる」
「それだって、見込みの無い推測じゃないか。のんびりしていると、こっちの作戦が崩されちまうぞ」
「落ち着け、カイ」
「お前こそ、少しは慌てろよ」
「ちょ、ちょっと、喧嘩はやめるピョロ!?」
ピョロは必死でとりなしているが、実のところ喧嘩ではない。感情に任せた言い争いをよく行っていた二人だが、それは昔の険悪な関係が災いしての衝突だ。
今は、違う。多くの戦いを経て背中を預け合い、困難な問題を協力して解決して、二人の間はグンと縮まっている。だからこそ意見が対立しても、罵り合いにはならない。
互いの流儀を単に言い合っているように見えて、相手の事を思って意見を言っている。二人で勝利を飾りたいからこそ、自分が最善と思う考えを述べているのである。
その考え方が、異なっているだけ。それ自体は、悪くはない。考え方の違う二人だからこそ、異なる人間なのである。何もかも一緒では、鏡を見ているのと変わらない。
極めて建設的な、意味のある論議なのである。この場合、戦況が悪いというだけで。
「青髪、決断しよう。俺達の機体を信じて、正面突破する」
「カイ、今は決断する時ではない。今は耐えてくれ。痛みは、共に分かち合える」
どちらも、間違えてはいない。蓋を明けてみなければ分からない、領域。見えないからこそ不安となり、見出そうとするからこそ勇気を持ってしまう。
不安は慎重となるのか、勇気は無謀となるのか。それこそ、結果を見なければ分からないだろう。その結果が作戦の崩壊となるからこそ、なかなか決断できないだけ。
第三者であるピョロは止めようとするが、建設的な意見が言えない。どちらも正しく聞こえるし、間違えているようにも見える。だからこそ、喧嘩に発展するのが怖い。
一致団結しているがゆえの、論議。仲がいいはずなのに、同じ意見とはならない。メカのピョロには不思議であり、不合理であり、未知であった。
理解が出来ない。仲がいいのに、喧嘩しているようにも見える。けれど心は結ばれ、気持ちそのものは通じあっている。なんという矛盾なのか。
いっそ、険悪な雰囲気になってくれればいいものを。そうすれば、喧嘩として取り押さえられるのに。ピョロは、パニックを起こしつつあった。
結論は、出ない。出しようがない。お互いを思うゆえに、断じて引けない――
『はい、ちょっとごめんよ』
「あんた……!」
『悪いね、話は聞かせてもらったよ。カイ、メイアの言う通りだ。無茶する時を、間違えてるよ』
「だけど、このままじゃ!?」
『気持ちは分かるが、我を張って何とかなる相手じゃない。引くんだ――これは、命令だよ』
「ぐっ……」
立ちはだかる壁に、ぶつかろうとするのが若者。その威勢の良さと思いきりが、壁を超えて大人への道を歩ませる。
そんな若者の無茶を止めるのが、年長者であるガスコーニュの役目だった。
お互いに正しいと分かっているからこそ――命令という名の強制で、どちらか一方を黙らせるしかない。
<END>
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