ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action3 −会議−







 刈り取り襲撃時は、基本的に作戦会議は行わない。正確に言えば、時間がないので行えない。敵は神出鬼没、学習能力もあって常に千差万別で襲い掛かってくる。

苦戦を強いられるのは性能による差もあるが、早さによる差も大きい。向こうは準備万端、こちらは大慌てで出撃となれば、どうしても後手に回ってしまう。

作戦会議室はいつも反省会で使用されるのが殆どであり、戦闘前も戦闘後も嫌な気分にさせられる。最終的には勝利しているのだが、敵に先手を打たれてばかりでは不愉快極まりない。


だからこそ、今日という日は意気揚々で各メンバー全員が集まっていた。



「リズが教えてくれたガス星雲に、間もなく到着する。母艦との衝突も差し迫っているので、今の内に作戦会議を行っておく」


 議長席にはカイ・ピュアウインド、議題進行役にメイア・ギズボーン。最前列にマグノを始めとする最高幹部達、後列にはドレッドチーム全員が揃っている。

作戦補佐として各部署の主立った面々が参席、ニル・ヴァーナ操舵中のバート及びブリッジクルー達は通信モニターにて全員顔を出している。監修役にはドゥエロ、そしてソラとユメ。

新米リーダーであるディータは会議に参加したかったミスティに取りつかれて、二人仲良く座っていた。


非戦闘員を除いて、ほぼ全員が集まった形である。そうそうたるメンバーを前にして物怖じはしていないが、カイは気は引けていた。


「――というか、俺が議長でいいのか?」

「お前が提唱した作戦だろう、実際の指揮は私が取る。皆も、それでいいな?」


「というか、何だかんだ言っていつもあんたが作戦立ててるじゃない」

「いつもみたいに、急に無茶な事させられるよりはマシ」

「なんかもう、いちいち目くじら立てるのも馬鹿らしくなってきたしね。早く、説明して」


 メイアが促した途端、ドレッドチームの女の子達が苦笑いを浮かべて囃し立ててきた。ディータなんて大賛成だと言わんばかりに、嬉々として拍手までしている。

カイの立てる作戦は常に難易度が高く、土壇場による思い付きで細部が詰められていないものが多い。作戦を成功に導いているのは、目の前の麗しき女性パイロット達である。

逆に言えば彼女達の腕を信頼しているからこそ、どんな無茶な作戦でも実行に移せる。お互いの信頼無くして、成り立たないのである。


友好が深まったところで、本題に入った。


「作戦の詳細及び個々人の役割については後でデータで送るが、ひとまず作戦の概要を説明しておく。
ソラ、リズより提供されたガス星雲に関するデータマップを表示。ユメ、母艦の進路予想図を経路図マーカーと一緒に出力してくれ」

「イエス、マスター」

『はいはーい、ますたぁー』


 同盟を組んだラバットの口添えやマグノ海賊団からの技術提供もあって、リズより貰い受けた情報は精度の高いデータであった。

リズ本人は結局最後まで友好的にはならなかったが、利害関係は結べている。肝心の取引において、彼女は卑怯な妥協はしなかった。データについても、嘘は一切ない。

むしろ母艦の具体的な進路を知っているユメのデータこそ勘繰られたのだが、最終的に彼女が懐くカイへの信頼が勝って何とか採用された。


地球母艦を破壊する、大規模な作戦。その要である二つのデータが、メンバーの前に表示された。


「俺達が母艦を一隻撃破して、地球側が全戦力である残り五隻全てをタラーク・メジェールへ向かわせている。この五隻さえ倒せば、刈り取りは戦力を失って瓦解する。
その一隻が今、俺達が取る針路と並行している。目的地は同じなんだから当然だな。まず、こいつから叩く」

「いっそメジェールまで誘い込んで、まとめて叩けばいいんじゃない? 味方してくれる人達だっているんだから」

「同盟組んでいる連中にタラーク・メジェール総軍の協力を得られたとしても、五隻同時に戦うのはきつい。かろうじて勝てても、犠牲者は大量に出てしまう」


 ジュラの意見は正直、カイも最初は考えない訳でもなかった。皆で力を合わせれば勝てる、その絆に縋り付きたくもなってしまう。

誘惑は強烈だったが、必死ではねのけた。楽観視するのは危険過ぎる。地球は決して侮れない。メラナスの大事な友人を死なせかけたことを、忘れてはならない。

あくまで現実的に、倒していかなければならない。


「念入りに調べてもらったが、この周辺を航海しているのは一隻だけだ。この機を、逃したくはない。ここで、母艦を倒そう」


 決意を新たにカイが宣言すると、固唾を呑みながらも全員が頷いた。地球の刈り取りは断固として、阻止しなければならない。その気持ちは、性別を超えて共有していた。

世界を救うといった、大層な正義感ではない。一人一人、身近な危機なのだ。仲間が大切だからこそ、仲間と共に同じ敵を倒す。


「ガス星雲内は質量がある微粒子が相互に重力を及ぼしあっていて、周囲のガスや塵が放射の圧力によって密度が高くなり、空間そのものが収縮されている。
この星雲より飛び出したガスそのものが、強い磁場を生み出している訳だ。たとえ地球の巨大母艦であっても、悪影響は避けられない。機能そのものが低下するだろう。

母艦に積み込まれた大量の無人兵器にいたっては、動作そのものも支障をきたす。動きの鈍くなった連中を、片っ端から撃ち落とす」

「でもでも、宇宙人さん。そんなに磁場が強かったら、ディータ達のお船も動かせなくなるんじゃないかな」


 ディータの素朴な質問に、ミスティがちょっと吹き出した。何しろ、他ならぬ自分が同じ疑問を先程カイにぶつけたばかりである。笑いたくもなってしまう。

カイも困ったように笑って、同じ返答をディータにする。セミオートからマニュアル操作に切り替えての操縦、難易度が高くなるが、ドレッドチームの実力なら補える。

操縦性の高さを求められて新米のディータが慌て出すが、周りに座るチームの皆が頼りないリーダー候補を叱咤激励する。仲の良いチームであった。


マニュアル操作も思い付かないディータに、教官のメイアは呆れていたが。


「とはいえ、機能が低下したくらいでは母艦は倒せない。それに無人兵器の数も多く、動きを鈍らせても長期戦に追い込まれてしまう。それでは、こちらが不利だ。
物資はミッションで補給したが、ここで莫大に費やしたら後々追い込まれる。なるべく、短期戦で片を付けたい」

『何か切り札とか、用意しているのか……?』


「おいおい、切り札はお前だぞ。バート」


『えっ、僕!?』

「ペークシス・アームとホーミングレーザーという、二つの強力な兵器を有しているじゃねえか。ペークシスエネルギーは、磁場の干渉を受けない。
動きの鈍った連中を、頑張って撃ち落としてくれ」


「頑張ってね、バート!」

「頼りにしているわ!」

「よっ、ヒーロー!」


『うっ――うおおおおおおおおおおおおおおおお、ついに僕の出番がきたぁぁぁぁぁぁーーーー!!』


 女性陣が揃って黄色い声援をなげかけると、バートが操舵席から咆哮を上げた。まだ戦う前から既にガッツポーズ、やる気満々である。

確かに頼りにしているのは事実なのだが、バートが頑張れば自分達は楽が出来るという打算も含まれている。疲労も痛みも恐れてはいないが、楽であればそれに越したことはない。

バートがヒーロー扱いされている事に、主贔屓なユメやソラが不満気な顔をしている。可愛らしい嫉妬に、横で見ていたマグノが皺を深くして微笑んでいた。


「無人兵器については、それで問題はなかろう。ただ母艦が相手となると、火力不足は否めない。長期戦は避けられないのではないか?」

「恒星の爆発力でも、母艦を完璧には吹き飛ばせなかったからね」


 作戦を聞いていたブザムやガスコーニュが、冷水を浴びせる。意地悪で、言っているのではない。今の内に困っておかなければ、戦う際に立ち往生してしまう。

火力不足は、対地球戦においては深刻な問題であった。火力に特化したヴァンドレッド・ディータでも、母艦を倒すには至らない。他は言うに及ばずである。

ペークシス・アーマは強力なエネルギー兵器だが、腕という側面上母艦に集中しなければならなくなる。その間、大量の無人兵器を野放しには出来ない。


ホーミングレーザーを撃ちまくる手もあるが、母艦ほどの規模を殲滅するには相当な時間がかかってしまう。


「ああ、その点は今のところどうにもなりそうにない。戦力を集中させるのは、あくまでタラーク・メジェールだからな。無い袖は振れない」

「何よ、諦めるの?」

「諦めたら死ぬだけだろう、バーネット。安心しろ、ちゃんと手は考えてある」


 参席しているミスティと、話を黙って聞いていたパルフェはニッと笑う。カイから既に事前に相談を受けていた二人、準備は万端であった。

会議室に揃ったメンバー全員を見渡して、カイは作戦の要を告げる。


「母艦の装甲を火力で潰すのは諦めて、内部から破壊工作を仕掛ける」

「内部だと……? なるほど、アレを使用するのか」

「さすがドゥエロ、すぐに気付いたか。ピョロを連れて行けば可能だろう?」

「相変わらず、無茶をする。君の発想と、何よりその度胸にはいつも驚かされる」


「もしもーし、男同士の友情は後にして説明して下さーい」


 ドゥエロとカイが二人で盛り上がっていると、女性陣全員が呆れ返った顔をして訴えかける――中には、男同士の友情に目を輝かせている者もいるが。

置いてけぼりを食らった女の子達も不満であろうが、何より勝手に作戦に組み込まれている者としては気が気でなかった。

名前が出た瞬間、ピョロは飛び上がってカイに食って掛かる。


「何だピョロ、どういうことだピョロ!? ピョロに何させるつもりピョロ!?」

「よかったな、主役になれるぞ」

「まず安全であることをアピールして欲しいピョロ!? 絶対嫌だピョロ! ピョロは大人しく留守番するピョロよ」



「あいつらは、カルーアだって狙ってるんだぞ」

「この船は、ピョロが守る!」



 ――全員、派手にずっこけた。




























<END>







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