VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action14 −意地−







 海賊団全ての指揮権を有するマグノの命令により、全艦による戦闘配備へと移行された。

戦闘員は直ぐ様準備を整え、非戦闘員はそれぞれの役割を全うするために行動へと移す。

前回の戦闘では突然のキューブ型襲撃により、ろくに対応もできないままに攻撃を受けてしまっていた。

幸い戦闘準備を早く整える事ができたカイにより、その場は事無きをえた。

だが今回はアマローネによる早期の発見により、前回の奇襲戦よりは体勢を整える時間があった。

海賊団での攻撃の要となるドレッドパイロット達は、非常警報発令時には出撃の準備を整えている。

十代の若々しい身体にパイロットスーツを身につけて、表情を引き締めていた。

マグノの出撃命令により待機室を飛び出したパイロット達は、一斉にレジ内へと雪崩れ込む。


「いらっしゃいませ〜! こちらへどうぞ!」


 大勢のパイロット達を相手に一切怯む事無く、笑顔で応対するレジクルー達。

パイロット達はレジクルーの輝かしい微笑みを見て、初めて安心したように表情を和らげた。


「ミシェール=レイネット。多弾頭ミサイルにシールドパック付でお願い」


 パイロットの内の一人が懐より一枚のカードを手渡して、己の名と注文を述べる。

応対するレジクルーも心得ているのか、レジの操作に余念がない。

素早い操作で注文を入力したレジクルーは、にっこりと笑ってこう言った。


「ご一緒にAセットはいかがですか? お買い得ですよ♪」


 レジクルーの薦めにパイロットはしばし考える素振りを見せる。

注文の追加を暗に示す言葉だが、これは何も商売の為ゆえではない。

パイロットの注文を第一にオーダーとして聞き入れ、その上で自分なりに考えた換装を勧めているのである。

言わば、戦場へと向かうパイロット達へのアドバイスである。

だからこそレジクルーは接客を中心としながらも、武装システムや戦況把握を知っておく必要があった。

一見すると単調な作業に見せるレジの仕事ではあるが、その実最低限の能力が必ず必要となる。


「そうね、それじゃあ追加でお願いするわ。いつもありがと」

「喜んでもらえて何よりです♪ 合計286ポイントになります。
またのご利用をお待ちしています」


 最後に一礼して、レジクルーは手続きの終わったカードを手渡す。

注文が終わったパイロットに対しての労いと応援のこもった笑みで見送るレジクルー。

態度で感謝を示し、パイロットは真ん中の通路を抜けてレジ奥の開かれた穴へと向かう。

穴はそれぞれが滑り台式のシュレッダーとなっており、ドレッドのコックピットへと繋がっているのだ。

効率の速さと手間を惜しんだゆえのシュレッダーで、素早い出撃が可能となる。


「皆、しっかり頑張るんだよ。アタシらの仕事ぶりが戦いに影響するんだからね」

「は〜い!心得ています、店長!」


 ガスコーニュはレジ控えの店長席に座りながら、クルーの働く様子に満足げに見つめる。

大勢のパイロットが詰め掛けている中レジ一つ一つにクルー一人が対応してはいるが、

パイロットの数が圧倒的に多いために、一台のレジに多数のパイロットが並ぶ結果となっていた。

これは珍しい事ではなく、出撃の上では日常茶飯事である。

それが証拠に並ぶパイロット達に焦りはなく、対応するレジクルーも冷静に対応している。

一人一人が仕事をきちんとこなし、全体的に結果として残るのを知っているためだ。

ガスコーニュは賑わうパイロット達やレジクルー達を温かい目で見守る。

彼女にとっては一人一人が大切な部下であり、仲間だからだ。

が、ある一点でガスコーニュは表情を暗くする。

これから始まる出撃でどたばたしているレジ内の中、一箇所存在する真空地帯。

制服を着たカイが立っているレジであった。

大勢の女性クルーの中で、ただ一人の男のレジクルー。

男とは言うまでもなく、メジェール国民だった海賊達には天敵だった。

しかも日頃から問題な行動が多く、今日も今日とてクルー達と揉めあったカイである。

特にパイロット達にとって、チームリーダーであるメイアは尊敬されている存在だ。

仕事には日頃から熱心で、有能さと冷静さで物事に対処するメイアはパイロット達の中でも信頼は厚い。

そんなメイアと喧嘩を起こしたカイは、パイロット達には怒りの対象でしかなかった。

パイロット達はカイを見ては目を背け、黙々と女性レジクルーの元へと向かっている。

誰もカイにレジをしてもらおうとは思わなかった。

それは遅れてレジへ入って来たバーネットも同じで、カイを見るなり露骨に不愉快な顔をする。


「ちょっと、何であいつがいるのよ」

「あの男の希望みたいですよ。お頭が受理したと聞いています」

「何考えているのよ、お頭は。あいつなんて見ているだけでイライラするのに」


 まるで聞かそうとしているかのように、バーネットは一人のレジクルーとそう言い合う。

バーネットは今日の事の経緯を、ジュラから聞かされている。

元来より他人とはあまり知り合えない不器用な性格な上に、彼女は他人を好きになる事は滅多にない。

だからこそジュラのように、一度好きになれば親友以上の付き合いができるのである。

特にカイはタラークの男で怨嗟の対象であり、一目見た時から嫌いであった。

今回のカイの騒動は、バーネットの毛嫌いに拍車をかけたとも言えた。

陰口とも言える二人には陰険さがあったが、周りの女性達はバーネット達を窘めようとはしない。

彼女達それぞれの心の中は、むしろバーネット寄りだからだ。

ガスコーニュはカイの心中を思いやってか、沈痛な表情で場を見つめている。

この場でバーネットを諌める事はやろうと思えばできる。

しかしいくらカイの味方をしても何にもならない事は、ガスコーニュが一番よく知っていた。

バーネット達に命令しても心まで変える事はできないし、その場凌ぎにしかならない。

何故ならバーネット達は正しくはないが、間違えてもいないからだ。

カイが騒動を起こしたのは事実であり、男への不信感はガスコーニュも多少なりともある。

結局の所信頼を築くには、カイ自身が何とかするしかないのだ。

カイにとっては苛めでしかないが、当の本人は表情を変えずにいた。

どんなに言葉で言い繕っても、言い訳か抗議にしかならない事はカイ自身分かっている。

小さく息を吐いて、カイは簡易椅子に腰掛ける。

やる事もないのでレジのマニュアルを見ていると、カイの頭上に人影がさした。


「おっ!? はい、いらっしゃいま・・・っげっ!?」

「こ、こんにちは、宇宙人さん!」


 ようやくパイロットの誰かが来たとばかり思っていたカイの前に、笑顔を浮かべてディータが立っていた。

何やら手元を後ろに隠しつつ、ディータは座っているカイを見下ろす。


「・・・お前かよ」


 営業スマイルもなりを潜め、カイはじっとディータを見上げる。

きつい視線にびくりと身体を揺らしながらも、ディータは明るい笑みを絶やさなかった。


「レ、レジのお仕事を始めたって聞いてきたの。頑張ってるのかなって、あはは・・・」


 あれほど完全に拒絶された後とあって、ディータの言葉には緊張が混じっている。

周りのパイロット達はおろか、レジクルー達も二人の様子に息を呑んで見つめていた。

一人、バーネットはディータに文句を言おうと前へ一歩近づく。

ディータはパイロットなので、命令があれば当然出撃しなければいけない。

その意味ではレジに来る事は正しい行動なのだが、ディータは本来のパイロットとは違う。

先のペークシス暴走により、ディータ機・メイア機・ジュラ機はヴァージョンアップしている。

その為機体の大きさも通常の規格より変化しており、元来の収納ペースに収まらなくなったのだ。

よって三人の機体は旧艦区格納庫に移動されており、ディータの向かう先もそちらである。

明らかにディータがここへ来た目的はカイであり、職務怠慢である。

ディータへ猛然と注意すべくディータに近づくが、あと一歩で後ろから止める手が入った。

はっとバーネットが振り向くと、ガスコーニュが人差し指を口元に当てて小声で呟く。


『今だけ静かに見ておいてやっておくれ』

『でも・・・!?』

『面白いものが見れるかもしれないよ、バーネット』


 どこか楽しそうに指差すガスコーニュに、バーネットは怪訝な表情で指先を見つめる。

示す先には背後に回したディータの両手の平、そして白い指に覆われている一つの包みだった。

ディータの真意に気がついたバーネットは、渋々溜飲を下げて二人を見つめる。

レジ内は先ほどうって変わって静かとなり、一同は二人に注目する。

カイは周りの雰囲気に気がついて、表情をなげやりにする。


「う、宇宙人さん、あのね。ディータ、色々考えて・・・」


 恐る恐る、ディータは言葉を選んで話し始める。

包みを持っている手は少し震えており、出そうか出すまいか悩んでいる様子だった。

が、じっとカイが黙っているのに気を良くしてか、ディータはようやく本題に入ろうとする。


「宇宙人さんに迷惑ばかりかけちゃったから、ディータお詫びに・・・」

「――何か用ですか、お客さん」

「え・・・?」


 包みを出そうとしたその手が、カイの冷たい一言に止まる。


「ご注文ですか? オーダーでしたら承りますけど」

「あ、あの、ディータ、その・・・」


 対応と言うにはあまりにも他人行儀な態度に、ディータはまともに顔を強張らせる。

今まではどんなに嫌がっても、カイはちゃんと相手をしてくれた。

「まったくしょうがねえな」とか「お前はいちいち近寄るなよ」とか口は悪かったが、態度には温かさと不器用な優しさがあった。

だが、今はまったくない。

あるのは、ただの言葉。ただのクルーへの態度。誰もでも向けられる他人への姿勢。

その全てがディータへの拒絶を、拒みを示していた。

カイはディータを見上げ、きっぱり言った。


「冷やかしですか、お客さん。俺、忙しいんですけど」

「・・・」


 ディータは何も言えず、唇を震わせる。


「周り見てくださいよ。出撃前で皆どたばたしてるでしょう。
こんな所で油売ってていいんですか」

「ディ、ディータは・・・」

「それとも注文、あるんですか? でしたら早くどうぞ」


 カイの言葉には一切の情けはなく、どこまでも慇懃な態度でしかなかった。

ディータの脳裏に、あの時のカイの最後の言葉が蘇る。


『お前みたいな図々しい奴はな、大っ嫌いなんだよ!』


 ようやくディータは気がついた。

自分のどこかを治せば仲直りできるのではなく、完全に嫌われたのだと。

何をどうしても自分との関係は取り戻せないのだという事に――


「グズ・・・お仕事、お邪魔してごめんなさい・・・」


 ぽろぽろと瞳から涙があふれ、頬を冷たく濡らす。

ディータは結局持っていた包みをカイに見せる事はなく、小さく頭を下げて踵を返した。

とぼとぼとレジ出入り口へ向かうディータの背中には、悲しみが漂っている。

見ていたパイロット達はディータのあまりにも不憫な様子に声をかける。


「ディ、ディータ・・・」

「・・・いいの。宇宙人さんの邪魔をしたディータが悪いから」


 同情と心配を表情に浮かべて気遣う仲間の声に、笑顔を浮かべてディータは答えた。

だが、その笑顔はいかにも無理をしている様子が見受けられる。

ディータは包みを隠し持ったまま、一歩一歩と出入り口へと向かう。


(ちょっと、何よあの態度!ひどすぎる!)

(こいつ、本当にむかつくわ! ディータがせっかく弁当を持ってきたのに!)


 ディータへのカイの冷たい態度に、周りのパイロット達は一様に敵愾心を燃やした。

バーネットも同意見のようで、ガスコーニュを睨む。


『見せたいものってこれなの?』

『・・・・・・』

『あたしはディータはそんなに好きじゃないわ。
でもそれにしても、こいつの態度は何よ! こんな奴、どうしてレジに入れたのよ!』


 厳しいバーネットの指摘に、ガスコーニュはただ黙ってカイを見つめている。

カイを見つめるその視線には濁りはない。

周りのそんな視線の中、カイはディータに背中を向けて瞳を閉じていた。


(これでいいんだ、これで・・・・・・)


 カイは自身に言い聞かせていた。

ディータを完全に拒絶する、それが自分の結論。

ディータはいつも男女の垣根を越えて、自分に接してきた。

ただ純粋に好奇心がゆえに、カイと言う自分が知りたいがゆえに。

しかし、カイ自身がデョータのそんな態度を疎んじていた面があったのも事実だった。

ディータが自分を知りたいと思うのは勝手だが、彼女の行動は度を越えていた。

今朝ではトイレにすら入って来る程の非常識ぶりである。

このまま発展する前に、この機会に縁を切っているほうが無難だろう。

ずるずると関係を続ければ、もっとひどくなる可能性もあるのだ。

カイは自分にそう言い聞かせ、ディータとの完全な決別を胸に黙り込んでいた。


(このまま無視。それで終わりだ)


 一同が見つめる中、ディータの寂しそうな足音が空しく木霊する。

カイはそんな足音を耳にしつつも、彼女へ振り返りはしなかった。


(無視、無視・・・・・・)


 やがてディータが出入り口へと差し掛かり、自動ドアが左右に開く。

一度振り返って全員に一礼して、ディータが外へと足を踏み出した――





「・・・・・・じゃねーぞ」





「えっ」


 はっと耳に入った声に一瞬で反応し、ディータは振り返った。

周りのパイロットもまた驚愕の表情で、声の主を見つめる。


「・・・・・・死ぬんじゃねーぞって言ったんだ、あほ」

「あ、あの・・・」

「てめえは肝心な所でドジるからな。俺がいないからって仲間に迷惑かけんなよ」


 声の主であるカイは背中を向けたままである。

だが言葉の内容はいつもと同じ、喧嘩前のディータへの態度そのものだった。

言葉を心の中で反芻したディータは、感激のあまり再び涙を流して大きく頷いた。


「うんっ、うん! 頑張って来るね!
ありがとう、宇宙人さん」

「礼はいいから、早く行けっての」

「分かった! 宇宙人さんもお仕事がんばって!」


 喜色満面でそう言って、ディータはそのまま出て行った。

一瞬後、カイは自分のやった事に頭を抱える。


(馬鹿か、俺は!
ああああああ、これで悪化しちまった・・・・・・)


 自分がした事に、カイは心の中で絶叫する。

もはや疑いようはなく、ディータはカイと完全に仲直りできたと思うだろう。

そして今まで以上の信頼をもって、カイへ接する事はもう間違いはない。

決別をあれほど決めておきながら、結局ディータを振り切れなかった自分の浅はかさに腹が立った。


(うう、だって、だってよ・・・
あんなに泣かれたらしょうがねえだろうが、くそ・・・・・・)


 ディータが流した涙に、カイは内心で激しく動揺した。

可憐な表情を潤ませて悲しみに暮れる人間を突放せるほど、カイは鬼になりきれなかった。

ぐったりと脱力感に身体が重くなり、カイはレジカウンターに突っ伏す。

そこへ、再びカイに真っ黒な人影が覆う。


「え・・・?」

「早くデリオーダー通してよ。急いでいるんだから」


 顔を上げると、そこには変わらず厳しい表情をしたバーネットが立っていた。

差し出される手をカイが見つめると、一枚のカードがある。

言葉の内容とカードに全てを把握したカイは、驚愕の表情でバーネットを見つめる。


「お、俺でいいのかよ!?」

「あんた、今はレジクルーでしょう?」

「そ、そうだけどよ・・・・・・」

「早くしてよ。後ろがつかえているのよ」

「後ろ・・・・・・? ああっ!?」


 バーネットの後ろに視線を向けると、ずらりと並んでいるパイロット達が見える。

どのパイロット達も戸惑いと優しい笑顔を浮かべていた。

今まで悪意の塊で見られていた筈の一転した彼女達の変化に、カイは戸惑いを隠せない。


「・・・・・・男にもあんたみたいなのがいるのだ・・・・・・」


 小さくそう呟くバーネットの表情は、今までにない晴れやかさがあった。


「ど、どういう意味だよ、そりゃあ?」

「あんたが変わり者だって事よ。ねえ、皆」

『バーネットに賛成〜!!』


 おどけた声でパイロット達はおろか、レジクルーの皆まで同意の声をあげる。

だがそこには侮蔑の色はなく、純粋にカイをからかっているだけの明るい表情だった。

女性達の対応にカイは照れた笑みを口元にしながらも、怒鳴る。


「なんだ、そりゃあ! たく、人がおとなしくしてりゃあすぐこれだ。
ほれ、とっとと並べ」

「あらぁ?このレジクルー態度が悪いわよ、ガスコさん」


 バーネットの同意を求める声に感じ入るものがあったのか、露骨にガスコーニュは泣き真似をする。


「一生懸命育てたのに、裏切るとはなんて酷い奴だい・・・・・・」

「おーーーい!? いつ俺を育てた、てめえ!」

「はい、スマイルスマイル」

「く、くそ・・・・・・い、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

「うんうん、なかなかいい心がけね」


 カイは悔しそうにしながらも、丁寧にパイロット達一人一人にオーダーをきっちり通していく。

ガスコーニュはそんなカイを見つめ、満足そうな表情をしていた。

ディータを突き放せなかったカイ。

計算でも、策略もなく、純粋にディータを思いやるが故の気持ち。

その気持ちがディータを暖かく包み、バーネット達の不信を和らげた。


(こいつはいい男になるね・・・・・・・)


 一つの確信を持って、ガスコーニュは店長椅子に座り直した。
















 カイへの注文を終えたバーネットは、その足で奥のシュレッダーへと飛び込む。

長い滑り台上を高速度で降りて、辿り着いた先は自機のコックピットだった。

愛用のコスチュームと同様の紫色に染まったバーネットのドレッドは、海賊母船の収納スペースにある。

レジからのシュレッダーが天井より下がってきているその場所は、「トッピングゲート」と呼ばれていた。

一種の工場のようなその場所はドレッド射出口であり、オーダーした武装を装備する場所でもある。


「ご注文の品、お届けにあがります!」


 ゲート内に響くレジクルーの声と同時に、ドレッドに次々と装備が本体に連結される。

全体的に壁面が六角形で、機能的な役割を100パーセント発揮できる構造となっており、

ボール型のマニピュレーターと呼ばれる工場用のハンドが、ドレッドの換装を仕上げていく。

コックピット内で計器の状態を見つめているバーネットの目の前に、オールグリーンの表示がされる。

それは全武装完了の合図であり、出撃可能を意味する。


「バーネット、出ます!」


 元来より戦闘的な性格をしているバーネットは、意気揚々と自機の出撃を行う。

滑り出すように出て行くバーネット機に対し、レジクルーは手を振って見送った。

いよいよ、これからがパイロットの出番となるのである。















 カイとの溝が埋められたディータはるんるん気分で、格納庫へと入る。

非常警戒令は鳴り止んでいるためか、格納庫内は静寂に満ちていた。

ディータはそのままの足取りで自分のコックピットに入り、さっそく出撃の準備を行う。

そこへ通信回線が開き、モニターに厳しい表情のメイアが表示された。


『いったいどこへ行っていたっ!
出撃命令が出てからどれほど時間が過ぎたと思っているんだ』


 規律に厳しいリーダーとしての叱責に、ディータは首をすぼめる。


「ご、ごめんなさい。大事な用があったから」

『大事な用?緊急指令よりも優先される事なのか、それは!』


 ディータのいい加減な言葉に、言葉を鋭くしてメイアは叱った。

もし普段のディータだったら、ここで怯えて謝っていただろう。

だが、今のディータのメイアの言葉にむっとして反論した。


「大切な用でした! 少なくともディータには、どんな事よりも優先する大事な事です!」


 思わぬディータの言葉に、メイアは若干驚いた表情をする。

だが直ぐに表情を引き締めて、ディータに冷静に言葉をぶつける。


『一人の遅れが死をよぶかもしれないんだぞ!
自分の仕事には責任を持て!』

「それは分かってます! でもディータには絶対に外せない事だったんです!
リーダーには分かりません!」


 レジへ行った当初はカイに他人として扱われ、ひどく落ち込んだ自分。

だが帰り際に投げ掛けてくれたカイからの言葉は、今までの何よりも自分は嬉しかった。

同時に気遣ってくれた事により、ディータは自分がもっとしっかりしないとまで思っている。

重く圧し掛かっていたカイとの喧嘩状態が解消された事による前向きな気持ち。

もし任務を優先していれば、こんな気持ちにはならなかったであろう。

その事を否定するメイアが、ディータには許せなかった。

逆にメイアはディータが何故そこまで強く反論するのかが理解できず、戸惑いを隠せない。

より強く叱責すればいいのだが、ディータの強い視線にメイアは言葉が続けられなかった。

しばし険悪な雰囲気が二人の間に流れたが、メイアとてチームを指揮するリーダである。

小さく息をつき、メイアは表情を整える。


『以前より検案していたフォーメーションを試す。
ディータ、お前は私に続け』


 パイロットを指揮する立場としての命令に、ディータは不器用に敬礼する。


「ラジャ−! 頑張ります!」


 元々人を憎んだり、争ったりはできない女の子である。

ディータはコックピットより映し出される宇宙を見つめ、小さいながらも強く言った。


「見ててね、宇宙人さん。ディータ、頑張るから!」


 バーネット達ドレッドチームに、メイア達の出撃。

タラーク軍母艦をも翻弄したマグノ海賊団ドレッドチームの全てが、融合戦艦前に規律よく並ぶ。

対する敵側は不気味に沈黙を守るのみであった。
























<続く>







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