VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action13 −襲来−




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武器庫の壁面に基準設置されている通信施設、ホログラムモニター。

ガスコーニュはカイを伴ってその場へと訪れ、おもむろにモニタリングの設定を操作する。


「モニター?何を見せるつもりだ」


 訝しげに操作を行っているガスコーニュの背中を見つめつつ、カイは尋ねる。


「言っただろう?アタシらの事を教えるってさ。
あんたには説明するより見てもらった方が早いだろうからね。
っと、完了。どうも機械ってのは苦手だね」

「あんたはどっちかといえば肉体作業のほうが向いてそうだな」


 ガスコーニュは体つきが女性ながらにがっちりしている。

こと力だけでは、カイがいくら張り合っても敵わないであろう。

苦笑交じりにカイがそう指摘すると、ガスコーニュは少し仏頂面でカイへと振り向いた。

「パルフェに比べれば全然劣るが、アタシだって出来ない訳じゃないさ。
こう見えてもレジを仕切っているからね。
それに肉体作業の方が向いているってのは少々傷つくね」

「何でだよ、褒めているのに」

「あんたは女についてまだまだ勉強する余地があるね。
ほら、見せたいものってのはこれさ」


 ガスコーニュが大きな手の平を広げて見せると、中には綺麗なブルーの球が一つ乗っかっていた。


「何だ、この球は!?あのなあ、俺は忙しいんだ。
からかっている暇があるなら、とっとと・・・・おわぁ!?」


 いきり立ったカイが詰め寄ろうとすると、突然球が光を帯びる。

同時に薄暗い武器庫に玉から放たれた光が放射し、徐々にビジュアル化されていく。

いきなりの発光現象に驚愕するカイに、悪戯が成功した時の子供の様な笑顔でガスコーニュは言った。


「小型のホログラミング装置。メジェールの技術の賜物さ」

「てめえ・・・・性格悪いぞ」


 カイの苦情も笑って流し、ガスコーニュは武器庫の中空に浮かぶビジュアルを見つめる。

ビジュアル化された光はクリアーとなり、ある映像が映し出された。

球形のホログラミング装置より美しい、純粋に青く輝いている一つの惑星。

透明なクリスタルのように散りばめられているアステロイドベルトが、周囲をくまなく囲っている。


「星か?親父が持っていた図鑑で見た事がある気がするな」

「親父って言うと、あんたを育てた人のことかい?」

「ああ、俺の育ての親だ。親父は本を大量に持っててな、よく読ませてもらったんだ。
俺が文字を覚えたのも、親父が教えてくれたからだ。
俺は物覚えはいい方なんだぜ。
とは言え、ひょっとしたら初めから覚えていたのを忘れただけって可能性もあるけどな」


 カイの育て親マーカスは筋肉質な見かけとは裏腹に、読書家であった。

マーカスの部屋の書棚には分野に分かれて数多くの書籍があったのだ。

タラークの労働階級者が本を所持しているとはあり得ない事であったが、

カイは深く追求はせずに、夢中になって時間をかけて読破したのだ。

それらの本の中の一冊に、今目の前で映し出されている星の写真をカイは見ていた。


「なかなか勉強家だったんだね、あんたは。
まあいい、この星がアタシらの故郷メジェールさ」

「これが!?
そうか・・・・これが女の星か・・・・・・・」


 銀河系の中心部に位置する恒星系の衛星タラークを有しているこの惑星こそが、メジェールだった。

質量的にも有数の大きさを占めるメジェールは、映像化された小さなサイズにおいても威厳があった。

カイが見つめる先で映像が切り替わり、星の周囲が拡大化される。

アステロイドのリングからの軌道上に、連なる人工物の数々が表示される。

規模は母船クラスに満たない大きさであったが、並々ならぬ数の建物が軌道上に設置されていた。


「何だこれ?タラークは違って、綺麗な建物が並んでいるな」


 タラークは無骨な男の象徴を表すかのように、機能重視の建物が多い。

ゆえに清潔感や装飾類はまるでなく、狭苦しい閉鎖されたイメージを想像させる建物ばかりなのだ。

カイの率直な感想に、ガスコーニュは皮肉めいた笑みを浮かべる。


「この建物は主にアタシらの家さ。いや、家だったというべきか」

「家だぁ?
にしては、ずいぶん凝った建物じゃねーか。
表面はいやに派手な電気がついているし、建物もやけにでけえ」


 カイの言う事はもっともだった。

ビジュアル化された建物の数々は連立して並んではいるものの、容色美にあふれている。

建物の外側には規律正しい窓と比例するネオンが色鮮やかに輝いており、

建物自体の大きさも競り合っているかのように、それぞれに立派な規模を有している。

カイの指摘に、ガスコーニュは真剣な口ぶりで話し始める。


「メジェールってのはね、綺麗で清潔で派手な世界なのさ。
見てごらん、建物のそれぞれが白く輝いているだろう?」


 ガスコーニュの指摘にカイが目を沿えると、建物は全体的に白を基調としている様子だった。


「綺麗にするなら白って事か。見栄え重視なら確かに綺麗だな。
濁った建物ばっかりのタラークとはえらい違いだ」

「女ってのは見栄っ張りな所があってね・・・・・・・
周囲より自分が綺麗で、立派でありたいと思うのさ。
だからこうして見栄えを飾り、自分の権威を主張したがる。
建物はより豪華に、より綺麗に見繕うのさ。そんな権威の主張がこれさ」


 ガスコーニュの説明に合わせる様に、映像はさらに変わっていく。

建物が映し出されていた部分が拡大化され、より大きな視点での範囲が見渡せるようになった。

そこには乱立する建物を丸ごと巨大な船に乗せており、船舟が連結して星の周囲に鎮座していた。


「星の周囲をこんなでかい船が浮かんでいるのか。
あれ?でもお前ら、この建物に住んでいたんだろう?
って事は建物を乗せているこの船で暮らしていたって事かよ」

「そういう事。男の星タラークとの一番の違いがこれだね。
アタシらは星に住んではいない。国家形成も船団なのさ」


 流線形の特徴的なフォルムで設計されたメジェールの船。

巨大船が一つ一つを連結しあって、巨大国家として君臨している。

これがタラークと敵対化しているメジェールの正体であった。


「船の中で住んでいるのか・・・・」

「そのニュアンスはおかしいね。
言ってみればメジェールっていうデカイ船の揺り篭の中で育ってきたんだよ」

「どうしてそんな回りくどい真似をするんだ?
素直に星に降りて、地面の上で生活したらいいじゃねーか」


 カイの的を射た指摘に、ガスコーニュは顔色を曇らせる。

どうやら一番の論点であるらしく、ガスコーニュの口ぶりも重くなっていった。


「・・・昔は惑星上で開発が行われていたんだ。
星そのものをテラフォーミングして、人間が住める環境にする。
当初は順調に行われていたその計画も、とある事故で台無しになっちまってね・・・・・・
お蔭さんで、国家は惑星外周を漂う船の上。
メジェールはまだまだ不安定な体制にあるんだよ」

「ふ〜ん、国一つ設立するのにも苦労しているんだな。
でもよ、船団国家だとすると自然の恩恵を得られていないんだろう?
タラークにしたって、恵まれない環境の中で星の資源に頼ってる。
こんなに派手にして、メジェールは大丈夫なのか?」


 タラークの内政はお世辞にも安定しているとは言えなかった。

元々男の美徳を崇拝する国家ゆえ、経済や社会体制にも如実に歪みが生じている。

労働階級等の差別化を図った上での強制労働を強いる社会体制。

機械に身を委ねる事を良しとしないが故の、古びた人工設備の数々。

お陰でメジェールに比べて科学技術は衰え、貧困とした生活を強いられる人間が大量に存在しているのだ。

衛星上に国家を構えているタラークですらそんな有様である。

技術は進んでいるとはいえ、資源の供給も満足にできない船団国家のメジェールでは?

ガスコーニュは首を振って答えた。


「タラークには男なりの美学ってのがあるそうだね・・・・
同じようにメジェールにもそういうのがあるんだよ」

「女の美学って奴か。ぜひ聞いてみたいね」


 これまで女に翻弄されてばかりだった事もあり、カイは身を乗り出した。


「メジェールって国はね皆仲良し、皆で楽しくってのが基本方針なんだ」

「皆仲良しだぁ?
のわりに、博愛精神が足りねえ奴が随分いる気がするぞ。
青髪とか露骨に人避けてるじゃねーか」

「あの子はちょっと特別な事情があるからね・・・・・
ま、でもそれは表向き。内面は他人と自分を見比べて、自分が上にいなければ気がすまない。
綺麗に、清潔に、自分を飾り立てていく。
お陰で経済的にも、国としての全域にも負担はかかる一方。
限界は近づいていくばかりだった。
事態を重く見たメジェール政府の連中は非情な決断を下したんだ」

「非情な決断?」


 眉をひそめるカイに、ガスコーニュはやり場のない怒りのこもった視線を映像に向ける。


「簡単だよ。無理が出てきたんなら、無くせばいい。
政府の下した決断はユニットの閉鎖。
アタシらを含めた大勢の人間が住んでいたユニットを無理やり追い出したんだ・・・・・」

「何だって!?」


 乱立した煌びやかな建物と切迫した経済的な事情。

しかしながら、今さら豪華に慣れきった女性達の環境改善を行う事はできない。

良くも悪くも、人間は贅沢に慣れると歯止めがきかなくなる。

結果、メジェール政府は普通に生活していたガスコーニュ達大勢がすむユニットを閉鎖した。

言い方を変えれば、資源を節約するために一般的な住民達を身勝手に追放したのである。


「ユニットってたくさんの奴等が住んでたんだろう!?
一方的に家を追い出されたら、何処にも行き場がなくなるじゃねーか!
お前らの政府は何考えてるんだ!!」

「アタシに怒鳴られても困るんだけどね・・・・」

「あ・・・わ、悪い。ついかっとなった・・・・」


 興奮しすぎた自分に気がついて、顔を真っ赤にするカイ。

ガスコ−ニュはそんなカイを好意的な目で見つめる。


「あんたもおかしな奴だね。女の国のやり取りに怒るだなんて。
追い出したのも女なら、追い出されたのも女だよ?何で気にするんだい」

「な、何でって・・・・・
お前らの家庭や平和な暮らしを無茶苦茶にしやがったんだろう、そいつら。
俺はそういう頭ごなしにやる様な奴がむかつくんだよ」


 カイは自分が言っている事の本当の意味に気がついてはいない。

自分が怒りを放っているのは、敵として認識にしている筈の海賊達を弁護するが故である事に。

女を敵ではなく、人間としてみている。

未熟ながらも人としての情を持つカイに、ガスコーニュは気に入り始めていた。


「結局、アタシらは住む所もなくなって路頭にさ迷う羽目になった。
そこへ手を差し伸べてくれたのが、お頭さ」

「あのばあさんが?」

「そうさ。生きる気力も失いつつあったお頭が、アタシらのために海賊を結成したのさ。
明日への希望もなかったユニットの人々に、新しい生きる道を示してくれたんだよ。
まだ小さな子供だっていた、お年寄りだっていた。
生活力もない、国にすら見捨てられたアタシらがこうして生きてられるのもお頭のお陰さ。
海賊をしてなければ、今のアタシらは存在していなかったんだ・・・・・・」


 マグノ海賊団発足の理由。

その全てを聞かされたカイは、真実の重みに口を閉ざしていた。

確かにマグノ達は優秀だろう、有能であろう。

生き抜く術と有効なる能力を身に付けているクルー達は多い。

だがそれは、あくまでも今まで懸命に生きてきたからこそだ。

マグノが示した海賊という道、それは決して短慮な行き先ではない。

苦悩の果てに、追い込まれた窮地の果てに見出した光明だったのだ。

生きようとする活力がある、帰るべき場所がある、共に過ごす仲間がいる。

衣・食・住その全てを揃えた上で、人間が生きる上で必要なものを揃えられる道が海賊だったのだ。

犯罪行為だと言えばそれまでである。

でも、マグノ達はだからこそ生きてこれたのだ・・・・・・・・


「・・・・・そうか、そういう理由があったのか・・・・・」


「お頭は全ての責任を背負ってくれたのさ。アタシ等には親同然の人だね。
あんただってそうだよ。お頭がいたから、こうして救われてるんじゃないか。
違うかい?」


 もし本来のメジェール人であるならば、男は害悪である。

事実カイは船でも問題児であり、現状の戦艦内でも冷戦状態であった。

追い出されてもおかしくはない状況において、甘んじてカイにやりたい様にさせている。

自分が文句を言いに行った時、別れ際に見せてくれたマグノの優しい微笑み。

カイはマグノの見えない慈愛の深さを知った。

説明を終えたガスコーニュはそのまま映像を切って、ホログラムを停止させる。

再び薄暗い空間に戻った中、ガスコーニュは球を弄んでいった。


「現状では、結局あんたもアタシらも同類だろう?」

「俺とお前らが同じ?」


 疑問符を浮かべるカイに、ガスコーニュは深く頷く。


「社会の枠にはみ出して、自分のやりたいようにやっている。
国っていう枠に、常識に囚われるのが嫌で飛び出す。アタシ等と同じじゃないか」

「!?・・・・・・・・・・・・」


 タラーク三等民として終わるのが嫌で、燻っていた自分が嫌で飛び出したカイ。

三等民という身分を踏まえない行動の数々。

しかもカイは軍部が保有する蛮型を一体勝手に持ち出し、暴れているのだ。

イカヅチ出港から今までやって来たカイの行動や考えは、タラークという社会にすれば立派な犯罪者である。

自分を振り返り言い返す事ができないカイに、ガスコーニュは口元を緩めて言った。


「あんたはもう少し広い視野を持つ事だね。
思いがけない周りが見えてくるかもしれないよ」

「俺の認識が狭いって事かよ」


 問い掛けるように見上げるカイに、ガスコーニュは装置を玩ぶのを止める事無く言った。


「そう気がついたから、あんたはこうして女の仕事に手を出したんだろう?
艦内放送、なかなか楽しそうにやってたじゃないか」

「楽しかったっていうか、勉強にはなったな。
アマローネやベルヴェデールも思ったよりいい奴だったし」

「えっ!?あの二人、あんたと仲良くなったのかい?」

「仲良くってか、まあ仕事をしてても不快じゃなかったな。
頑張れって応援もしてくれたしよ」


 照れくさそうに頬を掻くカイを、ガスコ−ニュは感心した様子でカイを見つめていた。

あれほどまで反目し合っていた相手と和解したカイ。

男としてではないものの、人としてカイはあの二人に認められた事となる。


(なるほど、お頭が目にかけるのも分かるね・・・・・)


 知り合ってまだ間もないものの、カイの今後には期待が寄せられそうだった。

ガスコ−ニュは楽しそうに楊枝を揺らせ、カイを手招きした。


「さて、難しい話はここまでにしよう。レジの使い方を教えてるから来な」

「へいへい、人使いの荒い奴だな・・・・・・・」


 頭を掻きながらも、カイの表情はどこか晴れやかだった。

一抹に悩んでいた海賊への拒絶が、真実を知り昇華されたゆえかもしれない。
















 突然の出来事だった。

いつもの様にブリッジクルーとしての雑務に追われていたアマローネのセンサーに、機影の反応が生じる。

融合戦艦においての長距離センサーを担当するアマローネゆえの反応の早さだった。

瞬時に外部モニターに目を走らせたアマローネは、それまでの緩んだ気持ちを切り替える。


「敵機確認。距離3000。まっすぐこちらへ向かってきます!」


 ようやくキューブ型奇襲戦の緊張が解きほぐされたばかりの一時だが、敵は休息を許さなかった様である。

作業が終わり、しばしの休息を取っていたベルヴェデールはため息を吐いた。


「あいつが倒したばかりなのに、もう来たの?
労働に熱心な所は見習うべきなのかな・・・・」


 渋々コンソールを立ち上げると、ベルヴェデールは素早く艦内全域に非常警報を持って通達する。

近距離と艦内コンディション全般を担当する彼女ならではの役割だ。

警報を持って艦内クルー全員に危険を知らせ、保安クルーは艦全域の警備にフル活動する。

その他のクルー達もそれぞれの役割に移り、自分のできる事を精一杯行うのだ。

海賊全ての司令塔であるブリッジの役割は、前線への情報収集と作戦指令である。

カイの仕事ぶりをチーフ達から聞き入っていた最中だったので、邪魔されたマグノも少々不機嫌であった。


「やれやれ、忙しない敵だね。商売繁盛、結構な事だよ。
敵の数は?」

「一機です。ですが、確認した所キューブ型ではありません。
識別番号データ無し、新型タイプのようです。
キューブ形とは段違いの速度でこちらへの接近を試みています」


 アマローネの報告に、マグノは表情を引き締める。

敵が新たなタイプであると言うのであれば、こちらの予想を越える機体であるのかも知れない。

慎重に慎重を期して対応する必要があるだろう。

マグノはそう判断し、手元のコンソールを操作する。


『兄ちゃん、休憩時間は終わりだよ。仕事場へ戻っておいで』


 通信リンクが稼動し、元旧艦区監房へとコンタクトされる。

あてがわれた自分の部屋で仮眠を取っていたバートは、マグノのその一声で目を覚ました。


『な、なな何ですか??もう休憩終わりっすか』

『不満なのはこっちも同じだよ。お客さんが来たんだ。早いとこ、何とかしておくれ』 


 表寿が厳しくも便りにしている様な話し方で言われ、バートも渋々ながらに立ち上がる。

何だかんだ言っても、捕虜である自分に選択の余地はなかった。

それにマグノに便りにされているとあって、バート本人も悪い気分ではなかった。


『了解っす。今戻りますので、ちょっとお待ちを』


 タラーク軍隊式に敬礼を行うと、バートはすぐさま監房を飛び出す。

マグノの様な老齢な人物に敬意を払うのは、バートのポリシーでもあった。

幼い頃より、タラークでも有数の財閥ガルサス食品の全てを取り仕切るバートの祖父の姿を見てきたからだ。

仕事では厳しく、家庭では優しい祖父がバートは大好きだった。

同様に海賊頭目のマグノに対しても、女であるという意識を超えての敬意がバートなりにあった。

広い艦内を駆け足で向かって、ブリッジへと向かうバートの姿に如実に現れている。


「たく、広い船だな。今度一回部屋割りを考えてもらおう」


 どこか甘えが入った声を呟きつつも、無事にブリッジへと辿り着いたバート。

そのまま駆け足で飛び込んで、ふと周りを見渡した。

後方のセルティック、前方のアマローネ達、職場復帰したエズラをそれぞれ見て、小首を傾げた。


「ん?何してるんだい、早く持ち場へついておくれ」


 妙な態度を見せるバートに、怪訝な顔で言葉を述べるマグノ。

バートは了承の合図を送りつつも、恐る恐るといった様子で聞いてくる。


「あの〜、つかぬ事をご質問しますけど・・・」

「どうしたんだい?」

「カイの奴、どこに行ったんっすか?放送聞いたので、ここにいるとばかり思ってたんですけど」


 監房に戻って腰を下ろしていたバートは、カイの放送を聞いて思わずベットから転げ落ちた。

てっきり完全に拒絶されたか、迫害されて幽閉でもされているのかと思っていたのだ。

事実、カイはバートから見ればそれほどの事を行っていた。

だが、現実は予想をはるかに越えて巡る。

普段自分には冷たい視線か、相手にもしない完全な無視で接するブリッジクルー達。

そんな女達と何やら仲良さそうにしていたカイが信じられなかった。

だが、心のどこかではホッとしている自分もいた。

何だかんだいってもカイは男であり、バートにとっては同胞である。

それに以前の船の暴走時にも、カイは脱獄してまで自分を心配してくれたのだ。

友人かどうかはともかくとして、追い出されたりするのは後味が悪かった事に気がつく。

しかし再びブリッジへ来て見れば、カイの姿が見当たらない。

事情を知らないバートが焦るのも無理はない話だった。

バートのそんな心情を悟ったマグノは、穏やかな笑みを浮かべて答えた。


「安心しな。あの子は元気でやってるよ。今は他の職場についている筈さ。
見習いとして一から頑張っているさ」

「そ、そうっすか!いや〜ははは、変な事聞いてすいません」


 安心したように笑うバートに、マグノは促した。


「あの子もあの子なりに頑張ってるんだ。あんたも負けないようにしっかり励んでおくれ!」

「了解っす!まあ、見ていてください。
こう見えても僕は・・・・」


 一直線にナビゲーション席に走るバートは、飛び込む直前にマグノの方を振り向いた。

その表情には得意そうな笑みが浮かび、自信がみなぎっている。


「逃げるのは大の得意なんです・・・よ!」


 ぐっと親指を立てて、バートはそのままナビゲーション席へ飛び込んだ。

最早艦へのリンクを行って、艦の操舵手となる不可解な現象に疑問や躊躇いはない様子である。

バートの言葉を聞き入れたマグノは、面白そうに笑って一言コメントする。

「ふふ、そうだろうね・・・・」


 バートという人物の全てを把握しているからこその発言だった。

直後に青緑色の閃光がナビゲーション席から放出され、バートはクリスタル空間に固定される。

変わらず衣類なしの状態だったが羞恥や困惑はなく、バートは心得た様子で操作を開始する。

操舵手・バート、長距離センサー・アマローネ、近距離センサー・ベルヴェデール、

後方支援・セルティック、オペレーター・エズラ、副長・ブザム、艦長・マグノ。

鉄壁の布陣を誇るブリッジ全ての体勢が整った。

バートは手元で空間内に影響を及ぼし、艦へのリンクと操縦を試みる。

手馴れた操作に融合戦艦は反応を示し、ペークシス暴走により新たに搭載されたブースターが火を噴いた。

宇宙に残影を残して急速スピードで戦艦は加速をし、迫りくる敵とすれ違う。


「敵影、確認。中央モニターに映します」


 ベルヴェデールの報告と同時に、敵の姿が映像化される。


「変わった姿をしているね。これまでにないタイプだよ・・・・」


 これまで生きていく内にさまざまな機体を見てきたマグノにも、覚えのない姿をしていた。

全体的に紫色に光っており、固体そのものは綺麗な球型をしている。

特筆すべき所は体表面であり、いくつもの穴が空いているのだ。

すれ違った戦艦はそのまま走り去り、敵から逃走を試みる。

一つ一つを相手にしていては身が持たない上に、故郷への帰参にますます遅れるからだ。

バートは恐怖心からではあるが、マグノも取り立てて反対はしなかった。

ところが、敵の行動は希望的観測には向かわなかった。


「敵機、反転。こちらへ・・・・えっ!?」


 アマローネは報告半ばに、驚愕の声をあげる。

怪訝な顔をして現状を問おうとするマグノだったが、モニターを見て納得した。

すれ違って離脱したというのに敵はそのまま反転し、そのまま融合千巻を追い抜かしたのだ。

追い抜かして先頭へと立った敵機は前方に一定の距離を保ち、再び反転する。

結局、最初の状態へと戻らされたという事になる。

こんな芸当は融合戦艦を圧倒する程の加速力を兼ね備えてなければ成り立たない。


「くっ、足の速さは向こうが上か。バート!」

『わ、分かっています。少しお待ちを!』


 言葉をぶつけられ、慌ててバートは艦を再操縦する。

左舷部分に位置するブラスターを急速加熱させ、艦そのものを右九十度へ横にスライドさせる。

前方に立ち塞がっている以上、こちら側がどいて通過していくしか方法がなかったためだ。

だが、敵はそんな簡単に通行を許してはくれなかった。

バートが右に方向転換すれば、前方の敵もまた右へスライドする。

左へ方向転換すれば、左は同じく方向転換を行う。

これではどうあっても敵から逃れる術はなかった。

速度に任せても結局相手側が早いのだ、どう足掻いてもどうしようもない。


「敵機、一定のポジションを保ったまま現状を維持しています。
向こうからのコンタクト及び動作は確認されず。こちらを観測している模様です」

「ふう・・・どうやら逃げるのは許してはくれないようだね」


 消極的な態度では、敵は見逃してはくれないと察するマグノ。

どうやら状況は穏やかに済ませるには、少々困難な様子である。


『お頭さん、これじゃキリがありませんよ〜、どうしますか?』


 情けない声をあげて、バートはモニター越しにマグノを見つめる。

他のブリッジクルー達も声こそ上げないものの、マグノの指示を黙って待っていた。

マグノは瞳を閉じて、瞑想状態へと入る。

回避も逃走も不可能。交渉を聞き入れる相手ではない。

ならば、手は一つ。徹底抗戦あるのみ。

かっと目を見開いたマグノは声を張り上げて、全区域に命令・指示を飛ばした。


「バート、進路はこのまま!
メイア、ドレッド発進緊急配備!
アマローネとベルヴェデールは引き続き敵の状況を観測!」

『了解!!』


 クルー達の受諾の声を受け、マグノは厳しい表情を崩さぬままにモニターを凝視する。

映像には不気味な沈黙を守ったままの敵影が浮かんでいた・・・・・・・・

















 全域に発令する警報は、無論レジシステムにも届いている。

レジカウンターにて作業の基本を学んでいたカイは、はっと顔を上げた。


「敵がきやがったのか!?さっき俺が潰したばかりなのに」

「残存部隊か、新しい勢力だろう。何せ、こっちは敵さんの情報がほとんどないんだ。
どう出てくるか予想ができない」


 冷静なガスコーニュの指摘に、闘争本能を燃やしてカイは腕まくりをする。

レジクルーの可愛らしい服装はいまだ着ているが、表情は戦いへ赴く男の顔つきになっていく。


「上等だ!いくら来ようと、俺が全部ぶっ潰してや・・・・っとっと」


 レジから飛び出そうとして、カイは足を止める。

様子を見ていたガスコーニュは、カイの態度に怪訝な顔をして尋ねる。


「どうしたんだい?勢いがないじゃないか」

「・・・・俺はもうパイロット辞めたんだ。今はレジクルーの見習い。
もう戦いなんぞ関係なかったな」


 出入り口へ向かおうとしていたカイはくるりと振り返って、再びレジへ戻った。

意外そうな顔つきをして、ガスコーニュは口元の楊枝を揺らす。


「いいのかい?どんな敵か分からないんだよ」

「知るかよ。どうせ、青髪が頑張るだろう。
俺がいなくてもやれるってぬかしやがったんだ。どうなろうと知ったことか。
さ〜て接客接客、皆頑張ろうぜ」


 とけ込みつつあるレジクルーの一員に明るく声をかけながら、カイはカウンターに着く。

その姿を横目で見ながら、ガスコーニュはため息混じりにこう言った。


「意地っ張りだね〜・・・・メイアとそっくりだよ、あんたは」


 カイがいないままの戦闘の始まり。

それはメイア達にとっては今までと同じであり、変わらぬ戦いである。

海賊本業を行っていた時はカイがいなくても、十分戦えていた。





そう、今までは・・・・・・・・・・・・・・
























<続く>

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