ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action19 −荒事−
ハンドガン、オートマチックピストル、マシンピストル、アサルトライフル、セミオートマチックライフル――地球の戦歴を硝煙で彩った、歴史ある銃器の数々。
植民船時代を経て急速に化石化した銃器が海賊の手に渡り、今その地球が送り込んだ生体兵器を相手に大活躍している。
避難する住民達の殿を務めて、バーネット達が四方八方から襲い掛かる生体兵器に向かって発射していく。銃弾は確実に命中して、生体兵器は破壊されていった。
敵は着実に数を減らしている。一方、海賊側の被害は皆無。状況は極めて――劣勢であった。
「ちっ、弾切れだ」
露骨に舌打ちして、バーネットは肩に担いでいた銃入れケースを下ろす。使えなくなったマシンピストルを片付けて、アサルトライフルを取り出した。
タラーク・メジェール両国家を相手に海賊行為を繰り返していたあの頃、物量の差を物ともせずに劣勢を押し返していた。個々の実力が、突破力となったのである。
個人のずば抜けた能力とチーム単位での強力な連携、この二つがマグノ海賊団を無敵たらしめていた。戦争において数は絶対だが、その大いなる数字に彼女達は断じて負けなかった。
その不敗神話も、陸上戦だと話が異なってくる。狭苦しい空間に守るべき弱者達、そして限られた弾数。限界が必ずそこにあり、決して覆せない。
生体兵器とて無尽蔵ではないのだが、いかんせん数が多い。多すぎる。倒しても、倒しても、次々と群れをなして攻め込んでくる。
バーネット達も実力をフルに発揮して戦ってはいるが、銃も弾も数は限られている。天秤の針は傾いて、次第に劣勢へと追い詰められていった。
その劣勢こそ、バーネット・オランジェロが望んでいたものであった。
「ふふん、見てなさい」
新しい銃を見事な体勢でかまえて、躊躇なく引き金を引く。何十、何百もの弾が景気よく飛び出して、押し寄せる生体兵器の群れを穴だらけにしていった。
感情無き地球の兵器、情け容赦ない悪魔が相手ならば、何の躊躇いもなく破壊できる。何も考えず、何も考慮せずに、殺すことが出来る。
タラークの男達――カイ、バート、ドゥエロ。未知なる人間相手のまどろっこしい関係に、バーネットは考え疲れていた。
味方であることは既に疑う余地もないが、それはそれで厄介ではあった。今まで敵だっただけに、どうやって接すればいいのか今でも上手く出来ない。
特にカイは最初から自分を明確に敵とは認識していなかったので、余計に扱いに悩んでいた。シンプルに考えればいいだけなのに――何故か、出来ない。答えが見えそうなのが、怖い。
護衛という形ではあるが、交渉班に加わって良かったと思う。仲間や住民達の危機に便乗するようで些か申し訳なく思うが、思う存分暴れたかった。
最高のシチュエーション、中継基地内での戦い。劣勢になればなるほど、胸の奥が熱く滾る。彼女は今、絶好調だった。
「これ、借りるぞ」
そんな彼女の銃を一つ手に取って、ブザムがかまえる。彼女は戦いに高揚こそしていないが、追い詰められても冷静さを失っていない。
卓越した鞭の使い手ではあるが、生体兵器が相手では限界があった。どれほど捌いても攻め込んでくる相手に、鞭だけでは対処が困難だったのである。
ブザムが手にしたのは、セミオートマチックライフル。バーネットが、慌てて声をかける。
「あっ、副長!? それ、使い方が――」
――難しいですよ、と忠告する前に引き金が引かれてしまう。セミオートマチックライフルは殺傷力の高い銃だが、重心が大きく反動もある。
対人相手には強力過ぎる銃器だが、取り扱い方を間違えると銃に振り回されてしまうのだ。バーネットは一瞬、目を瞑る。跳弾すると、仲間に当たってしまう。
杞憂、だった。銃口はまるでブレずに殺戮の銃弾が何百発と発射されて、生体兵器の大群を粉々にしてしまう。素人には真似も出来ない、銃の腕前。
「何か言ったか?」
「――いえ、何でもありません」
銃の腕は誰よりも優れていると自負していた彼女も、副長の見事さには舌を巻く。ミッションのボスを倒した鞭の腕といい、仲間を率いる指揮力といい、完璧超人ではないだろうか?
思わず惚れぼれとしてしまうが、すぐさま現実を見つめる羽目になってしまう。通路の反対側の扉が破られて、奥から次々と生体兵器が飛び出してきたのだ。
まがりなりにも足止めできていたのは、常に一方から攻められていたから。反対側からも攻められると、単純に考えても二倍の手間である。
「挟み撃ちか」
ブザム、バーネット、そしてジュラ。三人で足止めしていたが、その連携も挟み撃ちで来ると破られる危険性が高い。
生体兵器とはいえ、地球が送り込んできた刺客。無人兵器と同じく、学習能力はあるようだ。人間との戦いを経て、進化をしている。
戦術としてはそれほど高度ではないが、こういう場合は単純な手でも効果を発揮する。劣勢どころか、苦境に立たされていた。
ブザムが一瞥すると、バーネットやジュラが頷いて反対側に銃を向ける。背中合わせに戦う苦肉の策、戦力低下は否めないがやむを得なかった。
最初から期待はしていなかったが、敵殲滅は諦めるしかない。とにかく、一体でも多く時間を稼ぐ。それしか手はない。
追い詰められていても、ブザム達は信じていた。カイとメイア、常に頼りになるあの二人が駆けつけてくるのを。二人が力を合わせたヴァンドレッドならば、敵は必ず倒せる。
神様の救いなど待たずとも彼らは敵を倒して、味方を救ってくれる――ヒーローのように。
同じ期待を抱く者達も、また此処に。
反対側から攻め込んできた失礼極まりない客人に、真っ赤な炎を浴びせられる。ジェル状の兵器に火は最大の弱点、あっという間に燃え尽きる。
火炎放射器――銃弾や砲弾に比べて殺傷力が低く、射程も著しく劣っているが、この生体兵器には極めて効果的な兵器となり得る。
突然の救いの手に、ブザム達の目は一斉にそちらへと向く。
「客人ばかりに、いい格好させる訳にはいかないからね」
中継基地ミッションの支配者、リズ。ビームサーベルを愛用の武器としているが、火炎放射器の扱いもお手の物であった。
火炎放射器の本来の用途は障害物や危険物の処理に使用されており、ミッションでも武器ではなく工兵資材として取り扱っていたのである。
リズとて、最初からミッションの支配者だった訳ではない。過去に労働の一環で使っていた経験が、こんな形で生きるとは彼女自身思っていなかった。
倉庫からわざわざ引っ張り出してきた工兵資材、ある種不恰好なその姿をわざわざ曝け出した彼女の意図に気づかぬブザムではない。
嘲笑も感謝もせずに、黙って背中を預ける。反対側を彼女に任せて、自分達はこれまで通りに任務をこなす。それでこそ、義理を果たせる。
強き女性達の声なき思いを感じ取った男は、高みの見物より溜め息を吐いた。
「……やれやれ、世渡りベタの品評会だな」
リズとブザム、殺し合いを演じた者達だけに感じ取れる関係を目の当たりにして、ラバットは呆れた顔をしながらも心中は複雑だった。
彼女達を馬鹿に出来たものではない。何しろ、自分も先程年下の少年を相手に対等の同盟を結んだのだ。利得を重視しながらも、損得でははかれない関係を築いて。
苦々しく思いながら、手にしていた銃を発砲。天井からヌルリと垂れてきたバイオ兵器を、鮮やかに仕留める。
「たく、のんびり見物ってわけにもいかねえか」
「ウキー!」
一応、あくまで一応だが、カイとは同盟を結んでいる。彼なら必ず、敵を仕留められるだろう。信頼を裏切らない、その予感はある。
だが同時に、ヘマもやらかしそうではあった。例えば今の兵器のように、不意打ちで襲われるとさぞ混乱しそうだ。見込みはあるが、戦闘経験を積んでいく事でしか強くはなれない。
ならば、それをフォローしてやるのが自分の役目だろう。ブザム達とて、死なせる訳にはいかない――そう考える自分もまた、甘い。
高みの見物は止めて、ラバットは銃を片手に戦場へと乱入する。リズの隣に立って援護射撃、まるで分かっていたかのようにリズは笑う。
少年の同盟で結ばれた人間関係が今、力を発揮しようとしていた。
「――ぐっ」
「ば、馬鹿、青髪!?」
咄嗟だった。本当に何も考えず、人間関係とか、男と女とか、そんなものは一切考慮する余地もなく、メイアは手を伸ばした。
生体兵器の襲撃を受けて、梯子から手を離してしまったカイ。真っ逆さまに転落していく少年を繋ぎ止めたのは、冷たき少女の手。
何の思惑もなく、少年と少女の手は固く握り締められていた。
「手を離せ、青髪!? 敵が来るぞ!」
「ぐう……お前こそ、早く梯子を掴め!」
「くそっ、駄目だ――届かねえ」
「いたたた、コ、コラ! ア、アタシも落ちる〜!?」
咄嗟だったからこそ、中途半端な体勢でぶら下がる形になってしまっている。長い梯子の中間で、メイアに手を握られた状態でカイは宙ぶらりんになっていた。
不運だったのは、案内役の少女が間に入ってしまっている事。下手に動くと、少女まで道連れに落ちてしまいかねない。
メイアは腕一本で梯子に捕まっているが、少年の体重が一気に伸し掛かった為に肩を痛めてしまっていた。激痛を堪えながら、何とか耐えている。
「いいから離せ、お前まで落ちるぞ!」
「な、何だ、もうあき……らめるのか、だらしのない」
「そんな事を言っている場合――」
「私は!」
カイの必死に声を振り払うように、絶望的な状況を凪ぎ飛ばそうとするかのように、メイアは珍しく大声を上げて叫んだ。
「私は、お前を死なせたりはしない!」
「あ、青髪……」
「幸せにすると約束しておいて、自分勝手に死ぬのは許さないからな!」
俺がヒーローになって、お前を幸せにしてやる。死に瀕していたメイアに誓った、カイの言葉。眠っていた少女が知る筈のない、少年の一方的な約束。
何故知っているのか、何故分かっているのか。少年にも、少女にも、分からない。口から出たその言葉も、咄嗟だったから。
けれど、その言葉が――少年と少女に、力を与えた。
「俺を放り投げろ、青髪」
「ば、馬鹿――お前、何言ってやがるんだ!」
「分かった、全力で行くぞ」
「あんたまで何を!?」
案内役の少女の困惑を他所に、カイとメイアは阿吽の呼吸で実行に移す。その一連の行動は、本当に一瞬であった。
掴んでいた手を再び強く握り、反動をつけて思いっきり手を離す。空中に投げ出されたカイは、その勢いに乗って梯子に飛び移った。
「そこを――」
「――どけぇぇぇぇぇ!!!」
手が自由になったメイアはリングガンを発射、生体兵器には通じないが勢いは止められる。その隙に、カイは梯子を駆け上がる。
呆然とする少女をすり抜けるように十手をつきだして、生体兵器を突き刺して振り回す。ゲル状とはいえ、液体に近い固形。振り払われて、兵器はそのまま転落していった。
鮮やかな逆転劇、なのに二人共喜び合ったりはしない。
「遅くなってしまった、急ぐぞ」
「おう」
助け合うのが当然であるかのように、二人はそのまま声も掛け合わず、顔も寄せることもなく、義務的に行動に出ていく。
訳が分からない。ここまで通じ合えている事さえも、当然なのか。険悪に見えるこの二人は、言葉にせずとも通じ合っているのか。
少女には分からない、人間関係――
「これが……大人の、関係」
少年と少女の手はもう、結ばれていない。
<to be continued>
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