ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action17 −陸戦−
呉越同舟とはよく言ったもので、ミッションという船が沈まないように住民達とマグノ海賊団が力を合わせていた。専守防衛、仲間と基地を守る事を最優先に。
数の多さは戦争においては大きな力となるが、避難する上では大きな枷になってしまう。多大に時間を費やしてしまい、スピードを殺してしまう。
拙い連携、一時的な協力関係では避難活動も順調とは言えず、敵の侵略の速さにはどうしても負けてしまう。
手持ちの携帯端末より敵反応を伺っていたブザムが、住民達の避難を進めながらも自らの足を止める。
「副長……?」
「敵が来るぞ」
先頭に立って避難誘導していた副長が突然足を止めたのを見て、バーネットやジュラが怪訝な顔。疑問は、副長の険しい声を聞いて解消される。解決にはなってはいないが。
住民の避難を早急に進めた後に、二人も足を止めて武器を構える。ジュラは護身用のリングガン、バーネットは護衛用に準備してきた銃を。
軍人ではないにしろ、彼女達は常に最前線に立つ海賊。程度の違いはあれど、陸戦訓練は行っている。手持ちの武器の整備も欠かさない。
男顔負けの彼女達だが、その表情に余裕の色は一切ない。今回の敵は男ではない、生体兵器なのだ。
自分のドレッドに乗ればどんな兵器でも倒せる自信はあるが、生身での戦闘では不安は残ってしまう。彼らは人間の臓器を刈り取る、魔物なのだから。
特に、今回の敵は殲滅を目的としている。人間を敢えて生かす理由もない。臓器の損傷もいとわずに、殺しに来るだろう。
次々とミッションのセキュリティシステムは破られて、ついに扉一枚を隔てるのみとなってしまった。三人は視線を合わせ、意思の統一を図る。
阿吽の呼吸で、三人揃って閉じられた扉の前に並ぶ。あくまでも専守防衛、待ち構えるのみ。
間を置かず、扉が強引に開けられて――ジュラが即座に、リングガンを発射。完全なる奇襲に敵は対応出来ず、ビームが突き刺さって。
いともたやすく、弾かれてしまう。
「! プリズム効果か!?」
ビームを放ったジュラよりも、ブザムが先に敵の秘密を悟って舌打ちする。生体兵器ならではの防御に、必殺を確信していたジュラは混乱してしまう。
プリズムとは、光を分散させるガラス等の透明な媒質で出来た多面体。周囲の空間とは屈折率を変化させることにより、光を分散させてしまうのだ。
この生体兵器は体表面の光沢を変化させることにより、ビームを分散させて、体内を貫通する前に屈折させたのである。
これでは、リングガンをどれほど撃とうと捻じ曲げられてしまう。パイロット愛用の武器が無効化されてしまった。
人間の感情の変化も嗅ぎ取れるのか、動揺するジュラに生体兵器が一斉に襲い掛かる。
「いや、来ないで〜〜〜!」
「ジュラ、下がって!」
阿吽の呼吸、親友同士ともなればどれほど混乱しても友の一喝で立ち直れる。泣きながらジュラが身を引いた瞬間、銃撃音が木霊する。
放たれたのはビームではなく、銃弾。どれほど光を屈折させようとも、真っ直ぐに飛んでくる銃弾は曲げられない。
次々と弾が突き刺さり、生体兵器は爆散。液体を飛び散らせて、派手に吹き飛んでしまった。
「ビームが駄目ならば、物理攻撃よ」
少し得意げに、硝煙を漂わせる銃を下げてバーネットが笑う。親友の久しぶりの楽しげな笑みに、飛び散った液体を浴びてしまったジュラも嘆息するしかない。
この生体兵器は病の惑星でのウイルスを元に製造された、兵器。感染率は低いとはいえ、接触は危険。皮膚に浸透するより前に、ジュラはハンカチで全て拭きとった。
お気に入りのハンカチを汚され、しかもこの後徹底的な除菌を行わなければならない羽目に陥ったジュラは憤慨する。
「何なのよ、これは!」
「悪態つかないの! ほら、ジュラもこれを使って!」
バーネットは趣味で沢山のレトロな銃をコレクションしている。武器は飾るものではない、使ってこその魅力。武器の武器たる所以を、バーネットはよく理解している。
久しぶりの陸戦の予感に、彼女はコレクションを大量に持ち出して来ている。その中の一つを、バーネットはジュラに渡した。
親友の趣味は、骨身に染みて理解している。コレクションともなれば、見せびらかしたくなるもの。プライベートで何度も見せられ、使い方まで教えこまされている。
渡された銃も、その一つ。植民船時代でも廃れていたレトロな銃なのに、撃ち方がよく分かる我が身が悲しかった。
「もう……ベトベトしたもの、大ッキライ!!」
生体兵器への怒りと恐怖をグチャグチャにかき混ぜて、ジュラは鬱憤晴らしとばかりに撃ちまくる。両手で撃つ大型の銃は、確実に敵を倒していった。
自分が持ち込んだ銃が通じるとあって、バーネットも絶好調。弾丸を消耗する度に銃を取り替えては、生体兵器を破壊し続ける。
「やっぱ、白兵戦はこうでなくちゃ!」
実を言うと、バーネットは最近銃を手にしていなかった。銃器への愛情はそのままに、持つことへの躊躇いが心の奥底に色濃く漂っていたのだ。
銃とは、人を撃つ道具。彼女はその銃を、男達に向けた。バート、ドゥエロ、そして――カイ。発砲した事もある。怪我をさせた事だってある。
銃の本質を、彼女は否定しない。けれど、今では仲間と明確に認めている人間を撃ってしまった事は後悔として残っていたのだ。
銃の訓練は毎日のように続けながらも、撃つのを躊躇う気持ちを持ち続ける矛盾。必要とされないレトロな銃器は不要なのではないかと、思い悩んでしまった。
それでも捨てられなかったのは銃を愛する気持ちと、己の気持ち一つで捨ててしまう身勝手さを持っていた為。人を撃つ道具に過ぎなくても、何か役立ててやりたかった。
今こうして人を撃つ装具で、人を守っている。彼女は清々しい気持ちで、引き金を引いた。
「――どうだい? おもしれえ奴等だろう」
「……」
奮戦する三人を、上の欄干から見下ろす二人。商人ラバットと、ミッションのボスであるリズ。二人だけは逃げずに、通路の上の欄干に退避して様子を見ていたのである。
リズの見つめる先は、先程まで死闘を繰り広げたブザム。彼女は自慢の鞭を巧みに操って、次から次へと生体兵器を破壊していった。
ゲル状の生体兵器を鞭で倒すには、高い技量が必要となる。人体すら切り裂く彼女の鞭の鋭さに、改めて感嘆の思いと敗北への悔しさを滾らせてしまう。
何の見返りも提示せずに、ミッションにいる人達を守らんとする者達――彼女達の行動理由が、リズには分からなかった。
「ラバット、お前があの坊やと組んだのもそれが理由かい?」
彼女達への興味、彼への関心――人間関係を築く上で、最初に必要とされる部分。他者に興味をもつことで、他者を知ろうとする。
自由気ままなこの一匹狼が、他人とつるんでいる姿をリズは見た事がない。いつも連れているメスのオラウータンだけが、彼の相棒なのだと信じて疑わなかった。
リズが正面から尋ねると、ラバットは初めて困ったような顔をする。
「それだけじゃねえんだが……まあ、そうだな。あのガキ本人にも、興味はある」
「本人にも? 他に、何かがあるとでも言うのかい?」
「実に困ったことにな、色々ありまくるのよ。だからこそ、取り扱いに困っているのさ。全く商人泣かせなガキだぜ、本当に」
ラバットは、無邪気に笑っていた。まるで面白い玩具を手に入れた、子供のように。男がこんな顔をするのを、女は初めて見る。
信じ難い事だが、本当にあの少年への態度を決めかねているらしい。同盟を結んだのも彼を利用するだけではなく、彼自身と関係を築く為に。
友人でも家族でも、ましてや敵でもなく――同盟。取引ではないあたりに、ラバットの本気が感じられた。
ラバットがあの少年と別行動を取っているのも、少年自身を試しているのだろう。悠々と事態を静観しているのは、彼を信じているから。
同盟という一種変わった関係も、彼なりの照れが混じっているのかもしれない。男というのは大人になると、素直ではなくなるものらしい。
得心がいき、リズは大きく息を吐いた。
「だけど、その関係も――あの坊やがやられちまえば、終わりだね」
「ちげえねえ」
リズやラバットの懸念は、残念ながら的中してしまう。
今この時、別行動を取っているカイやメイアが――危機敵状況に、陥っていた。
<to be continued>
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